フリーレンと忘れられし時の勇者   作:エクソダス

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第6話

 この者、何者だ?

 明らかにただの魔法使いでは無い、このフリーレンという娘を我が幻想(せかい)に閉じ込めて……この世界では何千年もたつというのに。

 

 何故この者の魔力は尽きない。

 

 本来なら精神崩壊しても可笑しくは無いはず、もう幻想世界で何千年と我ガ世界(タルミナ)で悪夢を見せている。

 にもかかわらず、この者は顔色一つ変えない。

 そして、あちらの現実(せかい)も同時に魔力を注ぎ込んでいると言うのに。

 

 

 

 ――何故、それすらもこんな一人の小娘に止められる?

 

 

 

 □ □ □

 

 私は今、奇妙な所にいる。

 世界の色は初めて仮面に触ったときのような、絵の具でぐちゃぐちゃにした見たいな汚い色。

 そして頭上には大きな顔面のついた月? がある。

 

 

「…………」

 

 

 私が目の前に対峙しているのは――

 いや、何だろうコイツ。赤を基調にした身体を持つ気色悪い色の化け物。

 身体はそのまま仮面のままで、でも頭には目玉が一つある。

 

 

『貴様、一体何者だ』

「だいぶ前に言ったでしょ。かれこれこの幻影世界の三千年前ほど前に。魔法使いだよ」

 

 

 この仮面を手に入れて以来、夜はこの世界に来るようになった。

 しかしこの世界は一夜で何千年と生きている気分になる。実に面白い。

 

 

『チッ』

 

 

 奴が舌打ちしたその瞬間、

 私の頭上にあった月がゴゴゴと音を立て、落下してくる。

 

 

「…………」

 

 

 私は特に何もせず、立ったまま。

 そして、その月は私に当たる直前に()()()

 

 

「結局幻だからね、精神と魔力が乱れなければ見えないし触れも出来ないんだよ」

『…………』

「まぁ、君の場合世界全体だから、私が()()()()()()()()()()()()()()でどうにかなっちゃうんだ」

 

 

 つまり、幻というノイズが入ることで安定するように私が世界全体

、全ての物体とか空気とかその他諸々を狂わせれば良いだけ。

 今まで魔力を制御してきた私にとっては、魔力を放出していいからちょっと楽だ。

 

 

「今まで君の魔力に触れて、君のことがよくわかった。君は無邪気で優しい子だ」

 

 

 この仮面を通して、私はこの仮面の存在する経緯を知った。

 太古のとある民族が呪いの儀式で使ったとされる呪物だと言うことも。リンクとの関係性、タルミナのことも。

 

 

「自分でわかるかい? 何故君が最初にとりついたのが力の強い者では無く、あのスタルキッドという少年だったか」

 

 

 人差し指を振りながら、私はそう問いかける。

 本当に世界を破壊したいのであれば、少年にとりつきはしないはずだ。

 

 

「答えは簡単、君はスタルキッドという少年の純粋さと共鳴したからだ」

『……ふざけたことを』

「一つ良いことを教えてあげよう、世界の滅亡というのはね。子供の純粋さから来る物だ」

 

 

 大人とは、決して世界の滅亡をしたいとは思わない。

 その理由は二択、それが簡単にできる立場か。世界滅亡はコスパが悪いと悟っているかだ。

 

 一つ目は力も立場も圧倒的に上で、その平穏を壊したくないから決して滅亡しようとはしない。

 

 二つ目はそれ以外の者だ『世界滅亡』そんな物を目指すよりも自分が『こういう物だから』と諦める。

 思考時間、行動時間のコストを考えれば……そっちの方が世界滅亡する手間より圧倒的に楽だからだ。

 

 

「君はまだ邪悪と切り捨てるには、呪物と断罪するにはあまりに純粋過ぎる。だからこそ私は興味がある」

『…………』

「強大な魔力を持つ君が世界を知る、大人になったとき。どんな事をするのかを」

 

 

 そう、ただただ興味がある。

 世界を知ってもなお破壊しようと望むか、別の感情が生まれるか。

 何しろ呪物とは言え、魔力が感情を持つなどこれ以上無いほど……魔法使いなら涎が出るほど輝いた魔法材料だ。

 つまり私は、この子供の親を買って出たわけだ。

 

