幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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ハッピーバースデーことりちゃん!!

まぁ、本文には出てこないんですが……


幼馴染は宇宙一

「お先に失礼します」

 

 お辞儀を一つしてから扉を閉める。疲労感から自然とため息がこぼれた。

 生徒会の仕事をしていたら思っていた以上に時間が立っていたらしい。既に他の生徒も疎らになっていた。

 そんな廊下を、窓の外から差し込む夕暮れの光に包まれながら歩いていく。完全な静寂とまでは行かないが、喧騒は遠くに聞こえ、自分の足音が意識せずとも耳に入ってくる程だった。

 

 正直、このまま真直ぐ家に帰って一息つきたい、そんな気分だった。しかし、そうもいかないことぐらい十二分に分かっている。残念なことに、この後にまだ約束が待っているのだ。

 女子生徒からの呼び出し。それだけ聞けば淡い期待なんかを抱きそうなものだが、当然、現実はそう甘くはない訳で。

 

「……ふぅ」

 

 再び大きなため息をついて、目の前にある扉と対峙した。アイドル研究部、窓の隅に小さくそう書かれた扉をノックしてから、中へと入っていく。

 

「遅い!」

 

 出会いがしら、中に居た少女はそう言い放つ。部屋の奥の方、入り口から真正面の位置で、彼女は片肘をつきながら不機嫌そうに座っていた。

 

「すいません、矢澤先輩」

「いったいどれだけ待たせる気よ」

 

 苛立ちを隠そうともせずに、矢澤にこは告げる。ご機嫌斜め、そんな雰囲気がありありの表情をしている。ただその童顔から、怒っていても、ふてくされた子供のようで可愛らしさが先にたってしまっていた。

 童顔だとはいえ、美人系ではないというだけで、客観的に見ても彼女の顔立ちは整っている。ただ、残念ながらいろいろとミニマムサイズだ。身長だとか胸だとか。その辺を差っ引いても、彼女に呼び出されるなんてシチュエーションは、間違いなくドキドキものだろう。あくまで彼女のことをよく知らなかったらの話ではあるが。

 

「だから最初に言ったじゃないですか、生徒会の仕事があるから遅くなるかもしれないって」

「あんた、生徒会と私の約束どっちが大事なわけ?」

 

 当然生徒会ですよ、そんな言葉が喉元まで出かかりながら何とか飲み込む。

 

「それで、何の用なんですか矢澤先輩」

「……その前にその喋り方何とかしなさいよ、気持ち悪い」

 

 相変わらずの辛辣っぷりである。外見はどう見ても下級生なのだが、胸元のリボンは緑色をしており、それは上級生であることの証明になっている。つまりは彼女は俺よりも年上で先輩。そんな彼女に敬語を使って話すことの何がいけないというのだろうか。

 

「あんた、そんな話し方したこと一度も無いじゃない」

「まぁ、そうだけどね」

 

 実際はただの照れ隠しみたいなものなんだけれども。こうして向かい合って、ましてやふたりきりで改まって話すのが久しぶりなので、何だか少し恥ずかしいというか落ち着かない。

 

「……はぁ。まあいいわ。時間も時間だし、帰りながら話しましょ」

 

 そう言って彼女は席を立ち、すたすたと部室を出て行く。俺も黙ってその後に付いて行った。

 

 

 

 

 オレンジに染まった空の下、そんな夕暮れの街頭をふたりで歩いていく。隣に並んで歩くと、より一層彼女の小ささを実感させられた。俺よりも頭一つ分ぐらい背は低く、その姿はとても華奢な印象を受けた。

 

「……だからね、って聞いてんの航太?」

「うん。にこちゃん、昔は俺より身長高かったのにね」

「な、ん、の、話をしてるのよあんたは!」

 

 手の甲をぎゅっと抓られて、鈍い痛みが走る。

 小学生の頃はこう見えて、ニコちゃんは俺よりも背が高かった。それどころか周りと比べても大きな方だった覚えがある。そんな彼女が今やこんな感じなのだから現実とは残酷なものである。

 

「そういうあんたも、昔はもっと可愛げがあったけどね」

「そう?」

「そうよ。よく、にこちゃ~ん、なんて泣きついてきてたくせに。それがこんな風になっちゃうなんてねぇ……」

「そうだっけ? 全然覚えてない」

「はぁ……。都合の良い脳みそしてるわね」

 

 嘘だ。本当はしっかりと覚えている。

 たった一歳違うだけなのに、あの頃はにこちゃんがとても頼もしく見えていた。何かあるとすぐに、にこちゃんの後を追っかけていて、そして彼女もよく面倒を見てくれた。だから未だに俺の中では彼女に頭が上がらない。もちろん、口になんて出したりはしないけれど。

 

