「エレオさん…!なんで、ここに、!」
「喋らないで、傷が開くよ」
近寄って杖を近づけて魔法を使う。
うわ、脇腹が抉られてる…魔力を回して
じわじわとえぐられた脇腹が再生していく。
「え、凄……」
『何だ、お前は…!!』
「さっき自分で姿形真似しておいて気付かないんだ。まあ記憶と歴史から推測したナニカでしか無かったってことかな」
治癒を終わらせて立ち上がってレオン君の手を取る。
立てと促す。
『小賢しい!』
ゾ、と十数本飛んでくる謎の黒い何か。
…多分魔法だろうけど。
……カーミラ、
──問題ないわよ
「エレオさん!!」
杖の宝玉が淡く輝く。
黒いそれらすべての前に青く光るバリアを展開して防ぐ。
「それは防げな…え?」
『何…!?』
なんかレオン君からも驚かれたけれど。
──どうやらその魔法、
……あーそういうことか
「考えてたことは同じってことか」
これは、触ったそばから触ったものを削り取って貫通させる魔法らしい。
なら私のこの障壁と似ている。
……1000年前、アニメやら何やらで良く出されていた「バリア」なるもの。何色かに光っていて、半透明で、どんな攻撃も防げて、でも許容量を超えると割れる。そんなエネルギーの膜みたいな物がバリアとして存在…というか空想されてた。それの再現が今のこの障壁。
私の魔法は万能ではあるけど全能ではない。
これに関して言えば、既存、既知の物質は出現させられるけど未知のものは出現させられない。あと私が認識できてないもの。
だからそんな都合の良いバリアは物質としては出せなかった。
だから、それモドキ。光の魔法でそれっぽい空間を作って、そこに私の魔法の能力を少し付与させる。
再三言う通り、私の魔法は無から有を作り出し、有を無に帰する魔法。それを応用して、触れたものを触れたそばから消失させるバリアができた。だから割れることはまず無いんだけど。
相手のあの触れてから削り取る魔法は掘り進めるものに近いけど、私の障壁はそもそも掘り進められない。物質としては存在してないからね。触ったら触ったものを触った分だけ消す、そんな魔法だから。
「さて、…レオン君、行くよ」
「え、」
何で?というふうな顔をされた。
…いやこっちが何で?魔王倒すんじゃないの?
「…これ、俺いります?」
もはや足手まといな気が…と呟く彼。
はぁ…なるほどね?
眼の前に飛んできた何本もの黒い雷を最小限の大きさのバリアで防ぎながら付け足す。
「弟子の目標を私が潰してどうするの、私はあくまで補助。…やるのは君だよ」
「…え、?」
体の中で魔力を回す。
魔王を
…ふーん、人型だからってのもあるからか、核的な感じのものが心臓部分にある…かな?
──正解ね。まあ正確に言えば魔力の供給元みたいなものかしら。
なるほどね。
カーミラの声を聞きながらそのままレオン君に伝える。
「おおよそ人の体で言う心臓のあたり、そこら辺に集中攻撃。攻撃と群がってくる魔物の対処は任せて、魔王を
「ぁ、はいッ!」
ザリ、と足を引いてから地面を蹴ってまっすぐ突撃するレオン君。
その周りに、空気中から魔物がボコボコと出てきた。地面凍らせたから出せないと感じたかな。多少オーバーキル気味に火球を放ちつつそれらを撃ち落とす。…あ、あれも実体残らないんだ。魔王が実際にこの場で作り出す魔法は全部あの形式と思ったほうが良いかな。
『クソ…烏合では足止めすらまともにならんか…』
「考え事してる場合か!?」
身体強化を両腕両足にかけて凄まじい速さで剣を振るっていくレオン君。…はっや。身体強化の精度なんかやばくない?…あ違う、あれ素の身体能力が高すぎて乗算された強化がエグいことになってるだけだ。
「な、何だあれは…うおっ!?誰だ君は!?」
「今は少し静かにしてて…っ、と」
いつの間にか後ろにいた冒険者と思わしき人の声を流しつつ、パシパシと火球を投げつけて生成量の減った魔物を処理していく。
「レオン…ハハッ、あいつやっべ。一人で魔王とやり合ってら」
リーゼントみたいな髪型の男性…知り合いかな?