 

『――貴様、狂っているな』

「一応私ほど平凡なエルフはいないと自負してるよ」

 

 

 □ □ □

 

「シュタルク様、リンク様。グラナト伯爵にフリーレン様を釈放してもらえるように直訴しましょう」

 

 

 僕が精神を落ち着かせ、三人と食べているときにフェルンがそんな事を言い出した。

 

 

「この街に危害が及ぶのは時間の問題だと思います。フリーレン様を牢から出して、魔族を倒してもらいましょう。それにリンク様もいらっしゃいます」

 

 

 正直、彼女ならそう言うと思った。

 いきなり殺しにかかろうとしたフリーレンにはどうかと思ったが、魔族達の瞳の奥底は……あの時、ガノンドロフがハイラルに跪いた時のような野心を感じた。

 

 

「……確かに、そうするしかねえか。俺達が敵うような相手じゃねえしな」

 

 

 そういうと、シュタルクはフォークを置いた。

 

 

「特にあのリュグナーってやつ、とんでもなく強いぜ」

「…………」

「フリーレンしか見てなかった。周りには俺やら衛兵隊がいたってのに……フリーレンしか見てなかったんだ」

 

 

 そういう彼の手は、明らかに震えている。

 

 

「俺らなんかいつでも殺せると思ってるからだ。さっきから手の震えが止まらねえよ」

 

 

 震えるせいで飲み物をこぼしてしまうシュタルク。

 それを見て、フェルンはハンカチを差し出してあげた。

 

 

「伯爵のそばにはリュグナー達がいるんだぜ。最悪戦闘になるぞ」

「――勇者様御一行なら、それでも行きます」

 

 

 迷うことのない瞳で決意が揺らぐことが無いフェルン。

 そんな姿を見て、シュタルクは自分の震える手をぐっと握った。

 

 ――強いな、この子達は。

 

 

「っつうまえに、とりあえず一番承諾得なきゃいけねえ奴に承諾を得ないとな」

「…………」

 

 

 そう言って、シュタルクはこちらを見る。

 フェルンもこちらに視線を合わせ、僕が言葉を紡ぐのを待っている。 勿論、僕の答えは決まっている。僕は立ち上がって盾と剣を背中に背負う。

 

 

「行こうか、パーティー初の魔族討伐」

 

 

 今思えば、これまた初めての経験だ。

 誰かに『助けて』と言われるのではなく、一緒に戦ってきた仲間に頼られるのは。今までの冒険は共に戦ってくれる仲間がいなかった。

 だから、何処か新鮮で――勇者に戻れたようで嬉しかった。

 

 

 □ □ □

 

 

 そして――、

 

 

「面倒臭いから、私は街を出るよ」

「待ってください、それだと残りの魔族が野放しに……この街を見捨てるつもりですか?」

「フェルン達で倒せば良いじゃん」

 

 

 一連の話を聞いたわたしは残酷にもそう言い放つ。

 今私はあの魔族のせいで脱獄する羽目になり、衛兵殺しの極刑の濡れ衣を被されかけている。

 だから街中で出歩けない。

 

 

「そんな簡単な事みたいに……俺達が敵うような相手じゃねえよ。お前やリンクの助けが――」

「相手が強かったら戦わないの?」

 

 

 どうやら二人はリンクの意図を理解していない。

 彼は『パーティー初の魔族討伐』と言った。それはつまり二人が戦うことを前提としてこの話に乗っている。

 彼にとって、二人と共にいることが重要だ。

 

 

「それに私とリンクは、二人が魔族達より弱いなんて微塵も思ってないよ」

 

 

 そう言って私はリンクの正面に立ち、彼と視線を合わせる。

 

 

「リンク、大丈夫?」

「……何が?」

「魔族を殺せる?」

 

 

 私は、その問いを投げかけた。

 あの仮面の記憶で見た……タルミナ世界での彼の姿は。種族も何も関係なく、助けれる者は助けていた。

 種族差別など無く、ただ誰かを守りたいだけの優しい少年で、だからこそ私の行動……『魔族だから殺す』が許せなかったのだ。

 