「まぁ、そんなことは置いといてさ。結局、何の用事だったの?」

「あんたから振ってきたんでしょうが……」

 

 にこちゃんはやれやれといった感じでため息をつくが、それも背伸びをして大人のまねをしている子供のようで、少し可笑しかった。

 

「まぁ、いいわ。さっさと本題に入るわよ」

「どうぞどうぞ」

「そう。言うなれば、μ'sの今後についてね」

「思ってた以上に大仰なテーマなんだけど……。他の皆もいる時の方がいいんじゃないの?」

「もちろん全員で決めなきゃならないことはそうするわ。でも今回の話はそんな規模の話じゃなくて、練習方針だとか、スケジュールの管理だとかその程度のもんよ」

 

 にこちゃんがμ'sに加入したことで、メンバーは全員で七人。最初の頃と比べると倍以上。

 みんながアイドル活動だけをやっていられればそれが理想だが、当然そうも行かない。各々事情はあるだろうし、都合の付かない日だってあるだろう。必然、その場合は練習メニューだって変わってくる。

 だとすれば誰かしら管理する人間が必要になってくるのは言わずもがなである。

 

「協力するって言った以上、出来ることはやるよ。でも、そういうのって海未辺りに頼んだ方がうまく行くんじゃない? まぁ、そうすると海未に負担かけすぎることになっちゃうからダメなんだろうけど」

 

 現に今までは海未が指揮を執ってきたようなものだし、何よりきっちりしていて計画性のある彼女の方が適任だとは思う。ただ以前から、少しでも彼女の負担を減らしてあげられたらとも思っていたのも確かだった。

 

「自分でも分かってるんじゃない。にこと違ってあの子たちは素人に毛が生えたようなもんなんだから、もっと練習に集中するべきなのよ」

 

 ナチュラルに自分を除外するところが、なんともにこちゃんらしい。

 

「それにあの子は確かにしっかりしてるけど、先走りすぎるきらいがあるもの。もう少し客観的に全体を見れる人間の方がベストね」

「それが俺だと?」

「ええ。にこ程じゃないけど、あの中じゃあんたが適任よ。無個性でつまんない人間だけど周りを見る能力には長けてると思うわ」

「……一言余計じゃない?」

 

 とはいえ、褒められているという事実に変わりは無く、それが妙にこそばゆい。ただそれ以上に、にこちゃんがμ'sのメンバーを認めてくれていたことの方が嬉しかった。自分が適任かどうかというのはさて置き、にこちゃんがμ'sの皆の性格や個性、考え方を理解していなければそういう判断にも至らなかっただろう。

 最初は活動に否定的だったにこちゃんが、今ではその一員として真剣に向かい合っている。その事実が、μ'sのメンバーではない自分にとっても、我が事のように喜ばしいことだった。

 

「……何ニヤニヤしてるのよ? あっ! にこでいやらしいこと考えてるんでしょ!? ダメよ、にこはみんなのアイドルなんだから」

 

 自分の言葉に恥じらいを覚えたのであろう。にこちゃんはおどけた様にそんな事を口にする。ただ、そんないつもの軽口でさえ、今はなんだか微笑ましかった。

 

「何ていうか、 一生懸命だよね、にこちゃんって」

「……あたりまえでしょ。にこはいつだって真剣よ」

「それに、すっごく楽しそうだよね」

「ファンのみんなを楽しませるのがアイドルなんだから。そのためにはまず自分自身が楽しまなきゃ、見てる人を楽しませることなんて出来ないもの」

 

 この二年間、にこちゃんが辛い思いをしてきたことは知っている。この目で見たのは一年だけだけれど、傍から見ても痛々しいと思えてしまう程だった。

 でも今はその時とは違う。とても充実しているであろう事は容易に見て取れた。

 

「さっすが、アイドルの鑑」

「とーぜんでしょ。なんたって、にこは宇宙一のアイドルなんだから」

 

 にこちゃんはそう言って歩く歩調を速めた。そして俺よりも数メートル先に行って振り返る。

 

「だから、航太もしっかり付いて来るのよ。一番近くでこのスーパーアイドルにこちゃんの勇姿を見られるんだから」

「……べったべたな台詞だね」

「うっさい。いいから黙って付いて来なさい」

 

 にこちゃんは再び歩き出す。その背中から、夕日が作る彼女の影が長く長く伸びていた。それも相まって、にこちゃんがいつもよりほんの少し大きく見えた。

 そしてそれは、紛れもなくあの頃に追いかけていたのと同じ背中だった。

 




子供っぽいようで、その実とてもしっかりしていて
おちゃらけているようで、すごくアイドルに真摯で
一番夢を追いかけているけど、一番現実を知っている

そんなギャップがにこちゃんの魅力だと思う今日この頃

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