不朽の魔女   作:謎の通行人 δ

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(無法)

「……ってことがありまして」

翌日、別に教わりに行くわけじゃないけど師匠に報告に行った。グレイはギルドで真反対の方の依頼押し付けてきたからストーキングはされてないはず。

いやまあ報告してどうにかなるようなものじゃないのはわかってたけど一応な?

 

とりあえず、師匠については分かってることはいくつがある。

 

まずめっちゃ長生きしてて、俺なんかよりずっと歳上なこと。

多分実際はめちゃくちゃ強い魔法使いなこと。

でも昔になにかあって本人は魔法は使わないこと。

基本的に面倒事が嫌いで、俺の魔法の鍛錬に付き合ってたのもあんまり乗り気じゃなかったこと。

でもなんだかんだ真面目で一度引き受けたことは放り出さないこと。

 

「………そ。なんかいるなとは思ってたけどそういう感じだったわけか。…今日はそんな感じはないね」

…なんかいるなって…師匠気づいてたんですか。あれでもグレイ、トップクラスの実力者で並の感知系の魔法でも見つけられないくらいなんですが…たまにちょろっとすごい所こぼすよなぁ。

…っていうか。

 

「…エレオさん、なんか調子悪いんですか?」

何となく言葉に覇気が無いというか…いや覇気は元からあんまりないんだけど。

なんというか…目も合わないし、いつもより言葉がぼそぼそ出てる感じがする。

調子が悪いというよりは何か気にしてるような…

 

「っ………いや、なんでもないよ。気のせいじゃない?」

 

「いえその、なんというか…俺なんかやらかしましたか…というかバレそうになってる時点でやらかしてるのか。いやなんか、その…普段お世話になってるんで力になりたいというか」

「………普段は本の提供の見返りで教えてるだけ、それ以上でもそれ以下でもないよ。あと君が問題なわけでもないから…安心して」

「………」

…何だろう、この違和感。

無理して取り繕ってると言うか、この…

 

「………ごめんね、やっぱり調子悪いかも。今日は帰って」

 

「えっ、」

ぐい、と腕を掴まれてドアまで引っ張られる。

その動きにも、キレというか力強さは無い。

でも抵抗するのもなんか変な感じがして、そのまま連れられて外に出される。同時にいつもより強くドアが閉められて、カチャ、と何かの音がした。…鍵を閉められたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…!っ…………!」

駄目だ、本当に駄目だ。

何に対してもやる気が起きない。

でも何かをしてないと頭の中で声が響く。

もう何千回と聞いた声だ。

 

『─────どうして?』

 

「………違う…違う、違う…」

分かってる。今はあの時じゃないのは理解してる。

平和な世だ。

人によっては平和とは言えないかもしれない。

でもあの頃と比べたら、人が人を憎んで傷だけ残したあの時代と比べれば。

人に魔法を使うこともしなくて良い、わざわざ人から逃げる必要もない、それだけでも平和だ。

でも、それでも今でも思い出せる。記憶が、古い記憶が、この色の失せた世界でも煌々と光る炎が、悲壮に満ちた目が、脳裏に浮かぶ。

 

『ね、エレオ!あそぼー!』

『みんなの間での約束よ。人に向かって魔法使うの禁止。使うなら…仲間のためのときだけ、ね』

『この中じゃ敬語なんていらないよ。ほとんど同期みたいなものだし、家族間で敬語ってのも何か違うでしょ』

 

 

『……………うん』

 

 

 

『────どうして?』

 

『────何で…』

 

『────エレ…』

 

 

「っ………!」

 

 

頭痛がする。

ノイズが走ったような音が脳内に響く。

私だ。

私が、見捨てた。

三人の友人を。

三人の仲間を。

 

約束を、破った。

私が生き残るために。

三人の、魔女を。

 

 

…けじめとしてでも、自分で自分を決そうと思ったことはない。そんなことをした所でどうにもならないことは知ってる。

だから、これは贖い。

できる限り周りの人間と関わることすらせず、ただ延々と流れるこの時間を三人の分も生き続ける。

私は、ヒトじゃない。

私は、厄災だ。

ヒトならざるものに、平穏は与えられない。

 

 

ふと、ノックの音が聞こえた。

 

…帰ってなかったか。面倒だ、放っておこう。無視していれば多分そのうち帰ると思う。

 

『…その、エレオさん』

ドアを越えて部屋に声が滑り込んできた。

 

『今まで少なくとも、エレオさんが嘘をついたことはなかったですよね。だから、今回も嘘じゃないと思ってます。俺が原因じゃないってのも、多分そうなんだと。でも、少なくとも俺も一枚噛んではいるんだと思います』

本気でこっちの身を案じているような声色。

…聞く必要は、ないかな。

 

『だから、あー…その、なんて言ったらいいかわかんないんですけど、その…話せるようになったら話してほしいです。ほら、悩みとかって口に出したら楽になるっていうじゃないですか。それに、単なる見返りって言ってましたけど少なくとも俺はそれ以上のものを貰ってます。貰われっぱなしってなんか嫌じゃないですか』

ベッドに潜り込んで、蹲る。

……言い方が、本当に上手い。

 

『俺、ここにいるんで。その、いつでも話してください』

 

…やめて。

 

「…………レオン君は、人を殺したことはある?自分が動けば助けられるのに、助けなかったことは、ある?」

ドアの向こうでガタッ、と音がした。

…急な話題で焦ったか。

 

『いや…無いですけど…』

 

「…………普通はそうだよ、そういう物。普通はね…私は普通じゃない。普通じゃないから、別に普通の人の対処法なんてしなくていい。…帰って。少し一人になりたいの」

だから、突き返す。

どうせ人に話すことはない。依頼も出さなければもう接することはないだろうし…いや、また明日も来る可能性あるか。どうせなら電磁柵でも設置しておけばよかったな。

 

と、ドアの向こうでガサガサと音がした。…立ったらしい。

 

『明日、また来ます』

そうとだけ言ってレオン君は多分去った。

 

別に、彼が嫌いとかそういうのではない。むしろ好感は持てる。

多分感じからして、私が面倒くさがってほとんど何もしないのも魔法を使わないようにしてるのも、その背景も何となく察してはいるけど無理に聞き出そうとはしないような、優しさも持っている。

 

悪いのは私だ。

 

 

 

 

 

 

 

…まあ、そんな事をまたぐるぐると考えていたらいつの間にか眠っちゃってたんだけど。

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