あなたにもう一度毛布をかけるため《物語修整完了》   作:もしも=ロマンの可能性だよねッ!

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ゴールデンウィークに投稿したかった……


8話 小さな足掻き★

 おれは恵まれているとつくづく思う。

 

 共に苦楽を共有できる友人、共に人生を歩んでくれる妻や娘達。おれ一人ではどうしようもない時は誰かが手を差し伸べてくれる。

 

 そして、中にはおれの事情を全て知りその上で逃れられない運命から救おうとする者もいた。

 

『確かにもうじきくまさんの自我は失くなるんだろうけどさ、そのまま家族と別れさせやしない!いつか絶対に何とかしてみせる!!!』

 

「アルガ、見ない内に大きくなってたなァ。それにしても、困った奴だ」

 

 先程、スリラーバークで久しく再会した友人からそう言われたおれは満足していた筈の現状に更に欲が出てしまった。

 

 家族を救う為に自身を犠牲にしたというのに……頭に過ってしまった。おれを含めた家族全員で幸せに暮らす起き得ない未来を。

 

 彼は罪作りな奴だ。ジニーも言っていた。最初は人生を諦めていておれと会う気はなかったが彼の説得に絆されてしまったと。

 

 きっと彼はこれまでも色んな人達に似たような事を言っていたのかもしれないな。でも、彼の言葉はいつも全力で想いを乗せてくる。だから衝き動かされるんだ。

 

 こんな人と友達とは……全く、本当に恵まれている。

 

『今の俺のレベルではこの先の海には通用しないだろう。そう遠くない未来で俺は……いや俺達は"新世界"の壁にぶつかる。だが、数年後の俺達は今とは比べ物にならないぐらい強くなってみせる。くまさんを救うのは……その時だ』

 

 彼の言葉を再び思い出すとつい頬が緩みニヤけてしまう。

 

「ふふ、()()()のおれはもうおれじゃなくなっている。だから、君の勇姿を見ることができないのが残念だ……あっ」

 

 この時、おれは今の言動の意味を遅れて理解する。まるで彼の言葉は必ず実現すると確信しているみたいな……。

 

「おれを救う、か……。本当にそうなるのなら、その時の君は危ない状況に陥っている気がする。友達の為なら無茶だってする奴だ。だから、もし君が危ない目に遭っているのなら───」

 

 

 

 

 

 アルガが倒される少し前、あたいはお母さんを抱き締め戦況を見渡していた。サターンが現れたことで海兵の数は減ったが好転したとは言いづらい。

 

 何せ敵は不死身の怪物だ。何やっても死なない不死の生物なんて聞いたこともない。反則だろあんなの。

 

 幸い、メシをたらふく食ったルフィが起き上がり戦力は上がった。一緒に落ちてきた黄猿はまだ動ける様子じゃない。

 

 これなら何とか……そう思っていた矢先サターンは巨大な魔法陣を作り出すとそこから4体の怪物が現れたのだ。

 

 これには全員度肝が抜かれた。

 

「何だァァ!?怪物が5匹にィ〜ッ!!?」

「あの異形な姿……。あれが五老星だと言うのかっ!?」

「……っ!」

 

 ルフィは目ん玉が飛び出るほど驚いているとベガパンクが言葉を漏らし表情が変わる。あたいも同じだった。あれが、五老星……人間じゃねェのかよ。

 

「こりゃ助けに入るか!」

「待てサンジ!!」

 

 あんな怪物を5体も相手取り始めたアルガを見てサンジが助けに行こうとする。しかし、それをルフィが止めた。

 

「この戦い、まだ手ェ出すな」

「ハアッ!?何言ってやがる!!流石にあれはマズイだろ!?」

 

 サンジの言う通りだ。あんなの相手にたった一人でだなんて無茶だ。だが、ルフィの意思も固かった。

 

「リンゴのおっさんが言った通りなら、まだおれ達が入っちゃいけねェ。さっき、通信でアルガが言ってただろ。これはアルガの戦いだ!」

「いや、でもよォ……」

 

 ルフィのその言葉は仲間の意を汲んだからこそでたもの。それがわかりサンジも強く言えなくなる。

 

 それを見てあたいは素直にすごいと思った。こんな状況だって言うのにあくまで仲間を信じ見守る選択を取る。これが一船の船長の器……思いつきで海賊っぽい行動を取ろうとするあたいとはまるで違った。

 

「大丈夫、マジで危ねえ時はおれが助ける。それよりも今は……」

「動けねェ内がお前さんらの最大の好機だったのに……。詰めが甘いねェ"麦わらの一味"」

 

 ルフィが警戒心を上げると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。全員が声の方へ向くとそこには黄猿が立ち上がってあたい達を見ていた。

 

「ゲッ!?黄猿、もう動けるのか!!」

「わっしにトドメを刺さなかったこと後悔するよォー」

「お願い……もうやめて!!黄猿さん!!」

「っ!……バニー」

 

 一触即発の状況、いつ誰かが動き出しても不思議じゃない状態で真っ先に動いたのはまさかの妹だった。

 

 実は妹は黄猿と仲が良かった。妹は同い年の友達がいない。だから研究所にいた頃はどこか寂しげな感じだったが、そこへ現れたのが黄猿だった。

 

「私知ってるんだから!黄猿さんはほんとはこんな事したくないんだって!だって黄猿さんは優しいもん!!研究所で寂しい思いをしてた私に笑顔で話相手になってくれたじゃん!」

「………」

「黄猿さ───」

 

───ピュン

 

「えっ……」

「もう、口を閉じなァ。次は、当てるよ……」

 

 黄猿の指先から煙が上がる。

 

 必死で語りかける妹の頬から僅か横に光線が通過したのだ。それに遅れて反応した妹は信じられないといった様子で顔を硬直させた。

 

「優しくしたのはそれが任務だったから。わっしは軍人、それも大将だ。そんな立場の人間がオメェ……公私混同する訳にゃあいかんでしょうが」

 

 ズレたサングラスをかけ直すと手で顔を隠し重々しい声で妹に宣告する。

 

「今回の任務は"融合炉(パワープラント)"と「(ヨーク)」の身柄安全の確保、そして───Dr.ベガパンク(親友)の抹殺。だから、そこを退いておくれ。そうすりゃあお前さん達一家は見逃すからよォ〜」

 

 この状況下であたい達家族の生存を約束してくれる選択を提示してくれた。しかし、その提案を受け入れるほどあたいの妹は聞き分けがよくなかった。

 

「イヤだ!!!」

「っ!!」

「ベガおじさんを黄猿さんには殺させない!皆で生きてこの島を出ます!!」

「そいつァ……無理だねェ───残念だ」

「……っ!」

 

 覆っていた手を退かすとそこには複雑そうに見る黄猿の顔が写っていた。そして、光の剣を作り姿を消した瞬間───

 

「よく言った……バニー!!」

「ッ!麦わらァ……!」

 

 気付けば黄猿の剣がバニーの首筋に迫っていたのを寸での所でルフィが掴んで止めていた。ジュゥゥゥ!と手から肉の焼ける音が聞こえるが決して手を離さない。

 

「ししし!つー訳だ黄猿。おれ達はここを出ていく。邪魔するってんなら……ッ!!!」

 

───ドンドットット♪ドンドットット♪

 

 ルフィの体からドラムの音が聞こえるとみるみる体が白く変化する。黄猿は顔色が変わり光の剣を消すとすぐに遠くへと距離を取った。

 

「全力で、お前をぶっ飛ばす!!!」

「これは、厄介だねェ〜……」

 

 全身が白く染まりその顔にはにひっと笑みが見える。それを見てあたいの目には涙が溜まっていた。

 

 あたいはアレが何なのかを知っている。お父さんから散々聞かされたある戦士の話。

 

『いいかボニー、バニー。その戦士はこんなリズムに乗って笑いながら現れる。どんどっとっと♪どんどっとっと♪』

 

 そして、記憶の映像でアルガが言っていた……。

 

『くまさん、今から言うことをよく憶えておくんだ。その実のホントの名こそバッカニア族に伝えられてきた解放の戦士の名──』

 

「あれが……ニカ!」

 

 あたいが探し求めていた伝説の……!

