幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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ハッピーバースデー、絵里ちゃん!!

通常進行ではありますが、一応エリちの話で一つ


大人な君に勝つ方法

 ありきたりな疑問なのかもしれないけれど、大人と子供の境界線は何処なんだろうか。彼女と一緒にいると、時折そんな考えが脳内を巡る事がある。恐らく、散々議論し尽くされてきたことなのだろうとは思うけれど、俺は未だにその答えを知らない。

 そもそも何を基準にその線を引くのだろうか。単純に年齢なのか、それとも肉体的や精神的なものなのか、はたまた社会的な立場なのだろうか。まぁ、そういった細かい定義付けはともかくとして、一つ事実として言えるのは、俺から見た彼女はすごく大人っぽくて、同じように自分自身を見たときに酷く幼稚に見えるということ。

 

「……そんなことがあってさぁ」

「それは真姫だって怒るわよ」

「そうかな?」

「ええ。わざとじゃないにしろ仲間外れにされたようなものだもの」

 

 俺は生徒会室で絵里ちゃんに先日真姫とあった事について話をしていた。半ば愚痴みたいなものになってしまっていたのだが、彼女は嫌な顔ひとつせずにそれを聞いてくれていた。しかしそれでいて、ただ聞いているだけではなく、言うべきところはきちっと指摘してくる。それも決して角の立たないような物言いで。

 

「それに多分だけど、別の感情もあったんじゃないかしら」

「別の?」

「ええ。……って、あんまり余計なこと喋ると私まで怒られちゃうわね」

「含みのある言い方しといて、最後まで言わないなんて、すごく気になるんだけど」

「まあ、あくまで私の想像だからね。それに女の子には秘密は付き物よ」

 

 そう言って絵里ちゃんはふふふ、と上品に笑う。意識してみると、そんな仕草もどことなく大人びて見えた。そんな彼女だって高校三年生だ。世間的に見ればまだまだ子ども扱いされるような年頃のはずだ。ただ、そういう客観性はともかくとして、少なくとも俺から見る彼女はやはり大人なのだ。

 

「絵里ちゃんって昔からそんな感じだっけ」

「そんなって?」

「ん~、何というか落ち着いてるって言うか、しっかりしてる感じ?」

 

 彼女と自分の違いというものを考えたときに、まず一番に思いつくのが、男女の違いと年齢差だった。性差の方はともかくとして、仮に年を重ねるごとに大人に近づくというのなら、一年後の俺は彼女のようになっていてもおかしくはないということになる。

 しかし想像してみたところで、即座にそれはありえない仮定だということを思い知らされる。そんな未来が全くといっていいほど想像出来ないのだ。そもそも、今の俺と同じ年齢のときの彼女、つまりは一年前の絵里ちゃんは既に今の彼女と変わらぬ位大人びて見えていた。もっと言えば、それよりも以前からそうだったのではないだろうか。

 

「なぁに、急に? 褒めても何にもでないわよ?」

「いや、ただなんとなくどうだったかなと思ってさ」

 

 深い意味なんてものは当然無く。別に彼女をヨイショするつもりも無い。ただ純粋な疑問だった。

 

「そうねぇ……。しっかりしていたかどうかはともかく、結構やんちゃはしてたわよ」

「えっ、そうだっけ? あんまりそんなイメージ無いけど」

「覚えてない? ほら、ふたりで大きな木に登って、あなたのお母様にカンカンに怒られたあの時のこと」

「ああ、あったねそんなこと」

 

 小学校に入ったぐらいの頃だろうか。近くの公園に、子供の身長ということもあってか、少し離れて見上げないと天辺が見えない位大きな木があって。それに絵里ちゃんとふたりして、どっちが高くまで登れるか競争をしたことがあった。後でそのことが親にばれて、女の子にそんな危険なことをさせるんじゃない、なんてものすごい剣幕で怒られたのだ。

 

「でも、あれって確か絵里ちゃんが最初に言い出したんだよね?」

「ふふふ。ええ、あの時はホントに悪いことしたわ。怒られるのは私のほうだったのに」

「それはまあいいんだけどさ、結局どっちが勝ったんだっけ?」

「そりゃあ、もちろん私よ」

「ホントに? 俺が覚えてないからって、都合良く改竄してない?」

「本当よ、だって木登りは得意だったもの。だから言ったでしょ、結構やんちゃしてたって」

 

 そう言って絵里ちゃんはクスリと笑った。昔を懐かしむように笑うその顔は、何処か幼さが見え隠れしていた。ただそれも一瞬で、次の瞬間にはいつもの彼女に戻っていた。

 

「何というか、変われば変わるもんだね」

「あら私? 別に自分じゃそんなつもりは無いわよ、周りが勝手に持ち上げてるだけで」

 

 絵里ちゃんは自分が褒められると決まってそう言うけれど、俺から見たらやっぱりそんなことはなくて。

 

「まぁでも、女の子はちょっと見ない間に変わるなんて良く言うもの。もしそうだとしたら、ちゃあんと見てないとダメよ、また真姫の時みたいになっちゃうから」

「うわ、結局そこに戻るんだ。藪蛇、藪蛇」

 

 こんな風に時折見せる面倒見の良さだとか。彼女は謙遜するけれど、同年代の他の人からは中々見られないもので、そんな彼女を見て大人なんだなと思う。

 それに彼女は変わってないなんて言うけれど、だとしたら、俺が絵里ちゃんとこうして話をしているときに時々感じる、この胸の高鳴りをどう説明つけるというのだろうか。言うまでもなく彼女の外見は変わった。顔は昔よりも綺麗になり、スタイルだってモデル顔負けな位に出るところは出て、引っ込むところは引っ込む、それぐらい成長している。もちろん、俺自身がそういう色恋沙汰に興味を持つ年齢になったということも大きな要因のひとつではあるだろう。でも、それらだけだったらこれ程までに意識を奪われることはなかったと思う。外見だけでなく、彼女の仕草のその一つ一つが目を引き付けてやまなかった。それは少なくとも、小さかった頃には無かったような感覚だった。

