なお、クオリティは別に上がっていない模様
そんなわけで海未ちゃんのお話です
ふと目が覚めた。枕元にあった携帯電話に手を伸ばし、寝ぼけ眼でそれを見ると、まだ起きるのには早い、そんな時間だった。
今日は休日で特に予定もない。ならば、二度寝しかないだろう、そう決めて再度ベッドに身体を預ける。そうして目蓋を閉じたところで、妙な既視感に襲われて再び目を開いた。
「……これがデジャヴュか」
なんてふざけたこと呟いていると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。すると同時にその違和感も消えて行った。そういえば、前にもこんなことがあったはずだ。あの時は確か、同じように二度寝していたところを穂乃果に起こされたんだったか……。
そんなことを思い出していると、再び二度三度と扉が叩かれた。最初は母親なのかとも思ったが、よくよく考えると、母だったら基本的にノックなんかしない。突然ガチャりと入ってきては、要件を済ませてさっさと出ていく。プライバシーもなにもあったもんじゃない。
それに父も今日は出掛けているはずだ。とすれば必然、身内以外の誰かということになる。そんな考察の最中にも、未だノックの音は鳴り続けていた。
……しょうがない。そう腹をくくり、立ち上がって扉の方へと向かった。
「あっ!?」
「海未?」
「お、お早うございます」
ガチャリという音と共に扉を開けると、そこには海未が立っていた。緊張した面持ちで、いつもよりも身体を小さくしてそこに立っていた。
「珍しいな。まぁいいや、とりあえず入れよ」
「……へ?」
「ん? どうかしたか?」
「い、いえ。何でもありません」
「どっか適当に座っててくれ。今、お茶でも持ってくるから」
部屋の中へと促すと、海未は静々と中へと入ってくる。そして何となく落ち着かない様子で周りをきょろきょろと見回していた。
そんなに頻繁に来ているというわけではないが、別に、この部屋に入るのが初めてというわけでもない。それにこれといって物珍しい物が在る訳でもないはずだ。
それでも海未はやはりそわそわと身の置き場の無い、そんな様子だった。
●
「お待たせ」
「すみません。こんなに早くに押しかけてしまって」
飲み物を持って戻ってくると、いつもは背筋をピンと張って姿勢良く座っている海未が、その背中をほんの少し丸めて、それこそ借りてきた猫のように、おとなしく座っていた。
「いいよ、別に。まぁ良かったら飲んでくれ」
「あ、はい。頂きます」
そう言って海未はゆっくりとグラスに口をつける。そして、自分を落ち着かせるように、一つ大きく息をついた。
「……」
「……」
部屋が沈黙に包まれる。こちらから用件を聞き出そうとも思ったが、ふと思いとどまってそれを止める。
海未がウチに来るということは、そう多くあることではない。幼馴染とはいえ一応は男の家である。恐らく、初心で男女の付き合いに免疫の無い彼女は、意図的か否かは分からないが、この家に来ることを多少避けている節があると思う。
考えてみれば、海未がこうして一人で俺の家に来るなんてことは記憶に無かった。
彼女にとってそれは勇気のいることで、だから今回もそれ相応の何かがあのだろう。そう考えてしまうと、どう切り出していいものか俺には見当が付かなかった。
「……何も聞かないですね?」
「話してくれれば聞くけど」
我ながら情けないと思った。彼女が何か理由があって来たというのは明白で、自分からは切り出しにくいだろうということも分かりきっていたのに。
そんな自分にあきれている俺を尻目に、海未は目を閉じて大きく深呼吸をする。そして再び目をあけると、ゆっくりと口を開いた。
「て、手紙を貰ったんです」
「手紙?」
「……はい」
海未は静かな口調でそう言った。
手紙を貰った。最初は何のことやら分からなかったが、しばらく考えてようやく理解できた。海未はただ手紙としか言わなかったが、それは所謂ラブレターってヤツなのだろう。恐らく海未にとっては、口にするのも憚られるぐらい恥ずかしい単語に違いない。
元々、この手の話に否定的な海未ではあったが、この事に関しては別段驚きなどは無かった。彼女が美人であることは前から分かっていたことだし、ましてやμ'sの活動を始めてから露出する機会も増えた。
だからそれが誰かしらの目に付いて、その人に気に入られてラブレターを貰う、そんなことがあったとしてもなんらおかしなことでは無い。
「……おめでとう」
「茶化さないで下さい!」
全くもってそんなつもりは無かったのだが、何故だか海未に怒られる。普通は友人がそんな手紙を貰ったなんて聞いたら、素直に祝ってやるもんじゃないのだろうか。よっぽど変な相手からでもない限り。
「そんで、その手紙貰ってどうしたってのよ」
「え? あ、あの……分からないのです」
「分からない?」
「……はい」
「何が?」
