「…完全に言い方間違えた」
師匠との話を終えてギルドに戻って、備え付けられてる木の机と椅子に座って突っ伏してる俺。
いや頭に血が上ったのとかもあるだろうけど途中まじで自分が何言ってんのかわかんなくなったし、正直クソほど失礼なこと言った自覚ある。
やばい。師匠は軽く流してくれたけど正直次行きづらい。
「何やってんだお前」
とか考えてた時に頭の上から降ってきた声はよく聞く声で。
「…グレイか」
「おう。今日もあそこ行ってたのか?」
「ちょっと一回黙っとけ…」
突っ伏したままニヤニヤした声を聞き流して声を捻りだす。
いや自業自得だけどさ?流石にいつまでもこすりすぎるのは良くないと思うわけよ。プライベートなやつの可能性もあるんだし。
「そもそもだが見たなら分かんだろお前。見た目はまだ義務教育すら終えてないような人だぞ、あの人」
「ってことは実年齢は超えてんだろ。お前があの子じゃなくてあの人って呼んでるあたりそれなりに年上か?」
こいつ…マジでそういうところだぞ…
「…ま、そこらへんは置いといて。お前掲示板見たか?」
「掲示板?」
口調が変わった。おちゃらけた感じの口調から、ちゃんとした話をするタイプの声だ。
掲示板ってのは、依頼が張り出されてたりお知らせが貼られたりする伝達掲示板のこと。
今日はギルド寄らずに直行で師匠の家行ったから見てないな…なんかあったのか?と思ってそっちの方を向くと妙に人が集まっている。
「魔王討伐隊志願者召集」
俺が目を細めて掲示板に貼られているポスターの文字をはっきりと認識する前に発されたグレイの言葉に、反射的に手が動く。
お前の目的だろ?と言われて少し息を呑む。
来た、のか。
多分召集状が貼り出されたって事は、出発は一、二ヶ月後ってところだろうか。
…やっとだ。
剣術の鍛錬に加えて、それまでに最低でも上級魔法を完璧にしておきたい。
…いやまあ正直なところ上級魔法程度でどうにかなる相手じゃないのは知ってる。
そもそも、魔王のいる魔界内は完全に魔物に侵略された人の街だ。つまり魔物の数も規模も桁違い。
まあ全部倒す必要はないが、それでも妨害はされるだろう。ならわざわざ慣れない魔法でやるより慣れた剣術の方が勝手が良い。下手に魔力も食うし。
でもな、何があるか分かんないし一応。
「…ああ」
どこへともなく返事を返して、突っ伏していた体を起こす。
足を掲示板に進めた。
─────
「……こんなのだっけな」
外に出ると少しだけ、ほんの少しだけ色づいた世界が視界に入ってくる。
完全なグレーじゃなくて、色の上からグレーの絵の具を足したような色。
壁に取り付けられてるいつもの椅子に座って、足を伸ばす。
目を閉じればまた微睡むだろうけど、今日はそれが目的じゃない。
消えた歴史は、どこに行ったんだろう。
これじゃあ、皆がまるで最初からいなかったような事になってしまう。
……今日、何かちょっと調子のおかしかったレオン君は律儀にもまた本を持ってきてくれてた。
内容は、歴史書…伝記物と言ってもいいかな。この世界が魔法と科学の合わさった世界として存在した歴史を綴った(とされている)本だった。
…地から這い出た魔王と魔物。それらはこの世を支配し尽くすために次々と人のいる世界を襲い、魔界を広げていった。ソレを打ち倒すために神は人間に、生命エネルギーである魔力を用いた4つに分類される魔法を与えた。物質、現象を生み出す創生魔法、存在を探し求める探知魔法、この世を意のままに操る操作魔法、敵を欺き、攻め守る強、弱体化魔法。
俗に言う創生魔法は私の魔法だろう。探知魔法はカーミラ、操作魔法はレイトナ、強、弱体化魔法は…ニーナ?状態を弄るって意味なら確かに。
…けど、その力を与えたのは紛れもなく
むしろ悪魔だ。
更に言えば魔王はその魔女の内一人によって生み出されたわけだし、その上魔女の四分の三は今神を信仰している人の手によって殺された。
魔力が生命エネルギーなんてのもおかしな話だ。魔力なんて無くても人は生活していたし、むしろ本来魔力を持たないヒトに魔力を与えればあっという間に魔人に変わったのが実情だからどちらかといえば有害。
何がどうなってこんな御伽噺になったのか…いやまあ1000年も経てば事の顛末を知る人なんていなくなるだろうし、唯一であろう知ってる当人がこんな引きこもりだしで調べられないこともあるんだろう。
魔力切れ、なんてのもまず起こらないらしいから検証できないしね。
私みたいな莫大な魔力を持って無くても、どれだけ魔法を使ったとしても魔力の『最低量』があるみたいで、その魔力を使うことは出来ないらしい。まあ検証は遅れてるみたいだけど、そんな値が設定されてたら生命エネルギーみたいなのじゃないかって思うよね。
そんな事より魔物の対処が先だし、そこは分かる。
でも。
それでも、どうにも納得いかない。
それでも、その一般人に皆が殺されたのは、事実だから。
それが、その歴史が忘れ去られていなかったことに、なんて絶対に許されない。
「…魔王、か」
私が生み出してしまったのであろう最悪の結晶。
…本来なら、それは……