幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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真姫ちゃん誕生日おめでとう


ありふれたこと

 朝。

 自分でも驚くくらいにパッと目が覚めた。いつもだったらこんなにも早く、まどろみからは離れるなんてことはないというのに。何故だか今日に限っては、目を開いたその瞬間に意識は覚醒していた。

 

 ……何故か、なんていうのは嘘ね。

 そう。私自身、はっきりと理由は分かっていた。起き抜けだというのにどこかソワソワとして、落ち着かない感じがしているのがその証拠。

 別に今日という日を待ちわびていたってって程ではないのだけど、心のどこかで意識していたというのは偽りようのない事実らしい。

 こんな私を他人が見たら子供っぽいって笑うのだろうか。そう想像してみてすぐに二人の友人の顔が浮かんだ。

 

 ……間違いなく笑うわね、特にあの二人は。

 片方はふた学年上の、一応は先輩。恐らくこんな話を聞いたら大爆笑するに違いない。

 もう片方は一つ年上の幼馴染の男の子。こちらは分かりやすく大笑いしたりなどはしないだろうけど、遠まわしにからかわれるのだろう。

 いずれにしても、ニタニタと笑うその表情は容易に想像することが出来た。それを脳内から追い出すように二度三度と頭を振って、私はベッドを後にした。

 

 

 

 

 

 自分の部屋で身支度を整えてから、リビングへと顔を出した。そこには既に両親が居り、朝食の支度を整えていた。

 そんなふたり向けて朝の挨拶を口にする。

 

「おはよう。パパ、ママ」

 

 おはよう。

 そんなありふれた挨拶。私がこれまで15年以上生きてきて、既に数千回は口にしてきた言葉。両親の職業柄、朝に顔を合わすことが出来ないこともあるけれど、それでもほぼ毎日ふたりに向けて紡いできた言葉。

 

「おはよう。真姫」

 

 そしてパパとママもそんなありふれた言葉をいつも通り返してくれる。ただ、それも今日はちょっと違った。

 

「それと、お誕生日おめでとう。真姫」

 

 柔和な表情で微笑みながら、そんな言葉を付け加えてくれる。それだけで私の心が喜びに満たされていくのが分かった。

 

 ふたりの言う通り、今日は私の誕生日。

 他人にしてみたらありふれた一日でも、私にとっては特別な一日。子供っぽいなんて言われるかもしれないし、からかわれたりするかもしれないけれど、やっぱり私にとってはいつもと違う一日。

 そんな日を朝目覚めて早々に、大好きなパパとママから祝って貰えて。それだけで何だか今日一日が素晴らしい物になるような、そんな予感がしていた。

 

 

 

 

 そして、そんな予感は早々にして当たることになった。いや、正確にはこの時点においては当たっていた。

 

 

「真姫ちゃん、真姫ちゃんっ。まっきちゃーん」

「きゃっ!?」

 

 通学路の途中で自分の名前が呼ばれたことに気が付いて振り返ると、すごい速さで凛が走ってくるのが見えた。それはとても同じ女の子とは思えないようなスピードで、あっという間にその距離を縮め、その勢いのまま私に飛びつくように抱きついてくる。

 

「な、なんなのよ急に。危ないじゃない……っていうかそんなに引っ付かないでよ、もうっ」

 

 彼女を受け止めながらそんな風に注意をしてみたものの、凛は悪びれるどころかより一層身体を摺り寄せてくる。別に嫌ってわけではないのだけど、往来でやられるのはやはり恥ずかしいものがあった。

 

「……ハァ、ハァ。凛ちゃん速いよぉ~」

 

 私が凛の扱いに困っていると、遠くの方から花陽も凛同様走ってきた。違うのは大きく息を切らしていることと、凛よりはだいぶスピードが劣るということ。

 花陽は私たちの前まで来ると、膝に手を当てながらその呼吸を整える。そんな彼女を見て、未だまとわり付いている少女と、同い年の女の子でありながらこうも違うものかと失礼ながら少し可笑しくなった。

