あなたにもう一度毛布をかけるため 作:もしも=ロマンの可能性だよねッ!
新世界の海を進むサニー号。今日も平和に航海を続けていた。
「おじさーん。サンジがおやつ作ったから来いって〜」
「分かりました。では一緒に参りましょう」
「うん!」
「ヤマトの前だとホントに変わるわねアナタ」
一緒に図書室で本を読んでいたロビンが俺の変わりようを見てまだ慣れていない様子だった。
「鬼姫様と出会った日からずっとこんな感じだったからこの話し方がしっくりくるんだよね……あれ?ロビンその本……」
「ああこれ?『幸せの黒い鳥』という本でモネも好きなのよ」
ロビンの持つ本を見て思わず口にすると教えてくれる。へえ、モネも好きなら絶対良作じゃん。
でも、気になったのはタイトルじゃなくて……。
「著作、ツムギ・サン……」
つむぎ、かァ。
『私ね、いつか作家になるのが夢なんだぁ〜』
「アルガ?」
「おじさん?」
「っと、ごめん。ちょっと昔を思い出してた」
二人で俺を心配していたからすぐに何ともないことを伝える。しかし、二人も知らない俺の昔が気になったようで聞き返された。
「昔?」
「うん、ロビンや鬼姫様に会うずっと前の話。小さい頃にまだ何が悪い事で良い事なのか、何が常識で非常識なのかも分からなかった俺を引っ張ってくれた人の事を……」
「友達なの?」
気になったのか鬼姫様が目をキラキラさせて友達なのかと質問してくるが、残念ながら少し違う。
向こうはどうだったか知らないが、俺からすればそんな対等な関係じゃなかった。あまりにも一方的に色んなものを貰い過ぎた。
「いえ、俺的には初めての"友達"はロビンだけど……。その人は今の俺の在り方を教えてくれた"恩人"、って所ですかね」
俺に"愛情"や"優しさ"を教えてくれたのは鬼姫様だ。だけど、それ以前に人として普通な事、当たり前で大切なものを教えてくれたのは───アイツだったな。
ガシャン、と何かが割れる音と飛び交う怒号で目を覚ます。またかと目を擦りぼやける視界をクリアにすると部屋中ゴミだらけの部屋。
掃除もロクに行き届いておらずカップ麺や空き缶が散乱していた。振り返りキッチンを見るとそこにはケンカ中の両親の姿。
「アナタまた朝帰りなの!?いつもいつもいい加減にして!!どうせ浮気でしょう!!」
「うっせぇな!キンキン喚くな今酒で頭痛ぇんだからよ!!」
毎日飽きねーな。あの様子じゃ今日のメシの残り物も貰えそうにないだろうし。よし、出かけるか。
二人の喧嘩に巻き込まれる前にそそくさと家を出ると空はさんさんと太陽が照らされその暑さで肌を刺される。
「あっつい……。どっかで涼んでから朝メシ調達しよ」
調達、言葉ではこう言うがその実チョロそうな奴から金をスるか、どっかの店で万引きをする事を示している。
こうでもしないと俺は食うものがないからしょうがない。全ては生きるためだ。
産まれて物心ついた頃には既に両親は俺に関心を持たず、寧ろ邪険に扱われていた。
そんな怪訝な扱いに我慢できるワケもなく幼い頃は泣いてばかりだった。その度に両親はケンカを始め負の連鎖は止まらない。
「だからガキなんて反対だったんだよ!煩くてかなわねぇ!!」
「しょうがないでしょデキちゃったんだから!!アンタのせいでもあるのよ!」
「んだとテメェ!!」
こんな感じのやり取りを幼少期からずっと見てきた。そんな日々を送ってまともな感性など育つはずもなく俺は小学生になった頃には周りが全て敵に思えた。
そんなクソみたいな人生を歩んでいた小学生の夏、俺はある人と出会い運命を大きく変えたのだった。
図書館で汗だくの体を冷やし少し涼んだ後、ちょうどいい相手を探していた。
こう見えて俺の服は特に洗濯もされてないしボロボロだ。髪もボサボサだし俺の成りを見て同情しそうな人、弱気だが身なりがいい人、頭が悪そうな人。そういった奴らをターゲットにし金を巻き上げる。
今はちょうど夏休みだし色んな人がいる。さぁて、誰を狙おうか……。
「誰か!捕まえて引ったくりよ!!」
「うへ?」
え、まだ盗んでないが?と思って振り向くとそこにはヘルメットを被った男が女物のバッグを持ってこっちに走っていた。
少し離れた所で女が倒れておりどうやら無理やり盗られ振り払われた様だ。周りに人はいたが関わりたくないのか顔を逸らすだけで何もしようとはしなかった。
何故ヘルメット男がこっちに走ってくるのかと思ったが、俺のすぐ後ろにバイクがありこれで逃げるつもりらしい。
あはっ、い〜いこと考えたぁ♪
「あ!おまわりさん!」
「何っ!?」
俺が指を差し大声でそう言うとヘルメット男は慌てて振り返る。その隙に……。
「んだよいねぇじゃねーか!驚かせやがって!……ってうわあっ!!?」
警察がいないと安堵するとすぐさまバイクに跨り発進しようとするが何か不具合が起こったのかバイクのチェーンが外れてしまい転倒する。
「大丈夫ですかぁ?」
「うっせーよガキあっち行ってろ!!」
「うわっとと」
「ハァッ!ハァッ!待って!!そのバッグには大切な……!!」
「ヤベッ!追ってきやがった!どけっ!」
もう使い物にならないと踏むとヘルメット男は俺を払い除けこの場を逃走した。倒れていた女も追いかけて俺の横を通過するが再び走り出したヘルメット男に差をつけられ涙目で懇願する。
そんな現場を見ていた俺はバッグを大事そうに抱えて走るヘルメット男の姿を見て心の中で爆笑する。
そんなにバッグが好きならどうぞどうぞご勝手に。俺は
俺の手には転倒した際にぶちまけられた財布が握られていた。
あははははは!!視線をそらした隙にチェーンに石をはめてやったがここまでうまくいくとは!見たかアホヘルメット野郎!あ、見られちゃマズイか。
バッグの中を気付かれずスリをするのは難しいけどコケて慌てた奴からぶちまけられた中身をバレずに取るなんてヨユーなんだよ。
周りの人も目を反らしてたから見ていた奴はいない。公衆の真ん中でどうどうと盗むなんてスリルがあっていいね〜。
危険地帯とは危ないと同時にチャンスが生まれる安全地帯にもなる。これは俺が実体験で学んだ数少ない真理のひとつ。
うん、小学生なのにそれに気づくとは。ひょっとすると俺はすでに立派な大人なんじゃないだろうか?
