フリーレンと忘れられし時の勇者   作:エクソダス

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第8話



 勇者ヒンメルの死から29年後。

 北側諸国のアルト森林。

 広大な自然が芽吹くその場で、魔法使いであるフリーレンはある男を凝視していた。

 

 

「ずっと昔、冒険者に憧れていた」

「うん」

「誰だってあるガキの頃のくだらない夢だ」

「うん」

 

 

 私の隣でリンクが軽く合いの手をいれている。

 目の前の男は三十くらいだろうか、そんなことを考えている私は特に口を開けず、足を抱えて座る。

 

 

「一緒に小さな冒険をたくさんした親友がいたんだ。無鉄砲な体力バカで、ゴリラみたいなヤツだった。といっても友達思いの良いゴリラだったよ」

「ふぅーん」

 

 

 ポケーッとしているリンクの合いの手の後、男は話を続ける。

 

 

「大人になってそんな夢も忘れかけたとき、そいつから一緒に冒険者にならないかと誘われたんだ。あの時あの手をとっていたら、何かが変わっていたんだろうな。今でも後悔しているよ」

「そっか」

 

 

 話が一段落したと判断したリンクは、質問を投げかける。

 

 

「後悔は無駄じゃないと思うよ。誰だって最初の一歩は怖いから」

「……慰めてくれてんのか?」

「わからない、でも『こうするべきだった』って後悔できるのは、とても立派だと思うよ」

「……あんがとな」

 

 

 その優しいリンクの言葉に、男は照れくさそうに泥のついた手で鼻を掻く。

 そして、私は口を開いた。

 

 

「で、なんでそんな話を私達にするの?」

 

 

 わたしは冷たく言う。

 いきなりこんな話をされても困るし、なにより放置されてた小説の更新……序盤がこれでは誰もこの物語を見なくなる。

 

 

「俺の村は収穫祭が近くてな。料理に使う野草を森で取ってくるように頼まれた――」

 

 

 と、三十代くらいの男が言うと、男の足下がズポッと音を立てる。

 それと同時に男は下にある暗闇へと沈んでいく。

 

 

「そしたら、底なし沼にハマっちまった。俺はもう、おしまいだ……」

「…………」

「――でも、お前達がこの手を取ったら、何かが変わるかも知れないぜ?」

 

 

 沈みながらもドヤ顔気味に言う男。

 言動はウザいが本気で困っているようなのだが、なぜだか今回はあのお人好しのリンクが一切動こうとしない。

 なぜかと思い、私はリンクに問いかける。

 

 

「助ける?」

「なんとなくうさんくさい、フリーレンは助けないの?」

「手が汚い」

「そっか」

 

 

 私とリンクは向かい合ったが、結局答えを見つけることは出来ず、ただ黙って傍観を続ける。

 

 

「絶対そんなこと、気にしてる場合じゃ無いよぉ……。それに坊主、大人ってのは、うさんくさいもんなんだぜ」

 

 

 冷や汗を掻きながらも、なぜかクールでダンディな口調は変えない男。

 

 

「助けてあげたいけど、子供の僕だと故郷の草すらまともに抜けないんだよね」

「なにそれ……」

 

 

 リンクの言葉の意図はよくわからなかったが、結局私が底なし沼から引っこ抜く魔法を使って彼を助けた。

 

 

 □ □ □

 

 その後はフェルン達と合流し、私達はその男と別れた。

 収穫祭の準備で忙しいが礼はすると、男には言われたが物資の補給をしたいのでその話は蹴った。

 男に森の毒について注意喚起を聞いた後、私達はまた森を進む。

 

 

「……噛まれちゃった」

 

 

 すごい速度だった。

 あの男の注意喚起から一ページ、いや三コマすら進んでいないだろうに。シュタルクが蛇に噛まれた。

 

 

「気をつけろって言われたのに……」

「とりあえず止血しましょう」

 

 

 リンクとフェルンは呆れ気味に、シュタルクを座らせる。

 私は手元に魔力を集中させ、毒の分析を試みるが、そんなもの僧侶でも無い私がわかるわけが無い。

 今までに見たことが無い反応だ。

 

 

「毒の種類の分析って僧侶の魔法だから得意じゃ無いんだよね」

「ここから街までは遠すぎるね、あの村まで一旦戻ろう」

 

 

 そう指示するリンクに、同意する私達。

 シュタルクだけは大丈夫だと言っていたが、大事を取って引き返すことにした。

 まぁ、アイゼンも竜も昏倒させる猛毒喰らってもピンピンしてたから、杞憂だとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手遅れです。数時間後には脳が溶け始め、鼻から全部流れ出て死にます」

