「…それから適当に物を拾って、1000年強の間ずっと暮らしてきた、って言うわけ」
生成した杖やこの家、皆がくれたラジオや宝石、リボンとかは、長いこと私の莫大すぎる魔力に当てられすぎたからか、私と同じく劣化しなくなってたから、ここまで無事生きてこれている。
結局あの後も何年も魔女狩りは続いたけど、新しく生まれた子ども全員が魔力を持ってるとかいうことになって収集がつかなくなったから、今みたいに魔法と科学の融合した共存社会が選ばれて。
最初の頃は魔法を使わないように、位で済んでたし、幸い魔物もそこまで強かったわけでもなかった。
でも魔物もどんどん強くなっていって人の開発する対魔法兵器だけじゃ手が足りなくなって。魔王とかいうのの出現をきっかけに、渋々と言わんばかりに魔法も併用していったのが大体6、700年前位。まあ最初の頃は手探り状態で全くと言っていいほど研究進んでなかったみたいだから正直そこら辺はノーカン。
で、魔法陣とかいう機構が発見されてそれを重視された開発が進んで、更にそこから派生した杖と魔導書という触媒、魔法陣という機構の三点重ねで人は自由に様々な魔法を扱えるようになって。
今となっては、それが普通になってる。
「………」
世界が現実に戻る。
途中感情が入りすぎて泣きそうになったけど、何とか耐えた。
「…私は、あの時皆との約束を破った。だから、これ以上約束を破らないように魔法を封じた。
小さく呼吸をして話に区切りをつける。
レオン君は、やっぱり複雑そうな顔をしていた。
「…気に病むようなことはないよ」
「いえ…どう言うべきかわかんないですけど、悪いのはエレオさんじゃなくないですか?」
それでも私は…と言いかけて、口を噤む。
「魔法の歴史については学校で少しやりました…けど、そんな前のことは全然知られてなかったです。せいぜい数百年前のことを…おとぎ話風に伝わってたりもしてました」
聞いてみると、学校で習う魔法の起源は魔王が生まれるところから始まるのだと言う。
まあ…人が魔法を許容しだしたのがそこら辺だからあながち間違ってなかったりするけど。
「…言ってしまえば、魔王も私が生み出したものとも言い取れるね。多分、この世で一番最初に魔力を持ったのは私だから」
魔力の起源が生まれて、それを素として魔力が世界に拡散して。
それから全人類が魔力を持っていったことで、大気に霧散する魔力量も増えて、魔力の吸収力も強くなった。
それが生物に影響を及ぼして魔物となり、魔王が生まれた。
魔法だってそうだ。この世界で魔法といえば一般的には私の系統の「物を作る、消す」魔法が主。レイトナやニーナみたいに既存のものを操作したり、カーミラみたいに探知したりする魔法も存在はするけど、比率的には少ない。
でも、一応魔法陣という補助を扱うことで誰でも使うことはできるようにはなった。
私達四人の魔力が混ざり合うことで魔法の構成が余計に難しくなって、人の手に負えなくなったから補助として扱われるようになった魔法陣。その中でも既存のものを操作する魔法が珍しい分類としてあげられるのは、多分四人の魔力の中で私の魔力が一番強く残ってて、三人の魔力が
「そういう、事だったんですね。だからこんなところに一人で…なんか、すみません。そんななのに魔法を教えてくれなんて言っちゃって…」
「…さっきも言ったけど、そこまで深刻に捉えられても困るよ。多分老衰で私が死ぬのは随分後になるだろうから、その間に何人も親しい人が死ぬのを見るのは辛いから一人でいるっていうのもあったりするし、それに、魔法を教えるのだって最終的に承諾したのは私だしね」
これは本当。
こんな時まで自分本位だった自分に呆れたりもしてたけど、もうそんな気すら薄れた。
それくらい、1000年っていう時間は長すぎた。
「ですけど……その、一個良いですか?」
2ヶ月くらい前、私に魔法を教えてほしいと頼み込んてきたあの日みたいに、レオン君は控えめに手を挙げた。
何?と聞くとゆっくりと口を開く。
「…勝手な俺の考えなんですけど、その……エレオさんのお仲間さんは、多分エレオさんに償ってほしいとかそういうのは考えてないんじゃないですかね」
トクン、と心臓が一つ大きく拍動を打った。
何で、と言葉が口を衝く前にレオン君は続けた。
「それだけ大切に思ってくれてたお仲間なんですよね?そんな簡単に責め立てるような事するかな…と思いまして、」
「…皆からすれば、信頼してた仲間に裏切られた感覚に近かったんだと思うよ」
「それはエレオさんの意見じゃないですか」
また一つ、大きく心臓が跳ねた。
喉が凍って、うまく言葉がでてこない。そんな私を見て逡巡した彼は、言葉を紡いだ。
「その…思った通りのこと言うんでちょっと失礼になるかもしれないですけど、エレオさん…誰かに何かしら罰したり、責めたりしてもらいたかったんじゃないですか?でもそのために人との関わりを自分から絶ったから自分で自分を傷つけて安心してる、みたいな…何ていうんですかね…ちょっと言葉選びが良くなかった気もしますけど」
「っ…!」
罰し、て…誰かに…私を?
