シャドーが姿を現す少し前。ロープウェイの中にて。あげはとヒョウの二人は話していた。
「ヒョウ君。ちょっと聞きたいんだけど良いかな?」
「え?あ、はい」
「……アサヒの事、ヒョウ君は嫌いになってる?」
それを聞いたヒョウは複雑そうな顔つきになる。嫌いかそうで無いかと言われると確かにあまり良い気持ちはしていない。何しろ慕っていたユキをアサヒが独り占めしているからだ。
「その顔はまだ気持ちに整理が付いて無さそうだね。アサヒは悪い子じゃないと思うけどな」
「それはわかっています。……ユキ姉もアサヒといる方が幸せそうに感じますし、きっとユキ姉にとってはそれがベストだと思います」
「……それは自分の寂しい気持ちを殺す事になっても?」
あげははヒョウの心の中に秘められた寂しさを見抜いていた。多少性格が大人びているヒョウも実際はツバサと同年代。寂しい気持ちだって勿論ある。
「でも、俺はちゃんとアサヒがユキ姉を幸せにするとは信じています。だからこそ今はこれで良いんです」
「そっか。……私の意見は違うな」
「え?」
「別に二人が恋人になったからってユキちゃんに甘えてはいけない。そんなルールって誰が決めたのかな?寂しくなったらいつでもユキちゃんに甘えれば良いと思うよ」
「でも、ユキ姉はアサヒと一緒にいるのに……」
ヒョウの顔が僅かに曇る。どうしてもヒョウは躊躇してしまうのだ。二人の間に勝手に割って入って邪魔をするのはダメなのでは無いのか……と。
「確かに時と場合によるとは思うよ?でも、友達として接する事がダメだなんてユキちゃんはきっと言わないと思うな」
それを聞いてヒョウはここ最近ユキに話しかけられてないという寂しさが募り始める。
「あ。そろそろ着くみたいだよ!」
それからロープウェイは頂上に着くと二人はあげはが抱いているエルと共に降りるとあげはは一人登山口の方へと向かう。
「あげはさん!?」
「ふふっ。こっちこっち!」
ヒョウが慌ててその方向へと向かうとその視線の先には山道を一人登ってくるツバサがいた。
「え……」
実はロープウェイの中からあげははヒョウと話しながら登ってくるツバサを上から見ており、そんなツバサを出迎えるためにその方へと行ったのだ。
「頑張れ!少年!」
「えるぅ〜!」
「どうして……」
ツバサが息を切らせながら呼吸を整えているとあげはが後ろへと指を差す。そこにあったのは先程まで自分がいた道が翼の絵を描いており、その中を様々な色の花が咲き誇ることによって虹のカラーリングに染めていた。
「虹……。あれって謎解きの答え」
「うん。上から見ないとわからないようになってたみたい」
「最初俺もあげはさんがロープウェイを使うって言って耳を疑ったけど、それでもこの答えに辿り着くためだと気付いたから賛成したんだ」
「本当に綺麗……」
あげはが景色に見惚れる中、ツバサが何故自分が来るのがわかったのか聞く。そしてそれに“登るのが見えたから”と答えるとツバサはまた揶揄われたと思い言葉を返す。
「わかってたのなら言ってくださいよ!」
「えー?でもあのロープウェイって窓が開かないし伝えるのは厳しくない?」
「それは……そうかもしれませんが」
ツバサがヒョウに言われて口籠る中、周囲の空気が一変。するとロープウェイの姿をしたランボーグが登ってくるのが見えた。
「え!?」
「ランボーグ!」
そして唖然とする三人の元にランボーグが降り立つとエルを抱いたあげはを捕まえてしまう。
「プリンセス!!あげはさん!!」
「こんな事をしやがるのは……カバトン、お前だな!」
するとロープウェイの拡声器からカバトンがマイクテストとばがりに話し始める。
『あー、テッステッス。プリンセス・エル、ゲットさせていただきましたー!ついでに脇役ガールBもゲットなのねん!ま、こっちはいらないけど』
そんな事を言っているとあげははムッとした顔に変わる。とにかくこのまま逃げられるのは止めなければならない。ツバサはそのままプリキュアへと変身する。
