プロローグ
暗い暗い嵐の空。城の城下町と思われるとある街に現れた無数の闇の兵士達。それらは平和な時間を過ごしていた人々を絶望の淵に追いやり、傷つけた。そんな夜が続く中、暗い空を打ち破るようにして五つの光が降り立つ。
一つは赤い炎に燃えたぎり、一つは白く凍てつく氷を纏う。一つは月のように周囲を優しく包む黄色い光を放ち、一つはミントグリーンで見る人々を思わず魅入らせる程の輝きを纏った。
そして、最後の一つ。それは紫の夜空のような光を持つと他の四人の戦士達を束ねるかのように一歩前に出る。そこにいたのは四人の少女達に一人の女性だった。彼女達の前にいるの世界を暗闇に染めた無数とも思える闇の兵士達。しかし、五人の目には希望の光が灯っている。
「行きましょう。皆さん」
リーダーと思われる女性の言葉に頷く他の四人の少女達。五つの光が街中を駆け抜けていくと炎、氷、そして三つの光によって闇の兵士達次々と消滅していった。
彼女達の力によって街から闇は消え、青空が広がった。五人の戦士達は闇に堕ちたこの世界に光を取り戻したのである。
それから更に長い長い時が流れていく。その間、再び平和な時間が世界を包んでいた。……ただ、その平和な時間は無情にも人々の記憶や伝承を曖昧にさせていく。五人の戦士達の話は長い時を経て人々の記憶からとっくに忘れ去られてしまった。
そんな中、とある吹雪の夜の事。一人の女性が赤ちゃんを弱ったような目で見ていた。
「ユキ……ごめんね。私達が不甲斐ないせいであなたの未来を見届けてあげられなくて……」
女性の息は少しずつ弱くなっていくとユキと呼ばれた女の子の赤ちゃんを見る。その子は生まれてからさほど時間が経っておらず、赤ちゃん用のベッドでスヤスヤと眠っていた。
女性が更に別の方向を向くとそこには家の中に仏壇のような物があり、そこには男性と思われる名前が書かれてある。尚、その名前の末尾にはアラーレの文字が刻まれていた。
「……奥様。支度が済みました」
「預け先も目星がついてます」
そこに一人のローブを着込んだ二人組の男性が現れると共に女性へと話しかける。
「……そうですか……。お二人共に私からの最期の命令です。ユキを……ユキを……安全な人の元に預けてきてください。アラーレ家に代々伝わるアレを持たせて……」
弱々しく女性がそう言うとユキと呼ばれた赤ちゃんを見つめ、涙を流すと同時に彼女へと伸ばしていた手を力無く落としてしまう。
「ユキ……せめて幸せに生きて……」
「はっ……必ずや」
「奥様……我々が責任を持って」
二人組の男は女性へと頭を下げると赤ん坊のユキを抱き上げる。それから彼女が吹雪のせいで凍え死んでしまわないようにタオルで包むと二人は吹雪の中、彼女を抱きながら歩いていく。
それから二人は暫く徒歩で進んだ。時間にして四時間程。夜は更けており、深夜帯に入る中。……二人はある一軒家の前に止まると扉をノックした。
「はい……」
出てきたのは青髪の女性で女性は二人組の男とは初対面なのか驚いた様子を示す。
「あの……どちら様ですか?」
「レミ・ハレワタールさんですね」
その言葉を聞いて女性は驚く。初対面の男二人に自分の名前を知られていたからである。同時に警戒心を抱いた。
「あなた方は誰ですか。もし、危害を加えるなら……」
「……申し訳ないが名前を名乗る事はできない」
「ただ、あなた方に危害を加えるつもりは無い事は保証します」
そう言って二人組は自らが身に付けていた武器を捨てる。それを見てレミは多少警戒心を解くが、未だに混乱していた。
「その上でお願いしたい」
「この子を……預かってもらえないか」
そう言ってが男達はユキを見せてレミへと差し出す。ユキは未だに夢の中なのかスヤスヤと可愛らしい寝息を立てていた。誕生してそこまで経ってないせいか、産毛でそんなに生えてなかったものの髪色は雪のように白い。加えてユキの顔つきはとても可愛らしかった。この赤ちゃん……ユキは女の子のようだ。
「ですが……」
レミが受け取るのを渋っていると家の中から男性が出てくる。彼の髪は女性と同様に青い。男性は出てきてすぐにローブの男達に帰ってもらおうと言葉をかけた。
「こんな時間にいきなり来て、赤ちゃんを引き取れと。……迷惑なので帰ってもらえませんか?」
そう言って冷たく返す彼の名はシド・ハレワタール。この家、ハレワタール家の主人だ。
「……こちらとしても迷惑を承知で頼みたい。この子の親は今し方亡くなってしまった」
