魔王は、完全に討伐された。
核を断ち切られて散り散りになって空に溶けていった。
直後、爆発したような騒ぎを起こして横から後ろから大量の人がレオン君のところへと走っていって、胴上げを始めた。
その間に私は進んで、その開けた場所の端に行く。
……やっぱり、だ。
「ぇ、エレオさん!」
と、後方から本日の主役の声。
「どうしたの?」
「ありがとうございました!!」
そう言って九十度腰を折り曲げてお辞儀をした。後ろからかなりの人がワラワラと来てるけど、それに意も介さずに。
…真面目だねぇ。
「お疲れ様。でも早いところかえって体を休めなよ、今日だいぶ無茶な身体強化してたみたいだからそのうち反動が来るよ。今は一時的な治癒をしてるのとアドレナリンでも出てて何も感じてないかもしれないけど、もう数時間もしたら全身筋肉痛みたいになると思うから」
最後、魔力のリソースをほぼすべて身体強化に回して戦ってたみたいだしね…もう魔力切れる寸前みたいだけど流石に魔力の譲渡はできないからなぁ。
「…あの、エレオさん、ここに何かあるんですか?」
……相変わらず察しが良いこと。
「…ある、わけじゃないけどね。ここはね……」
───もともと処刑場だよ。
「…ぇ、」
そのまま見上げる。見間違えるわけがない。
もう1000年近くずっと夢で見てきた、広場。
かなり荒廃してるし、ぱっと身じゃ分からないかもしれないけど…これだけ、真新しい。
魔力による侵食を無効にする魔力を遮断する物質で作られた、魔女を拘束する十字架と鎖。
「ニーナが、カーミラが、レイトナが、そして、数多の魔女たちが処刑された広場。多分だけど、その残留した魔力が集まって、意思を持った。それが多分、魔王だ」
「えっ、でも魔王ってエレオさんの魔力から出来たって…」
「間接的にはね」
あれ、説明してなかったっけ…
魔力は恐らく私が一番最初に発現した。
その魔力がどういうわけか、全然知らない場所で変異して他の人に影響を与えた。
それが、多分あの三人。
多分大本は私だ。それこそ魔法や奇跡でもないと無から有は生まれないから。
…私に何で魔力が宿ったか、までは分からないけれど。
自分のことは自分が一番良く知ってるとは言うけれど、知らないものは知らない。
「…それ、エレオさんほぼ無関係じゃ…」
「さあね。考え方は人それぞれだよ」
地面に杖を突き立てる。前には合計3つの磔台。
「……………」
多分だけど、魔王が炎が苦手だったのもそのせいじゃないかなと思う。大体の魔女は火炙りっていう形で炎に処されてたわけだから。
魔王が姿形だけ私のことを知ってて概要を全く知らなかったのも、多分私のことを本能的に分かってたからじゃないかな。魔力の繋がりみたいなのがあって、その大本が私だって。
…本当に辛かっただろう。
魔女狩りが本格的に行われたのはそれこそ数年だけだった。だけど、その間に何人の人の命が奪われたかなんて数え切れない。
流石に、その全てが私のせいなんて崇高な考えは持ち合わせてないけれど。私にもいくらか責任はあるんじゃないかと思う。
だからせめて。弔わせてほしい。
「ごめんなさい。私は、生き残ってしまった」
膝をついて呟くように言葉に出す。
…死者と会話するような魔法は使えない。
もしかしたらできるかもしれないけれど、それはそれで、まあ…怖い。
でも、それとは違う。
「貴方達が繋ごうとした、繋ぐはずだった命の分、私は生きて貴方達の事を世に表すことにします」
これは意思表明だ。
他の誰でもない、私の、私への。
目を閉じて、指を絡めて祈る形を取る。
「もう、貴方達を無きものにはさせません。…だから」
推測でしか無いけれど。それこそ、証拠もなにもない暴論かもしれないけれど、歴史が消えたのには少しだけ考えがある。
当時の政府は魔力を持った人がさしてそこまで悪いというわけじゃないことが発覚して相当焦ったんだろう。当時それ一色になって、もう何十何百という人を死に追いやったか数えられたものじゃないんだから。
だから、それに関する現存する証拠をすべて破棄した。そして周りの人にも同じことを強制させた。どういう手を取ったかはわからないけど。
そして、その上で緘口令…という言い方も正しいかわからないけど、それに関する情報を表に出すことをせず、そもそもそんなことがあったという歴史そのものが人々の頭から消えていくのを待った。
もしかしたらその時の上の人は辞めて、新しい政府の上になった人がそれを制定させたのかもね。
情報の追加さえなければその記憶が受け継がれることはなくなって、魔法に関する新しい法を制定すればもう新しい時代の完成、なんて。
まあ全部空想でしかないし、証拠もへったくれもない暴論だけど、あり得ない、と一蹴もできない。
あってほしくは、ないけど。
「安らかに、お眠りください」
まあ今更そんな事を考えたところでどうにもならない。当時を生きていた人なんてもう今となっては生きてはいないし、親族だっているか怪しい。当時の政府はもう面影すらなくして新しくなってるし、謝罪しようにも誰が誰に向かって謝罪すればいいかわからなくなってる。
だから。
別に計慮な信者だったわけじゃない。ただ、こういう形を取るのが正しいと思っただけ。
祈るように磔台の前で手を組む。
サァ、と弱い光が網膜を刺激した。
磔台が、淡く光っていた。
丸い、光たちがそこから次々と生み出されて…空へ飛んでいく。
…どこかから、ありがとう、と聞こえた気がした。
「こ、こいつは…」
「なんだ、これ…?」
周りのざわめきも聞きながら、しっかりと目を閉じる。サラサラと何かが流れ出るような音が鼓膜を揺らす。
と、さらり、と頬をなにかが撫でた。
『エレオ、』
!
『…残念だけど、行かなきゃいけないみたいね』
『いつまでも一緒にいるとか言ったばっかりで…ごめんね?』
3人分の声が、聞こえる。そっと目を開けると、半透明に光りながら彼女たちはそこに立っていた。
少し崩壊しかけてる体を私に向けて、微笑っていた。
「な、なんだ!?」
『でも』
ふっ、と微笑みながらニーナは口を開いた。
『きっと天国からもエレオのこと見てるからね』
「…う、ん」
『まあ、これからはエレオも一人じゃないでしょうし、ね?』
「うん…!」
カーミラに頭を撫でられて、懐かしさを覚える。
『またこっちに気たらいっぱいお話しようねっ!』
『…レイトナ、それはどうなのかしら…』
『え!?いーじゃんかぁ、ね!エレオ!』
パタパタと腕を振り回しながら講義するように口をとがらせるレイトナを見つつ、思わず昔を思い出す。
「…うん、もちろんだよ」
『ほーらー!』
やれやれ、といった風に肩を竦めるカーミラとニーナ。
…もう、ほんとに。
「しまらないなぁ…」
涙は、出ない。
不思議と、勝手に口角が上がる。
…たった数ヶ月。
かつて過ごしたたった数ヶ月の時間の思い出が、頭を駆ける。
そのたった数ヶ月が、私の長い年月の元だった。
「…
『!うん!
『ええ、
『新しい約束ね。
それと同時に三人の体が完全に崩れて、他と同じように三つの光の玉になって空に昇っていった。
それを最後に、空の暗雲が少しずつ薄れていく。
魔界に、薄く光が差し込んできた。
またね、皆。