 

「あの姿、正しくあの"解放の戦士"。奴もまたここで必ず消さねばなれぬ存在」

「っ!!?」

 

 突如空から老人の声と共に異質な気配を感じた。頭上を見上げると、そこにはさっきまでアルガと戦っていた鳥の怪物が舞っていた。

 

「どわあああっ!?怪鳥がこっちに……つーかアルガはどうし───っ!!?」

「アルガァァッ!!」

 

 驚いたフランキーがアルガの方を見ると言葉を失う。サンジも同様に目を見開きアルガの惨状を見て声を上げた。

 

 猪の怪物の突進を諸に受け建物を貫通し地面へと倒れ込む。既に意識はなく起き上がる様子もなかった。

 

 それだけではない。よく見ると全身傷だらけの上、右腕がなく全身に紫色の蒸気が立ち込む明らかにヤバそうな液体を被っていた。

 

「そんな、酷い……!」

 

 あまりの痛々しい姿に口を抑える。あたい達の悲痛な声が聞こえたルフィはすぐにアルガの元へと急ごうとする。

 

「流石にこれ以上は……ッ!アルガ!!待ってろ今すぐ───ッ!?」

「行かせん!!」

「アチーーーーッ!!?」

 

 鳥の怪物がくちばしを大きく開くと中から熱線を放つ。熱線を喰らったルフィは熱さに苦しみ藻掻く。

 

「あっちゃちゃちゃ!!?クソー!こんにゃろ!!」

 

 全身真っ黒焦げになったが犬みたいに体を振るい元に戻ると鳥の怪物めがけ拳を飛ばす。勢いよく迫ってくる拳に対し鳥の怪物は避ける素振りを見せない。すると案の定頭部を貫通した。

 

 しかし、攻撃をした後サターンと同じように欠損した頭部が修復されていく。

 

「エエエエエエッ!!?何だそれ〜!?気持ち悪っ!!パンチが効かねーのか!?だったら───」

「わっしを放っておくなんて随分と余裕だねェ〜」

「ッ!?ぶほっ!!?」

 

 攻撃が効かなかったことに不服を覚え追撃をかけようとするが光速で近づき後ろから黄猿が蹴りを喰らわしルフィは近くの建物に突っ込んだ。

 

 ゴム人間だから建物の衝突自体はダメージゼロだが黄猿の蹴りは覇気が込められておりルフィは頭を押さえ痛がる。

 

「おーイテテ!黄猿め〜!おれは早くアルガを助けに行かねーと駄目なんだ!!邪魔すんなァ!!」

「そいつは無理な相談だ。"鬼の戦漢"は世界政府が今最も消したい存在。……わっしもあいつは戦いづらい。心を乱されちまう」

 

 そういい黄猿は指先に光を溜める。またレーザーを射とうとしてくるのを見て身構える。だが、敵は黄猿だけではない。

 

「ニカ、その力は我々の物だ。その命と共に差し出せェェ!!」

「ギャアアア!?食われたァァ!!?」

「ルフィ!!」

 

 鳥の怪物がルフィをついばむと頭上高く飛び上がった。皆が上に意識が向いた時、ただ一人は着実に任務を遂行していた。

 

───ピュン

 

 そして、その事に気付いた時にはもう遅かった。

 

「ぐふっ!!?」

「───ッ!?しまった!ベガパンク!!!」

「さようなら、親友……」

 

 一瞬視界が眩く光り視線を戻すと黄猿の指先から煙が上がっていた。どうやらルフィに気を取られている内に黄猿がベガパンクをレーザーで撃ったんだ。

 

「ゲホッ!安心せい、ゼェ……ゼェ……。黄猿め……手元が狂ったな?心臓からややズレておるぞ?」

「悪運の強い。だったら、次は確実に仕留め───ッ!?」

「させる訳ねェだろ!!!」

 

 黄猿は光の剣を作り出すと一瞬でベガパンクの前へと移動し首を跳ねようとする。しかし、そこへサンジが阻止しようと光の剣を蹴り飛ばした。

 

「ッ!"黒足"邪魔せんでくれよォ……。長引く分だけ、胸が痛む」

「勝手に痛んでろ!!フランキー!アトラスちゃん!ベガパンクを頼む!!」

「スーパー任せろ!!」

「おうとも!」

 

 「暴」がすぐにベガパンクを抱え場を離れようとする。フランキーも黄猿を警戒しておりこれですぐにはベガパンクを殺せる状況ではなくなったが、その顔から焦りは見えない。

 

「ベガパンクを助けたのはいいが……このままじゃお仲間が死んじまうねェ〜」

「ッ!!そうだった!まだアルガが……!!」

 

 視線を変えアルガ方を見る。そこにはもう動けずにいたアルガにトドメを刺そうとするサターンや他の五老星の姿が……!

 

 ヤバイ!早く助けに……だけど───

 

「……っ!?」

 

 奴とは距離がある。離れているのに、遠くから見ただけでビクッと体が震えてしまう。

 

 ……ダメだ。サターンを前にすると恐怖で足が竦んじまう。畜生、あいつがすべての元凶なのに!何もできないのか?クソ、クソッ、クソォォッ。

 

 この土壇場で何もできない自分が腹立たしい。しかし、その怒りよりも恐怖が勝ってしまい体が言うことを聞かない。

 

 何とかしないと何とかしないと何とか……!

 

「助、けに……」

「お姉ちゃんっ」

「っ!!」

 

 助けたいという気持ちと恐怖が入り交じり頭が一杯いっぱいになっていた時、バニーがあたいの両頬をパァンと叩き挟む。

 

「お母さんを見てて。アルガ()()は……私が助ける!」

「ま、待てよ……お前一人じゃ……」

「大丈夫!ここが"コニーお婆ちゃんの教え"の見せ場だよ!」

「……っ!」

 

 そういいバニーは背を向け助けに行こうとする。あたいよりも小さな体で。あんなに震えて……自分だって怖いはずなのに。人に暴力を振るえない……優しいあたいの妹がたった一人で───

 

「バニー!!アルガを……頼む!」

「うん!任せて!!」

 

 そういい笑顔で駆け出した顔にはお父さんとお母さんを彷彿とさせた。だからか不思議と安心してしまったあたいは同じように笑顔で見送った。

 

 アルガとバニーが生きて戻ってくる事を信じて。だけど、同時に一筋の涙が頬を伝う。

 

「強ェな、バニー。……悔しいなァ」

 

 

 

 

 

 遠くでお姉ちゃんの弱音は聞こえる。普通なら聞こえる距離じゃないけど私は能力で耳がすごく良くなってるからここからでも聞こえてしまった。

 

 お姉ちゃんは私を強いと言うけど……でもね、そんなことはない。私はおくびょうだ。そのせいでいつも行動が遅れる。

 

 あのクモジジイがママの病気の話をした時も、私はただただこわがって動けずにいた。そんな中でお姉ちゃんはただ一人まっさきに走っていくのを見て思ったんだ。

 

 お姉ちゃんはやっぱり強いなって。

 

 家族のためにいつも前を進み私を引っ張ってくれた。そんなお姉ちゃんやママの役に立ちたいとずっと思っていた。いつも皆には助けられてばかりだったから。

 

 実は私には幼い頃に家族と一緒にいた時間がそんなになかった。産まれてしばらくはお姉ちゃんとママ、そしてたまに帰ってくるパパと幸せに過ごしていた。

 

 でも、ある日お姉ちゃんとママがかかっている病気を治す方法が見つかったと言われ私だけはソルベ王国に残された。理由はパパの血が入っている私を政府に隠していたから。

 

 この時は私も皆と同じ病気だったら一緒にいけたのかなと思っていたけど今になればそれは絶対にないとわかる。

 

 それから数年、ギョギョやコニーばあちゃんと一緒に過ごしていると病気の治ったお姉ちゃんとママが迎えに来てくれた。

 

 「独りにさせてごめん」「これからはずっと一緒だ」「皆でパパを探しに行こう」そう言われ数年間でぽっかり空いていた心はポカポカと満たされていった。

 

「おいバニー!お前にいいもの見つけてやったぞ!!」

 

 皆で海に出たある日、パパを探すために情報を集めていたら政府と海賊が怪しげな取引をしていると聞いたお姉ちゃんは確かめに行きました。

 

 結果はパパの情報はなく途法に暮れましたが、その代わり取引に使われていたフルーツを盗んできちゃいました。

 

 なんでも、このフルーツを食べるとお姉ちゃんみたいに不思議な力が使え強くなると。今まで助けられてばっかりだった私はそれをよろこんで食べました。味は泣くほどほどヒドかったけど……。

 

 そして今、このフルーツの力で皆を助けるんだ!