「すごくこわいっ!!!」

 

 

 恐ろしく怖い顔で言う協会の神父様。

 それにシュタルクはびびって泣き顔になり、私とフェルンは互いに手を握り合う。

 

 

「ど、どうすれば良いんだよこれぇ……」

「さぁ、どうすればいいんだろうね」

「大丈夫、僕がどうにかしてみる」

 

 

 絶望の中、希望の光を照らすリンク。

 その言葉を聞いた瞬間、鼻血を出していたシュタルクの顔がぱぁっと明るくなる。

 

 

「流石リンクっ! よっ! 最強の戦士!」

「戦士じゃ無いけど」

 

 

 シュタルクの涙ながらの茶々に冷静に返すリンク。

 そして彼は口元に手を当て、コツコツと教会を歩き、思考する。

 

 

「…………」

 

 

 そういえば、彼は元々は一人で旅をしていたのだ。

 サバイバルの知識もかなり豊富で、ある程度の毒の処理もお手の物というわけだ。

 

 

「……ん」

 

 

 ――パンッ!!!

 

 思考が終わったのか、リンクはパンッと音を立てて両手を合わせ、

 

 

 

 

 

 チーン。

 

 

 

 

 

 そのまま綺麗に一礼した。

 

 

「おいぃぃぃいぃいいい――――ッ!!」

「そういえば僕毒にかかったこと無かった。お手上げお手上げ」

 

 

 リンクは両手を上に上げ、降参の意を示す。

 そんな完全に諦めたリンクの肩を揺するシュタルク。

 

 

「頼むよぉりんく! お前だけが頼りなんだよぉ!」

「ぁぅぁぅあぅぁう」

「俺このままだとマジで死ぬぞ!? 死んじゃうぞぉ!!」

 

 

 リンクの身体が無気力に前後に揺れていると、

 

 

「兄貴、新しい風呂桶小さくない?」

「清貧です」

「やり過ぎじゃない? 手のひらサイズにまで清貧してんのうちくらいだよ」

 

 

 奥の扉から、見覚えのある男が出てきた。

 その男は件の底なし沼にハマっていた怠そうな男だ。

 

 

「それよりザイン、見てあげなさい」

「あ、兄貴コイツらだよ。俺のこと助けてくれたのは」

 

 

 神父のその言葉に、ザインと呼ばれた男はこちらの存在に気付いたようだ。

 そして鼻血を出しているシュタルクを見る。

 

 

「なんだ? 蛇にでも噛まれたか? 気をつけろっつったのに」

「うぅ……」

 

 

 呆れ気味にザインが言うと、シュタルクの肩に手を置いた。

 その瞬間ザインの手から魔力が流れ、シュタルクの鼻血が止まる。

 

 

「鼻血、止まった」

 ――へぇ。

 

 

 その光景に、私は少なからず関心を覚えた。

 神父が手遅れと診断した毒をこうもあっさりと、しかもこの男がかけている飾りは聖都から地方で最も優れている司祭に与えられる物のはず。

 ――間違いない、アレは天性の才だ。

 

 

「ねえリンク……」

 

 

 私がリンクに声をかけようとすると、彼は何故かザインの元にかけていった。

 

 

 □ □ □

 

 

「おにいさん」

「?」

 

 

 僕はいつの間にか、ザインという者の後を追っていた。

 

 

「なんだ? つぅか俺がお兄さんって歳に見えるか」

「僕から見れば、年齢なんて問題じゃ無いよ。見た目も問題じゃ無い」

 

 

 何故かと言われたら、なんとなくだ。

 あの時出会ったときから、なんとなくだが気になっていた。

 一歩踏み出せないのが、気になっていた。

 

 

「変なガキだな、んでなんだ?」

「僕達と一緒に冒険に行かない? きっと楽しいよ?」

「何だと?」

 

 

 僕のその言葉にザインはピクリと一瞬眉をひそめたが、諦めたように笑った。

 

 

「何故俺を?」

「僕達パーティには回復がいる。そして良い僧侶を今見つけた」

「もしかして会った時の話で誘ってくれてんのか? 言っただろ? 遠い昔の話だって」

 

 

 遠い昔の話、か。

 確かに僕は後悔できるのは素晴らしいことだと言った。

 それは今までの人生、時と幻を駆け抜けた僕の結論だ。無理に冒険に行こうとも、それが世界の命運がかかった冒険であっても、そこには虚無しか無い。

 

 

「じゃあなんで?」

「なにがだ?」

「なんで、そんなに後悔してるように見えるの?」

 

 

 しかし、それに決して後悔はしていない。

 勿論選択の余地があり、それを決断できないのは良い。

 それは重要な判断を保留し、危険な一歩を踏まない生命の防衛本能だからだ。

 

 しかし、それで後悔してしまうなら、駄目だ。

 

 

 □ □ □

 

 

 

 ――ただいま……リンクッ!