「さてさてさ〜て、サイフの中身を見ますかね〜♪…………あ?」
うきうきでサイフを開くと中には一円も入っていなかった。あるのは一枚の写真のみ。
「んだよスカかよ。さっきのお姉さん服とかキレイだったからけっこうあると思ったのに」
こういうの何て言うんだっけ?この前学校で習ったな。えーと、骨折ったらくたびれてもうかる……いや、ちがうな。もうかってんじゃん。
「ううっ、私の大切な……」
「………」
すでにヘルメット男には逃げられてしまいその場で半べそかく女。しょうがないので傍まで近寄るとサイフを差し出す。
「え……これって!」
「さっきの奴がコケた拍子に落としたから拾ったの。お姉さんのでしょ?」
金が入ってないんならいらねーし。
そういい女に返すと両手でギュッと大事そうにサイフを抱き締める。一円も入っていないサイフなのに何をそんな大事そうにしているんだか。
「うん!これだけは盗られたくなかったの!君、ありがとうっ」
「っ!」
「ありがとう」。その言葉を聞いた瞬間、胸に変な感覚を覚える。何だかじんわりする。何だこれ?
何でかわからないけど落ち着かないのですぐ俺もこの場所を離れる事にした。
「そ、それじゃもう行くからっ」
「あ、ちょっと」
何か言っていたがこれ以上あの人と話してたらなんか変になりそうだ。
『ありがとうっ』
そういや、お礼を言われるなんていつ振りだろう。覚えてないや……。
気持ちを切り替えて場所を変えるために商店街へとやって来る。結局あれから稼げなかったので今日は直接盗むことにした。
ここの八百屋が狙い目なんだよなぁ~。店主が強面のグラサンだけど、グラサンをかけるのには理由があった。
どうも目が悪いらしく凝らして見ようとするので周りから怖く見えてしまうからそれを隠してるからだとか。
カメラもない、店主の目も悪い。こんなの狙わない手はないっしょ。
よし、店主がお客さんと話し始めた。今だ……!
手慣れた手つきでトマトを懐に───
「待ちなさい」
「っ!?」
突然横から手が伸び俺の腕を掴む。慌てて横を向くとそこにはさっきの半べそ女がいた。長い黒髪をなびかせさっきとは違い真っ直ぐな目で俺を見てくる。
まさか追ってきたのか?いや、今はそれよりも……!
「お礼しようと追っかけて来たけど。まさかこんな事をするなんて……」
「んだよ。放せよ」
「そう、そっちが素なのね」
目を細めた女が俺の持つトマトを取り店主の所に持っていく。そして、小銭を渡し購入すると俺の手を引っ張り何処かへと連れて行かれる。
「おい!いてぇよ放せって!」
「黙って着いて来なさい。じゃないと交番にいくわよ」
「うぐっ!」
急に強気になりやがって。さっきまで泣きべそかいてたクセに。
今日はツイてないなと落胆すると着いた場所は商店街の近くの公園。そこのベンチに座らされるとさっき買ったトマトを渡された。
「は……?」
「はいこれ、それだけじゃお腹たまらないでしょ。さっきおむすびとお茶も買ってたからこれも食べなさい」
次々に渡されるお茶やおにぎりを見て訳がわからなくなる。俺はさっきまで盗みを働こうとしたんだぞ?
てか、おかしくね?
「金持ってなかったじゃん」
「お札はあのサイフに入れるけど小銭は別に入れているの。それもポッケだったから盗まれなかったわけ」
あー、たまに見かけるわ。長財布と小銭入れで分けてる奴。あれ分けてる意味がわからんのよねー。まとめてくれたら盗るの楽なのに。
「と言うより……やっぱアンタもサイフ狙ってたのね」
「あ、やべ」
墓穴掘ってしまったどうしよ。ぱっと見た感じ高校生ぐらいか。でも、女相手なら殴って逃げ切れるかな?
「何か怖いこと考えてない?」
「え、お前エスパーか?」
「君って動揺するとすぐボロ出すね」
しまった!この女頭いいぞ!?
もう殴って逃げるしかないと考えた俺はすぐ身構えたが女がそれに気付いたのか制止しここへ連れてきた理由を教えてきた。
「はいストップ。男の子はやんちゃぐらいがちょうど良いって言うけど君は血の気あり過ぎ。さっきも言ったけど君にはちゃんとお礼をしたくて来たのよ」
「今の俺を見ても?」
「最初は幻滅したけど何か理由があるのでしょ?格好見れば察するわ」
そういい俺のボロボロの服を見る。それで俺がどんな暮らしをしているのか想像し同情の視線を向けてきた。
そして、さっき渡したサイフを取り出し大切そうに撫でる。
「この財布にはね、彼との思い出が入ってたの」
「思い出ぇ?あー、あの写真」
そういや入ってたな。思い返せばあの写真この女と男が一緒に写ってたけどそういう事?んじゃ盗られたらまた新しく撮ればいいじゃん。
何であんな必死だったんだよ。
「写真一枚にあんな必死になってくだらねぇ」
「ちょっと!私にとってはかけがえのない物なの!宝物なんだから!!」
「一緒に写ってたのってカレシさん?」
「うーん、そういう訳じゃないけど。大切な人よ」
ちがうんだ。一緒に写真を撮るのはコイビト同士って思ってたけど、大人ってむずかしい。
それから昼ごはんをとりつつ他愛もない話を続けた。そこで趣味の話となり女は漫画が好きなようで今日は新しく出たコミックを買いに外へ出たのだと言う。
「あーあ、せっかく新刊買おうと思ってたのに引ったくりに遭うなんてついてないわー」
「しんかん?」
「そう!何を隠そう私は大のONEPIECE好きなのよ!!!」
「わんぴーす?服の話?」
「え?ONEPIECEを知らないってマジ?あなたホントに日本人?」
「殴んぞコラ」
ちょーと周りよりも流行と娯楽を知らないだけだし。
少し不貞腐ると女は慌てた様子でなだめはじめる。
「そっかそっかごめんねー。お姉さんが悪かったわよ。それなら今度コミック持ってきてあげるからここで読みましょ」
「マンガ読ませてくれんの?」
「ええ、約束っ」
そういい女はニカッと笑顔を向けて来る。夏の太陽にも負けないぐらい眩しく見えてしまい直視できなかった俺は視線を逸らした。
「あー、もうこんな時間か。それじゃ私そろそろ行くね。次はONEPIECEを持ってくるからまた明日会いましょう」
「え、あ、ああ」
「じゃあね!あ……えーと、君の名前は言うの?」
長い時間話していたがそういえばお互いにまだ名前を教えていないことに気づいた女は俺の名前を聞いてきた。
あまり自分の名前は好きじゃないがごはんもくれた人に何も教えないのは流石に気が引けたので小さめな声で伝える。
「そ、空。檻中 空……」
「そら君か!いい名前だね!私は陽天 紬!つむぎでいいよ!」
そう言って女は去って行く。その後ろ姿を見てから俺は自分の名前に嫌悪感を抱く。
「…………」
俺は自分の名前が嫌いだ。
空とは違う読み方だと「から」とも言い換えれる。「から」とは何もない「からっぽ」って意味もあるからだ。
親があんななのでクラスで浮いていた俺はイジメの標的にされていた。その時によく言われたものだ。
『や~いや~い空っぽ~!』
と、こんな感じで蔑称を着けられていた。まあ、今ではそんな事を言う奴にはぶん殴って黙らせているけど。
だから、俺は自分の名前が嫌いだ。だけど……。
『そら君か!いい名前だね!』
名前を褒められたのなんて初めてかも。
う、おおぉぉおおお!何だこれ!!
