幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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番外編です

真姫ちゃん2連続になってしまいました。ごめんなさい


IF:You’re my Santa Claus (真姫)

 年の瀬も近づいてきて、一段と寒さも増してきた。ましてや時期的に仕事も忙しくなり、必然的に会社を出るのも遅くなる。そうすると、尚更それは厳しいものになっていた。

 

「さぶっ!」

 

 会社を一歩出た瞬間、思わずそんな言葉が口を飛び出した。そして、あっという間に体温が奪われていくのが分かった。

 

 そんな寒さの中、身体を丸めながら帰路を行く。

 情けなく縮こまりながら歩く俺とは対照的に、帰り道にあるその街並みは、過剰なまでの装飾とイルミネーションで輝きを放っていた。それは非常に華やかで、普段とは異なる顔を見せていた。

 いつもと違うのは街並みばかりではなかった。人々もまた、フワフワと落ち着かないような感じだ。近くに迫ったイベントを前にして、どこか浮き足立った様子を見せる者も少なくはない。

 

 とはいえ、それは別に今年に限った話ではなかった。少なくとも俺の生きてきたこれまで、ずっと繰り返されてきたことだった。毎年この時期になると、街は装いを変え、人々は期待に胸をふくらませる。

 当然ながら、全員が全員それを心待ちにしているのというわけではない。年齢や性別、その他多く要因によって、このイベントに対する関心度は大きく変わってくる。

 実際、俺も楽しみにしていたのは子供の頃だけで、それ以降はあんまり、といった感じだった。しかし今は違う。心から待ちわびている。というか正確には、それを楽しみにしている身近にいる人間を見ているのが喜ばしい、といった方が正しいのかもしれない。

 

 

 

「うぅ……ただいまぁ」

 

 寒さに耐えながら、ようやく自宅へと辿り着いた。勢いよく玄関の扉を開けて、逃げ込むように中へと入る。

 

「お帰りなさい」

「ただいま、真姫」

 

 するとすぐに、真姫がパタパタとスリッパの音を鳴らしながら足早にやってくる。迎えてくれた最愛の妻の顔に、毎度の事ながらホッとさせられた。

 

「……きゃっ! 急にどうしたのよ、もうっ」

「いや、外寒くってさ」

 

 そしていつものようにただいまのキスをした後、その勢いのまま彼女を抱き寄せた。普段とは違う俺の行動に、真姫は驚きのを見せる。

 腕の中にいる彼女からは衣服越しでも体温が伝わってきて、さらに俺の心は安堵した。

 

「ホントね。頬っぺたすごく冷たくなってる」

「だろ?」

 

 真姫は俺の頬に両手を当てながらそんな事を言った。彼女の手の暖かさが妙に心地いい。

 

「風邪ひかないように気をつけてよね。今の時期は患者さん多くてうちの病院も忙しいんだから、風邪ひいたって診察してあげないわよ?」

「……注意するよ」

「なら、いいわ……んっ」

 

 真姫はそんな冗談を言った後、俺の頬に置いた手はそのままに俺の顔を引き寄せる。そうして再び口付けを交わす。そんな後、照れたように笑う彼女が愛おしくて、こちらも再び強く抱き寄せたのだった。

 

 

 

 

 

「やっぱり、もう寝ちゃった?」

「ええ。ちょうど今さっき」

 

 真姫にコートと鞄を預けてそう問うと、予想通りの答えが返ってきた。

 出迎えてくれた時から、彼女の声が抑え気味だったので薄々察してはいたが、真姫の口から実際に聞くとやはり少しがっかりする。

 

「……覗いてみる?」

「もちろん」

 

 真姫にスーツの上着も手渡して、首元のネクタイを緩めながら寝室へと向かう。そして、その扉をなるべく音を立てないよう、そっと開けた。電気もついていない真っ暗なその部屋の中には、天使が寝息を立てていた。

 

「がんばって起きてたんだけどね」

「そっか……そりゃ、悪いことしたなぁ」

 

 真姫が俺の後ろから、覗き込むようにして言う。彼女は視線の先でスヤスヤと眠る我が子を見て、顔をほころばせる。そんな彼女を見て、きっと俺も同じような表情をしているに違いない、そんな風に考えたら、なんだか妙に可笑しくなってしまった。

 

 子供の寝顔を見ると癒されるとか、元気が湧いてくるなんてことはよく耳にしていた。それでも昔はイマイチ実感が湧かなかった。だけど、今は十分すぎるほどにそれが分かる。子供の寝顔を見る。そんな単純な行為が、仕事の疲れも軽減して、明日も頑張ろうという気にさせてくれる。

