西暦2137年現在、DMMO−RPGという言葉がある。それはゲームの世界に実際に入り込んだがごとく遊べる体感型ゲームである。そして数多く開発されたDMMO−RPGの中に、燦然と輝くタイトルがある。
異様なほど広いプレイヤーの自由度や、圧倒的なボリュームの職業やマップを誇り、日本国内で栄華を極めた。
しかし、それも一昔前のことである。
「またどこかでお会いしましょう」
ヘロヘロはそう言い残してログアウトし、広い円卓の間に静寂が訪れる。
「ふざけるな!」
直後、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガは、怒りのまま机に拳を振り下ろした。
「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!何でそんな簡単に棄てられるんだ!」
しかし、湧き上がった怒りはすぐに収まる。
「…いや、違うか。簡単に棄てたんじゃない。現実と空想、そのどちらかを取るかという選択肢を突きつけられただけだよな……」
モモンガはそう自分に言い聞かせる。そしてモモンガは立ち上がり、ギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を持ち、最後の時を玉座で過ごそうと円卓を後にしようとする。その時だった。
『両面宿儺がログインしました』
「………え?」
突如として流れてきたメッセージにモモンガは驚愕する。次の瞬間、円卓の間の扉が開かれる。そして入ってきたのは正しく異形。腕が4本に、目は4つ。そして顔の半分は木の板の様に膨れており、腹に口があり全身に紋様が刻まれている。異形としか言えないそれは、モモンガの前に来ると口を開いた。
「久しぶりだな。モモンガ」
落ち着いた声で異形はモモンガに話しかけた。
「両面…宿儺さん」
モモンガは目の前にいる、両面宿儺と呼んだ異形に震えながら、しかし歓喜も混じった声を出した。
「来て……くれたんですか?」
「今日がサービス終了と聞いてな。時間ギリギリで来れたのだ」
モモンガの問いかけに、両面宿儺は薄く笑った。
最後の時は玉座の間で。
そういったモモンガの願いを聞いて、両面宿儺はモモンガと共に玉座の間へ向かっていた。2人は最後の時を過ごすに相応しい装備をと、モモンガはギルド武器「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を持ち、身に纏う物もそれに相応しいものにしていた。一方宿儺は、上裸の格好で、四本の内二本の手に、呪具「
「宿儺さんは最近の仕事はどうです?」
「酷いの一言だな。残業に休日出勤は当たり前。最近はろくに寝れておらん」
「お疲れ様です……」
モモンガは宿儺に労いの言葉を掛けると同時に、心の中で「そんな大変な中来てくれたなんて!」と感謝と喜びの気持ちでいっぱいだった。
「それにしても、結局この階層まで敵が来ることはありませんでしたね」
モモンガはかつてあった1500人の大侵攻を思い出し呟く。
「まあな。第8階層のあれらが強すぎたのもあったが、大半の敵は俺が相手をして消耗していたからな」
「あのときの宿儺さんは本当に凄かったからですね。大勢の敵を前にして「素晴らしい、鏖殺だ!」って叫んだあと突撃して暴れまわったのを見たときは軽く引きましたよ」
「ケヒッ。あの時は久々に全力が出せる時が来たのでなぁ。随分と興が乗ったのだ」
「初めて会ったときから強そうだとは思ってましたけど、まさかあそこまでとは……」
宿儺とモモンガの出会いは、ウルベルトからの紹介だった。当時ギルドの勢力が拡大中の中、ウルベルトが「ギルドに加えたいやつがいる」と言い連れてきたのが、両面宿儺だった。最初に会ったときは見た目のインパクトに度肝を抜いたのは今でも覚えている。ウルベルトに出会った経緯を聞くと、「PKしようと戦ったら、次第に意気投合した」とのことだった。悪に並々ならぬ拘りを持つウルベルトにとって、宿儺は惹かれる存在だったのかもしれない。そして何より、宿儺は強すぎるのだ。呪術師という魔法詠唱者寄りの職業なのに、近距離でバカスカ殴ってくる。それならと、遠距離から攻撃すると、逆に遠距離攻撃をしてきて、運営にチートだというクレームが殺到したらしい。そして大侵攻の際も、一人で300人弱のプレイヤーを殲滅し、200人のプレイヤーを退けた。そんな強さだから、いつしか付いた二つ名は職業に因んで"呪いの王"。そんな事を思い出していると、前方に複数の人影があった。一人はオーソドックスな執事服を着こなす老人。そしてその執事の後ろに付き従うのは、鎧や武器を装備した6人のメイド。