 

「今度は、私が……!」

 

 私の家族(宝物)を今、目の前にいるこわいおじいちゃん達に奪われそうになっている。

 

 ロボットにされて目覚めないパパ。クモのおじいちゃんを見て怯えるママとお姉ちゃん。もうこれ以上、私の家族にひどいことはさせたくない。

 

 だから───

 

 

『俺を頼ってくれよ!!!友達じゃねェか!!!!』

 

 

 モニターで見たパパの記憶のひとつ、パパの友達のアルガさんがかけてくれた言葉。それを聞いて私は思った。

 

 ───この人になら、託せる!

 

 パパがずっとあの人の話ばかりしてたから悔しくて好きじゃなかったけど、あの人のパパを想う気持ちは信じられる。だから……!

 

「絶対に、死なせない!!」

「おい小娘。オメェ誰の許しでこの場に立っている?頭が高い!」

 

 アルガさんの元へと急ぐ私の行く手をお馬さんのおじいちゃんが阻んだ。すっごく大きい、軽く蹴られただけで私は死んじゃいそう。こわい。

 

「ど……て、い……よ。こ……じ……」

「アン?」

 

 すごく、こわい……でもっ!

 

「どいてって、いってんだよ!!この馬ジジイ!!!」

 

 ここで助けられなかったら、アルガお兄ちゃんが死んじゃう。そっちの方がもっとこわい!

 

「アルガさんを、守るんだ。「邪魔しないで」!!!」

「口の利き方がなっちゃいねェな。教育が悪い。私が躾け直して───ッ!?」

 

───ピュン、ピュンピュンピュン!

 

 実力差は理解していた。私じゃこの人達には敵わないと。だから自分を奮い立たせるために大声を上げたが、その瞬間不思議な光景を見た。

 

 周囲にいたパパのそっくりさんロボ達が一斉に馬のおじいちゃんを襲ったのです。お互い突然の出来事に慌てましたがすぐにチャンスだと思いアルガさんの元へと再び走り出す。

 

「チィ!何が起きた?いや、考えるのは後だ。まずはパシフィスタを停めねば……!!」

 

 目標を私からパパのそっくりさんロボへと変えどこかへ行ってしまう。その隙にもうすぐそこまでの距離に近づく。

 

 でも、到着までもう少しかかりそう。その間にクモのおじいちゃんがアルガお兄ちゃんを襲おうとした。

 

「全く、奴隷の分際で我々の手をここまで煩わせるとは……()()()()()()()()()()()といい醜くて嘆かわしい。だがしかし、それもここまでよ」

 

 確実に仕留めようと一本の足を上げアルガさんの脳天に狙いを定める。そして……。

 

「ダメッ!!」

「さて、貴様との因縁もこれで───ッ!!?」

 

 トドメを刺そうとしたその時、()()()()()()()()()が色濃く発光し全身が青い炎に身を包んだ。

 

『私の……!!!』

『おれの……!!!』

 

 頭を貫こうとした脚に炎が引火し全身を青い炎が包み込む。不思議とその炎は怒っているようにも見えた。

 

 

『『息子に手を出すなァァ!!!!』』

 

 

「ぐおおおおっ!!?何だこの炎はっ!?」

 

 熱さに苦しむがすぐに退がり炎を振り払う。足の炎は消えすぐに再生された。

 

 だけど、そのおかげで時間ができた。ここを逃せばもうチャンスはないと考えた私は炎なんて気にせずやけど覚悟で突っ込んだ。

 

「アルガさん!!!」

 

 熱さなんて関係ない!みんな必死に戦ってるんだ。私だけ無事に済むなんて考え───

 

『おい、誰か来たぞアルガの友達かも』

『あらいけない、急いで熱を下げないと』

 

 しかし、その思惑は外れる。

 

「ウゥ!あつ……くない?あれ?きゃっ!?」

 

 なぜか青い炎を浴びて何ともなかった。どういう事だと困惑しているとアルガさんの状態を改めて見て口を塞ぐ。

 

 右肩から先にあるはずの腕がなくなっており、全身ひどいケガをしている。それに、全身から上がっているこの蒸気。この紫色の液体から出ていますがまさか毒……!?

 

「そんな、こんなの……!えとえと何とかしなきゃ何とかしなきゃ!?」

 

 思考がまとまらない。私には刺激が強かった。それだけ今の彼の体は見るも無残な状態だ。

 

 それでもここまで来たんだ。どうにかしないと!

 

「何とかっ───……?」

 

───ドクンッ

 

 ……っ!あれ、なんだろ。早く助けないといけないのになんだか……?

 

 アルガさんの重傷を見て脅えていた私の表情が変わる。青白かった顔色が恍惚としたものへと変わり胸が熱くなるのを感じた。

 

 この昂りは───

 

「───すっごく、おいしそう」

 

 気付けば口を開いて……かぷ、とアルガさんの体に噛みついた。

 

「なっ!!?何をしておるのだ奴は!?私の毒が含まれている傷口を……!?この状況下で血迷ったか。そんな事をすれば小娘も即死───っ!!?」

 

 ちゅる……じゅるるる〜……ゴックン♪

 

「何だ……あの姿は、小娘の額から角が……!」

「プフゥ、ごちそうさまでした」

「馬鹿なっ!!?あり得ん!!!」

 

 口を離すと目を疑う光景を目の当たりにしてしまう。何とあれだけ毒に侵され死に体だったアルガさんの体にはもう毒が消えていた。

 

「傷口から……毒を全て吸い取った!?」

「……ふェ!?私今何したの!?よく分かんないけど……毒がなくなってる〜!」

 

 というか、私いつの間にか変身しちゃって……あれ!?いつもとなんか違う!?え、なんで!?

 

 体はいつものウサギさんみたいなモコモコボディー。だけど、おでこに角が生えてる。ほんとうになんなのこれ?

 

 クモのおじいちゃんと一緒に理解しきれていないこの状況に困惑している。しかし、すぐに冷静になると分析を始めブツブツとつぶやき始めた。

 

「何が起きた?なぜ毒を取り込めた?不条理、不確定要素が多すぎる。考えろ、何か理由がある筈。そもそもあの小娘は誰だ?どことなくジニーやボニーに面影が……まさか奴の二児か。だとすると……あの小娘はくまの!!それにあの姿は……兎?兎に角だと、そんな能力───ッ!!!その特徴を持つ能力はあれしか!まさか以前取引が失敗し行方が消えたあの悪魔の実か!!だとすればさっきの現象も辻褄が合う」ブツブツ…

「うわっ!?こわっ!」

 

 何なのでしょう。急に私をジロジロ見てきます。ひょっとして、これが昔ママから教えてくれたロリコンっていうものなのでしょうか?

 

「それで消化したのか。私の毒を……有り得ん、有り得んぞ!そんなもの───」

 

 理解不能とばかりに驚愕したかと思えば今度は目を輝かせる。

 

 

「素晴らしい!!見たこともない()()だ!!!」

 

 

 あ、目の色が変わりました。やはりロリコンおじいちゃんなのでしょうか。

 

「欲しい!奴の体が欲しい!!この際あの()()()()()()を奪った事は免除してやる!!どうせ適当な人間に食わせる予定だったのだ。代わりにその体を寄越せェ!!!小娘の中で何が起こっているのか。構造は?どんな生態をしている?嗚呼、知りたい。あの未知なる存在をくまなく研究したい!!」

「ピェッ!?急に怒鳴ってきたですゥ!!?」

「小娘ェ!いい、いいぞその体質気に入った!!貴様を聖地へ連れて帰りその体隅々まで研究させてもらおう!!!」

「うわっ!こっちきた!?だけど……!」

 

 炎が収まり私達が無防備となった所を見計らいすぐに襲いかかる。

 

「つかまらないもん!!」

「なぬっ?」

 

 だけど、一度呼吸を整えた私はものすご〜く高く跳んで空中で姿が変化を始める。頭に長い耳を生やし手足には薄いピンク色の毛並みが逆立つ。

 

「能ある鷹は爪を隠す……だったよね。コニーおばーちゃん!やるなら、今っ!!」

 

 これが家族以外に隠してきた私の秘密。悪魔の実の能力よ!