というかどこかでこの魔力の感じ、感じたことがある気がするんだけど気のせいかな。
「…あれは…もはやうちのギルドの中では太刀打ちできるやつはいないな。俺ですら負ける…現状もはや俺達が行っても足手まといか。それより」
かなり堀の深い顔つきをしたおじさんの声。
…おっと黒いやつこっちに飛んできた、バーリア。
「…君はどこから来たんだい?」
「詳しい事情は後で。今支援で忙しいから」
にしてもちょくちょくこっちにも攻撃飛ばしてくる魔王なんなんだよ。意外と器用なのかな…?
「あ、あの…これ!」
と、後ろに馴染み深い魔力の塊。
「あ、ありがとう」
ニーナのラジオだ。
治癒は終わったか。さて…
「…ギア、上げようか…!」
魔力のみで出来た体は維持が難しい。さっきポンポン消し飛ばした魔物からもソレはわかる。明らかに道中焼いた普通の魔物よりも脆かった。
カーミラに確認してみても予想的中。魔力は基本濃度の高いところから低いところへと徐々に流れ出るから外殻をはっきりさせる必要がある。その分、硬くはなるけど、比例して脆くなる。アレだね、傷はつきにくいってやつ。ダイヤとかと似た感じか、弾性がないって意味で。
まあ魔力だけで出来てる体だから魔法陣なしで魔法使えたり、身体強化が常にかかってるみたいな状態になって攻撃力は上がるみたいだけど。諸刃の剣ってやつかな?…ちょっと違う気もするけど。
まあどっちでもいいや。つまりは、その外殻さえ壊せれば弱体化は免れないってこと。今だって、レオン君の剣がそもそも入ってないのがわかる。弾かれてるんだ。
だから…ちょっとだけ、お手伝い。ラジオを首にかけて一度深呼吸。
…あ、そうだ。
「魔力感知装置を持ってる人、電源を切るのをおすすめするよ」
これを言っとかないとね。
「は、はぁ?」
…とは言いつつわざわざ確認はしない。もう10秒くらいは経ってる。切ってなかったらそれは自己責任ということで。
さて、行こう。
直後。体から闇が吹き出る。可視化された魔力は光を遮り、ただでさえ暗かった魔界に夜が訪れる。
…魔王の体は魔力の塊。そして魔力を留めるためのその器も、魔力で想像された外殻に他ならない。
…だったら。
「な、なんだ!?」
周りが一気にざわざわと煩くなる。
…今は、関係ない。
『!!』
魔王も気づいたらしい。咄嗟にこっちに攻撃を仕掛けようとしてレオン君に隙をつかれてたけど、防いでた。何あの体の動かし方。
…まあそれはともかく。
「……ふぅ」
魔力は濃度の高いところから低いところへと流れる。
ならそれが、同濃度なら?
魔王の体の魔力と同濃度の魔力を流してやれば、外郭と空間の境界があやふやになって空間に溶け出る。
多すぎてもだめ、少なすぎてもだめ。
絶妙なラインを維持するためにカーミラの魔法を併用しながら無意識的に体にかけてたリミッターを少しずつ外していく。
『こ、れは…!!』
「(何だ…?攻撃が通りやすくなってる…?これは…師匠か!)」
一気に勢いを増すレオン君の攻撃と、劣勢になって防戦一方に回った魔王。
目に見えない勢いの斬撃が次々飛んで魔王の体に突き刺さっていく。
『この…下等生物、如きがあァァ!!』
!!不味い!レイトナ!
──やってる!そぉーれ!