 ……まあ、私も他人のことを言えるほど運動が得意ってわけじゃないんだけど。

 

「……ふぅ。おはよう、真姫ちゃん」

 

 ようやく落ち着いた花陽は顔を上げて言う。そして、それを合図にするかのように凛は私から離れ、花陽の隣に立ってふたりして私と向き合うような格好になった。

 

「うん。おはよう。花陽、凛」

 

 そんなふたりと朝の挨拶を交わし、学校へと歩き出そうとするが凛と花陽は動き出す様子を見せなかった。そんなふたりを不思議に思って、私は二歩三歩進んだところで歩みを止める。

 そして再び彼女らと向き合うと、ふたりは何故か笑顔のままその場に立っていた。

 

「えへへっ」

 

 凛に至っては何かを企んでいるような、そんなニタニタとした笑い方をしている。

 私がそんなふたりをいぶかしんでいると、凛と花陽はお互い目配せを交わし、ふたり同時にそれぞれ自分のスクールバックへと手を伸ばす。そしてそこから何やら小さな包みを取り出して目の前、つまりは私のほうへと向かって突き出した。

 

「真姫ちゃん、お誕生日おめでとー」

「へっ!?」

 

 ふたり声をハモらせながら言う。

 突然のことに私の思考は置いてきぼりを食らっていた。冷静になってみれば、ふたりが私の誕生日を祝ってくれているんだということはすぐに分かる。

 それでも混乱してしまったのは、正直こんなことをして貰えるだなんて思っても見なかったから。

 

「えっと……貰ってもいいの?」

「うん。いいよ真姫ちゃん」

「真姫ちゃんへの誕生日プレゼントなんだから、当然だにゃー」

 

 ふたりの手からそっと、壊れ物でも扱うように丁寧にそれを受け取る。そして、ようやく現状を理解できたことにより、驚きは喜びに変わっていた。

 

「ありがと……うん。本当にありがとう。花陽、凛!」

「ん? もしかして真姫ちゃん、泣いてるのかにゃ~?」

「っ!? そ、そんなわけないでしょ!」

 

 からかう様に私のことを覗き込んでくる凛。彼女には強がってそんな事を言ったけど、正直私自身、感極まってしまっていた。

 しかし、変なプライドみたいな物が邪魔をしてそれを素直に受け入れることは出来なくて。ふたりの手前、恥ずかしさも相まってなんでもないような素振りをしてしまう。そんな自分の性格をちょっぴり恨めしくも思ったりなんかして。

 

 その代わりって分けではないけれど、ふたりから貰った小さな宝物を胸元で強く強く抱きしめていた。

 

 

 

 

「真姫ちゃん、どうかした?」

 

 隣に座っている花陽が少し心配そうに覗き込んでくる。

 

 ……そんなに顔に出てたのかしら。いけない、いけない。

 なるべく表には出さないようにしてきたつもりだけど、知らないうちに心の中の鬱積したものが顔に出てしまっていたのだろう。コレでは彼女たちに申し訳ない。そう思って表情を作り直す。

 

「大丈夫よ、花陽。なんでもないわ」

「そっか、よかった」

 

 私がそう告げると、花陽は安心したようにニッコリと微笑む。そんな彼女に、内心色々な意味で申し訳ないと思っていた。

 

 今は放課後。ファミリーレストランで皆が小さな誕生日会を開いてくれている。パパとママも夕食に祝いの席を設けてくれるということもあって、決して派手でも大掛かりでもないけれど、それでも本当に心から嬉しいと思える催しを彼女たちはしてくれた。

 そんな席だというのに、主賓である私がブスッとした顔をしていては彼女たちに申し訳が立たない。

 

 ただ、事実としてそんな顔になってしまう理由が存在しているわけで。

 

「……ふぅ」

 

 他の人には気づかれないようにして、小さく息を吐く。そして辺りをぐるっと見回してみる。そこには私の親しい友人たちが楽しそうに談笑をしていた。

 恥ずかしながら私は決して友人の多い方ではない。それでもこうして、特に親しい間柄の人達は私の為に集まってくれている。

 ただ一人を除いては。

 