 しかし、それだけっていうのもやっぱり寂しくて。最近のように忙しくなってしまうと、どうしても帰る時間が遅くなってしまう。そうすると、起きている子供と触れ合う時間が減ってしまうのだった。

 ましてや今日みたいに、真姫から待っていてくれたなんて話を聞いてしまうと、尚更心苦しくなってしまう。

 

「可愛い寝顔してるわよね」

「ああ。ホント真姫に似てくれて良かったよ」

 

 心底そう思う。人間顔が全てだなんて言うつもりはないけれど、それに左右されることがあるのは拭えない事実なわけで。

 しかし、彼女に似てくれたおかげで、そんな心配とも無縁そうである。この子は間違いなく将来美形になる。なんていうのは親の欲目なんだろうか。

 

「あら、目元なんかはあなたの方に似てるけど」

「そうか? でも全体的には……」

「……ぅんっ」

「っと!」

 

 ついつい状況を忘れて話し込んでしまった俺と真姫は、子供の声にハッと口を押さえた。幸いなことに、目を覚ましてしまったわけではないらしい。

 その事に安心した俺と真姫は、お互い顔を見合わせて微笑み合った後、音を立てないようにこっそりとその部屋を出て行った。

 

 

 

 

「いやぁ、もう街中クリスマス一色だな」

 

 風呂で一日の汗と疲れを落とした後、食卓へと付いた。用意してくれた夕食へと箸を伸ばしながら、真姫に話しかける。

 

「それはそうよ。もう間近だもの。それに、ウチの病院だってちゃんと準備しているわ」

「今年も何かやるんだっけ?」

「ええ。今年は職員でコンサートやる予定」

「へぇ」

 

 真姫の実家の病院では毎年クリスマス近くになると、主に患者さんに向けて、何かしらの催し物をしている。割と同じようなことをしている病院も多いらしく、特に珍しいといったわけでもないらしい。

 

「……ってことは真姫も出るのか?」

「ピアノの伴奏だけだけどね」

「日にちは?」

「二十二日」

 

 ……ってことは平日か。

 だとしたら、残念ながら見に行くことは出来無さそうだ。流石にこの忙しい時に、急に仕事を休むというわけにもいかないし。

 

「いいわよ、来なくて。むしろ見に来られたら緊張しちゃうから」

「よく言うよ、元アイドルのくせに」

 

 真姫は苦笑いを浮かべながら、謙遜してそんな事を言う。しかし、学生の間という短い期間とはいえアイドル、つまりは人前で歌ったり、踊っていたりしたのだ。そんな彼女がその程度で緊張するとは、到底思えなかった。

 

「だからこそよ。初めて見る人からしたら、その時が全てだわ。でも、昔のことを知ってる人が見たら、上手くなってるのか、それとも逆に下手になったのかなんてすぐにバレてしまうもの」

「そういうもんかねぇ」

「ええ」

 

 元々、真姫は小さい頃からピアノをやっていて、人前で演奏して恥ずかしくないくらい上手だった。それに、今でも時々子供に弾いて聞かせている。そんな様子を横で見ている俺からしたら、未だに腕は衰えていないように思えるのだが、本人からしたらそんなに単純な話でもないらしい。

 

「ん? そういや、それ何だ?」

「えっ? あっ、これ? ……ふふっ。読んでみて」

 

 真姫と話している最中、ふと彼女の近くのテーブルの上に置かれていた、一枚の紙切れが目に留まった。それを真姫に尋ねると、何故か嬉しそうに笑いながら、その紙を手渡してきた。

 

「んー……さんたさんえ? あぁ。手紙を書いたのか」

「そう! サンタさんにお手紙書くの、なんて言いながら一生懸命書いていたわ」

 

 なるほど。確かにそこにはミミズの這ったような文字で、サンタクロースへの想いが書かれてあった。当然、自分の欲しいプレゼントを書くのも忘れずに。

 

 恐らく、多くの子供が通る道なのだろう。彼ら彼女らの願いは切実で。大人からしたら唯の物欲なのかもしれないけれど、子供たちにとっては本当に純粋な願い。

 かく言う俺にだって覚えはある。手紙は書いた記憶は無いが、サンタの存在を信じていた間は、毎年良い子にして待っていたものだった。

 だからきっと、クリスマスを一番待ち望んでいるのは子供たちに違いないのだろう。

 

「可愛いでしょ?」

 