「うおぁっ!?」
レオン君の背を引っ張るようにこっちに無理やり引き戻して眼の前にここにいる人全員を守れるくらいの広さの範囲のバリアを生成、次の瞬間。
『
周辺範囲に無差別に黒い風が撒き散らされる。
地面を、建物を、空間を切り裂いて次々と襲いかかってくる。
流石にバリアを乗り越えるほどの強さはないみたいだけど、あの範囲にもし残ってたら…跡形も残らないね。
『クソ…!!あのガキだ…あの人間のガキが来てから狂った…!!』
…私か。そりゃあそうだ。
テレパシーみたいな感じでレオン君にメッセージを送ってからバリアを抜けて前に出る。
レオン君や他数人の声が聞こえたけど一旦無視する。
「やぁ、魔王。ずいぶんとお怒りかな?」
『死ね!』
ノータイムで放たれる黒い風。それを…
「…こんな感じかな」
イメージして私も押し返す。
仕組みさえわかれば、あとは私のイメージ次第でどうとでもなるよ。
『!!』
「私の魔法は」
驚いた顔をする魔王に開示する。
「想像した物質、現象をこの世に出現、もしくは消失させる魔法。組み合わせればこの程度ならいくらでも使える」
『ッ…!この…!!』
黒い塊が次々出現して黒い雷、黒い炎、黒い植物、黒い流体…大量の魔法が展開された。
が。
「真っ向からやったほうが早い」
同じく、こっちも魔法陣無しで魔法を展開、正面から相殺する。
『何故だ…!お前は何だ!!人間如きの皮を被った化け物か!?人間の厄災と成る我の魔法をいとも容易く…!!』
「…人間の厄災?」
『ああそうだ!ヒト如きでは到達できぬ魔法の極地!圧倒的恐怖を与える存在!魔界を生成し、人間を侵略してきた我はいずれ文字通りの厄災と化し…』
「…悪いけど」
ピキ、と音が聞こえた気がした。少し抑えが効かなくなる。
一気にリミッターを外して体内の魔力をすべて解放する。後ろの方から小さい悲鳴が上がったけど気にしない。どうせ反応は想像してる通りだろうし。
普段から…元々から魔力をある程度制御してたせいか、無意識的にほとんどの魔力にストッパーを掛けてた。さっき解放した魔力でさえ全体の二割程度だろう。
「…
再び展開された夜に、
「その名前は…私達だけのもの。お前如きには名乗らせるわけにいかない」
杖を構えて魔力を回し、名乗る。
吹き荒れる魔力の嵐の中、せめて聞こえるように声を上げる。
「私は、エレオノーラ。すべての魔力、魔法の祖にしてお前の生みの親。呼ばれるべき名は、原初の厄災」
蔑称としてつけられる筈だった名。私にはつけられなかった名は今では私の別名として名乗るべき名でもある。
「お前の言い方をするのであれば。…たかだか数百年生きた程度の魔法で、私に傷をつけられると思うな」
イメージする。
魔法陣をイメージする。
魔法陣は、魔導書に描かれている物が最もきれいな形として描かれる。どれだけその見本に近い形を作れるか、それが魔法の強さに比例する。
私の魔法は、その理論値を叩き出せる。
放つのは、相手の最も嫌いな、最も弱い魔法。
「これが、お前が人ごときの魔法と言った魔法だ。…
円の中に正三角形を描いただけの簡単な魔法陣。
私のそこから生み出された火球は……一メートルを優に超える。
『ッ!』
いきなり出現した火球の速度に対応しきれずに少し掠る。斜めに放った火球は上空で破裂して掻き消えた。それを見て少し口角が上がった魔王を見る。
…そんなので安堵してたら…
「
次が来るよ。
4メートルはあるであろう巨大な炎槍が射出されて炎の尾を引きながら…魔王の体のすぐ右を通過した。
一瞬鼻で笑った魔王…の、体のど真ん中から炎の槍が突き刺さった。…わざと核は外した。そこを獲るのは、私じゃない。
「レオン君!」
「はいッ!」
ダ、と飛び出したレオン君。もうあのバリアには消失効果は付与していない。ただ光ってるだけの空間だ。でも先入観から魔王は無駄だと判断して後ろに攻撃はしなかった。まあ私しか視界に入ってなかったのかもしれないけど。
その中から飛び出てきたレオン君が構えているのは、私が唯一見たことのあるレオン君の剣技。
腰元に差した鞘から剣を抜き放ち、鞘に返すために振りかぶる、その過程で二回斬り放つ。書き出せばそれだけの技。
昔々の所謂…『抜刀術』と呼ばれるものに酷似した二閃の技。
しかし飛び出てきた彼に魔王が対応しないわけがなく、回避行動を取ろうとした。
防御ではなく回避を取ろうとしたのは既に体が維持できないくらいに外郭が薄くなってきてるんだろう。
……カーミラ
──ええ、変わってないわよ
カーミラの魔法で魔王の核の位置が変わってないことを確認。
……レイトナ
──まっかせて!
その核の位置、ひいては魔王そのものがその場から動かないようにレイトナの魔法でその場から動かないように固定。
……ニーナ
──大丈夫、行けるよ
ニーナの魔法でレオン君に身体強化を重ねがけ、体についた傷と疲労をすべて癒やして速度から膂力まで身体能力を極限まで高める。
最後に魔王が悪あがきで放った魔物たちを私の魔法で貫き、破裂させ、燃やして堕とす。
「終わりだ」
カチリ、とレオン君が鞘から剣を抜くのが見えた。次の瞬間には白閃が光り、彼が鞘に剣を戻しすのが目に入った。
元から分かっていなければ…いや、分かっていても何が起こったかわからないような閃撃。
彼の眼前には、斬られたことすら気付いていないような魔王の体が、その内部の結晶となっている核と一緒に真っ直ぐ二つに断ち切られていた。