 

「どうしたの?」

 

 急に黙り込んでしまった俺を、絵里ちゃんは少し心配そうに覗き込んだ。ふいに彼女と視線が合って、やはりドキリと胸が高鳴った。

 

「いや、その。……の、希ちゃんもバイト大変だなぁって」

「あら、私だけじゃ不満?」

 

 絵里ちゃんは冗談めかしてそんな風に言いいながら、くすくすと笑う。

 希ちゃんはバイトで先に帰ってしまい、他の役員たちも仕事を終えて各々部活なり、帰宅するなりしてしまった。改めて考えると、今この生徒会室には俺と絵里ちゃんのふたりきりだった。意識するまではなんでもなかったのだけれど、一度意識してしまうと不思議なもので、一瞬にして緊張が高まっていった。

 

「いや、そんなことは無いけど……」

「そう? あっ、じゃあ、ふたりきりで緊張してるとか?」

 

 ニヤニヤと微笑みながらずばり核心を突いてくる。この間、希ちゃんとふたりで彼女をからかった事の仕返しでもするつもりだろうか。ちょっぴり意地悪そうな顔で、そしてとても楽しそうな顔で絵里ちゃんは俺を追い詰めてくる。こうなってしまうともうお手上げで、希ちゃんと一緒のときならいざ知らず、俺一人では到底彼女には太刀打ち出来ないのであった。

 

「そんなことより、合宿はどうだったの?」

「あ、露骨に話題変えたわね」

「……なんのことやら」

「まぁいいわ。そうねぇ……楽しかったわよ、とっても。あなたも来ればよかったのに」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいし、実際行く前にも他の子も誘ってくれたのだが、女性だけで泊りがけで出かけるところに、男一人混じるというのはいかがなものだろうか。少なくとも俺は変に気を使ってしまうし、相手にも気を使わせてしまうので遠慮したかった。

 

「楽しめたのなら何より。それに真姫も素直には言わなかったけど、喜んでたみたいだよ。絵里ちゃんと希ちゃんが色々と気を回してくれたおかげで」

 

 絵里ちゃんと希ちゃんは合宿をするに際して一つの計画を立てていたらしい。それは先輩後輩の関係を取っ払おうということだった。俺もその話を聞いて、なるほど、確かにいい考えだと思った。もちろん最低限の礼節は必要だけれども、変に気を使いすぎるのも一つのグループとして活動していく以上、コミュニケーションの妨げになりかねない。

 

「そうだ。ついでに航太も変えてみない?」

「えっ!? 俺も?」

 

 変えると言われたって人前はともかく、ふたりの時だったり、親しい間柄の人間といるときは敬語を使ってるわけでもない。それに別に堅苦しく絵里さんなんて、さん付けで呼んでるわけでもないから、特にこれといって変えるところも見当たらないわけで。

 

「だったら、そうねぇ……いっそ呼び捨てにしてみるとか」

「ええぇ。今更呼び方を変えるのも変な感じなんだけど」

 

 長年言い慣れた呼び方を変えるというのは思いのほか抵抗があるし、何よりも気恥ずかしさがすごかった。

 

「いいじゃない。それこそ真姫なんてそう呼ぶようになったんだし。ね、試しに一回だけ」

「……はぁ。そこまで言うんなら、まあ」

 

 変に意識するから駄目なんだと分かってはいつつも、やはり妙に緊張する。

 

「えっと、じゃあ……え、絵里?」

「っ!?」

 

 俺がそう呼ぶや否や、絵里ちゃんは一瞬固まった後、パッと勢い良く顔を背けてしまった。

 そんなに可笑しかっただろうか。大体、自分からそうしろって言い出したくせに笑うことは無いじゃないか。最初はそう思っていたのだが、よくよく彼女を見るとなにやら様子が違った。顔を反らしているせいでこちらからじゃよく表情は窺い知れないが、その頬は赤く、それどころか耳まで朱色に染まっていた。

 

「絵里ちゃ……絵里?」

「っ!? ご、ごめんなさい。なしなし! やっぱりいつものままでいいわ」

 

 絵里ちゃんは顔は未だに反らしたままで、手をブンブンと振って中止を求めてくる。その間にもどんどんと肌の紅潮は増していた。ロシア人の血が混じっているからだろうか、他の人よりも白いその肌のせいでそれがより目立って見えた。

 そんな彼女をみてようやく理解した。要するに彼女も照れていたのだと。彼女は何気なく言っただけなんだろう。たが恐らく、同姓はともかく、異性に名前を呼ばれなれてない彼女は自分で思っていた以上に恥ずかしくなってしまったのではないか。その相手が俺だったとしても。つまりは盛大な自爆。

 

「絵里? どうかしたのか、絵里?」

「ちょっとぉ! 分かってて言ってるでしょ!」

 

 ようやくこちらに向き直った絵里ちゃんは、顔を赤くさせたまま猛烈に抗議する。ただ、そんないつもと違った彼女を見れたのが嬉しくて、そしてなんとも言いえぬ優越感を感じた俺は、しばらく彼女の名前を呼び続けたのだった。

 

 




特別なお話ってわけじゃないけど、何とか誕生日に間に合ってよかった……
改めておめでとうエリち


来週は凛ちゃんか……
次はぎりぎりにならないように、もっとがんばろう
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