かませ犬のノブレス   作:リーシャン

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かませ犬と出会い

 フリーレン達がその男と初めて出会ったのは王城から旅立つあの日。ヒンメルとアイゼンが王様にタメ口をきいて処刑されかかったのをなんとかして宥めて命からがらに王城から出て行く時のことだった。

 

 

「おや、国王陛下にタメ口をきいて危うく処刑されかかった愚かな勇者ヒンメルとその一行というのはキミ達のことかな?」

 

 

 フリーレン達が王城を守る門を潜ろうとした際、貴族であることを誇示するかのような煌びやかな衣装と豪華な装飾の施された剣を身に纏い、金のチェーン付きのモノクルをかけたキノコ頭の青年から出会い頭にいきなりそう言われた。

 

 人を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、明らかに偉そうな態度を微塵も隠そうとしない青年に対し、フリーレン達は瞬時に目を合わせる。

 

 

(アレ、誰かの知り合い?)

(((知らん知らん)))

 

 

 一瞬の内に行われた仲間内のアイコンタクトによってフリーレン達と青年の間に知己の認識は無いことが分かり、初対面でありながら喧嘩を売るようにして話しかけてきた青年に向けて勇者一行の代表者であるヒンメルが口を開いた。

 

 

「そうだね。危うく処刑されかかったけど何とかこうして無事に旅立てそうだよ」

「ハッ、おめでたい頭をしてるねキミ。勇者だからってマナーや礼儀を軽んじても良いと思っているのかい? あ〜嫌だ嫌だ、これだから学のない平民は嫌なんだ。そんな様では勇者としてはとてもじゃないけどやっていけないだろうね。大衆に恥を晒す前に今すぐ国王陛下に勇者の称号を返上しますって伝えた方がいいと思うよ」

 

 

 ヒンメルのことを鼻で笑いながら平然と嫌味を告げてくる青年に対し、フリーレン達の中でなんだこのめんどくさいヤツという思いが浮かび上がっているのを知らずに、青年は黙ったまま話を聞いていたヒンメルに詰め寄る。

 

 

「分かってなさそうだから教えてあげるよ。何故このボクがこうもキミのような平民にここまで言ってるかというと、ボクが後日キミと同じく国王陛下より勇者の称号を授かる人物だからだ。今日はその段取りについて話に来たのさ」

「何だって……?」

 

 

 青年から告げられた言葉にヒンメルを含めハイター、アイゼン、フリーレンの4人は目を瞬かせた。フリーレン達は国王からヒンメル以外の勇者を用意するだなんて一言も伝えられていなかったのだ。

 

 

「その様子だと国王陛下より聞かされてなかったみたいだね。まぁそれも当然かな、なにせ勇者は人々の希望だ。魔王の手によって荒れたこの世を正し、今も魔族や魔物に苦しめられている人々を助けるために勇者は存在している。言うなれば大衆にとって勇者は救世主なんだ。そんな素晴らしい存在がマナーや礼儀も知らずに野蛮な愚か者であっては人々に要らない不安を与えてしまう。こんな人が勇者で本当に大丈夫なのか、とね。だからキミのような国王陛下に平気でタメ口をきくような愚か者とは違って、ちゃんとした者を勇者として用意するのは当然のことさ」

 

 

 嫌味混じりに長々と青年がそう語ると、思う所があったヒンメルと同じく国王にタメ口をきいて処刑されかけたアイゼンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、逆にハイターとフリーレンは青年の言葉に一理あるとして頷いた。

 

 

「な、なるほどね……それで君が国王に選ばれた人物って訳か」

「そういうことさ。分かったのならとっとと勇者の称号を返上したまえ。キミのような礼儀知らずの平民に務まるほど勇者の名は軽くないのだよ」

「礼儀知らずなのはお前もだろう。初対面の俺たちに対してさっきから失礼じゃないか?」

「ハッ、何を言い出すかと思えば……」

 

 

 先程から正論とはいえヒンメルのことを貶し続けている青年に対し、イラッとしたアイゼンはつい口を挟んだが、その言葉を受けてなお小癪な笑みを浮かべた青年は鼻で笑いつつアイゼンへと目を向ける。

 

 

「いいかいドワーフ君? 王都では貴族に対する非礼は死罪に値するが、貴族から平民に対しての非礼は何の罪にも問われないのだよ。つまり、キミたちのような野蛮で愚かな偽物の勇者とその一行に対して何を言ったところで貴族であるボクは何の罪も負わないんだよ。お分かり?」

「よし、ぶっ飛ばす」

「アイゼン落ち着いて! 王城(ここ)で人を殴るのはさすがにまずいですよ!?」

 

 

 まるで幼児に対して物事を教えるような言い方にキレたアイゼンが殴りかかろうとするのをハイターが必死になって後ろから羽交い締めにして取り押さえるのを愉快そうに眺めた後、青年は視線をヒンメルへと戻した。

 

 

「分かったろう? 挑発されただけで簡単に人を殴ろうとするような野蛮なドワーフを仲間に入れ、それを咎める訳でもなくそのままにしている時点で一行の代表者であるキミは勇者として失格だ。どれだけ戦う力があったとしても中身が伴ってなければ所詮は偽物の勇者でしかないだろう。なればこそ……」

 

 

 青年はそこで一瞬だけ言葉を切ると、両手を腰に当てつつ偉そうにふんぞり返った。

 

 

「大貴族でありながら名門中の名門として有名でもある魔法使いの一族として生まれ、幼少期より勇者となるべく鍛錬を積み上げ、若くして神童と謳われるようになったこのボク、マカセ様こそが魔王を討伐し世界に平和を齎す勇者として最も相応しい人物だ! キミ達平民はとっとと故郷へと帰って大人しくこのボクの活躍が耳に届くのを待っているといい!! はーはっはっはっは!!」

 

 

 最後に高笑いをしながらマカセと名乗った青年は突然の名乗りに呆然とするフリーレン達を置いて王城へと入って行き、その姿が見えなくなったところでフリーレン達はようやく我に返った。

 

 

「何だったんだろう今のは……」

「「「分からん」」」

 

 

 嵐のように突如現れ去っていったマカセという人物に対し、フリーレン達は王様を宥めた時とはまた別の疲れを感じながら王城を後にした。

 

 ……ちなみにその後、旅の途中で初対面の貴族などに出会う度にアイゼンとヒンメルはマカセからの忠告が脳裏を過ぎるのか、なるべく非礼な態度を取らないように気をつけるようになった。

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