 

「"ウサウサの実"モデル「ラビット」!どんな攻撃だっておっきく跳んで逃げてやるんだから!!」

「チィ!猪口才な!!」

 

 すぐに頭上を見上げ私達を睨見つける。今度は何本もの脚を伸ばし私達を串刺しにしようとしてきますが……なめてもらっちゃ困ります!

 

「ふん!」

 

 その小さな身体には似つかわしくない怪力でアルガさんを抱え縦横無尽に飛び跳ねて襲いかかる脚を躱す。

 

「フフーン!私はお父さんの子供。だからこう見えてけっこう力は強いんだ〜!それ、にっ!」

 

 なんだかいつもより体の調子がすごくいい!

 

 脚を踏み台に更に大きく跳躍。一気に距離を取った私の姿は完全な"人獣型"となり身のこなしが軽かった。

 

「私は任されてここへ来たの!だから絶対にこの人を助けるんだっ!!」

「………助ける?」

 

 助けるという言葉に反応するとピタッと動きが止まる。何でかは分かりませんがチャンスです。今の内に……!

 

「それは、我々が許さない。其奴の命は今日、絶たねばならぬのだ」

 

───バカッ!

 

「きゃう!?」

 

 クモのおじいちゃんが目を光らせた瞬間、目に見えない何かがぶつかった。思わずバランスを崩しその場に倒れ込む。

 

 何をされたの?いたい、いたいよゥ……。

 

「ほう、流石に頑丈だな。常人ならば顔が吹っ飛んでおったのに」

「ウゥ、いたた……ぐすっ。あ!……!」

 

 倒れた拍子に手を離してしまいアルガさんが再び襲われそうになる。私は痛みを我慢し彼に覆い被さる。

 

「やっ!ダメッ!やめてェェ!!」

「これこれ邪魔するな。お前はなるべく傷つけず持ち帰りたいのだ……。だが、退かぬのなら致し方あるまい。多少の欠損は目を瞑ろう」

「っ!?」

 

 こわい、今すぐにでも逃げだしたいです。でも、いやだ……。これ以上、誰もキズついてほしくない。大事な人たちの未来を奪われたくない!

 

「それと、もう一つ教えてやる。貴様が口にした悪魔の実のはあんな低級な実ではない」

「え?」

 

 名前が違う?姿も力もウサギさんの能力だからてっきりそうなのかと思ったけれど。

 

 困惑しているとクモジジイが私が食べた悪魔の実について教えてくれた。

 

「貴様が食べた実の本当の名はウサウサの実、幻獣種モデル「アルミラージ」。とある海賊の科学者から受け取る筈だった()()()()()()だ」

 

 改造……悪魔の実……?

 

 聞き慣れない単語に理解が遅れる。そんな私をよそにクモジジイは語り続ける。

 

動物(ゾオン)系の実には意思が宿る。それがどれ程のものかを調べるべく私はとある植物に目をつけた。名を「I.Q」という進化に特化した植物だ。これを使えば面白い研究ができると考えた私はすぐに行動に移した」

「植物ですって……?」

「色々あり「I.Q」を牛耳っていた海賊の科学者が改良した植物を使い見事改造悪魔の実を開発した。それを受け取る筈だった日に───貴様らが邪魔をした」

「ひっ!?」

 

 瞳孔の開いた目で私を睨みつける。異質な存在を前に私は身を震わせた。

 

「だが、済んだ事だ。気にしなくてもよい。こうして今……私の前に現れてくれたのだから」

 

 目の前の足の先からジュワーと毒が垂れる。それを見てこれから私がどうなってしまうのか、この人の状態を見て理解した。してしまった。

 

「今からお前諸とも串刺しにしてやる。だが安心しろ、貴様は大事な実験材料。たとえ手足がもげようと私が治してやる」

「い、や……」

 

 どうしようもない状況。こんな時にふと私の頭の中には大好きな人達の顔が浮かんでいく。ベガのおじいちゃん、戦桃丸さん、黄猿さん、ソルベ王国のみんな、お姉ちゃん、ママ、そして……。

 

「た、す……けて……っ」

 

 助けて……っ!

 

「死ね!!鬼の戦漢!!!」

 

 振り降ろされる脚、これから襲ってくる痛みに耐えるように体に力が入り目をぎゅっと瞑る。そして、最後に浮かんだのは大好きなもう一人の家族。

 

『おれを救う、か……。本当にそうなるのなら、その時の君は危ない状況に陥っている気がする。友達の為なら無茶だってする奴だ。だから、もし君が危ない目に遭っているのなら───』

 

「助けて……パパァァアアアッ!!!」

 

───パッ ドスッ!

 

 刺さる音が聞こえた。しかし、痛みがない。もう死んじゃったのかと思ったがそうでもなかった。なら、何が起きたのか。恐る恐る目を開き振り返ると……。

 

「っ!?う、あァ……!」

「………」

 

 何も喋らないその人は背中からお腹にかけて脚が貫通している。しかし、その人は自身のケガなんて気にせず私の頬に手を添え涙を拭った。

 

 そして───

 

「パパァァァ!!!」

 

 刺さった脚を抜きクモのおじいちゃんに掴みかかると拳を大きく振り被った。相手は未だ受け入れられずベガパンクに喚いている。

 

「こいつ!?どこから……いや、それよりもどうなってる!?ベガパンク、こいつは死んだハズだ!!革命軍がくまを連れ去った数日後!私はコイツの「自爆スイッチ」を、押したのだから!!!」

「えっ!!?」

 

 クモジジイの言葉に驚くベガおじいちゃん。そんなありえない状況に驚く二人をよそに私はさっき頭に過ったパパの言葉。その続きを思い出す。

 

『もし君が危ない目に遭っているのなら───』

 

 パパの言葉を思い出し恐い涙から安心の涙に変わった。

 

 

『おれも友達として、君を救いたい』

 

 

───ド!!ガァァアアアアン!!!

 

 次の瞬間パパの重たい拳が顔面にクリーンヒット。そのまま殴り飛ばすと向かいの建物までぶっ飛ばされた。

 

 その衝撃で壁にヒビが入りバランスが崩れたジェンガのごとく瓦礫が降り注ぎ埋もれてしまった。

 

 その光景を前に私は溢れる感情を留められずこの世で一番優しく頼りになる男を抱き締め泣いてしまった。

 

「ウゥ〜……パパ、パパァァァ!」

 

 やっぱり、私のパパは最高にかっこいいです。

 

 

 

 

 

 何やってんだウチは……。

 

 娘達が、皆が必死で戦ってんのにウチ一人だけがビクビクと生娘みてーに怯えて何もできない。悔しい、恥ずかしい、腹立たしい……だけど。

 

 恐い、奴への恐怖が他の感情を凌駕してしまう。動きたいのに、体の震えが止まらない。こんな状況に……いや、こんな状況だからからかあの時の事を思い出す。

 

 今みてェに一人じゃ何もできず奴らに支配されていた恐怖。天竜人の奴隷にされ、妻に娶られ、実験材料にされた恐怖を。

 

 そして、一人で怯えていたウチに手を差し伸べてくれた人達を……。

 

『おいお前ェ、何ウジウジしてやがる?助かりたいならさっさと立ちなァ!奇跡は願っても来やしない。起こすものナブル!ヴォレときな───奇跡、見せてやるぜ!!!』

 

『俺が聞きたいのはそんな建前じゃねェ!!お前が何をしたいのかを言えって言ってんだ!!!!』

 

 絶望ばかりじゃない。何度も恐怖を味わったが、その度に見てきたじゃないか。手を差し伸べる人達を。絶望に負けない希望を! 

 

 そして、今まさに絶望から手を差し伸べるように希望が、奇跡を目の当たりにした。

 

「くま、ちー……」

「父、さん……!」

「くまっ!?なぜアイツがここに!?」

 

 目の前に映るのはバニーとアルガを殺すサターンではない。サターンを殴り飛ばし助けに来た最愛の人だった。

 

 何でここに?革命軍が保護していた筈、いや、そんな事よりも……!