「おもしろ」
「でしょでしょ!特に"東の海(イーストブルー)編"はテンポもいいから初心者にはおすすめよ!」
翌日、同じ公園で再び会うと約束通りマンガを持ってきてくれた。さっそく公園内の屋根がある比較的涼しい休憩所で読み始めるとその世界観に呑まれてしまいペラペラとページをめくる。
いつもは長く感じる時間を如何に潰すかを考えていたがマンガを読むと不思議と時間があっという間に過ぎていく。
気付けばもう昼になっておりもうこんな時間なのかと驚いた。
「あら、もうお昼かー。それじゃご飯食べましょう!」
そう言ってカバンから二つの弁当箱を取り出す。
「二つも食べんのかよ」
「何言ってんの。もう一個はそら君の分よ」
「えっ」
俺の分の?弁当?
言ってる意味がわからず思考が少し止まってしまう。弁当を貰えると理解が追いつくと驚いて二度見する。
「えっ!くれんの!いいの!?」
「私ひとりだけ食べるなんてヒドイ事しないわよ。それにあまり食べれてないんでしょ?育ち盛りなんだから食べなさい」
「う、うん」
少し圧を感じ押されるように渡された弁当を開くと色鮮やかなご飯がそこにはあった。肉、野菜、魚、ご飯……どれも手作りなのか凝った物ばかりだ。
「っ!!!」
一口パクっと口に入れると止まらなくなり次々と口に入れる。気付けばガツガツ食べ出しものの数分で平らげてしまった。
「美味しかったみたいでよかった」
「っ……」
これまでスーパーの惣菜とかカップ麺ばかりだったからこんな誰かが作った料理を食べるのが久しぶり過ぎて呆然とすると次第に涙が滲み出る。
「うえっ!?泣くほど」
「うっさい泣いてねーし」
「うわあ、まさに男の子って感じの言い訳ね」
誰が子供だ殴るぞコノヤロウ。
睨みつける俺を無視し食事を再開するつむぎ。仕方なく俺もマンガを再び読み始めるとどこからか視線を感じた。
「あの子じゃない?碌でなし夫婦の子供って」
「ア゙……?」
振り返ると公園を出たすぐの道路から俺を見てヒソヒソ話をする主婦達がいた。
「ねえ聞いた?あの子の夫婦また揉め事起こしたそうよ。怖いわぁ~、そんなんだから子供もロクなもんじゃないのよ。クラスでもよくケンカするって言うし……最近盗難があったけどあの子なんじゃないかって噂よ?」
「聞いた聞いた、商店街で何件か起きたヤツでしょ?きっとお金がないのよ。いつも同じ服で臭いもキツイし本当ウチの子に近づかないでほしいわ」
どっかで見たことあるなと思えば授業参観でクラスに来てた他のママ達か。ああ、ウザってぇなー。
「そら君?どうしたのよ……って何かしらあの人達。こっちを見て。何かやな顔してるわね……」
つむぎも気付いたようで主婦達をじっと見つめる。最初は分からなかったが主婦達の貶すような目を見て不快感を覚える。
せっかくマンガを楽しんでる最中だってのに邪魔しやがって。
そう悪態をつくとそこら辺の石を拾い主婦達を睨みつける。すると短い悲鳴をあげそそくさとどっかへ行ってしまう。
「ひっ!」
「行きましょう。何かしそうよあの子」
「そ、そうね……」
フン、怖がるぐらいなら陰口なんか叩くんじゃねーよババア共が。
どっかに逃げてったババア共に内心で舌打ちした後石を放り捨てる。前にも同じような事があってキレ散らかしていたが日常的になってからは慣れてしまった。
「コラ!怖がらせないの!」
「ふごっ!?」
突然ゲンコツをくらい頭が痛くなる。思わずしゃがみ込み頭を押さえながら見上げてつむぎを睨みつける。
「何だよ!別に傷つけてねーだろ!」
「そういう問題じゃない!悪い事しちゃダメって言ってるの!!そんな事ばっかしてたら友達なくすわよ!」
「いいよいねーから!!」
「なっ!!」
何か言い返そうとしてきたが俺の服を見て黙り込んでしまう。
「そういえば、服昨日と同じね」
「着るものなのかねーよ。洗ったらその日は家で過ごさないといけねぇし」
「…………」
少し考え込むと気持ちを切り替えたのか明るい顔に戻りマンガと弁当を片付ける。もちろん俺が読んでいたマンガも。
「よし、予定変更!今日のONEPIECEはここまでにしよう!」
「は?おい、何だよ急に俺はまだマンガ読みたいぞ!」
「本はまた今度読ませてあげる。今はお姉さんの自己満に付き合いなさい」
「あっ!ちょ、おい!」
そう言われ腕を掴むと引っ張られてしまい強制的に何処かへと連れて行かれる。
またこれかよ!今度はどこに行くのだこの女!