「スカイミラージュ!トーンコネクト!ひろがるチェンジ!ウィング!」
そしてウィングの姿がプリキュアへと変化するとそのまま名乗りを上げる。
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!」
ウィングはヒョウに下がるように促すとヒョウは頷く。ウィングはそのまま空を飛ぶと向かってきたランボーグへとパンチを繰り出そうとする。
「はあっ!」
しかし、ランボーグは捕まえたあげはとエルを前に出すとウィングは攻撃をキャンセルせざるを得ない。
「ッ!?」
ウィングは何とか攻撃を思い留まると別の方向からキックを放つ。しかし、ランボーグはまたあげはとエルを盾に取ってウィングからの攻撃を回避する。
「うわっ!?」
「おい!お前ら!あげはさんとエルちゃんを人質にするなんて卑怯だろ!」
ヒョウが文句を言うが、拡声器から指示を出すカバトンはまるで平気な顔つきのままである。
『プリンセスに何かあっても構わないのなら攻撃をやってみるのねん!』
「コイツら……」
『ランボーグ!プリンセスを連れて戻ってくるのねん!』
カバトンがそう言うとランボーグはその指示に従ってロープウェイのケーブルを掴むとそのまま滑り降り始めた。
「プリンセス!」
「ッ……」
ウィングがその後を追う中、ヒョウは悔しがっていた。こんな大変な時に何もできない自分の無力さに……。
「放せ……このっ!……って、本当に放されても困るんだけどね……」
今現在、二人はランボーグに捕まっている状態ではあるのだが今その手を放されてしまうと地面へと真っ逆さまに落ちて叩きつけられるのは明白。なので放されても困ると言ったのだ。そんな中、あげははふと作戦を思いつく。その作戦を実行するためにあげははランボーグへと話しかける。
「ねぇ、君。私とジャンケンしよ!ジャンケン!」
「ラン!?」
「ジャンケンだよジャンケン!ちなみに私は……グーを出すよ!」
あげはは堂々と自分の出す手を宣言。ランボーグが困惑する中、ウィングも驚きカバトンはそんなあげはを笑う。しかし、彼女の目つきは本気だった。ウィングもそれをわかっているのかあげはが嘘を吐くようには見えていない。
「ララ……」
「え!?」
「宣言しちゃうとは……もしかしてちょっとおバカさんなのねん!ランボーグ、パーを出すのねん!」
カバトンがランボーグへと指示を出し、ランボーグはパーを出す事を決定。それを聞いたあげはは心の中で狙い通りだと考える。そして最後にウィングへのサインを送ることにした。つまり、ウィングを一瞬だけ見ると目でウインクしたのだ。
「ッ……」
ウィングはそれを見てあげはが何をするのか理解。そしてそのタイミングであげははジャンケンを始める。
「それじゃあ行くよ。ジャン……ケン!グー!」
あげはとランボーグがジャンケンをするとランボーグは片手がケーブルを掴む手で塞がっているために必然的にあげはを捕まえている方の手でジャンケンをせざるを得ない。そうなるとパーを出せば捕まえているあげはを放すのは必然だった。
「あ!?」
カバトンはそれを見てようやくあげはの意図に気がつくが、もう遅い。あげはは重力に従って落下を始める。その直後、それに反応したウィングがあげはの下に回り込むと受け止めた。これにより、何とか救出に成功したのである。
「ありがとう!ツバサ君!」
「幾ら何でも無茶しすぎですよ!ボクが気づかなかったらどうするつもりだったんですか!」
「ふふっ。ウィングなら気づいてくれる、私を助けてくれるって信じてたよ」
あげはにそう言われたウィングは恥ずかしさでいっぱいになると照れ隠しをするように声を張り上げる。
「とにかく、安全な所に隠れていてください!」
ウィングはあげはにそう宣告するとさっさと頂上にまであげはとエルを退避させ、自分はランボーグと戦闘をするために戻っていくのだった。