 

 くまちーを見たウチは反射的に走っていた。ボニーや皆も一緒にくまちーの元へと急ぐ。そうやって走っている内に気付く。いつの間にか震えが止まっていた事に。

 

「くまちー!!!」

 

 すぐに彼に抱きついた既に抱きついているバニーに続きボニーも一緒に涙を流し家族全員で抱き締め合う。

 

 サイボーグにされ体温は感じない、人肌の温もりはないけれど……。

 

「…………」

「「「っ!!?」」」

 

───ギュッ……

 

 優しく包み込むようにウチら三人を抱き締めてくれた。もう自我なんてないはずなのに……。

 

 ダムが決壊したように溢れ出る涙が更に止め処なく流れる。

 

「ホ、ホントにきよった……。自我のないくまが……それにこの光景は……成程のう」

 

 ベガパンクが何かを悟ったように呟くと周りの皆に話を切り出した。

 

「感動の再会を邪魔するようですまないが皆聞いてくれ」

「ウ"ゥ!"オ"ォウッ!何だよォ今スーパーに泣いてるって時にィ"……!」

「そうだぜ「本体(ステラ)」、お前は重症なんだ。喋るだけでも激痛の筈だ安静にしてろ」

「ぐっ、そういう訳にもいかん。事は一刻を争う。くまを助ける為にな」

 

 くまちーについて大事な話をする為に痛みを堪えるジジイ。ウチらもくまちーを助ける為と聞き表情を変える。

 

「よく聞け、前に思考と自我を消された者が記憶だけを取り戻しても本には戻らない。そう言ったが……くまがここへ来たことで話がガラリと変わった。思考のない者がどうやって動ける?自我のない者がどうやって愛する家族と抱擁できる?アルガの言葉は正しかった」

 

『無理じゃない』

『戻せるかもしれない』

 

 ベガパンクの話を聞き先日のアルガの言葉を思い出す。そして、ベガパンクはハッキリと答えた。

 

「結論を言う───くまはまだ戻せる!!!」

『っ!!!』

 

 くまちーが戻ってくる。その言葉に皆は息を呑みウチは胸に込み上げてくるものをギュッと押さえる。

 

「じゃが、一つでも選択を間違えば終わりだ。皆、私の言う通りにしてくれ!」

 

 そういいベガパンクはボニーに目を向ける。

 

「まず、ボニーとバニー。そしてジニー。これはお前さんらにしかできん。今すぐくまをあの記憶の部屋へと連れて行くんじゃ!」

「えっ!?あ、あたい達が……やれるかな?」

「大丈夫、オヌシは決して一人ではない。もう震えも止まっておろう」

「あっ……。うん」

 

 ベガパンクの言葉でボニーはここで自身の恐怖が消えていることに気付く。ウチも同じだ。くまちーを見た時にはもう震えが止まっている。

 

「ぺぺぺ、それに安心しろ。こんな状況になる事を見通して保険は打ってある」

「保険?」

「ああ、本当は姉妹がもう少し大きくなったら言うつもりじゃったが……3人とも、耳を貸しとくれ」

 

 ウチらはベガパンクの口元まで耳を傾けると……とんでもない事実を聞いてしまった。それは五老星すら知らないパシフィスタの秘密だった。聞き終えるとウチらは驚きで言葉を失う。

 

「これを知られると私は確実に殺される。だが、覚悟はできた。……元よりできていたのかもしれんな」

「っ!!おい待てよ!おれはあんたを死なせねェ為に来てんだぞ!?そうルフィとも約束した」

「私から頼んでおいて悪いな。だが、許してくれ。こうする事で"何かが始まる"。そんな気がするんじゃ」

「や、だがよォ……ん?アルガ!」

 

 ベガパンクが死ぬと聞き黙っていられなくなったフランキーが捲し立てるが、そこで横たわっていたアルガの体が反応する。

 

 毒も消えており一命は取り戻していた彼は薄っすらと目を開くとウチと目が合い……見たこともない弱々しい姿で謝り倒してきた。

 

「ジ、ニー……さん。ごめ、ごめん。ジニーさんごめんなさい。俺が、お、俺、俺のせいで……俺のせいでェェ……!」

「アルガ!?どうしたいきなり謝って……っ」

 

 先程の戦いでアルガの右腕が斬り落とされたらしく深くは追求しないようにしていた。踞り大切そうに抱えている腕が彼のだと思っていたが、よく見たら袖が違う。だが、その腕に見覚えがあった。

 

 そう、これはアルガの腕ではない。それなのに大事そうに持っていた理由。それは……。

 

「まさか、その腕……サボか?」

『っ!!?』

 

 ウチが答えると皆は驚愕する。その中でアルガだけは肯定するように更に深く謝罪をする。

 

「サ、ボ……ごめん。俺が……ウァァ……!」

「サボ……ッ!!?まさか抱えてる腕って……!」

 

 遅れて理解したフランキーの顔が青ざめる。そんな反応をするのは彼だけでなく他のみんなもだった。

 

 正直、信じられない。あのサボが……。

 

 だからといってこのままにする訳にもいかない。まずはどうにかしてコイツを励ましてやらねェとと思い発破をかける。

 

「くよくよしてんじゃねェ!!正直、アイツが死んだなんてまだ信じきれねェが仮に本当だとしてだ!だったらあいつらに見返してやれよ!!サボを殺ったあいつらを……!!」

「ち、ちがう……ちがうちがうちがう違う違う違うチガウちがうゥゥ……」

 

 ウチの言葉にアルガは酷く動揺し首を大きく横に振る。

 

「はあ?」

「俺なんだ……本来ならサボはここでは死なななかった。俺がっ……」

「はあ?何言って……」

 

 本来?ここでは?よくわからんが自供するようにアルガは謝り続ける。その時、ベガパンク一人だけは何かを察したように顔を渋る。

 

「何か知ってそうだなジジイ」

「憶測じゃがな。でもスマン、こればかりはお前さんにも伝えることができん」

「んだよ勿体ぶりやがって。……何か確信があるみたいだな。サボの死に」

 

 アルガとベガパンクは何も答えない。これ以上追求しても無駄だと理解はできた。だが、納得はできねェや。

 

「言いたくねーってんならそれでいい。無理や聞こうとも思わん。お前はウチの恩人だ。信頼できる奴だ。だけどなァ、"サボの死"これだけは信じられない」

 

 踞るアルガの肩を掴みを無理やり起き上がらせ面を向かい合わせた。そして、ある提案を持ちかける。

 

「悪いがウチは都合の悪いことは証拠を見るまでは信じない質でよ。だから……勝負しようぜ?」

「勝……負……?」

 

 未だ泣き止まないアルガは言葉を詰まらせつつも聞き返す。それにウチが頷いた。

 

「ああ、これからサボが死んだかどうか確かめる。それでもしダメだったらお前の勝ち。サボの生存がわかりゃあウチの勝ちな」

「そんな事……したって……」

「黙れ」

 

 ここへ来てまだ無駄だと言いたげなコイツにそろそろイラついてきて一喝する。何も言わねェくせに否定だけ一丁前に言ってんじゃねェよ。

 

「無駄かどうかはウチが決める。だからそれまでは好きにウジウジやってな。だけどウチが憧れた男は諦めが悪いんだ。さっさと戻ってきやがれ。この年齢詐称野郎め」

 

 手を離すとアルガは再び尻もちをつきその場に倒れ込む。

 

 スリラーバークでのくまちーの記憶を見てコイツの中身が見た目相応の歳じゃねェのは分かってた。だからついこんな悪口が出てしまった。

 

「んじゃ、まあさっさと上行ってくまちーの記憶を戻さねーとな。何するにしてもサボがどこにいるのかすら分かんない状態だ。情報を得る為にも「研究層(ラボフェーズ)」へ行かないと───」

「”天岩戸(あまのいわと),,!!!」

 

───ゴォォオオオッ……!!!

