幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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箸休め回的な感じで一つ


放課後綺羅綺羅センセーション

 空が青い。ただそれだけで何だか少しテンションが上がっていた。

 今日は珍しくμ'sの練習が完全にオフということで、こうして街中へと繰り出している。放課後に、空の色が赤らむ前にこんな所に居るなんて、実に久しぶりである。別に彼女たちの練習に付き合うことが嫌だなんて思ったことは一度もないが、久しぶりということもあってか不思議と開放感に満たされていた。

 

 こうして街中を歩いていると、見慣れているはずの景色もいつもとは違ってキラキラと輝いているように見えた。やはり休息も大切なんだ、そう実感する。体調管理といった面でも当然そうだが、何より根を詰めてしまうと段々と視野が狭くなっていくような気がする。

 もちろん日々の反復練習でしか身に付かないものもあるだろう。でも彼女たちはアイドルだ。歌が上手い、ダンスが上手。ただそれだけではいけないんだと思う。そこに何かプラスアルファで上積みするものがあってようやく一つ上のアイドルになれるんだと思う。

 

 まあ、かといって考えて簡単に浮かび上がってくるものでもない。

 ましてや今日は久々のフリーだ。堅苦しいことを考えるよりは、今これからのことを考えることの方がよほど優先するべきことだ。

 何処へ行こうか。そう考えただけで期待で心は躍りだす。気が付くと俺は、まるで不慣れな土地にでもいるようにきょろきょろと辺りを見回していた。

 一応μ'sの面々にもスイーツを食べに行こうだとか、ラーメンやら焼肉に行こうだとか誘われはしたのだが、全て丁重にお断りした。いつでも女の子の誘いにホイホイついていくほど軟派な男ではないのだ。

 というか、話題が食い物関係ばかりなのはアイドルとして、というか年頃の女性としてどうなんだろうか。若干彼女たちの先行きに不安を感じる。

 

「ねぇねぇ、そこのお兄さん」

「……」

「ねえってば。そこの音ノ木坂の制服着たお兄さん」

「えっ!? 俺のこと?」

 

 後ろから女性の声に呼ばれて振り返る。最初は自分が呼ばれているとは思わなかったのだが、辺りを見ても俺と同じ制服を着た人は居ない。もしかして自分のことかと思い、その声の方へと視線を向けると、そこには一人の小柄な女性が立っていた。

 

「ええ。今時間あったりってするかな?」

「は? まあ、今日に限っては時間は有り余ってますが」

「そう、よかった」

 

 そういってその少女はニッコリと笑う。ツリ目気味だったその目尻が少し下がる。不覚にもその笑顔に心臓を掴まれる。その少女は眼鏡をかけて帽子を深めにかぶってはいるが、それでもその顔のパーツは整っていて美人であることは間違いなかった。

 

「だったらさ、私と少しお茶でもしない?」

「は?」

 

 これはあれか。俗に言う逆ナンってヤツだろうか。

 人生初の出来事に内心嬉しくなって、少し心が揺らぐ。というか本当にそうならいいが、美人局的な何かである可能性も否定できないわけで。

 

「……まぁ、少しだけなら」

「よかった! 私、この辺でいい喫茶店知ってるの」

 

 そんな不安を抱きつつも好奇心の方があっさりと勝ってしまい、ついついOKを出してしまう。なにせ人生初のことだ、仕方がないだろう。この機会を逃したら次はいつあるか、というか今後こんなことがあるかどうかすら怪しい。故に、ここは話に乗っかるという選択肢一つしかなかった。

 

 そんな俺の返答に彼女は再びパッと笑顔を咲かせる。覗き込むようにして笑うその表情は、やはりとても可愛らしくて、思わずこちらまで笑顔になっていた。

 そんな彼女の顔を見ていると、どこかであったような、そんな既視感に襲われる。無論、会った事などないはずである。しかしやはり間違いなく何処かで見たことあるのだ。それが何処であったかを思い出せずに、モヤモヤとしたそんな気持ちの悪い感覚に包まれる。

 

「それじゃあ、付いて来て」

 

 だが、そんな俺の心の内など気が付くはずも無く、彼女は一人先に歩き出したのだった。

 

 

 

 