少し時間を遡り、山の麓にて。シャドーと向かい合うアサヒとユキはプリキュアになるための光に包まれていた。
「「ひろがるチェンジ!」」
「静かにひろがる白い雪景色!キュアスノー!」
「夜明けにひろがる眩い朝日!キュアサンライズ!」
二人が変身を終えるとシャドーは体に力を込める。その瞬間に発生した衝撃波がサンライズとスノーを吹き飛ばした。
「「ッ!?うわっ!?」」
二人が地面を転がると体中に痛みが走る。そのダメージの大きさに二人は驚きを隠せなかった。
「嘘、ただの衝撃波だけでこのダメージだなんて」
「今の一瞬でわかった。アイツ、前に戦った時とは次元が違う」
シャドーは刀を抜くと二人へと突撃。その体にはオーラが纏われており、力を既に二段階解放しているのがわかる。
「ぬん!」
シャドーから振り抜かれた刀から発生した斬撃が二人へと迫ると二人はそれをギリギリで躱す。しかし、再び前を向くと既にシャドーはそこにはおらず。二人が殺気を感じて振り向く頃にはシャドーは二人へと斬撃を命中させており、二人は痛みが走った直後に地面へと叩きつけられた。
「ッ……くぅ……」
「はぁ……はぁ……」
二人はシャドーからの攻撃をたった数発受けたのみだ。にも関わらず、もう既に息も上がっており体中に傷が付いていた。
「な、何てパワーにスピード。俺達が反応すらできないなんて」
「でも……まだ負けてなんか無い」
二人共フラフラと立ち上がると今度は自分達からシャドーへと攻撃しに行く。
「「はあっ!」」
だが、その攻撃はシャドーに簡単に受け止められると押し返される。次の瞬間、シャドーの体が一瞬ブレたかと思うとサンライズとスノーの体に激痛が走る。
「「うわあああっ!?」」
そのまま二人はその場で崩れ落ちるとシャドーが刀を突きつけて声を上げた。
「おい。もう終わりだなんて言わせないぞ。俺と戦え」
「コイツ……どうすれば……」
サンライズがシャドーを睨む中、スノーはシャドーから何かを感じ取ると質問する。
「ねぇ、どうしてそんなに苦しそうなの?」
「……はぁ?」
シャドーが呆れたように聞き返す中、スノーは立ち上がってシャドーへと語りかける。
「あなた、とても苦しそうに見えるよ……。だって、前までは純粋に戦いを楽しんでいたのに……今は力に振り回されている気がして」
その直後、スノーの頬がシャドーによって平手打ちにされるとスノーは吹き飛ばされた。
「お前ら、勘違いするなよ?俺は苦しくなんかない。むしろ、戦うための力が得られて喜んでいるんだ。それを理解したらさっさと立て。俺と戦え」
しかし、その目は前までのシャドーとは明らかに違う。するとどこかから声が聞こえてきた。
『苦……しい。お願い……たす……けて』
それを聞いた二人は目を見開く。それは、前にシャドーが一時的に変化したプリキュアの声だった。
「スノー!」
「うん……聞こえたよ。あなたの本当の気持ち!」
するとサンライズとスノーは手を繋ぎ、二人の最強の浄化技を発動させる。
「サンライズフレイム!」
「スノーアイス!」
「二つのプリキュアの魂が!」
「闇の僕達を打ち砕く!」
「「プリキュア!エレメントスクリュー!」」
二人が放った炎と氷のエネルギー波がシャドーへと向かっていく。そして、それがシャドーへと命中する瞬間だった。
「ふん」
シャドーが片手を前に出すとそれだけでエレメントスクリューを受け止めてしまう。そして、力を込めると一瞬にしてそれは掻き消されてしまった。
「なっ!?アレを一瞬で消しただと」
「嘘……私達の最強の技なのに……」
二人が動揺した直後。シャドーはお返しとばかりに技を発動。円月殺法の構えを取ると技を使った。
「ひろがる!シャドーブラッドムーン!」
その一撃が動揺する二人へと命中するとそのまま大爆発と共に二人はその場に倒れ伏す事になる。
また次回もお楽しみに。