「はーなーせー!」
「まーまーいいからいいから」
「何がだよ!?」
行く行かないの押し問答が続くが結局押し負けてしまい連れてこられた所は服屋だった。
初めて来る空間に少し緊張してしまったがお構い無しに俺を引っ張り色んな服をお人形みたいに着せ替えられる。
「うんうん、いいじゃない」
「なんか変な感じ」
「そんな事ないって。似合ってるわよ」
それで何着か候補が決まったがどれにするのか迷った末つむぎは思い切って全部購入した。
「中古屋とは言え流石にこれだけあると結構かかるわね。はいこれ」
「いやいやいやいや!!急に連れてこられて俺の服を買うって何考えてんだよ!?こんなの渡されても何も返せるもんなんかねぇぞ!?」
こんなに服いっぱい買ってくれるとか意味わからん!何かお返しを求められても何もないぞ!?こっちは今日食うものにも困ってるド貧乏だぞ!?
「気にする必要なんてないわ。私が勝手にしてることだから。それより明日も行きたいところがあるから今朝より早めに駅に集合ね」
こっちの事情なんてお構い無しどんどん自分のしたい事を決めて俺を振り回す。どことなくあのマンガの主人公みたいな奴だな。
そんな自分勝手なつむぎに付き合った結果……。
「何でこうなった」
「着いたわ!遊園地〜!!」
翌日、言われた通り早朝から駅に行くと既につむぎが待っており俺を見るなり電車で移動しあっという間に遊園地に来てしまった。
展開飛び過ぎだろ……。
「おやおや、私が昨日買った服着てくれたんだ。嬉しいわねぇ〜」
「うっさい……」
せっかく貰ったんだから着ないともったいねーだろ。
何を言ってもニヤニヤされそうだから心の中で悪態をつく。そんな俺に気にせず笑顔で引っ張る。
そして、ゲートを通り抜けるとさっきまでのモヤモヤが消し飛んでしまった。
「すげぇ……」
陽気に流れる音楽に見渡す限りアトラクションだらけ。その雰囲気にのまれた俺は圧倒されてしまったからだ。
柵越しからでも中は見えてたハズなのに……何だろ。入った瞬間に世界が変わったみたいだ。
そういや初めてだ。遊園地に来たのなんて。
「さー!今日は一日中楽しむわよ!!」
そういい今まで以上にテンションを上げて色んなアトラクションへ連れて行かれた。子供でも乗れるジェットコースターやメリーゴーランド。
どれも初めてのものばかりで悔しいけどドキドキしっぱなしだった。それからしばらく楽しんでいると館のような建物を見つける。
「ねー!あれ見て3Dシアターもあるらしいわ!歩き回って疲れてきたし観に行きましょう!時間も30分くらいだし丁度いいわ!」
「3D!?」
3Dってあれだよな!最近有名になってきた映像とかが飛び出すヤツ!ええ!みれんの!?映画自体そんな観たことないのに!
何が見れるんだろ?むずしい漢字一文字だけでよくわからん。暗い背景で女の子が二人……家族愛的なのかな?
「読めねぇ……。つむぎこれってどんな話なの?」
「これは「◯」〜紅い蝶〜と言って……まあ、見たら(恐怖で)胸がドキドキしたり、(冷汗で)涼しくなる内容だよ」
「おー、暑いしちょうどいいじゃん。入ろ入ろ」
つむぎの説明を聞いてウキウキしながら中へと入っていき数分後……。
「ギャアアアアアア!!!?」
この日、俺はホラーを知った。
初めての3D映画に興奮していたドキドキが一瞬で恐怖のドキドキへと変わり今後俺の人生において一生忘れられないトラウマとなった。
色々あったが何だかんだ遊園地を楽しんだ俺は家の帰路を歩いていた。明るい時間の長い夏だがすでに空は真っ暗で今が遅い時間なのを教えてくれる。
「くそー、つむぎのヤツ。映画の後で散々バカにしやがって……!」
『わあ、もうこんな時間かぁ。夏は明るい時間が長いからつい遊び倒しちゃうなー。暗くなったらそら君が怖がっちゃう』
『もう怖かねーし!!』
『
『こいつ……!!!』
今思い返しても腹が立って仕方がない。今度会ったら覚えてろよ!でも……。
「遊園地、楽しかったなぁ」
あんなに遊んだの初めてだったからなぁ……。
ぐぅ〜……。
「腹減った。この時間じゃ商店街は閉まってるし……」
チラッと視線を横に向けるとそこにはコンビニ。今の時間帯ならやる気のないバイトの店員だけで人目も少ないし盗むのも容易だろう。今までも何回かお世話になっているので入ろうと近付くが……。
『そういう問題じゃない!悪い事しちゃダメって言ってるの!!そんな事ばっかしてたら友達なくすわよ!』
「えっ?」
昨日のつむぎの言葉を思い出すと体が急に固まったように動かなくなってしまう。
「オイ、動けよ」
食べないと生きていけない。けど金がない。だから盗む。今まで散々やってきた事なのにつむぎの言葉が頭から離れない。
「あー、くそ……」
今更日和ってんじゃねぇよ。たとえ誰に言われようが俺はこうして生きてきたんだろうが。家に帰ったってメシはねぇ。金はある分だけ親が全部使う。
今更誰かにどう言われたって……。
しかし、それでもコンビニに向かおうとすると体が震えて動かなくなる。
あ、もしかして……。
「俺、あいつに嫌われたくないのかな」
一緒に遊んでまるで友達のように楽しんでいつの間にか俺にとってつむぎは───
「だとすれば、最悪だな」
あの日以来、俺はつむぎに会うのをやめた。マンガは読みたいがこれ以上あいつと関わったらいけないから。
ぎゅるるる……。
「腹、へった……」
夏休みも終盤に差し掛かった頃、久しく感じていなかったレベルの空腹を誤魔化すために公園の水道水で胃を誤魔化していると不意に声をかけられた。
「あー!やっと見つけた!!」
「っ!!」
振り返ればつむぎが怒り気味で仁王立ちしていた。ドクン、と胸が高鳴ると慌てて逃げ出そうとする。
しかし、体に力が入らず体勢を崩す。受け身も取れず顔から地面にぶつかると思った直後つむぎが腕を引っ張り転ばずにすんだ。
「っとと、危ない危ない。というか何でそんなに私を避けるのよ。遊園地行ってから会えなくなって心配しちゃったじゃない」
「…………」