 店内に入ると確かにそこは、こじゃれた喫茶店であった。極力照明は落とされており、薄暗ささえ感じるのだが、それが落ち着いた雰囲気を醸し出していて、何処か隠れ家的な印象を受けた。

 彼女はそんな店内を慣れた様子で、奥へ奥へと進んで行く。そのまま本当に店の隅の方の、半ば個室のようになっている所まで来て、彼女は席へと付いた。それに合わせるようにして俺も彼女の対面の席へと腰を下ろす。

 この間、俺はずっと緊張しっぱなしだった。女の子とふたりきりだからということよりも、怖いお兄さんでも出て来やしないかという不安で。

 

「ふぅ」

 

 注文を取りに来た店員に内容を告げてから、彼女は少し緊張を解くように一つ息を吐く。そして店内ということもあり、今までかぶっていた帽子を脱いで片隅に置いた。続けておもむろに掛けていた眼鏡を外して、これまたテーブルの上へと置く。

 そこでようやく謎が解けた。

 

「あぁー!」

「へっ!? ど、どうかした?」

 

 思わず上げてしまった俺の声に、彼女はびくっと身体を強張らせて驚く。驚かせた人間が言うのもなんだが、そんな姿も小動物みたいで可愛らしかった。

 

「えっと、あれだ。ポスター!」

「へ?」

「そう、A-RISE! A-RISEのセンターの人!」

「あ、うん。まあ、そうだけど」

 

 見覚えがあるはずだ。何しろスクールアイドルのランキングの頂点に立つグループの一人なのだから。動画では何度か見たことがあるし、ウチの部室にもでかでかとポスターが張ってある。

 俺はそのことが分かって、胸のつっかえが取れたようにすごくすっきりとした気分になった。

 

「あーあ。でも残念だなぁ。名前までは覚えてもらえてなかったかぁ」

「あ~。ごめんなさい。何分疎いもんで」

 

 口ぶりとは裏腹に、ちっとも残念そうなそぶりを見せずに彼女は言う。

 

「ふふっ、冗談よ。じゃあ改めて自己紹介するわね。私は綺羅ツバサ。ご存知の通りスクールアイドルをやっているわ。よろしくね」

「三神航太です。こちらこそよろしく」

 

 流石はアイドル。そんな印象だった。

 ただ普通の自己紹介をしただけだというのに、引き込まれるような何かがそこにはあった。話し方から微笑み方まで、その細かい仕草のどれをとっても一般人とはまるで違っていた。

 

「それで、何で俺に声を掛けたんだ?」

「うーん、そうねぇ。興味を持っていたから、ってだけじゃダメかしら?」

 

 今や国民的とも言ってもいいような、スクールアイドルの頂に立つ女の子が俺に興味を持ってくれている。なんて馬鹿正直に喜ぶほど俺だって阿呆じゃない。つまりは彼女は以前から俺のことを知っていたのだ。その理由を考えてみたときに、導き出される答えは一つだった。

 

「興味を持っていたのは俺というより、μ'sに対してだろ?」

「……ええ、そうね」

 

 ツバサは一瞬驚いたような表情を見せてから、満足げに頷いた。

 

「μ'sのこと調べてたら必ずといっていい程、毎回近くに同じ男の子が居たの。最初はただのファンの子かと思ってたんだけど、なんだか違うみたいだから。それでたまたま今日見かけたから、声を掛けてみちゃったの」

「ちゃったのって……」

 

 μ'sのことを調べていたということにも驚きだが、それ以上にたったそれだけの理由で声を掛けてきたということに驚かされる。仮にもトップアイドルが男とふたりきりで居るというのを見られたら問題になるんじゃなかろうか。

 ……その辺のことに関しては、あまり人のことは言えない立場ではあるが。

 

「へーきへーき。ちゃんと変装してたから」

 

 ツバサはそう言って、ちょんちょんと傍に置いてある帽子と眼鏡を指差す。ペロッとしたを出しながらおどけてみせるその姿は可愛くて大変結構なのだが、名前を覚えていなかった俺でさえ気が付きかけたぐらいなのだから、ファンから見たら一発でバレてしまうのではなかろうか。他人事とはいえ少し心配になった。

 

 

 

 

「……えっと。何か?」

 