「我々では……この子の面倒を見る事ができない。無理を承知でお願いする」
男達が頭を下げるものの、彼の二人は混乱してしまう。……こうなるのは当然だ。いきなりやってきてどこの馬の骨ともわからない赤ちゃんを預かってほしいなど虫が良すぎる。普通なら断られるだろう。
「……やはりあなた達の期待には応えられない。帰ってください」
「そこを何とかお願いする」
「……我らの主人の一人娘なのだ」
男達は二人が断っても引き下がろうとしない。どうするべきか困ったような顔を二人がすると突如として家の中から赤ん坊が泣く声がした。その声を聞いて慌ててレミがその方に向かっていく。
「……あなた方もわかるでしょう?このままだとこの子がどうなるか」
「……彼女の成長に伴う生活費ならある程度工面する」
そう言って男の一人はそれなりの額のお金が入った袋を出しつつ中身を見せる。どうしても引き取って欲しい気持ちの現れだろう。
「ッ……」
シドは少し考える仕草を見せると一度溜め息を吐く。それから二人へと答えを返した。
「……わかりました。引き受けましょう」
「お心遣い感謝する」
そう言って男達は赤ちゃんをシドに預けるとそれから約束通り、お金の入った袋を渡した。シドが改めて確認すると彼女が成長する上で最低限は必要となるだろう額が揃っている状態だ。
そんな中、赤ちゃんは目を覚ますとシドを見て喜んだようにキャッキャッと笑う。そしてレミが戻ってくると赤ん坊を抱くシドを見て驚いた。
「あなた……どうして……」
「すまない。レミには迷惑をかける。だが、この子を見てみろ。まだソラとそう大して変わらないぐらいの赤ん坊がこの吹雪の中一人で生きれると思うか?」
「でも……」
「頼む……」
「わかったわ」
レミとしてもユキを吹雪の中見捨てるのは心が痛み、最終的にシドに押し切られる形で納得すると彼女を受け入れる事を認めた。
そんな中、ふと赤ん坊を見ると彼女の首にはくすんだ色をした丸いアクセサリーがかけられており、赤ん坊はニコニコと微笑む。
「そういえば、この子の名前は?」
「……ユキ。名前はユキだ」
「ユキ……。本当にユキだけなの?」
レミが疑問に思って問いかける。普通はユキの後に何かしら入るはずなのだ。恐らくアラーレがそれに当たるだろう。しかし、男達はそれを言わなかった。
「……それは言えない」
「それが主人の意思だからだ」
二人組はその言葉を最後に雪道を引き返していく。暫くして吹雪の中に消えていくかのように男の姿は見えなくなるのだった。
それから半年近くの時が過ぎ、ユキが預けられたハレワタール家とは別の世界での事。一人の男性がこちらも赤ん坊を抱き抱えた状態で歩いていた。その体はそれなりに傷ついており、何者かと戦った後のようである。
「ッ……アサヒ、絶対にお前を彼女の元に送り届ける」
それから少しして、男は街の外れにある丘の上にあるそれなりの広さのある家に到着すると家のインターホンを押す。すると出てきたのは温厚そうな顔つきの白髪のおばあちゃんだ。
「……虹ヶ丘ヨヨさんですね」
「あなたは……」
彼女の名は虹ヶ丘ヨヨ。そんなヨヨが男性の顔を見るとその顔を知っているようで驚いたような顔になるが、その顔はすぐに真剣なものに変わる。
「……そう、この時が来てしまったのね」
ヨヨはこうなる事を予想していたかのような口ぶりであった。そんな彼女を見て男は目を見開くが頼もしそうに笑う。
「なるほど……確かにハイパースゴスギレジェンドと言われるだけありますね」
男は彼女が噂に値する人物だと判断。そんな中でヨヨは男が抱いているを見る。
「その子は……」
「ああ、まだ生まれて半年くらいの俺の一人息子だ。すまない、ヨヨさん。この子を……アサヒを預かってもらえないか?」
その言葉を聞いたヨヨはアサヒと呼ばれた男の子を見る。彼の髪は赤茶色であり、幼い瞳をヨヨへと向けた。ヨヨはアサヒへと微笑むと大丈夫だとばかりに頷く。
すると男はアサヒをヨヨに預けると一人彼女へと背を向ける。ヨヨはその男に声をかけた。
「……あなたはこれからどうするの?」
「少し行かないといけない。……まだ助けないといけない人がいる」
その男はそう言ったものの、どこか悲しそうな顔つきである。この様子を見るに、助けないといけない人は生き残るのが絶望的と言わんばかりだった。
「……ちゃんと戻ってくるのよね?」