 ――魔族だろうと、必ず理解し合えると思っているから。

 

 だから私は、魔族と戦うのを強制しない。

 わかり合おうとするのも……ヒンメルと同じで正しく勇者の証なのだろう。

 

 

「僕は、守りたいから戦う。それだけだよ」

「――そっか」

 

 

 その言葉が聞けて、私は心底ほっとした。

 彼がそう言うなら、こちらを()()()も何の問題もなさそうだ。

 

 

「待ってくれよ!! 戦うからさ、せめて手伝ってくれよ!! この通りだ!!」

 

 

 私が歩き出すと、シュタルクが見事な土下座をかます。

 それを聞いても決して止まらない私を見たフェルンは「往生際が悪いですよ」とシュタルクの首根っこを掴み、引きずる。

 

 

「フリーレン」

「何?」

「気をつけて」

「――んっ」

 

 

 最後に私は、リンクの言葉にサムズアップで歩きながら答えた。

 

 

 □ □ □

 

 

 そして、僕とシュタルクは忍び込む。

 中は妙に静まりかえっており、衛兵の一人すらいない。

 和睦の使者がいるにもかかわらず、その城に護衛は一人もいない。

 この状況で思いつく可能性はわずか一つ、交渉の決裂だ。

 これは、本当に戦わなければいけないようだ。

 

 

「……なんだ、昼間の冒険者のガキか……。息子がお迎えに来たかと思ったぜ」

 

 

 その城にある一室の扉を開ける。

 そこには大きな窓の目の前でイスに拘束されているこの街の長……グラナトがいた。

 

 

「ひでぇ有様だな。ここまですんのかよ」

 

 

 彼の身体は血だらけで、拷問でも受けていたような跡がある。

 

 

「確定、和睦は決裂したみたいだね」

「待ってろ、今助けてやる」

 

 

 そう言って、シュタルクはナイフで拘束を解き始める。

 どうやらこの世界の魔族は殺さなきゃ殺される相手らしい。フリーレンがすぐさま構えたのも納得だ。

 

 

「……震えているな」

「悪いかよ」

「いや、勇敢だ……死んだ息子も出陣前は震えていた」

 

 

 そして、シュタルクが縄をほどけないと悟る。

 なので斧を使い、イスごと破壊しようとした、その時――

 

 扉から、二人の魔族が入ってきた。

 

 

「リュグナー様、ネズミ」

「グラナト卿、お知り合いで」

 

 

 ツインテールの女の子が気怠げにそう言い。

 その隣にいたリュグナーはグラナト卿にそう問いかけた。

 

 

「……いいや、昼間の冒険者の一人だ。連れの魔法使いが脱獄した事も知らず直談判に来たのだろう。馬鹿なガキだ」

 

 

 グラナト卿は我々だけでも逃がそうと、僕達はただ『仲間の魔法使いのためにきた』と言ってくれる。

 

 

「そうか。小僧共、帰って良いぞ」

 

 

 そして、僕達はグラナト卿を隠すように前に立つ。

 

 

「どうした? そこを退け。邪魔するなら殺すぞ」

 

 

 リュグナーは冷たく残酷な、心底見下している目でそういった。

 

 

 

「やってみろよ」

「やって見せて」

 

 

 そして、その言葉を合図に戦闘を開始した。

 

 ――跳躍。

 

 シュタルクは常人では追いつけない速度で跳躍し、リュグナーの背後に立つ。

 そしてアックスを大きく振りかぶった。

 

 

(速い)

 

 

 リュグナーは多少驚きこそしたが、少し身体を反らした。

 シュタルクの初撃は肩の辺りに命中し、切り裂いた場所から血が弾ける。

 

 

「だが、所詮は人間か」

「!!」

 

 

 しかし、その血液は腕のように変形し、槍のようにシュタルクに襲いかかる。

 

 

「――っ」

 

 

 しかし、それを黙って見ている義理は僕にはなし。

 僕は愛剣……コキリの剣で硬くなった血液を破壊し、シュタルクを抱えて窓際まで後退した。

 