せめてもの抵抗で無言を貫くが手を離す様子もなくどうしたものかと頭を悩ませる。すると腹からぐぅぅぅ……と大きな音が鳴りつむぎは事情を察した。
「またお腹空いてるの?全く、しょうがないわね。お昼にとってたおむすびでよければあげるわ」
「っ……!?〜〜っ!あぐっ!」
バッグから取り出したおむすびの香ばしい匂いに鼻が刺激され一瞬我慢しようとしたが、数日何も食べていなかった俺の食欲は理性を上回った。
すぐに掴み包みを剥がすと一心不乱に頬張る。口の中に広がる米の味にポロポロと涙を流した。
「ええっ!?そんなに?もしかして、今朝何も食べてなかった?」
「……てないから」
「え?」
掠れた声で呟くと聞き取れなかったつむぎが聞き返そうと耳を傾ける。俺の口元まで耳を寄せて聞き取れたがその内容に声を荒らげた。
「遊園地で遊んでから食べてないから」
「はあっ!!?」
思わず立ち上がるつむぎを他所に一気に頬張ったおむすびを飲み込むと多少腹が膨れさっきよりはマシになった。
「ちょっ!あれからもう1週間以上は過ぎてるのよ!?」
「水あったから脱水症状はない」
「いやいや!下手すれば死ぬわよ!何考えてるの!?」
「うっさい」
誰のせいだと思ってやがる。
「全部、お前のせいだろ」
「何ですって?」
「お前といると、何かこう……ワクワクするんだよ」
「え、突然どうしたの?褒められてる?」
誰が褒めるか。お前と出会ったせいでこんな事になってるんだぞ。
「いつの間にか嫌われたくないって思っちゃったんだよ!だから会わないようにしてたのにどうしてくれんだ!」
「お姉さんはそれで何で避けられているのかまるで不明なのだけど」
「前に言ってただろ。悪い事したらダメって。それを思い出すせいで盗みができなくなったんだよ」
「良いことじゃない」
コイツは何も分かってない。俺が盗みができなくなるって事がどういうことなのか教えてやる。
「今まで腹減ったら盗んだりして食ってきたのに……つむぎに嫌われたくないって思ったらできなくなったんだよ」
「え、それでそんな状態に……」
つむぎは俺の痩せ細った腕を見ると顔を俯かせ呟くように聞いてきた。
「親は?」
「あ?」
手を強く握り肩を震わすと次の瞬間、今までに聞いたことがない程つむぎの大声が公園内に響き渡った。
「自分の子供がこんな事になってるのに……!!親は一体何をしてるのよ!!!」
つむぎの叫びに俺はいまいちピンとこなかった。
あ?どうしたんだ?何をそんなに怒ってんだ?そもそも……。
「
「は?」
「親にメシを作らせるなんて迷惑かけるだろ?」
「え?ええ?何を言って……」
「あ、そっかさてはつむぎ知らねーな?」
まさかつむぎがこんな常識知らずだったとは。俺より大人なクセにしょうがない。ここは俺が常識と言うのを教えてやろう。
『このクソガキ!!誰の家に居させてやってると思ってる!!!』
『ごはん?甘ったれんじゃないわよ!!いるだけでお金がかかる迷惑な存在が!!!』
『誰の金で学校行けると思ってんだ!?アアッ!』
『遊んでほしい?ママの時間を奪わないで!!』
『テメーを見てるとイライラする!!!』
『洗濯物?自分でしなさい!!』
『アン?なんだその金は?拾っただぁ?だったら俺に寄越せよ気が利かねぇガキだな!!』
『アイツまた仕事辞めたのよ信じられない!!お前もアイツとどんどん顔がにてきたわね憎くてしょうがない!』
『お前なんか産まれてくるべきじゃなかったんだ!』
『アンタなんか産まなきゃよかった!!』
『お前何のために産まれてきたんだよマジで!』
『何もできねぇ迷惑だ!!』
『せめて親の役に立ちなさい迷惑よ!!』
『『迷惑!!!』』
「子供は親に迷惑かけちゃダメなんだよ」
当たり前の事を言ってやるとつむぎは言葉を失いただ俺を見つめ立ち尽くしだけだった。
俺は親が嫌いだ。すぐ怒るし殴るし蹴られるから。でも、親に嫌われたくない。だって、ママが言ってたから。
子供は親がいないと生きていけないと。
親の幸せは子供の幸せと。
俺は両親に尽くすために生きていると。
当然だ。学校に行かせてもらって家で寝泊まりもさせてもらっている。これ以上は求めたらダメだ。怒られちゃう。
だから、俺はどんなに殴られても反発してはいけない。歯向かったらいけない。
俺にできるのは嫌われないよう親の邪魔にならず生きていくこと。ただそれだけ───だったのに。
ある日変な女と出会い俺の何かが狂い始めた。あの女、つむぎと一緒にいる内にアイツへの思いと同時に自分の価値観まで変わっていくのがわかりそれが怖くなって遠ざけた。
「オイ"からっぽ"!今日もこの公園にいるのか?いい加減迷惑なんだよ」
「ア゙ア゙?」
つむぎを避けて数日が経ち俺はひとり公園で時間を潰しているとクラスの連中がやって来た。もうそのあだ名は言えねーように教え込んだはずだが……まだ殴り足りてなかったか。
スッと立ち上がり近づこうとすると力が抜け思わずその場に膝を着く。
「うっ」
「どうやらお腹空いてるって話は本当みたいだな。今なら学校でやられた分お前をやり返せるぜ。やっちまえ!」
号令をかけるとクラスの奴らは俺を囲って公園で拾った棒切れを握り大きく振り上げ叩きつける。
「ウ"ッ!」
「いつもデカイ顔して生意気なんだよ!」
「がっ!」
「そーだ!俺たちをさんざん殴りやがって!」
「うぎ!」
「お前が教室に入ってくるたびに俺たちがどれだけ怖い思いをしたか!」
「ぐあっ!」
動けない俺をいいようにあしらいこぞって殴り続けるクラス連中。何が生意気だ、何が怖い思いだ。
そもそも俺を先に"からっぽ"なんてアダ名をつけてイジメてきたのはテメーらだろうが。しかも集団でけしかけやがって。
「やっぱ親がロクでもないと子供もそうなんだな!ウチのかーちゃんが言ってた!」
「っ!」
「お前ん家カネねーんだろ!がっこーもまともに行かない。友達もいない。マジで何もねーなコイツ!」
「やっぱ"からっぽ"は"からっぽ"だぜ!」
「───っ!!」
「うわあっ!?」
怒りで無理やり体を起こしクラスの奴らは一歩引く。そのまま一人に向かい殴りかかろうとしたが……。