 

 一瞬の油断、皆が上に気を向いていた所を巨大な光線が横切った。光線の先は大猿の顔に見え大口を開けてアルガを飲み込むように光線に呑み込まれてしまった。

 

「アルガァァァ!!?今の光はまさか……!!」

「何やら企んでいるみたいだねェ〜。わっしも交ぜてくれよォ……」

 

 ねっとりとした話し方。この声を聞いた瞬間全員の意識がそこへ向く。……と、同時に一筋の光がウチらの頬を通過した。

 

───ピュン

 

「がはっ!!?」

「しまっ!?ベガパンクッ!!?」

「黄猿っ!?何でてめェがここに!!サンジはどうしたァ!!」

「アイツは今わっしの分身達と戦ってるよォ〜」

 

 遠くを見るとサンジの周りには何十人もの黄猿が囲っており苦戦を強いられていた。

 

「てんめェ〜!!よくも「本体(ステラ)」を〜!!!ぶん殴ってやる!!!」

 

 ベガパンクの腹部に光線が貫通したのを遅れて気付いたアトラスは怒り任せ大振りのパンチを繰り出した。

 

 しかし、光速で移動する黄猿には当たらず一瞬でアトラスの後ろへ立ち脚を発光させる。

 

「お前さんが着けてるの"光圧グローブ"だねェ?確かにそれならわっしを殴れるが……遅いねェ〜」

「危ねえ!!ぶへっ!!?」

 

 アトラスの顔面に当たる直前フランキーが咄嗟に反応し身を挺して身代わりとなる。光速の蹴りの威力は凄まじくフランキーの巨体が軽々とぶっ飛んで行く。

 

 次々と建物を突き抜け衝突音が止む頃には姿が見えないほど遠くまで飛ばされていた。

 

「フランキー!!クソ、助けに行かねェと───」

「それは無理だな。貴様らの自由は私が許さん」

『ッ!!?』

 

 今度は背筋を凍らせる冷徹な声。それはウチにとって恐怖そのものだった。誰もがこの培物の威圧感に圧され一瞬身動きが止まる。

 

 その隙に奴は黒こげのアルガを掴み上げた。

 

「もう逃がさん。ベガパンクも虫の息だ。後はコイツを殺せば……」

「サターン!?チィ!おい、指令室応答しろ!!まずい事態になった!!至急応援を頼む!!!」

 

 すぐにアトラスが上へ連絡を取る。通信先はエジソンらしく彼の声が聞こえてくる。

 

『ああ、こっちからも状況は見えとる!すぐに向かうさかい……え?ちょ、ちょい待ちィ!すぐバリアの一部を解除したるからまだ行っちゃ───』

 

───ボカァァアアアン!!!

 

 向こうで何やら焦っていたエジソンだったが突然上から爆発音が響き渡る。皆が頭上を見上げると爆煙を突き抜け落下してくる影が見えた。

 

 その影は一直線にサターンの頭上へと向かっていく。肉眼で捉えられる距離まで来るとそいつは怒の形相でサターンを睨んでいるのが見えた。

 

 どんな肉体をしているのか、あの爆発をもろに食らいほぼ無傷で済んでいる。

 

「おじさんからァァ!!手を離せェエエエ!!!」

 

 爆煙から落ちてきたのは麦わらの一味の奴だった。最近入った奴らしく詳しくは知らないが確か名前はヤマトだったか?

 

 ヤマトは落下速度を更に上げサターンめがけ突撃する。そして、凄まじい落下速度から繰り出す金棒が奴の脳天に直撃した。

 

「”引奈落(ラグならく),,!!!」

 

───ズドォォォオオオン!!!!

 

 その威力はもはや隕石に近く周囲に余波が飛び交う。あまりの強風に飛ばされないよう堪え納まる頃には大きな穴ができていた。

 

「つよォォ!?」

 

 戦っている姿を見たことがなかったので強さはいまいち知りなかったが目の前の光景を見てギョッと驚く。バニーも思わず口に漏らしていた。

 

 頭を殴られ手を離していたのか空中に放り投げられたアルガを見つけるとヤマトは跳び上がり彼を抱きかかえる。

 

「よっと、うわあ……おじさんヒドイ状態だ。気絶してるようだけど心臓は動いてる。すぐにチョッパーに診てもらわなきゃ!」

「待て……」

 

 アルガの状態を見てあわふたするヤマトだったが、穴の中から声が聞こえ表情が変わる。頭部を修復しかけているサターンが上がってくるのを見て目を細めへの口になり明らかに機嫌が悪そうにする。

 

「僕の大切な従者に何か用かな?これ以上おじさんを傷つけようと言うなら───主の僕が相手なるけど?」

 

 金棒を掴み威圧する。バリバリと黒いイナズマが周囲に迸りすごいプレッシャーが肌に伝わる。え?これひょっとして覇王色?マジか、とんでもねェ新人を仲間にしてんな。

 

「主……?誰だ貴様、その男を寄越せ」

「話を聞かない人だなァ。クソ親父みたいだ」

 

 お互いに牽制し合っているとレーザーを食らったベガパンクが息も絶え絶えの状態で起き上がりウチらに語ろ出す。

 

「何を呆けている……お前さんらァ……ゲホッ!助けが来たのなら各自行動に移れ……ゼェゼェ」

「ベガパンク!?無理にしゃべるな!既に黄猿のレーザーを二回も食らってんだぞ!!」

「かまわん!元より懸けた命じゃ。惜しくはない。ゲホッ……ボニー、よく聞け……」

「え、あたい?」

 

 ベガパンクは名指しすると急に呼ばれたボニーは聞き返してしまう。

 

「自信を持て」

「は……?急に何を……」

「さっきもそうじゃったが、オヌシ自分だけ何もしていない事に焦っておるな?」

「っ!?何で……」

 

 ボニーは核心を突かれたのか目を見開き唖然とする。反対にベガパンクは当然とばかりに笑った。

 

「ぺぺぺ、解るさ……ずーっと見ていた。初めて会った時からそうじゃったなァ。オヌシは誰かの為に行動しようとし、ダメだと思ったらいつも暗い顔をする。くまに似た優しい娘じゃ。だからこそ言うぞ……」

 

 頬らかに笑った後、まるで諭すように優しく語りかける。それはまるで落ち込んだ孫をあやすおじいちゃんの様に。

 

「たとえ一人一人のそれがどんなに小さな足掻きでも、大勢が繋げばそれは未来への前進となる!!じゃから足掻け!!オヌシの小さな一歩は着実に望む未来へと続いとる!!」

「ベガ……パンク……!」

「分かったら走れ!!もう縛る足枷はない。後は進むだけだ!!さあ!!!」

「うん!!!」

 

 ベガパンクの言葉にじんわりと涙を滲ませるが情けない姿は見せないと腕で拭いいつもの強気なボニーへと戻った。

 

 本当は娘の違いに気付き立ち直させるのは母親のウチの役目なのに……全く、これはどっちが親だよ。

 

「ありがとよ。ベガパンク」

「気にするな。「(アトラス)」お前さんもボニー達と行ってくれ。「(エジソン)」と連絡を取り迅速に上へ送り届けろ」

「「本体(ステラ)」……くっ!本気なんだな?分かった、お前の判断に従う!!よし、おれに着いてこい!!」

 

 ここからの行動は早かった。それぞれやるべき事を全うするべく動き出す。アトラス先導の元、ウチらは「研究層(ラボフェーズ)」へ上がる為に真空ロケットへと向かう。

 

「急げ!!もうバリアの一部を解除してある。上がり次第すぐ閉まるからとっとと行くぞ!!!」

「ああ、分かって───ッ!!?」

 

 真空ロケットに乗り込み後は天蓋を閉めていざ出発!って所で遠くで強い光が見えた。その光は一直線にベガパンクの心臓を貫く。

 

「「本体(ステラ)」ァァァ!!?チクショウ黄猿の奴!!!」

「ま"、待"でェ……!!!来るんじゃない……行け!!」

 

 さっきは指示に従うと言っていたアトラスだったがいよいよもってベガパンクの命が危ないと察するとロケットから降りて助けに行こうとする。

 

 しかし、アトラスの行動を察知したベガパンクは血反吐出しながらそれ拒否した。

 

 

「前へ、()()へ繋ぐんじゃ!!足掻けェェエエ!!!!」

 

 

 老人とは思えないほどの声量、決死の叫びでアトラスは思い留まり苦い顔をしながらも己の役目を果たす事を選んだ。

 

「っ!〜〜くそ!!行くぞ!「本体(ステラ)」の想いを無駄にはしねェ!!!発進!!!」

 

 天蓋を閉じ真空ロケットが発射する。これに乗るのも二回目だがやはりとんでもなく早い。みるみる地上から離れ「研究層(ラボフェーズ)」へと向かっていく。

 

