華鏡よさりは今日も悪夢を見る。
夢か現かも分からない中、ぼんやりと世界を見ていた。

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まどろみの中で

 華鏡よさりは今日も悪夢を見る。

 

 いつからだろうか、この悪夢を見ているのは……

 

 車窓から眺めている景色はどれだけ変わったのだろうか、ガタンゴトン、ガタンゴトンとただ、唯々走る電車は止まることを知らない。

 

 それは夢なのか、現実なのか、うつらうつらと、華鏡よさりは車窓から見える景色をぼんやりと眺めながら、不思議な世界に身を預けていた。

 

 日が高い位置にある時は、確か山中を電車が走っていたはずだ。木々が生い茂った場所を走っていたような気がした。しかし、まどろみの中、時間を忘れるようにうつら、うつらとしていれば、いつの間にか夕日が差し込む海辺を走っていた。

 

 何処からか、波打ち際の音が聞こえてくる。もうすぐ、夕日が水平線に沈み、黄昏が終わってしまうだろう。焼けるような夕日が少しずつ熱を失い、暖房が聞いていないその空間は少しずつ冷めゆく、そんな気がしてならない。

 

 こくり、こくりと、華鏡よさりは眠気に襲われ、夢の世界を揺蕩う。

 

 黄昏の世界で、目を瞑れば、ガタンゴトン、ガタンゴトンという電車の規則的な音と、吸い込まれそうなほどに爽やかな波打つ音だ。

 

 この旅は、何処まで続くのだろう。

 

 長い、長い旅のような気がする。どこへ向かい、どこまで走るのだろうか、分からない。どうでもいい訳ではない、ただ、何処へ向かうかさえも些細なことに感じてしまうほど、今は悠久の時に感じられた。

 

 夕暮れが近づいてゆく、辺り一面がオレンジ色に彩られていた世界が、徐々に変わり始める。世界は、力強く照らしていた世界から、何処か妖艶な夜の世界へと変わろうとしていた。太陽の光が弱まり、水平線へと近づくごとに、オレンジ色に染まっていた海はその青を取り戻しつつある。それならば、空はどうだろうか、空は徐々に夜を向かい入れつつある。

 

 世界は赤やオレンジの世界から、黄色い太陽と、青色に彩られた世界に移り変わろうとしている。

 

 うつら、うつら、こくり、こくりと、華鏡よさりはまどろみに意識を委ねる。

 

 眠い、そんな事を漠然と考えながら、電車の揺れに身を任せながら、車窓から世界を眺め続ける。

 

 この悪夢では、強い眠気に襲われると、時間が進む気がする。

 

 確か、森を走っていた時に、強い眠気に襲われたと思ったら、いつの間にか夕方に代わっていた。そのせいか、まだ森の中のような気がしてならない。

 

 そう、物語の中のような、紅葉のアーチ、秋と言う季節で化粧をした黄色と赤で彩られた世界の中を電車が走っていた気がする。

 

 しかし、それは長い夢の世界においては、遥か昔のようにも感じる。昔は今で、今は昔、そして今は未来、時間の概念など、有って無いようにさえ思える。そんな不思議な空間だ。

 

 気づけば、世界は夜になっていた。

 

 不夜城の摩天楼が広がっているわけではない。そこは闇、一面の闇だった。

 

 いつの間にか、そこは電車の車内ではなく、見渡すばかりの夜空が広がる廃駅だった。

 

 錆とツタで見えなくなった駅名が真横にあり、冷たいベンチの上に、華鏡よさりはポツリと座っていた。いつから座っているかなど、分からないし、いつ電車から降りたのかさえ分からない。

 

 三日月が世界を優しく照らす夜空の下、ぼんやりと見上げる。

 

 まばらに浮いた雲と散りばめられた星々の光は、真っ暗な夜であろうとも、うっすらと世界に色をもたらし、力強さはなくとも、落ち着いた様子で世界を構築してくれている。

 

 森近くの廃駅で、夜空を見上げる。

 

 文明の明かりなど何処にもなく、街中特有の喧噪も無ければ、人の声も、虫の声もない。

 

 世界に一人、彼女はただ、夜空を見上げている。時間は限りなくゆっくりと流れ、世界は時間と言う概念すら切り離してくれていた。

 

 そんな中、夜空に一筋の光が走る。

 

 流れ星だ。

 

 それは直観だった。夢が覚めるのだろう、止まっていた時間が、動き出したような、そんな気がする。

 

 それならば、この不思議な世界を終わらせる言葉を告げなければならない。それは最初から決まっていて、分かってもいた。

 

「さあ、我らの夜を始めよう」

 

 その言葉をつぶやくと同時に、世界は大きく変化し始める。夜空は大きく回転するように、世界は終了を迎えた。

 

 まるで渦巻に吸い込まれるように、世界は掻き消え、意識もくるりと裏返り、目覚めの時を迎える。

 

 そうして、長い、長い夢から覚めるのだ。


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