 家で両親に、登校中に凛と花陽に、そして学年が違うというのに穂乃果達までもがわざわざ私たちの教室にまで来て祝ってくれた。

 さらには今こうして再びお祝いの会を開いてくれている。

 嬉しくて仕方がないはずなのに、いや、実際とても嬉しいのだけど。ただ一つ、ピースが足らないというだけで心中のモヤモヤは晴れないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 自分の家へと向かう道を一人、ひたすら無言で歩いている。いやまあ、それが普通ではあるのだけど。一人だというのに、何か喋りながら歩いていたらそれはそれで少しおかしな人だ。

 だけど今の私はそんな状況でも吐き出してしまいたいぐらいに、頭の中も胸の内も色々な物が渦巻いていた。

 

 なまじ情報が少ない分、あらゆる想像と憶測が頭の中で展開されていた。

 何度あの場で『航太はどうしたの?』そう尋ねてしまいたくなったかわからない。

 

 いや、百歩譲ってあの場に居なかったのは許すわ。何かしら外せない用事があったのかもしれないし。

 ただ、許せないというか、納得行かないのは顔を合わせても、おめでとう、の一言も貰えなかったこと。

 そんなこと強要することでもないし、怒るのはお門違いだって分かってはいる。それでも、たった一言口に出してもらいたかったていうのは図々しい事なのだろうか。

 

 忘れられていたなんて想像もしてみたけれど、何故かそれは違うという核心があった。

 ああ見えて意外と細かいというか、そういう記念日みたいなことを外したことはない。現に今ままで、毎年欠かさずに何かしらお祝いの言葉をくれていた。幼馴染ということもあって、その回数はもうすぐ両手の指では足らない位になっている。

 

 ……だったらどうして今年に限って。

 そこまで考えを巡らせたところで、最悪の仮定が頭を過ぎる。

 

「……嫌われた、とか」

 

 口に出してしまったことをすぐに後悔をして、ブンブンと頭を振る。それは在り得ない、いや、決して在って欲しくはないこと。

 だけど同時に、それを否定しきる要素も一つもなかった。

 

 それどころか考えてみると、次々に思い当たる節が浮かんでくる。

 

 航太は毎年、手段や方法はどうであれ、欠かすことなく私の誕生日を祝ってくれた。いや、誕生日だけでなく、卒業や進学など、おめでたいことがあった日には必ず何かしらの祝福をくれた。

 そんな彼に対して素直に、率直にお礼を言えていただろうか。

 答えは否。例のごとく恥ずかしさのようなものが先に立ってしまって、素っ気ない態度を取ってしまうこともしばしばあった。

 

 そんな私に対して彼が愛想を尽かしてしまったとしても、何もおかしなことではない。

 考えれば考えるほどに、思考はネガティブな方に加速していった。

 

「……はぁ」

 

 大きくため息をつきながら、ポケットから携帯電話を取り出す。すがるような思いでディスプレイを見つめても、そこには新着メール無しの一文。

 最後の望みにも裏切られてて、私はがっくりと肩を落とした。

 

「……バカ」

 

 彼に対してなのか、それとも私自身に対してなのか。そんな自分でもわからない恨み言を呟いてから顔を上げると、そこは既に私の家の目の前だった。

 

 

 

 

「改めて。お誕生日おめでとう、真姫」

「ありがとう。パパ、ママ」

 

 リビングの食卓の上にいつも以上に豪勢な食事が並ぶ。品数ももちろんそうだし、その内容も一々手の込んでいそうな物ばかりだった。

 その中でも私が目を引かれたのが、ほぼ丸ごとのトマトの上にチーズが乗せれられて焼かれたもの。中身はよく見えないが、なにやら具材が詰められていた。

 私の座っている場所のすぐ目の前に置かれていた事と、他のものが手が掛かっていそうな料理の中、逆にシンプルなものだったのが目を奪われたその理由。

 きっと私がトマトが好きだということを考慮してのことだろう。

 そしてその隣には手書きのバースデーカードが添えられていた。

 