 しかし、敵にはロケットよりも早いモノが存在する。

 

「ん〜〜、行かせないよォ〜!!”天叢雲剣(あまのむらくも),,!!!」

「しまった!通路のチューブが……!?おのれ黄猿ゥ!!」

「ベガパンクは全員抹殺対象だからねェ〜。今、死ぬよ〜」

 

 通路を切断されてしまいウチらの乗るロケットは空中へ放り出されてしまった。急いでロケットから出るも空中で身動きが取れなくなってしまう。そこにジェットパックで飛べるアトラスがウチらを掴み上げ担ぎ落下を免れる。

 

「うぎぎ……!流石に全員は重量オーバーだ。てかくまが重ィィ!!」

「助かったがこの状態はマズイ早くどっか───」

「もう手遅れだねェ〜……下を見なァ〜」

『っ!!』

 

 何もできないウチらの前に黄猿が現れる。奴の言葉通り下を覗くと……島を囲うように配置されたパシフィスタがウチらに狙いを定めレーザーを放とうとしていた。

 

「これで終わりさ。だけど君たち一家には最後のチャンスをあげよう。「(アトラス)」をこちらに渡しなさい。そうすればレーザーの射線からは外れる」

 

 それは黄猿の最後の恩情だった。かつて一緒に釜の飯を食ったウチらだけでも助けてやると、奴はそう言ってくれている。

 

 敵のウチらにここまでの譲歩は本来あり得ない事だ。そんな黄猿に対しウチは……。

 

「コワい顔に似つかわしくねェ優しさは相変わらずだな。気持ちは素直に受け取っておくが……断る!」

「っ!!?」

 

 まさかここで断られるとは思わなかったのだろう。何より、この状況で……誰も絶望せずウチが笑っている事に理解不能と困惑している。

 

「スゥ~……!」

 

 ウチは大きく息を吸い込み島中に響き渡るであろう声量で大声を出した。それが、活路へと繋がっていると知っていたから。

 

 

「聞け!!島中のパシフィスタ!!「ウチらを助けろォォ」!!!」

 

 

 ウチの言葉に黄猿は首を傾げる。今まさにウチらを殺そうとしている連中に助けろなんて命令をしたんだ。当然そんな反応するわな。

 

 だが、ウチらは知っていた。いや、ついさっきベガパンクから聞かされた。

 

 パシフィスタの秘密を……くまちーと同じ姿をしたパシフィスタはウチらの命令には必ず聞くと。その命令権の優先順位が五老星よりも上だと。

 

「いったい、何のマネ───ッ!!?」

 

 飛んできたレーザーは黄猿に直撃した。つっても、光人間にレーザーは効きやしないだろう。だけど、ありえない状況を前に動揺は必須だろう。

 

 今の内に体制を整えようと思考を巡らせる。このまま一気に上へ行くか?……駄目だ、上がるまでにアトラスが保たねェ。なら一旦下へ戻り別のルートで「研究層(ラボフェーズ)」へ向かうか?いや、下には五老星がいる。それに黄猿もすぐ襲ってくるだろう。どうすれば……!

 

 どう判断を下そうか考えていると……。

 

───プニィ ぱっ!

 

「……えっ?」

 

 何か体に柔らかいものが当たったかと思えば、気付けば「研究層(ラボフェーズ)」へと着いていた。何が起きたのか全く分からない。

 

 ウチ以外にも娘達やアトラスもいる。その皆が不思議そうにしていた。

 

 まるで肉球みてーなのが……っ!!

 

「まさか!!?」

 

 この場に唯一いなかった存在、くまちーを探すがどこにもいなかった。幸い、ここは「研究層(ラボフェーズ)」の縁だったのですぐに下を見下ろせた。

 

 すると……案の定くまちーは下の地面に横たわっていた。

 

「くまちー!?バカヤロー……!ウチらを助けようと無茶しやがって!!」

「何っ!?くまは下なのか!?どうすんだアイツが来ないことには記憶を戻せねェぞ!!」

「あわわ、どうしよう!?」

 

 落下したせいで夫が更にボロボロとなりその姿を見て悲しむウチ。その横ではアトラスとバニーがどうすればいいのか慌てていた。

 

「下にお父さん……記憶……ラボ……っ!」

 

 しかし、ボニーだけは冷静に状況を把握しくまちーを助ける算段を立てていた。

 

「そうだ、あれならきっと……!バニー着いてこい!!」

「えっ?お姉ちゃん?!」

「何か宛があんのか!」

「多分だけどな!!お母さんは自分のやるべき事に集中してて!!お父さんは……あたいが何とかする!!!」

 

 ウチは娘の言葉を信じ頷いた。そこから別行動を取りウチはコンピューター室へと向かう。アルガを復活させる為、サボの生存の手がかりを探す為に。

 

 

 

 

 事前に研究所の内部構造は把握していたのでコンピューター室へはすぐに到着した。そこから世界中の情報をアクセスできるようにハッキングを開始する。

 

 ウチのやるべき事は世界中のシステムに入り込みマリージョア襲撃後、どこかの国でサボの姿がないか調べ上げる事。

 

 世界中のシステムにアクセスなんて通常であれば絶対に無理だ。だが、この研究所でなら……世界一の科学者が使用するこの機器ならば……見つけられる!

 

 実際に試しアクセスも可能だったのでそう希望を見いだしていたが、現実はそう甘くはなかった。

 

「いねェ……いねェ……いねェ……いねェ……いねェ!くそ、やっぱすぐには見つからねェか!」

 

 この部屋にこもりかなりの時間が経過した。しかし、成果はゼロ。サボの痕跡はどこにも見つからなかった。

 

 そもそも世界中の情報を集められてもその膨大な情報の中から人ひとり探し出すなんて砂漠の中から針を探すようなもの。容易であるはずがない。

 

「悠長にはしてらんねェ!!アルガに啖呵を切っちまったんだ。絶対ェに見つけ出してやる!!」

 

 しかし、このまま探しても埒が明かない。何か別の方法はないか……ん?

 

 サボ探しに奮闘していると何やら怪しい音信通話をジャックした。場所は近い、これはヨークが五老星に繋げているものか?

 

『わかったよ、配信電伝虫のありか!!』

『間違いないのか?』

『間違いない!!あたいもベガパンクだよ!?』

 

 配信電伝虫、それはつい先程前から世界中に流しているベガパンクの配信映像だ。最初に言っていたが、どうやらアイツの死がトリガーとなって配信される仕組みだったらしい。

 

 つまり、ベガパンクはもう……。

 

『配信電伝虫は……"工場層(ファビリオフェーズ)"にいる!!"鉄の巨人"が守ってる!!!』

『!!?』

 

 "鉄の巨人"、それは下で動き出した謎の巨大ブリキロボだ。島の監視映像を見たから知っている。

 

「だけどそんな事はどうでもいい!今はそれよりもサボの手がかりを見つけるのが先決……っ!!」

 

 ここで、ウチはある方法を思いつく。リスクはある。それに手がかりを掴める保証もない。だけど……。

 

「もう、これに懸けるしかねェな!!!」

 

 思い立ったウチは即行動に移す。部屋を飛び出し外へと走る。その間にエジソンとバニー、それともう一人に連絡を入れる。

 

 そして、「研究層(ラボフェーズ)」の縁へと到着すると同じタイミングでバニーと合流した。

 

「ナイスタイミングだ!!くまちーの方はどうだ?」

「うん、お姉ちゃんはやっぱりすごいよ!あれなら何とかなりそう!それでママは何で私を呼んだの?」

「何、ちょっくら下に用ができたんでお前の力を借りようと思ってな」

「私の力……?」

 

 不思議そうに首を傾げるバニーにウチは頷いて肯定する。

 

「ああ、本当は大事な娘を危険な場所に連れて行きたくねェんだが……」

「ううん、私の力でママを助けられるなら何でもする!むしろママだけあぶない所に行くなんてそっちのがヤダよ!!」

 

 もしもの話でプンスコ怒っている。かわいいな。

 

 そんな可愛い愛娘に対しフフッと笑ってしまう。すぐに気持を切り替え優しい笑みで手を差し伸べた。

 

