「女子供は追い回せるが、毛色が変わった相手は無理だとは何と情けない…」
騎士の醜態に宿儺は嘲笑と落胆が混じった声で答え、人差し指と中指を重ねその他の指を握り腕を騎士に向ける。
『解』
宿儺がそう呟いた直後、不可視の斬撃が騎士を襲い縦に真っ二つにした。
「弱い…こんな簡単に死ぬとは…」
万が一に備え宿儺の援護の準備をしていたモモンガは、その脆さに呆気に取られていた。騎士の弱さを知ったことで緊張感が晴れたモモンガは、更に実験をするため特殊技術スキルを開放する。
――中位アンデッド作成
騎士の死体から黒い液体が湧き出る。やがてその液体は全身を覆い、騎士の体が変質していく。身長も2メートルを優に超え、体の半分以上を覆えそうな盾と、巨大な波打つ刀を装備する。そうして生まれた死の騎士に、モモンガは命じる。
「この村を襲っている騎士――」
モモンガは宿儺によって殺された騎士を指差す。
「――を殺せ」
「オオオァァアアア―――!!」
モモンガの命を受け、死の騎士デスナイトは地面が爆発するほどの勢いで駆け出した。
「いなくなっちゃったよ……。盾が守るべき者を置いて行ってどうするよ……」
「まあ良かろう?あれでも威力偵察程度には使える」
「まあ…それで良いですか…」
主を置いて駆け出した死の騎士に呆れの声をだすモモンガに、宿儺は死の騎士の使い方を提言する。宿儺の意見を聞きモモンガは無理やり納得した。その時、転移門ゲートから人影が一つ現れる。姿を表したのは全身の至る所に棘が生えた黒い鎧と、巨大なバルディッシュを装備した者だった。
「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」
兜の中から聞こえたのは、アルベドの声だった。
「いや、実に良いタイミングだ」
「ありがとうございます。それで…そこの下等生物はどうなされますか?」
「……セバスに何を聞いてきたのだ?」
返事のないアルベドにため息を付きつつ、モモンガはアルベドにこの村を助けること、取りあえずの敵は転がっている騎士だということを説明し始める。それを背に、宿儺は2人の少女に話しかける。
「怪我をしているようだな」
宿儺は出来るだけ優しい声で話しかけるが、ついさっき目の前で人を殺した宿儺への恐怖心がそれで弱まるはずもなく、2人は怯えたままだった。
「…怪我を治してやろう」
宿儺はそう言い、背中を切られた少女に手を伸ばす。しかし先程の光景を見ていたため、2人はそうは受け取らず、更に怯え股間が濡れていった。
「……」
この2人の様子を見て、さてどうしようかと考えていると、後ろから怒りに震えた声が聞こえてきた。
「……温情によって下賜された治療を受け取らないとは…。下等生物風情が万死に値する」
アルベドだった。人間風情が宿儺の治療を拒んだのが不敬と感じ取ったのか、バルディッシュを持ち上げ2人の首を刎ねようとする。
「ま、まあ待て。物事には全て順番があるのだ。武器を下げろ」
「…畏まりました。お言葉に従います」
モモンガがアルベドを宥め、バルディッシュは元の位置に戻った。しかしアルベドから出される殺意は、2人の少女の怯えを増大させるには十分で、モモンガはないはずの胃を痛めた。これ以上事態を悪化させないためにも、モモンガは2人に声をかける。
「殺すわけではない。本当に治療をするためだ。早く受けるのだ」
モモンガは優しく、それでも受けないと殺されるぞ、という意志を込めて言い聞かせる。その言葉に目を見開いた姉は、慌てて背中を宿儺に向ける。
「…動くなよ」
宿儺はそう言うと、手を背中に翳した。すると白い光が姉を包み込み、背中の傷がみるみる治っていった。宿儺が「もう良いぞ」と言い手を話すと、驚きの表情を浮かべ、背中を触っていた。
「痛みは無いか?」
「は、はい」
宿儺の問に姉は啞然とした顔で答える。それを聞いていたモモンガが続いて質問した。
「お前達は魔法というものを知っているか?」
「は、はい。村に時々来られる薬師の…私の友人が使えます」
「…そうか、なら話は早いな」
モモンガは魔法を唱えると、姉妹を中心に半径三メートルの微光を放つドームが展開した。そしてその周りには、目には見えないが空気の流れをかすかに変える魔法が付与される。
「生物を通さない魔法と、射撃攻撃を弱める魔法をかけてやった。――それと、念の為にこれをくれてやる」
モモンガは姉妹に魔法の説明をすると、見窄らしい角笛を二つ渡す。
「それは小鬼将軍の角笛と言ってな。吹けば小さいモンスターが出てくるから、いざというときはそいつで身を守るといい」
それだけ言うと、モモンガは宿儺に振り返る。
「やることはやったので、後は村の方に行きましょう」
「いや、村の方にはお前とアルベドで行ってくれ」
「……はい?」
宿儺の思いも寄らない答えにモモンガは間抜けな声をだす。
「なに、森の方にも兵士が残ってるかもしれんしな。それに別動隊が来る可能性も捨てきれん」
「それはそうですけど、何も宿儺さんじゃなくても…」
「案ずるな、裏梅と万も連れて行く」
「…まあ、それなら良いですけど。ですが何が起こるかわかりませんし、何かあったらすぐ連絡してくださいよ?」
「それぐらいはわかっている」
話が纏まったところで、宿儺とモモンガは別々の方向に歩き出した。しかし、数歩も行かない内に声がかかる。
「あ、あの――助けてくれて、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
その声に宿儺とモモンガは立ち止まる。
「……気にするな」
「……別に構わん」
二人は短く答えた。
「あ、あと、図々しいとは思います!で、でも、どうか、どうか!お母さんとお父さんを助けてください!」
「了解した。生きていれば助けよう」
モモンガが軽く約束すると、姉が目を見開き、何度も頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!そ、それとお名前は、何とおっしゃるのですか」
姉はごくりと喉を鳴らし、二人に聞いた。その問いに二人は少しの間があった後、名乗った。
「…我が名を知るが良い。我こそが――アインズ・ウール・ゴウン」
「俺の名は宿儺。両面宿儺だ」
モモンガと宿儺が姉妹を助けてから少したった後、2つの集団が草原で相対していた。
「…何者だ、貴様ら」
そう問い掛けたのは、頬に傷があり多数の騎士と天使を従える宛ら歴戦の古強者と言うべき存在。そしてその男に相対するのは、虫の羽が生えた長髪の女と、男か女かわからない白髪に紅い丸模様が特徴のおかっぱの人物。
そして…
「許可なく話すな、痴れ者が」
異形の姿をした、呪いの王両面宿儺であった。
次回、宿儺によるニグン蹂躙劇