 

 

 

 

 

 僕はこのハイラルの時間分岐点を、時の勇者として見守った。

 かの新しき勇者と、姫ゼルダを陰から。

 これでようやくこの分岐点の監視は終わりだ、姫君があんな姿に変貌したときはどうなることかと思ったが、こちらの勇者は魔王討伐を成し遂げてくれた。

 

 

「ハラハラしたけど、なんとかなった」

 

 

 僕は安堵の息を漏らし、その場から立ち去る。

 この時代は僕がいた時代から何百年後かはわからないが、やはり姫があるところに勇者あり。

 退魔の剣……マスターソードが認めし者がいる限り、この世界の平和は揺るぎない者となるだろう。

 

 

「さて、あとは若い者に任せるとするかな。なんちゃって」

 

 

 僕はそんなことを言いながら、その場から消えようとする。

 しかし、

 

 

「ん?」

 

 

 いきなり僕の目の前に、一頭の馬が現れた。

 それは美しい茶色の毛並みをした馬で、白いリーゼントが特徴的な何処か可愛げのある馬だ。

 僕は、すぐにそいつがわかった。

 

 

「君は……エポナ?」

 

 

 間違えるはずが無い、自分の馬なのだから。

 エポナは僕に近づくと、頭を僕の顔に優しくぶつけてきた。

 

 

「ははっ、ほんとにエポナだ。子孫かな?」

 

 

 どうやら、自分の愛馬の血を受け継いだ馬のようだ。

 近づくとほんの少しの変化はあれど、エポナの血は濃く受け継いでいるようである。

 僕の匂いを遺伝子的に感じ取ったのか。中々離れてくれない。

 

 

「仕方ない、少し散歩しようか」

 

 

 このまま帰るのも何か悲しい。

 少しくらいこのエポナとこのハイラルを走り回っても良いだろう。

 

 

 

 

 このハイラルは、なんとも言えない場所だった。

 何処か古代的に見えるにもかかわらず、明らかに近未来なシーカー族の文明。魔王が崩壊させたであろう悲しき爪痕。

 しかし彼の者達は光に満ちており、種族同士のいざこざもほとんどなさそうだった。

 

 ハッキリ言って、自分の知っているハイラルよりも数倍は良い環境だ。きっと今の姫と勇者が想像以上に頑張ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 僕が時を忘れ、エポナとの散歩を続けているときだ。

 

 水の都と呼ぶに相応しいゾーラの里。

 僕はそこに訪れたときに、ある石碑を見つけた。それは現在の王子であるシドという若者が、あるおてんばな姫君の事を記してあった。

 内容はこうだ。

 

 

 

 

 ――ゾーラ王子 シド ある伝承をここに記す――

 

 その昔 ゾーラの王家に

 蛇行する川のごとく おてんばな姫がいたという

 

 

 高貴さと無邪気さを併せ持ち

 民に愛されたその姫の名は ルト

 

 

 ある時 ハイラルを支配せんとする者が現れ

 平和なゾーラの里に 大きな災いをもたらした

 

 

 逃げ惑う民たちで沸き立つ水面を

 戦いに敗れた兵士の 屍が流れたと記されている

 

 

 そのときのルトは

 里の惨状が映る目に 涙をためながらも

 

 

 弱き者たちを避難させ 自らは川の流れに逆らい

 滝を登り 敵に挑んだと伝わっている

 

 

 いずれも伝承も戦いの詳細こそ伝えていないが

 ハイラル王家の姫と 勇者の力を借りて

 

 

 ルト姫たち精鋭は ついにはハイラルを救った

 ……物語はそう結ばれている。

 

 

 □ □ □ 

 

 

「後悔は、しちゃだめだよ」

 

 

 僕はそれだけ言い残して、ザインに背中を向けた。

 僕は今でも思う、もう少し目覚めるのが早ければ、もう少し早く行動をしていれば。

 彼女の涙を拭うことができたんじゃないかと。

 

 未来であった彼女の気高さの奥には……あの時のように心細くてしかたがなかったのではないかと。

 

 

 そして、また初恋の人が消えた彼女の心境はどれだけ虚しい者だったのか、と。

 

 


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