「知ってる。だから呼んだんだ。力を貸してくれバニー!!」

「もちろん!!」

『ジニー!準備できたで!バリアの一部解除や!』

「サンキュー!行くぞバニー!!」

 

 ジュストタイミングでエジソンから連絡が来る。すぐに返答しウチはバニーを背負って「研究層(ラボフェーズ)」から飛び降りた。

 

 解除した所から通過し下へと落下する。ここでウチはバニーに指示を出す。

 

「バニー頼んだ!!」

「うん!」

 

 背中の上でバニーは"人獣型"へと変身する。この形態は脚力が大幅に強化されどんな高さからでも華麗に着地できる。

 

 そう考えていたのだが……。

 

「なんか……いつもと姿違くね?」

「私もそう思う。だけど見てよ、角がすっごくかっこいい!」

「いやまあカッコよくはあるが……」

 

 角の生えたうさぎなんてあったか……?まあいい、何にせよ安全に地上へ着地するにはバニーの力が必要なんだ。

 

「急いで行くぞ!」

「うん!しっかり捕まってて!」

 

 目指す場所は"工場層(ファビリオフェーズ)"のすぐ近くの建物の屋上。バニーに担いでもらってそこまで一気に飛び降りた。

 

 地上までかなりの高さがあり落下速度はみるみる上がっていくが、着地時に生じる衝撃は一切なかった。まるで柔らかいクッションが落ちたぐらいの感覚。

 

 事実、着地したバニー足元には一切のヒビすらなかった。

 

「よくやったバニー!流石の脚業と体毛だ」

「もー!その言い方やめてよ!モコモコ足って言って!」

 

 プンスコ怒るバニー。今の衝撃ゼロ着地ができたのはウサギの能力によるものだ。ウサギの手足には肉球がない代わりに自身の体毛で衝撃を和らげる事ができるんだ。

 

 無事に着地したウチは遠くで巨大ブリキロボがゆっくり歩いている姿を目撃する。

 

「わー、でっかいロボさん」

「あれだな……。ありがとなバニー、危ねェからここで待っててくれ」

「ママはどうするの?」

「まずは、奴を呼ぶ。来い……!!!」

 

 ここでさっき連絡を入れた奴の名を叫ぶ。正直、アイツは今戦闘中の筈だから来てくれるか半信半疑だ。だが、連絡で「必ず馳せ参じます!」と言ってたし……。

 

「サンジ!!!」

「おれフィム!!参上!!!」

「わっ!?急に飛んできた!!?」

 

 ……ホントに来やがった。キモいな。

 

「ジニーちゅわんの為なら例え火の中水の中だよ〜♡」

「お前黄猿の分身と戦ってたんじゃ」

「アレらは何とか片付けた。黄猿本体もでっかくなったルフィが投げ飛ばしてくれたよ」

「成程、じゃあ今は手が空いてると」

「イエス!それで何かご命令でも?このサンジ、貴女様のご命令とあらば如何なる願いも叶えてみせます!!!」

「おー、頼もしいな。だったら───」

 

 相手のテンションについて行けず素っ気ない態度で流す。そして、ウチは指を差しこれからの目的地を伝えた。

 

「ウチを、あのロボの中まで連れてけ」

「それは構わないが、そもそもありゃ何だ?」

「あれについてはウチもよく分かんねェ。だが、あのロボの中にいる電伝虫を見つけられればアルガを助けられるかもしんねェ」

「何っ!アルガを!?状況はよく分からないがやるべき事はわかった。すぐに連れて行く!!」

 

 アルガを助けられると聞きサンジはすぐに了承する。さっそく向かおうとするとバニーがウチの服を引っ張った。

 

「ママ!私も行くよ!」

「ダメだ。今五老星がこぞってあのロボに向かって来ている。五老星に目を付けられているお前を連れて行くわけには行かない」

「で、でも……!」

「安心しろ、目的を果たしたらすぐに迎えに行く。それまでバニーはここで隠れていてくれ」

 

 ウチの助けになりたいと想ってくれる優しさに胸を打たれるがあそこに連れていくのは危険すぎる。娘を思っているからこそ出た強めの言い方にバニーも理解し渋々頷く。

 

「う、うん……わかった」

「よし!いい子だ!」

 

 娘が屋上の物陰に隠れるとウチらも行動を開始する。サンジがウチを抱きかかえ空を駆け抜ける。そして、あっという間に巨大ロボの目の間に到着すると体に人が入れるサイズのゲートを見つける。

 

「サンジ!あそこのドアぶっ壊せ!!」

「了解!オラァア!!」

 

 錆びた鉄製ゲートに強烈な蹴りが入り見事ブチ破る。予想通り壊したゲートの先には通路があった。そこまで送ってもらいここからはウチ1人だけで通路を走っていく。

 

「サンジ!お前はここで待機だ!五老星が来たら知らせてくれ!!」

「了解!!」

 

 通路内は何故か証明がついている。つまりここはベガパンクが何か作業を行っていた証拠だ。てことはここに間違いなく……!

 

「あった!!電伝虫〜!!!」

 

 ビンゴ!と内心喜ぶが時間がない。すぐに始めるぞ。

 

 電伝虫にコネクターを接続するとパソコンでハッキングを開始する。この電伝虫は今全世界に向けて配信している。

 

 それを上手く利用すれば……!

 

『───最後に一つ……伝言(メッセージ)をさせてくれ。世界中に点在している……!"D"の名を持つ者達へ……。お前さん達の中に……』

 

 ベガパンクの配信は未だ不具合なく流れている。くそ、アクセスまで後、もうちょい……!

 

『も───ザザッ……』

「ッ!!しゃあ!!!ハッキング成功!!!」

 

 ガッツポーズをとったウチはすぐにジャック用の受話器を使い全世界へと声を届けた。

 

「アーアー、うしちゃんと繋がったなさっすがウチ。えー、今この中継を視聴している世界中の奴らに告げる。この配信はウチがハッキングした」

 

 ハッキングこそ成功はしたが問題はここからだ。その配信をあいつが気づいていなければ……いや、今更弱気になってんじゃねェぞ。

 

「ベガパンクのありがた〜いお言葉を聞いてる所悪いがこっちも切羽詰まってんだ。四の五の言ってらんねェ。ジジイの世界へ伝えてェ伝言よりもウチは友達の命を優先する!」

 

 あいつとの勝負に勝つ為にも……ぜってーウチの声を届けてみせる!!

 

「ウチがこの中継をハッキングしたのはこれが一番()()と連絡が取れる可能性が高いと踏んだから。ちんたら探す暇はねェんだよ」

 

 ウチは目的の人物に向けて怒鳴った。

 

『おいてめェ、いつまでだんまり決め込む気だァ?……なあ、サボ!!!』

 

 あいつを復活させるにはもうこれしか方法がねェんだ。頼む、サボ……伝わってくれ!

 

『今!アルガがてめェが死んだって嘆いて死にそうになってんだよ!!もし生きてんだったら!この中継を見てんだったら……!さっさと一言くらい伝えやがれ!!!ウチの番号は知ってんだろ!!』

 

 そう必死に語り続けるが……静寂の時間がだけが淡々と過ぎていく。

 

 それでもウチは語りかけるのをやめなかった。

 

『頼むよ、お前の一言でアイツは復活するんだ。怪物になった五老星に身も心もボロボロにされてんだ……。だから、立ち上がる何かが必要なんだよ!』

 

 とうとう怒鳴り声から泣きそうな声に変わり自身の行動が無駄だったんじゃないのかと不安な顔になる。

 

 しかし、諦めない。諦めてたまるか!最後の最後までウチはお前を……信じてる!!!

 

『ここで出なかったら一生恨むからな!?死んだ後も何で死んだんだって祟ってやっからな!?だから……!!いい加減声を聞かせやがれェェッ!!!』

 

 ウチは叫んだ。世界中に向けて何処かにいるであろうサボに向けて。チラリといつも携帯している小型電伝虫に視線を向けるが未だ音沙汰はない。

 

 もうダメなのか?いやまだだ!頼む、サボ───

 

───プルプルプルプル…

 

「っ!!」

 

 来た!!!

 

 ウチの持つ電伝虫が鳴り始める。急いで受話器を起動させると耳へと当てた。そして……。

 

───ガチャ

 

 

『……ジニー、待たせてすまない。おれだ、サボだ』

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