 

「二人とも素晴らしい反応だ、とはいえ若い奴は短慮だな。無策で無謀だ。二人がかりなら私を殺れると?」

「生憎、短慮で無謀しか取り柄がないものでね」

 

 

 そう言って、僕とシュタルクは立ち上がる。

 

 

「んでもって、そんな奴は俺らだけでもねーんだわ」

「何だと?」

「フェルン。言われた通り隙を作ったぜ」

 

 

 シュタルクは、そう言って窓の方向を見る。

 そして、やっと()()()()()()()に気付いたらしい。

 

 

「!! リュグナー様!! 魔法使いの反応が――」

 

 

 リュグナーの隣にいた少女が叫ぶ。

 だが、遅い。すぐさま僕達がその場から待避すると、

 

 ――魔力一閃。

 

 隠れていたフェルンが窓からリュグナーを狙撃、奴の左腕と左脇腹を吹っ飛ばす。

 予想していなかったのか、これにはリュグナーも顔を曇らせる。

 

 

「小娘、この魔法はなんだ?」

「一般攻撃魔法、確か魔族(あなたたち)の魔法形態ではゾルトラークと呼ばれている物です」

「これがゾルトラークだと? 馬鹿なことを言うな。我ら魔族はゾルトラークなど半世紀以上前に克服している」

 

 

 リュグナーの問いに、端的に答えるフェルン。

 

 

「この魔法、誰から習った?」

「フェルン、もういいよ」

「? リンク様?」

「シュタルクと一緒にその人と撤退して、後は僕がやる」

 

 

 僕にとって彼らは倒すべき敵と確定した。

 そして怪我人がいるため、二人はすぐにでもグラナト卿を連れて逃げるべきだ。街の人のためにも。

 彼がいないと街は元に戻らないし、彼を生存させることが最重要だ。

 

 ――そして僕はいつも一人で戦ってきた、二人は邪魔だ。

 

 

「しかし……」

「フェルン、行くぞ」

 

 

 心配そうな目をするフェルンを余所に、シュタルクはグラナト卿を抱えて窓から出ようとする。

 

 

「リンク、頼むぞ」

「任せて」

 

 

 そして、僕は彼と拳同士をぶつけた。

 

 

「…………」

「フェルン、早く」

「すぐ、戻ってきてくださいね」

「大丈夫、二人が思ってるよりすぐ終わるから」

 

 

 僕は落ち着かせるように、フェルンの頭をポンポンッと叩く。

 フェルンは俯いたまま、シュタルクと共に窓から撤退した。

 

 

「君は撤退しないのかい?」

「しないよ、君達を倒さなきゃいけないからね」

「良いハッタリだ。わかっている君の目的は彼らの為の時間稼ぎ。その心は評価しよう」

「…………」

「しかし、私のこの傷もすぐに止血する。単身で我々を足止めするのは――」

「もう一回言うよ、()()()()()

 

 

 そう言って、僕は特別なオカリナを取り出した。

 

 

「我々を魔族と知って、か?」

「いいや、君達が魔族『だからこそ』だよ」

 

 

 □ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 ――あなたはもう、このハイラルから旅立ってしまうのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ほんの短い時でも、このハイラルであなたと共に過ごした日のことは決して忘れません。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そしてまた、いつの日か。あなたと出会える日が来ると、私は信じています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その時が来るまで、あなたにこれを

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あなたの旅が無事であるよう、祈っています。もし、なにか起こったら、この歌を思い出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の女神はあなたを守っています。

 時の歌を奏でれば、あなたの力になるでしょう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ □ □

 

 

 ――大切な記憶。

 僕の心の片隅にある、ゼルダ姫との大切な記憶。

 僕……いや、時の勇者にはいつも時の女神の加護がついている。

 

 

「――――ッ」

 

 

 僕はそのまま、ゼルダ姫との思い出の曲、【時のうた】を吹く。

 その瞬間、僕は光に包まれて、

 

 

 ――マスターソードとハイリアの盾を携えた、七年後の……いや、時の勇者としての本当の姿に戻った。

 

 

 

 

「――始めようか」

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