『やっぱ"からっぽ"は"からっぽ"だぜ!』
今の言葉が思ったより刺さりケガ以上に胸が痛んだ。分かってて目を背け続けたが……嫌でも理解してしまう。
やっぱり、俺には……何もない。
「何だコイツ急に立ち上がったと思えば動かねぇ」
「まあいい!来ねーならまたなぐってやるよ!」
俺が動かないのをチャンスと見て再び俺を囲み棒切れを振り上げる。さすがにマズイなと思ったその時……。
「コラー!!!」
『っ!!?』
「弱いものイジメなんてだっさいマネするんじゃないわよ!!!」
「やべっ、高校生だ逃げろ!」
囲っていた奴らを追い払うとこの前みたいにまたつむぎと二人になる。すると、つむぎは俺を見て悲しそうな目で見てきた。
「何で助けんだよ。俺を助けたって良いことねぇぞ。何もねぇんだからよ」
「何もないですって?」
「ああ、俺が周りからなんて呼ばれてるか知ってるか?"からっぽ"だぜ?お似合いだろっ」
俺の人生……ホント中身がねェ……空っぽだ。
今まで散々嫌がってきたアダ名を皮肉に笑う。しかし、つむぎは一切笑わず俺の方を掴み怒鳴ってきた。
「君は空っぽなんかじゃない!!!!」
そういいつむぎは俺に寄り添い腕のケガを見る。
「ねえ、ずっとひとりで寂しくない?」
「は?全然、ヨユーなんだが?」
「そんな訳ないでしょ。ほら、見せてみなさい。ケガしてるじゃない」
「あんな棒でケガするかよ。これは親に殴られたやつだ」
「どっちにしろ放っておけないわよバカ」
そう言って頑なに俺から離れようとしない。
何でだ、少し怯えさせればクラスや町の奴らは近付かなくなる。それなのに……。
「そもそも今日は何しに来たんだよ?」
「決まってるでしょう」
何でお前は、俺に構うんだよ。
「アンタを変えにきたのよ」
堂々とした態度で真っすぐに見るつむぎの目から何故か視線を逸らすことが出来なかった。
何なんだよコイツ。この前は常識を教えて何も言えなくなってたクセに。
「私はアンタの詳しい事情なんて知らない。だから助けるとか救うと無責任な事は言わないわ。でも、変える"きっかけ"を与える事はできる」
「"きっかけ"だぁ?何をする気だよ」
大見得を切るつむぎに皮肉めいた笑みを浮かべ小馬鹿にする。だが、つむぎが答えた内容は想定外のものだった。
「そら君にはこれから───ONEPIECEを叩き込む!!!」
……はあ??
思わず呆けた顔になる。何を言っているんだコイツ?何でここでマンガの話が出てくるんだよ。
「ある人はこう言ったわ。「ONEPIECEとは道徳の教科書である」と」
格言めいた言いわましをした後、つむぎはビシッと指を指し俺に宣言した。
「アナタが如何に狭い世界で生きてきたのかだいたいわかった。だから覚悟しなさい。私が、そら君の知らない世界を見せてあげる!!!」
そう言ってつむぎは俺に手を差し伸べた。
「ほら、行こうよ!」
アホらし、最初はその提案を蹴ろうとしたがまた弁当を作ってくれると言われ渋々承諾した。
その日以降、つむぎはマンガを持って来ては俺に読ませONEPIECEの良さを説いてくる。
確かにあのマンガは面白いけどそれで俺の何が変わるというんだ。意味が分からん。……と、最初はそう思っていたが、次第にそれは起きていた。
自由、心の強さ、仲間、友達、夢……どれも俺の知らなかったもの。それをONEPIECEを通じて学んでいった。
どんな困難にも立ち向かえる強い船長。
野望のためにどれだけ険しい道程だろうと諦めず鍛え続ける剣士。
大切な人を失っても幸せになるために前を向ける航海士。
己が強くなくても仲間のためなら誰よりも勇敢に闘う狙撃手。
辛い過去でも愛情を受け誰よりも優しく育った料理人。
偉大な医者から人間の感情を与えてもらい誰よりも笑顔が似合う船医。
ずっと一人で生きてきた人生から救い出してもらい今までできなかったことをこれから楽しむ考古学者。
決して曲げずドンと胸を張れるようなまっすぐな生き方を続けられる芯の強い船大工。
仲間との約束を守るために50年も孤独と闘ってきた骨のある音楽家。
皆がみんな、何も知らなかった俺に人として当たり前だけどそんな大切なものを教えてくれた。そして、それらを知る度に自分の中の何かがみるみる変わっていくのがわかった。
そして、いつの間にか俺の態度は軟化しておりあれだけ遠ざけようとしていたつむぎとは普通に話すようになっていた。
「ねえねえ、もしONEPIECEの世界に行けて悪魔の実を食べるとしたらどんな能力がいい?」
「えー、やっぱゴムゴムの実かなー」
「子供ね〜」
「ア゙ア゙?じゃあつむぎは何だよ」
「そうねー、私は死んでも生まれ変わる能力がいいかしら。最近ハマってるのよね〜。異世界転生物」
「あ、ズリー!自分で考えるとかありかよ!?てか、それだとONEPIECEの世界じゃない所に行くんじゃね?」
「あ、ホントね。それじゃ別の子供に生まれ変わる能力にしましょう!これも転生物だしね」
とまあ、少し前と比べるとありえない程に溶け込んでいた。マンガだけでここまで仲良くなれるなんて思わなかった。
「私ね、いつか作家になるのが夢なんだぁ〜」
「ONEPIECEみたいなマンガ描くの?」
「お生憎、私には画力はないから小説かしらね。そら君は何かないの?やりたい事とか」
「やりたい事……」
やりたい事、夢か……。少し前まで今日を生きるだけで精一杯で先の事なんて考えるヒマもなかったけど今は……。
「マッサージ、とか」
「え、意外ね」
「前に親に頼まれてやった時、褒めてくれたんだ。嬉しかったなぁ……」
俺の記憶にある数少ない親との良い思い出。まあ、その後力加減ミスって怒られたけど。
「そっか、やっぱりそら君は優しいね」
「何だよ急に、頭ナデんな」
「フフ、いつか叶うといいわね」
「うん……」
気恥かしかったが、ナデるつむぎの笑顔を見ると何故か心が満たされていく感じがし悪い気はしなかった。
そうこうしていると日も落ち始め夕暮れ時になる。