 こんなにもよくして貰えて、本当に、本当に幸せなはずなのに、どうしても気持ちが沈んでしまうのは彼のことを引き摺っているからだろうか。

 

 しかし、いつまでも落ち込んでいてはさっきの二の舞だ。何とか振り払うようにして顔を上げてパパとママの方へ目をやると、そこには妙な違和感が存在していた。

 

「? どうかしたの?」

 

 そう問いかけて見てもふたりは何も答えることなく、ニコニコと微笑んだままだった。

 しかしそこにはやはりいつもと違う何かがあった。パパとママの笑顔は純粋なそれではなくて、何か含みがあるようなものだったから。

 

「やっぱり、気が付かないかしら」

 

 いくら考えてみても答えの出ない私に、ヒントを授けるかのようにママはそう言った。

 それでも見当の付かない私は辺りをぐるっと見回してから、最後に目の前にあった料理たちに目を向けた。そして、そこにあった一枚のカード隅に書かれた名前を目にして、驚きのあまり私は目を見開いた。

 

「えっ!? ……えっと、その、え?」

 

 単語にすらならない断片的な言葉を口にしながらママの方を見ると、それでも意図が伝わったらしく、ママはコクリと頷いた。

 

「いつみたいにありふれたお祝いだと、真姫に怒られるからって」

 

 航太がどんな風に言ったのかは分からないけど、ママは可笑しそうにクスクスと笑いながらそう話す。

 

「大それたことは出来ないけど、一品作るぐらいなら、って台所で頑張ってたわよ」

「……そっか」

 

 その話を聞いてもう一度、改めてそれへと目を落とす。他の料理より遥かに簡単で、時間も掛かっていないであろうそれ。しかしそんなことは問題じゃない位に、私にとっては嬉しいものだった。

 そんな料理を前にして、恐らく今の私は相当緩んだ顔をしているのだろう。それを見たママは再び含みのある笑顔を浮かべて、ちょっぴりイジワルそうな口調で言った。

 

「結婚するならお料理の出来る旦那さんの方がいいわよ。ねっ、あなた」

「ああ」

 

 そんなからかいとも、単なるノロケとも取れる会話がほとんど頭に入ってこない程、彼がしてくれたことへの喜びと、そしてなにより安堵感が私の中に広がっていた。

 私の誕生日を忘れてなんかいなかったってこと。そして何より嫌われたわけではなかったということに。

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 お風呂から上がって、髪を乾かして、パジャマに着替えて。寝る支度を万事整えてから、ベッドに身体を放り投げた。

 何というか、今日一日いろんなことがあったような気がする。けれど一つ言えることは、紆余曲折はあったけれど、とても幸せな一日だったということ。

 そんな一日を頭の中で反芻していると、つい先程のことが思い出されて私は身体を起こす。そして、ちゃんとお礼を伝えようと、机においてあった携帯電話を手に取った。

 

 航太のダイヤルを電話帳から呼び出して、通話のボタンを押す手前で私は思い留まった。

 

 彼は大それたことは出来ない、なんて言っていたらしいけど、私にとっては十分すぎるほどで。だけど欲張りかもしれないけれど、どんなにありふれていても、直接おめでとうと言って欲しかったというのもまた私の本音。

 それに、結果としてはよかったかもしれないけれど、しばらく悶々とさせられたのもまた事実。だからその仕返しってわけじゃないけど、今日はあえて何も言わないでおくことする。

 そして、明日会ったら面と向かって言うことにしよう。

 

「……よしっ」

 

 小さな決意と共に、そうすれば一日遅れかもしれないけれど、改めて彼の口からおめでとう、そう言ってもらえるかもしれない。そんな淡い期待を胸に私は再びベッドに身体を横たえた。

 




今回もまた、捻って書こうとして空回りするパティーン

せっかくの誕生日なんだからふつーにイチャコラさせとけばよかったんじゃないですかね
王道こそ正道。それ一番言われてるから

というかそもそも真姫ちゃんの誕生日って事は四月なわけで、時系列どうなってんだって話ですが
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