「だってそうでもないと…その、こんな会って2ヶ月やそこらの、ただの魔法を教えるだけの生徒みたいな若造に今まで封じ続けてたそんな事、話さないですよ」
サ、と体中が粟立った。
同時に、操作して抑え込んでた魔力が無意識的に外に溢れ出して、威圧するかのごとくレオン君に襲いかかる。
普段の比じゃない量の魔力濃度。もはやそれは可視化できるレベルにまで煮詰まった濃厚な敵意の塊。
ガザっ、とレオン君が身を引いて、私の魔力から逃れようとした所でやっと正気を取り戻した。
魔力の操作をし直して引き戻し、再度自分の体の周りに滞留させる。
「す、すみません…その、責めるようなつもりはなかったんですけど…煽るみたいな形になっちゃって」
「…うん、まあえらくズカズカ入り込んでくるなとは思ったけど」
うぐ、とうめき声を上げてエレオ君は少し俯く。
…まあでも…
「…正直なところ、私も薄々それは気づいてたから」
認めたくはないけれど、本当に。
生き物は、永遠に罪を意識し続けることは出来ない。どんなにショックが大きくても、いつかは慣れて、薄れて、忘れて、何の問題もなくなってしまう。
そこだけは私も同じだった。
永遠にも近しい時間を自責の念だけで埋めるなんていう芸当、不可能だった。
だからせめて、内側の表面だけでも。せめて建前だけであっても、殻にこもって自分を責め続けることを贖罪と偽ることにした。
「…向いてないんだよ、結局」
自責とか贖罪とか、と付け足してからため息を付いて、ポス、とベッドにもたれかかる。
実際そうだ。
本当に追い詰められて悩んでたのは、ほんの数ヶ月。最初の方こそもう立ち直れないくらいにまで落ち込んでたのに、10年も経てば夢に出てきても「ああ、またか」で終わらせてしまう位には慣れてた。
今回動揺したのも自責を偽るための心の鎧が剥がれ落ちそうになってたからで、昔のことを思い出したからじゃない。結局私は自分のためにしか動けてなくて、皆のためになんか全く動けてない。
「マジですか」
そんな事をいうとレオン君はポカーン、としたようにこっちを見てきた。…ま、そんな反応にもなるか。
「エレオさん……やっぱめちゃくちゃいい人じゃないっすか」
……ん?
あれ、なんか思ってた反応と違う。
「…一応聞くけど…なんで?」
「いやだって…え?普通そういうの、引き摺っても1年とかでしょうし、でもいまだにそういう事でその御三方に申し訳なく思ってるわけですよね?いや…そんなのそうそうできることじゃないですよ」
指を折りながらレオン君は続けていく。
「結局自分のせい、なんて心から言える人がこの世にどれくらいいるか、って事ですよ。…その三人のお友達さんも、多分そういうところは分かってたんだと思いますよ」
「…いや、その、だって…」
ひたすらに頭が混乱する。
いや…そんなはずない。私が優しい?何を馬鹿なことを。私はただ怠け者で、唯一生き延びて長く生きてしまっただけの魔女。
仲間を、殺した…
「ほらだって」
ふと思考の間にレオン君の声が割り込んできた。
「今だって自分を責めますよね。それは嘘じゃないですよね?もう1000年も経ってるのに、です」
!!見透か、された…?
まずい、また頭がぐちゃぐちゃになってきてる。
どれが私の本当の思考か分からない…混乱に混乱を重ねられたように思考が絡まりに絡まって真っ黒に塗りつぶされたような…
「あーもー!」
パン!とレオン君の手を叩いた音で再びこの世界に引き戻される。
ふと見ると、少しうなりながらレオン君はくしゃくしゃと頭をかきつつ、なんか違うんだよなー、と零してから続けた。
「ともかく!なんか言いたいことが全然まとまんなくて変な言い回しになりましたけど、要は師匠は背負いすぎです!許してほしいなら俺が赦しますッ!」
何の権限もないっすけど!と言いつつにっ、と笑うその顔には…どこか、三人と重なって、
「、……クスッ」
すこし、笑えた気がした。
「弟子と認めた覚えはないよ?」
少しだけ、
「あっ」
…本当に。
笑えたのは、いつぶりだろう。