「ありゃ、もうこんな時間。今日で夏休みも終わりかー。まあ、また次の休みに持ってくるから一緒に続きを読みましょ!」
「うん!」
すっかり仲良くなった俺は親にも見せないような笑みでつむぎと約束を交わす。
またマンガを読むのが、つむぎと会うのが、自分の知らない事を知るのが楽しくなった俺は早く次の休日が来ないかワクワクしていた。
しかし、そんな日は訪れることはなかった。
───夏休み最終日の夜、交通事故によりつむぎと顔を合わせるのはこれが最後となった。
つむぎが死んだ。それを知ったのは数日後の事故が起きた現場で花を添える人と会った時だった。
最初は誰かが死んだのかと思った程度でそのまま素通りしようとしたが、その花を添える人に見覚えがあり思わず声をかけてしまった。
「確かつむぎの持ってた写真の人?」
「えっ、君は……?」
つむぎという言葉に反応した男はこっちに顔を向ける。
写真では病院をバックに二人で笑い立ち並んでいる感じだったが、この男は写真よりも元気には見えない。
病院の服を着てて会って歩けないのか車椅子に乗っている。髪も切っていないのかかなり伸びててやつれた様子だ。
「ひょっとして、君がそら君かい?」
「何で知ってんの?」
「アハハ、いつも見舞いの時に君の名前を聞くからね」
弱々しい笑いに少し訝しむ。知らない人に俺の事べらべら喋りやがって……。
「アイツが俺の事を……変な事言ってないだろうな。つむぎはどこにいるの?またマンガ読みたい」
「っ……!!」
「紬には、もう会えない……」
「え、何で」
「死んじゃったんだ」
男の言葉に俺の思考が止まる。
…………は?え?死ん……つむぎが?
「先月末にここで事故に遭って紬は死んでしまった……だからもう、会えないんだ」
「ウソだ!!!」
男の言葉が理解できず思わず声を荒らげてる。
つむぎと約束したんだ。また一緒に読もうって。しかし、男の目がウソではないことを理解し頭の中がグチャグチャになる。
「う、あ、ああ……うわああああああああ!!!」
これまで、大事な人がいなかった俺にとってつむぎの死は受け止められるものじゃなかった。とても小学生に耐えられるものじゃなかった。
そこに号泣する俺の体に温もりを感じる。気付けば男が俺を抱き締めていたのだ。
「え……」
「ありがとう。僕以外にも紬をこんなに想ってくれる人がいて僕は嬉しいよ……」
そういい長い前髪から覗く男の目からは涙も見えたが同時に嬉しそうな目をしていた。
「実は彼女、小さい頃からネグレクト……親から無視されていたんだ」
「つむぎが?」
知らなかったつむぎの過去を聞き内心驚いた。そして、ここからはつむぎの過去を教えてくれた。
ねぐれくと?を受けていたある日、栄養が不足して病院に運ばれたんだけど、その時にこの男と出会って意気投合する。
男は産まれた頃から体が弱くてロクに学校にも行けず病院で独りぼっちだったからつむぎといる時間はすごく心地の良いものだった。
それから10年近くこの関係が続き最近さらに彼女が笑うようになった。その理由が、俺だった。
「君を見ていると昔の自分を思い出すようで放っておくことができなかったみたい。それで紬は僕が彼女にしたように君に手を差し伸べたんだ」
そんな事が、知らなかった。
まさかつむぎも俺と同じだったなんて……。
「日に日に笑顔が増えていく君を見て彼女のすごく喜んでいたよ。だから、もうそんな顔をしないでくれ。君が笑っていくれれば、紬はきっとあっちで安心してくれる」
「…………」
この男の言いたいことは分かった。でも、それじゃ俺は納得できない。
俯く彼に俺もハッキリともの申した。
「俺だけじゃダメだろ」
「え……」
「俺だけ笑ったってアイツが喜ぶわけないだろ。つむぎを助けたのはお前なんだろ?だったらお前も悲しむばっかになるな。もっと元気に笑えよ」
まさかこんなガキに言われるとは思わなかったのか男は目を見開いた。そして、少し肩を震わせると頑張って作り笑いを見せてくれた。
「アハハハ……。そう、だね……うん。ありがとう。こうかな?アッハッハッハッ……まだ僕には難しいかも。これからは笑う練習もしなくちゃね」
そういい男の顔からはさっきまでの悲しい感情を薄れて見えた。
「これからはお互い強く生きよう。紬の分まで」
「うん」
お互い交わしたこの言葉を最後に俺達は二度と会うことはなかった。それでも強く生きる、その気持ちは同じだったと思う。
それからの俺は見違えたように変わっていく。まず勉強を真面目に受けるようになり将来マッサージ師になる為に頑張った。
それから10年以上が経ちお店で働けるようになったが、家庭環境だけは変わらなかった。この年月で俺は「毒親」という言葉を知ったが親の洗脳に近い教育が今もなお俺を縛り付けていた。
変わらず暴言暴力の毎日。給料も出ればすぐ全額取られ親の酒や娯楽に消えてしまう。何度も挫けそうになるがつむぎの……いや、つむぎ
しかし、親の暴走は止まる様子がなくいつか俺の全てを絞り尽くされるんじゃないかと絶望するそんなある日───俺は出会った。
ONEPIECEのホールケーキアイランド編で親と決別したサンジを見て胸が高鳴り、その次のワノ国編で奪われた自由を取り戻すために自ら親と戦ったあのキャラを見て……勇気と覚悟ができた。
「俺は、自由になる」
口から出した言葉を胸に刻み俺はようやくひとりで生きていく決意を固めた。親に黙って家を飛び出し住込みで働ける場所を探し一から人生をスタートさせた。
やりたかった事をやれる楽しさ。自由の尊さを噛み締め充実した日を送っていたある日、夜中のコンビニでジャンプを立ち読みしていた。
「やっぱONEPIECE最高だわぁ〜。1099話マジでいい。くまの笑顔がようやく増えてきたし次回も期待だな」
「ようやく見つけた」
「ん?」
何やら聞き覚えのある声が聞こえ振り返るが誰もいない。気のせいかと思い手に持つジャンプをレジに通し購入するとコンビニから出た。
「明日も仕事だし残りは帰って読むか」
そうイキイキして歩いていると───
───プゥゥゥゥ!!!