「ええっと。この執事の名前何でしたっけ?」
モモンガは首を傾げ思い出そうとする。
「セバス・チャン。たっち・みーが作ったNPCだ」
すかさず宿儺が答えた。
「ああ、セバスはたっちさんの作ったNPCでしたね」
モモンガは嘗ての恩人を思い出し、セバスを見つめる。そして、あることを思いついた。
「宿儺さん、最後くらい彼らを玉座の間へ連れて行ってもいいですか?」
「構わんだろう、最後くらい」
モモンガの問に宿儺は軽く了承する。
「ありがとうございます。では、付き従え」
セバスとメイドたちは一度頭を下げ、命令を承諾したことを示す。
「…じゃあ、行きましょうか。玉座へ」
「ああ」
そう言い、2人はセバスたちを引き連れ玉座の間へ向かった。
2人は玉座の間へたどり着いた。
そこは今までとは比較にならないほど豪華で、天井から床まではそれぞれ違った紋様を描いた旗が床まで垂れ下がっている。そして最奥には巨大な水晶や天を衝くような高い玉座があった。
こここそが、ナザリック地下大墳墓の最重要箇所の玉座の間である。そして玉座の横には、ナザリック地下大墳墓階層守護者統括、アルベドが立っていた。圧倒的な美を持つ彼女だが、モモンガの視線は多少の険を持って、アルベドに向けられていた。それに気づいた宿儺が尋ねる。
「何かあったのか?」
「……いや、何でアルベドがワールドアイテムを持ってるのかなと…」
「何?…なる程。確かに持っているな。大方誰かが持たせたのだろう。それで、回収するのか?」
宿儺の言葉に賛同仕掛けたが、直前で思いとどまった。最終日ということもあるし、アルベドに渡した仲間の気持ちを考えたのだ。
「…いえ、最終日ですし。それにアルベドに持たせた仲間の思いを踏み躙りたくないですから」
「そうか。お前らしいな」
2人はそう言葉を交わすと、付いてきたセバスたちに待機するよう命令し、玉座に到達した。
「……そういえば、アルベドを作ったのはタブラさんでしたね」
「ああ。最後くらいだ、どんな設定か見てみるか」
そう言った宿儺の声を聞き、モモンガはコンソールを操作し、アルベドの設定を二人で見てみる。
そして
「「ながっ」」
そう思わずはもってしまうほど、アルベドの設定は長かったのだ。
「ケヒッ。設定魔なあいつらしいな」
「そうですねって…ん?」
モモンガは頭文字読みという感じで一気にスクロールしていた。そしてようやくたどり着いた設定の最後に書かれた文句にモモンガは固まった。
「どうした?急に固まって……ほう、これはこれは」
宿儺はモモンガの目線に目を向け、愉快そうに笑う。
そこに書かれていた文字は…
「『ちなみにビッチである』って、これは流石に…」
「まぁまぁ、ギャップ萌えというやつだろう?いかにもあいつらしいではないか」
「いや、でも守護者統括がこれは流石に…」
「…ふむ、ならばこうするか」
そう言うと、宿儺はビッチのところを消し、『モモンガを愛している』と書き、設定画面を消した。
「あ、愛してるってそんな!それは流石に…」
「良かろう良かろう、最後だしなぁ?」
慌てるモモンガに対し、宿儺は面白がるように笑った。そんな宿儺にため息をついたが、最後だからという理由で、無理やり自分を納得させた。
23:58:48
その後も会話を楽しんでいたが、いつの間にか終わりの時間に近づいていた。そして2人は最後の言葉を交わしていた。
「本当に、来てくれてありがとうございます」
「礼などいらん。それに俺も何年も来なくてすまなかったな」
「いえいえ!最後に来てくれただけでも嬉しいですよ!」
「そうか」
23:59:35
「また、何処かで会いましょうね。そして、今まで本当にありがとうございました」
「ああ」
2人はそう言葉をかわすと、終わりの時をただ待った。
23:59:45,46,47,……
モモンガと宿儺は、共に意識せずとも時間を数えだす。
23:59:55,56,57,
2人は目を閉じ、待った。幻想の終わりを――
0:00:00……1,2,3
「……ん?」
「……何?」
新たな物語が、始まった。
ゆっくり書いてきます。