 視線を送られる。ただただ無言で。大きな瞳から放たれるそれは、射抜かれんばかりに力強いものだった。普段だったら、可愛い女の子に見つめられたりなんかしたら緊張してしまいそうなものだ。だが、不思議と今は感心していた。他人のことをこうも純粋に、真正面から見つめることができるものなのかと。

 

「ふふっ、ごめんなさい。前から気になってたのよ。どうしたらあれだけの強い個性を持ったメンバーをまとめるのかなって」

「別に俺がまとめてるわけじゃないから。当たり前だけど、メンバーの一員でも何でもないし」

「そうね。でも九人が九人とも貴方に心を許しているわけでしょう?」

 

 嫌われてはいない。それ位の自身はあるけれど、それ以上となると自分じゃ分かりっこない。ましてや心を許すなんて大層な話じゃなくて、お互いをよく知ってるってだけのこと。

 

「単純に付き合いが長いってだけだよ。幼馴染みだし」

「へーそうなんだ。因みにどの子と?」

「……全員」

「へ?」

「だから、九人全員と」

 

 ツバサは信じられない、そういった風に目を見開いて驚く。そして笑い出した。

 

「あはは。そうなんだ。あるのね、そういう事って」

「当事者の俺も未だに信じられないけどね」

 

 そりゃそうだ。一人二人ならともかく、九人も幼い頃からの知り合いがいて、その全員が揃いも揃って同じグループでアイドルを始めたなんて普通じゃあまり考えられない話。他人からそんな話を聞かされたら、俺だって簡単には信じやしないだろう。

 

「というか、それよりA-RISEのメンバーが俺らのこと知ってる方が驚きなんだけど」

「そうかしら?」

「そりゃ、トップアイドルだもん。片やこっちは何の実績もないぽっと出だし」

 

 変に自分たちを貶めるつもりもないけれど、彼女らぐらい上にいる人間が末端にまで目を向けているというのが到底信じられなかった。ましてや彼女の口ぶりは、最近知ったわけではなくて、もっと前から知っていたような言い方だった。

 

「きっかけ自体はたまたま動画を見たからなんだけどね。でも、一回見ただけで引き込まれたわ。こんなグループもあるんだって」

 

 今までの柔和な表情から一転して真剣な眼差しで彼女は語る。

 

「それに、トップなのにってあなたは言ったけど、むしろトップにいるからこそ新しいことに目を向けなきゃダメなのよ」

「……」

「常に一番でありたい、そう思ってる。もちろん、私だけじゃなくて他の二人も。だから今の順位だとか、経験の有無なんて関係ない。大切なのは、この先どうなるかってことだけ」

 

 ただ閉口していることしか出来なかった。

 歌が上手い、ダンスが上手い。そんなことは映像を見れば分かることだ。でも、彼女の熱意や志、想いは画面越しじゃ、きっとその全てを感じ取ることは出来なかっただろう。今こうして対峙して初めて触れることが出来た。

 そして同時に、これほどまでに貪欲でなければ、トップであり続けることができないものなのかと痛感させられる。

 

「なんてね。こんな堅苦しいことを話すために声を掛けたわけじゃないの」

 

 ツバサは緊張を解いて、先程までのように柔らかく笑った。その切り替えの早さもまさにアイドルのそれだった。

 

「私ファンなのよ、彼女たちの。だから彼女たちのこと、もっといろいろ教えてくれない?」

 

 そう言った彼女は何の屈託もなく笑う。そこにはひとかけらの含みもなかった。おそらく本当に、純粋にμ'sに対する興味からなのだろう。

 ツバサは元々大きな瞳をさらに大きくしながら、期待に満ちた表情で俺の答えを待つ。その姿はアイドルとしての綺羅ツバサではなく、一人のアイドルに憧れる少女のようだった。

 アイドルであるツバサの魅力も今日、十分といっていい程堪能させられたのだが、今の彼女もまた、それとは違った魅力でキラキラと輝いていた。

 




ツバサちゃんに逆ナンされるの巻

μ'sはもちろんだけど、A-RISEもかわいいよね
ツバサちゃんかわいい。デコかわいい

というか、こんな設定にしときながらμ'sのメンバーが一人も出てこないってどうなのって話ですが
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