「えっ───」
気付いた頃にはもう遅く、後ろから何か思い物が勢いよく衝突した感覚に襲われる。宙を舞い後ろに視線が向くと軽トラが俺に突っ込んでいたのが分かった。
そして、トラックのフロントガラスからは醜悪に嘲笑う両親の顔が見えたのを最期に───俺は死亡した。
あれからどれだけの時間が経過しただろう。ずっと眠っている様な意識がハッキリとしない感覚。しかしどこか心地良い。このままずっと……と思っていると一冊の雑誌が現れ手を伸ばすと───
「あの……。えと、おじさん……誰?」
また今度そら君にONEPIECEを読ませようとウキウキしていたある日の夜、私は交通事故に遭い死んでしまった。
それから死後の世界?と言えばいいのだろうか?何もないただ眠気を誘う空間に私は長い間いた気がする。
そこへ死ぬ直前まで手に持っていた今週号のジャンプが現れそれに触れると気付けばONEPIECEの世界にいた。
最初は興奮した。私の大好きだった作品の世界に行けるなんてと。しかし、すぐ気付いた。ここには私の好きだった人達がいない。
もうあの二人には会えない。そう思うと悲しくなり転生した最初はひたすら悲しんだ。
それから月日は流れ大きく成長した私はこの世界で生きていく決意を固めて前に進んだ。
せっかくなので前世から夢だった作家を始めた。著作名をどうしようか悩んだが結局前の名前を使用した。後は今の自分の名前がラテン語で太陽という意味を持っていたのでそれも組み合わせ著作名は『ツムギ=サン』と命名した。
最初はかなり良好でかなり売れた。ファンも増えいくつも本を出版しそれなりに幸せな日々を送っていた。
人攫いに遭い天竜人の奴隷になるまでは。
ここでどんな仕打ちを合うのか想像できた私は深い絶望に落ちた。イヤだ助けて誰かと何度も懇願したが、思いは届かずマリージョアまで連れて行かれた新しく考案された『養人場』のメンバーに組み込まれてしまう。
『養人場』、それは養豚場のように奴隷と奴隷で子供を作り自分達で新たな奴隷を生産する場所だと聞き吐き気を覚えた。
こんな人権無視な諸行あってたまるかと怒りを覚えるがどうすることも出来ず無力に従う。ただ、不幸中の幸いで私のパートナーはとてもいい人で私の心を和らいでくれた。
「笑えないならおれが笑わせよう!笑顔のキミはきっと太陽のように美しいから!」
こんな絶望しかない場所でそんな明るい笑顔を見せられたらトキメクに決まってる。それにどことなく前世で私に手を差し伸べてくれた
それから何だかんだで奴隷として辛い日々を送っていたが彼と一緒にいる時間はそれ以上に私を幸せにしてくれた。
そして、私達の間に子供が産まれ───彼、アルガの物語は幕を開けたのだった。
ここから数年後、夫は亡くなり私も大怪我を負い命を落とす事となるが、最期に息子の顔を見て私は安心してあの世へ逝った。
息子の顔を見れなくなるのは寂しいがあの世であの人も持ってると思うと存外悪い気はしなかった。でも、三途の川の様な所に来ると一冊の雑誌が現れる。それは私がこの世界に来たときと同じあのジャンプだった。
ジャンプが開くといくつもの炎が現れ中からいろんな作品の光景が流れる。選べと言わんばかりに迫って来たが私は迷う事なく───ジャンプを掴み三途の川へと投げ捨てた。
「悪いけど、異世界転生はもうコリゴリなのよ。そもそも人生に次なんてないの。これ以上、私の人生に口を出さないで。それに……」
『俺は必ずここから抜け出して海へ……自由な海へ出るから……母さんと父さんは笑って見守っていてほしい』
「息子との約束を邪魔しないで」
こうして、私は転生の道を閉ざしここで出来た大切な時間を選んだのだった。
「ねえアナタ。ふと思ったのだけど、アナタっていつも豪快に笑うけど昔からそうだったの?」
「そうだな!おれは昔から……ん?でも……」
「どうかした?」
「いや何、気のせいかもしれんが……昔誰からか『もっと元気に笑えよ』と言われた気がしてな。……
「えっ?リベル……アナタ今……」
「ん?どうかしたか?」
「……いいえ、何でもないわ」
…………まさか、ね。
檻中 空(後、アウローラ・D・アルガ)
幼少期から手酷い仕打ちを受けてきた主人公。親の素行も周囲に知られており金もなく友達もいない。成績も悪い事から周りからは一時期蔑称 で「からっぽ」と呼ばれていた。
紬と出会った事で人生を大きく変え最後は一人立ちできたが黙って出ていった事が気に入らなかった両親は探し出し、幸せそうな息子を見て殺意が芽生え犯行に及んだ。
その後、二人は悲惨な最期を迎える。
陽天 紬(後、ソール)
今でこそ笑顔が明るい彼女だが幼い頃ネグレクトに合い寂しい日々を過ごしていたが病院で出会った人ときっかけに笑顔が増えてきた。
無類のONEPIECEファンだが、原作を壊したくないという思いからあまり積極的にネームドキャラには関わらないようにしていた。
ロビンやモネがよく読んでいた本の作者でもある。
???(後、アウローラ・D・リベル)
幼少期から病弱で入院生活を送っていたある日、紬と出会いお互いにかけがえのない存在となっていくがどちらにも恋愛感情はなし。
空や紬と違い完全ランダムの輪廻転生でほぼ無限分の一の確率を引き当て二人と再会できたこの男は間違いなく作中一の豪運の持ち主。
おそらく運でこの男に勝てるものはいない。
なお、名前がないのは出番も少ないし作者がいいキャラネームを思いつかなかったから。
《悪魔の実とは》
悪魔の実とは、誰かが望んだ「人の進化」の"可能性"である。
能力者とは、誰かが思い描いたいくつもの
《ツギツギの実 覚醒》
”降霊 呼憑き,,
覚醒すると、
この実もまた、どこかにいる異次元の者が望んだ能力である。