「俺の名前にかけて約束する。……心配しなくてもすぐにアサヒを引き取りに戻ってくるさ」
そう言って自信を見せる男だったが、その声色はまるで今から無謀な突撃をし、命を散らしそうな人が出す声であった。
「必ず戻ってくると約束できる?」
「ああ」
「そう。じゃあ、私に任せて頂戴」
ヨヨは止めようと考えるが、彼の意志は固いと感じると逆にやる事を後押しするように言う。そして、そんなヨヨからの言葉に安心したのか男性は小さく頷くとそのまま歩いて行った。
「この子のためにも、俺は必ず戻ってくる」
そう小さく呟きを残して。彼が去るのを見届けたヨヨはふと預けられた赤ん坊、アサヒを見ると彼の首からはユキと同じように色のくすんだアクセサリーが残されていた。すると、一瞬だけアクセサリーが赤く光ってからその光は消えてしまう。
「……無事に戻って来れると良いんだけど」
ヨヨは不安そうな声をあげた。しかし、もう男はどこかへと消えてしまった後で、その場にはヨヨとアサヒだけになってしまう。それからヨヨが家に入ると二人の男女がヨヨを出迎えた。
「その子は……」
「さっきの人の?」
二人の名は虹ヶ丘あきらと虹ヶ丘まひる。二人は夫婦であり、今日は年に数える程しか無いヨヨの家を訪問する日であった。
「このままじゃ、あきらさんにもまひるさんにも迷惑をかけてしまうわ。だからこの子は私が……」
ヨヨがそう言うものの、あきらとまひるは首を横に振る。……そしてまひるが抱いていた自分の娘……ましろを見てからアサヒを見やった。
ましろは小豆色の髪をした女の子である。そんな中、アサヒの方は父親の男がいなくなった上に初めて見る人達に不安を感じている様子だった。
「大丈夫。今日から君は僕達の息子だ」
それを聞いたアサヒはこの場にいる人が自分へと害を加えないと感じたのか、笑顔になると安心する。
この二つの出会いをキッカケに運命の歯車は回り始めた。ハレワタール家と虹ヶ丘家に預けられた二人の赤ん坊。ユキとアサヒ。そして、ハレワタール家の娘、ソラに虹ヶ丘家の娘、ましろ。四人の運命はこの出会いから少しずつ、動き始めることになるのであった。
〜十三年後〜
運命が動き始めたその日から十三年後。場面は空に浮かぶ島々……スカイランド。そこでは二人の少女が山の中でランニングをしていた。二人の発する軽快な息遣いが響き渡る中、少しするとランニングを終えて一時休憩をする。
「ふぅ……やっぱりソラちゃんは速いなぁ……」
「ユキさんも十分ですよ。私にしっかり着いてきてますし!」
一人は青い目に青い髪をサイドテールに纏めた元気いっぱいの女の子、ソラ・ハレワタール。そしてもう一人は白く美しい髪をセミロングにして薄い水色の目をした少女、ユキ・ハレワタール。とは言っても、ユキは自分の名字を知らないので仮として付けられたに過ぎないが。
「そんな、私なんてまだまだだよ。ソラちゃんに比べたら私なんて全然及ばない。ソラちゃんに勝てそうなの、持久力ぐらいだし……」
ユキはソラからの言葉に対して自信無さげな表情を見せる。そんな彼女を見たソラは頬を膨らませると彼女へと指をさして注意した。
「むーっ、ユキさん。前にも言いましたよね?謙遜するのは結構ですがユキさんは自信が無さすぎです!……もっと自信を持って、胸を張ってください」
そんな風に言うソラ。だが、ユキは頷きこそするもののやはりその顔は浮かなかった。
「休憩もそこそこしましたし、そろそろ組み手……やりましょうか!」
「うん」
ソラの言葉と共にユキも動くと二人で向き合う。それから二人はガンマンの早撃ちのように背中合わせにしてからそれぞれが三歩前に出ると四歩目を出すと同時に反転。そのまま二人で組み手を始めるとユキがソラへと声を上げた。
「はあっ!」
「やあっ!」
二人は素手で組み手をすると最初こそ互角になるが、やはり力も速さもソラの方が上なのかユキは最終的に地に伏せられるとギブアップを宣言する。
「はぁ……はぁ……そういえば、明日だよね?ソラちゃんが都に行くのは」
ユキは荒い息を整えながらソラへと質問する。それを聞いたソラは笑顔になるとユキへと答える。
「はい!あ、でも私一人では行きませんよ!」
「……え?」
「ユキさんと一緒にです!」
ユキはソラからそう言われると一瞬思考が停止。それから意味を改めて理解すると同時に大慌てでソラへと反応する。
「無理無理無理だよ!私なんかが都にだなんて!……きっと、私のようなダメダメな人が都にいたって浮くだけだよ!」