 真姫はそう言いながら、嬉しそうに柔和な表情を見せる。

 我が子が、まだぎこちないながらも文字を書けるようになったことや、手紙を書くなんて言い出すまでに成長したことに対する喜びか。はたまた、さらにその先への期待感か。

 いずれにしても、そんな彼女の浮かべる愛おしそうな表情は、一人の女性というよりは、母親のそれだった。

 

「……やっぱり母親に似たのかなぁ」

「どうして?」

 

 真姫から手紙の話を聞いて、自然とそういう考えが浮かんだ。そしてそんな俺の呟きに、真姫はキョトンと不思議そうな顔を見せる。

 

「だって、ほら。誰よりもサンタクロースの存在を信じてた人が母親だもん」

「もうっ! またその話!?」

 

 俺の言葉を聞いて、真姫は苦い顔を見せる。聞き飽きたわ、と言わんばかりの表情で。

 何しろ、今俺の目の前に座っている我が妻は、有ろう事か高校生にまでなってサンタがいると信じて疑わなかったのだ。彼女の実家の家柄が良く、大切に育てられてきたからといえばそうなのだが、いくらなんでもである。

 とはいえ、それも彼女の両親の愛情の一つである事は間違いなかった。義父母と話をしていても、いかに娘を大事にしてきたかというのは容易に想像がついた。

 そして、自分たちもこうありたい、そう思ったのだった。

 

「いつまでそのネタでからかうつもりなのよ、まったく」

「そりゃあ、一緒にクリスマスを過ごす間はずっとじゃないか?」

「……ってことは、あと五十回は言われ続けるわけ? サイアクね」

 

 そんなことを言いながらも、真姫があまり嫌そうじゃないのは気のせいではないだろう。

 

「でもいいわ。あの子には、サンタは本当にいる、って教えるつもりだから」

「……それじゃ真姫の二の舞じゃない?」

「だって実際いるんだもの。だからいいの」

「えっ!? いや、そりゃ海外には公認のサンタクロースってのがいるけど……」

 

 グリーンランドにはサンタクロース協会なるものが存在するらしい。日本にもその支部があって、世界中では百人以上の公認サンタクロースがいるという話だ。

 ……それを本物と呼ぶかどうかは話が別だが。

 

「そうじゃないわ。すぐ傍にいるもの。私の目の前に」

「は? 俺?」

 

 真姫は俺のことを指差しながらそう言った。

 

「ええ。だって、素敵な贈り物をしてくれるのがサンタクロースなわけでしょ?」

「まあそうだな」

「こんなに温かい家庭と、可愛い子供をプレゼントしてくれたのはあなた」

 

 真姫はほんのりと頬を染めながら、しかしハッキリとした口調で語る。

 

「他にも私の欲しがっていたものはみんなくれたわ。ね、サンタさんみたいなものでしょ?」

「そんな大袈裟なもんじゃないけどなぁ」

「いいの。私がそう思ってるんだから」

 

 真姫は満足そうに口元を緩ませる。そんな彼女に釣られるように、俺も軽い冗談を口にした。

 

「……じゃあ、今年も良い子にしてた真姫ちゃんにはプレゼントあげなくちゃな。あっ! でも、あんまり高い物はダメだから」

「ケチなサンタクロースね」

 

 そりゃあ、そうだろう。サンタクロースはあくまで子供たちのものなのである。だから、そう簡単に大人の願いが叶えてもらえると思ったら大間違いだ。

 我が家のサンタはそんなに甘くないのである。

 

「じゃあ、そうねぇ……」

 

 真姫は視線を宙へと向けて、そのまましばらく考える。そして恐らく思い付いたのだろう。真姫は意味深な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「……そろそろ二人目が欲しい、かな」

 

 上目遣いでそんなことを言い出した真姫は、とても艶っぽくて、俺はあっさりと魅了される。それは先程まで見せていた、子供のことを語る母親としての一面ではなく、一人の女性としての顔に戻っていた。

 そんな表情を見せられては、我が家のサンタも無抵抗で屈するよりほかはなかった。

 




このあと滅茶苦茶(略)

たまの番外編で、ましてや9人もいるのに、あろうことか初っ端から同じキャラ2連発とか……
番外編をお待ち下さった方(いるのか分かりませんが……)には大変申し訳ないのですが、話の内容考えたときに真姫ちゃん以外ありえなかったもので。
あまりの計画性の無さに反省するばかりです。


寒い日が続きますが、お体にはお気をつけてお過ごし下さい。
それでは、良いお年を。
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