「何と言いますか、強いて言うなら全部がです。あのようなお手紙を送って下さった人の気持ちも、何もかも」
なるほど、男女の付き合いに疎い彼女なら沸いて当然の疑問だと思う。まぁ、斯く言う自分も恋人なんて出来たことないんだけれど。
ただ、そんな疑問を抱くということは少なからず、前向きな気持ちがあるということの証明ではないだろうか。以前だったら、興味ないだとか、ハレンチだとか言ってバッサリと切り捨てていたはずだ。
そう考えると胸の奥が少しモヤモヤとした。
「だ、だからその……もし予定が無いのでしたら、今日一日、私に付き合っていただけませんか?」
搾り出すように、そして少し震える声で海未は告げた。きっと彼女にとっては相当勇気のいる台詞だったのだろう。
言葉にこそしていないが、男女ふたりで出かけようというのだ。手紙の主の代役とはいえ、それは紛れもなくデートである。海未にとってそれに誘うことが、いかに恥ずかしいことであるかが如実に伝わってきた。
「いいよ。特に予定もないし。何より海未の頼みだしね」
「あ、ありがとうございます」
海未は俺の言葉を聞いて、心底ほっとしたような表情を見せる。
「いいけど、ちゃんと計画は練ってあるのか?」
「へ? ……あっ」
とはいえ、やはり彼女にとってこの道は多難なものらしかった。
●
「はぁ~。面白かったですね。航太もちゃんと見ていましたか? あのシーンなんか特に……」
海未は珍しく興奮した様子で、先程まで見ていた映画のワンシーンを熱く語っている。
結局、あれから暫くしてから家を出て、ちょっと小洒落たレストランなんかで昼食を済ませ、その後に映画を見るという、割とベタなデートコースを巡ってきた。
高校生ならこんなところが精々だと思う。何度も言うように、恋人居ない暦イコール年齢の男の考えるプランだ。これ以上を求められても、出ないものは出ないのだ。
「喜んでもらえたようで何より」
「ええ。おかげで、とても楽しめました」
何分、事前調査をする時間が無かった故に、ほぼ行き当たりばったりで行動することになってしまった。それでも幸いなことに、食事に選んだ店も、たまたま上映していた映画もアタリであった為、悪い印象は与えなかったようだ。
それは今こうして喫茶店の片隅で、珍しく饒舌でニコニコと笑う海未の姿が、それを雄弁に物語っていた。
そんな彼女を見てホッとする一方で、やはりどうしても手紙の相手のことが頭から離れずにいた。
「……それで、どうするかは大体決めたのか?」
「どう、とは?」
「だから、ほらあれだ。付き合うとか付き合わないだとか、そんなあれだよ」
自分で思っている以上に動揺していたのだろう。若干しどろもどろになりながら海に問いかける。そして答えを聞きたいような、逆にそうではないような、そんな気持ちで彼女の返答を待った。
「へ? ……あ、ああ!? ち、違います!」
「違うって、その為に来たんじゃないの?」
海未は一瞬、何を言われているのか分からないというような顔をした後、カーッと顔を真っ赤に染めながら、かぶりを振って俺の言葉を否定した。
「本当に違うんです。そういった手紙ではなくて……ましてや相手は女の子ですし」
「……は? 女の子?」
「え、ええ」
なにやら海未の話によると、俺は盛大な勘違いをしていたらしい。てっきり男から恋文的なものを貰ったのだとばかり思っていたのだが、実際はそうではなく、後輩の女の子がカッコ良い同姓の先輩に憧れてお手紙を出す、そんなノリだったらしい。
いや、その子が本当はどう思っているのかなんてのは分かりはしないのだけれど。
「紛らわしいわ、まったく。だったら男の俺と来てもしょうがないんだろ」
「あっ! そ、それは確かにそうでしたね。すみません」
海未は俺の言葉にしゅんとして身体を縮こまらせる。確かに、勝手に先走った俺が悪いんだけど、あんな話を聞いたら、大抵の人間は同じような勘違いをしてしまうのではないだろうか。
「……あ、あの。怒りましたか?」
海未は身体を小さくしたまま上目ずかいで俺の様子を伺うと、おずおずと口を開いた。
「別に。どっちかって言うと安心した」
「え?」
思わず本音が零れてしまった。
人騒がせな彼女の言動にも、休日を潰されてしまったことにも、特段怒りなんて感じなかった。それどころか事の顛末をはっきりとさせて、どこか安堵している自分が居た。
「まぁ、あれだ。俺もなんだかんだで楽しめたからさ、だから怒ってなんかいないよ」
「……そうですか」
俺の言葉を聞いて、海未もまた安心したかのように静かに微笑んだ。
最近、自分の中で海未ちゃんが熱い
そんなところに絵里のSIDを読んでたら、この話をふと書きたくなった
なんで絵里のSIDで海未の話かというのは、SID買って読んでいただければわかるかと(ステマ
海未ちゃん熱が高まってるところに、ちょうどスクフェスのイベ重なるし
買ってそのまま埃を被ってる残りの8冊も読みたいしで
時間が全然足りない……