「あーっ、また自信の無いこと言いましたねユキさん!」
そんな風にソラが言う中、ユキはまた不安そうな顔つきをしながらソラへと更に言った。
「それに家の家事はどうするの?……私もソラちゃんも行っちゃったら手伝う人がいなくなってレミさんに負担が……」
「ママはそんな事で迷惑には思いませんよ。……それと、負担の事ですけどユキさんだって人の事言えませんからね?」
「え?」
「一年くらい前、ママが風邪にかかった時に一人で家事を頑張って全てやろうとして焦って失敗を連発して。最後には疲れで逆にユキさんが風邪をひいたじゃないですか」
「あはは、そんな事もあったよね……」
ユキはソラにそう言われて苦笑い。そんな彼女はさておき、ソラは改めて話す。
「とにかく、私はユキさんと一緒に行くって決めてるんですから。そうと決まればパパとママにこの事を報告しに行きますよ!」
「ふぇえっ!?」
それからユキはソラに引っ張られると一緒に二人は山の中を家へと向かって走って行く。
それと同時刻、スカイランドとはまた別の世界。遥か遠くに空が見える小さな街……ソラシド市。そしてその外れに存在する丘の上の豪邸……虹ヶ丘家での事。そこでは一人の少年が夢を見ていた。
「うーん……」
その中では四人の歳の近い少女達と少しだけ歳の離れた大人の女性が闇の怪物に立ち向かい、闇をあっという間に打ち払っていくのを見る。
「凄っげぇ!まるでヒーローだな」
少年は興奮した様子で声を上げた。そんな中の一人、赤い衣装の女性が少年の方を向くと歩いてくる。
「え?え?もしかして、俺に用でもあるのか?」
その中で少女は笑顔を向けるとアサヒへと話しかけるべく口を開けた。彼女の言葉を聞こうとするとどこからともなく誰かの声が聞こえてくる。
「アサヒ!アサヒ!アサヒってば!」
そう言われて夢を見ていた少年が目を覚ます。髪は赤茶色のショートヘアで瞳が薄い赤色をしていた。少年の名は虹ヶ丘アサヒ。こちらも名字については父親の男から伝えられなかったために仮として付けられた名字である。
「んあ?ましろ……おはよ」
「もう、今はまだ春休みとは言ってももうちょっとしたら自分で起きないといけなくなるんだからね!」
そうやって言うのは虹ヶ丘ましろ。ピンクがかった薄い小豆色のロングヘアーを髪の一部を結い上げ後頭部辺りでシニヨンにしている。また、白いリボンを結んでいて瞳の色は緑だ。
「ってもよ、まだ春休みだし眠いものは眠いんだ。もう少し寝かせ……」
「ダメだから!もうそこそこ時間遅いからね!ほら、朝ご飯食べるよ!」
「くっ……折角可愛い女の子に話しかけられる良い所だったのに」
そう言って渋々と起きるアサヒ。それから二人は下に降りると彼はましろの祖母であるヨヨに朝の挨拶を済ませるとご飯を食べた。
「そういえば、夢の中のあの子達。一体何だったんだろ?」
「あの子達?」
それからアサヒが夢について話すとましろは腕を組んで考えるが結局何も浮かんで来ない。
「でもただの夢でしょ?気にしなくても良いと思うけどなぁ」
「うーん。ただ、何だか俺と縁がありそうな気がするんだよな。特に最後に話しかけようとした赤い髪の少女」
「それってどこかで会うって事?」
「そうそう」
「え〜。流石にそんな運命みたいな事あるかな?」
そう言って頑なに信じようとしないましろ。そんなましろにため息を吐くアサヒ。
「あ、そうだ。アサヒ、明日はお出かけに付き合ってもらうからね?」
「……は?何でだよ」
「おばあちゃんからさっき言われたの。明日おつかいに行って欲しいって」
「えー……」
アサヒはそう言ってヨヨの方を向くとアサヒへと微笑む。それを見たアサヒは仕方ないとばかりに頷いた。
「……わかったよ。今日って言わずに明日にお願いする辺り何かありそうだけど……」
「ふふっ、お願いね」
アサヒは正直どこか不安な気持ちがあった。おつかいを頼むなら今日も暇のため今日頼めば良いものをわざわざ翌日に頼む辺り、何かヨヨに意図があるのではないのかと。
そして、アサヒの予想通り四人の運命がまた大きく動く日はすぐ翌日に迫っていた。その出来事が少年少女達のこれからを大きく左右するのだが……まだその事実を誰も知らない。
オリキャライメージCV
ユキ・ハレワタール……南條愛乃さん
アサヒハレワタール…… 柿原徹也さん
お気に入り、感想、評価があるととても嬉しいです。また次回もお楽しみに。