ユキが変身できるようになった日から数日が経過した。その間、カバトンからの襲撃は無く、平和そのものである。ただ、そんな中でアサヒはとある夢を見るようになった。その夢というのが……。
「ランボーグ!」
「だああっ!」
スカイがランボーグへと攻撃をするために接近しようとするが、ランボーグは地面に生やした突起のような物でスカイへと反撃。
「ッ、そんな物に当たりません!」
スカイはそれを跳び上がりつつ、見事に隙間を回避してランボーグへと肉薄する。
「ランボーグ!」
しかし、その瞬間にランボーグは右腕を一気に伸ばすとそれを横薙ぎに動かして無防備なスカイの真横から薙ぎ払ってしまう。
「きゃああっ!?」
更にスカイが吹き飛んだ先にランボーグがハメ技とばかりに地面から大量の細長い何かを生えてくる。それがスカイの体の周りに出てくると彼女の腕や脚の隙間に入り込むようにして動きを完全に封殺してしまう。
「ッ!しまった!」
スカイはどうにか拘束を外そうと生えてきた細長い棒を掴んで外そうとするが、動きが制限された中で力は上手く入らずにどうする事もできなかった。
「スカイがダメなら……私が!」
そんな中でスノーは手に氷を纏わせるとそれをランボーグへと繰り出す。しかし、スノーが肉薄するために接近するとランボーグが両腕からロケットパンチのような形で腕を飛ばしてくるとスノーは焦っていた影響もあってまともに喰らってしまう。
「しまっ……きゃあっ!」
スノーは吹き飛ばされてもすぐに立て直してランボーグへと向かっていくが、その焦りはどんどん大きくなっていく。
「私がどうにかしなきゃ……。スカイは動けなくて、戦えるのは私だけ。私がやらなきゃ……」
ただ、スノーは何度もランボーグを倒すために攻撃しようとするが、その度にランボーグから反撃を受けて逆に体の傷は増える一方。そんな様子を夢の中のアサヒはただ見ているだけしかできなかった。
「ダメだ……スノー、焦り過ぎだ!」
アサヒはそう声をかけるものの、自分がプリキュアじゃ無い以上はスノーを助ける事なんてできない。
「くっ……」
アサヒが握り拳を強く握りしめる中、スノーはどうにか冷静さを取り戻して地面を凍結。ランボーグを転ばせるとその隙を逃さずに踏み込んで技を使う。
「ヒーローガール!スノーインパクト!」
スノーがボレーシュートをランボーグへと放つ。しかし、その瞬間にスカイが慌てたように声を上げた。
「スノー、ダメです!」
「え?」
その瞬間、スノーの突進の進路上にいきなり生えてきた何かがぶつかるとそれはスノーの勢いを殺すためにゴムのようにしなってからそのままスノーを押し返してしまう。
「きゃあああっ!」.
スノーはそのまま吹き飛ばされて近くにあった岩に強く体を打ち付け、その際に受けた激痛に悶えた。
「ううっ……」
「ランボーグ!」
すると直後にランボーグのターゲットがアサヒの方へと向く。そして、その少し後にランボーグが腕からロケットパンチを飛ばす。
「ッ!?」
その直後、爆発音が響くとそこにはボロボロのスノーが立っていた。ただ、彼女はアサヒを庇ったために激しいダメージを受けてその場に崩れ落ちてしまう。
「う……くうっ……」
スノーは疲れ切った様子で息切れを起こしており、もう戦う事などできなかった。しかし、それでも彼女はフラフラと立ち上がるとアサヒを守るために両手を広げて立つ。
「止めろ!ユキ!そんな体で無理したら……」
「私が……守るんだ……私が、私が……」
絞り出したような弱々しいスノーの声色がアサヒの耳に入ると同時にランボーグはゆっくりと接近。直後にスノーの無防備な腹へと鈍い音が鳴る程に重い拳がぶつけられると彼女はそのまま気を失って変身解除してしまう。
「あ……うっ……」
「ユキ……?ユキ?しっかりしてくれ!ユキ!ユキ!」
アサヒが傷ついて倒れ伏したユキの小さな体を懸命にゆするが、ユキの意識は無く返事もできない。
「どうして……どうしてこんな……」
その様子を見たスカイやましろは絶望し、エルは泣き出してしまう。そんな中でアサヒはユキが無惨にやられた姿を見て悲しみに暮れた。
『この辺で良いかしらね』
その瞬間、指が鳴らされるとその空間がいきなり切り替わる。その場は何も無い荒野へと早変わり。そして、そんな中で一人の少女がアサヒの前に姿を現した。
『私とはこの前の夢の時に会ったわね。改めて、よろしく。虹ヶ丘アサヒ君。いえ……アサヒ・マブシーナ君』
「マブシーナ?何だよそれ……」
『あら?君の本名だけど知らないの?』
「そんな事はどうでも良い。さっきのアレは何なんだよ」
『あの映像の事?……少し先に起こり得る可能性の高い未来よ』
「……は?」
アサヒは言葉の意味がわからずに困惑する。そんな様子のアサヒを見て少女は小さく笑みを浮かべつつアサヒへと疑問を投げかけた。
『あなた、このままユキちゃんやソラちゃんだけに戦わせて傍観して。それで満足なのかしら?』
「それは……」
『それもそうね。さっきのあの光景を見せられて、この先の未来にそれが訪れるとしたら……満足なんてできないのも当然よね。……ただ、予め言っておくけど、今のあなたには変身なんて無理よ』
「ッ、それはどうして?」
『……私から教えても良いけど、それはあなたのためにはならない。だから自分で考えることよ。……まぁ、ヒントぐらいはあげるわ。それは……あなたの心の中にある』
少女はそう言うと指を鳴らすと同時に自身の行く先に炎の壁を展開。自らそこに入る形で去っていく。
「そんな、このままじゃユキが大変な目に遭うのに無責任過ぎるだろって!」
炎の中に消えていく少女をアサヒは追いかけようとする。しかし、その瞬間にアサヒへとその炎が襲いかかると視界を奪い、それと同時に目が覚めてしまうとアサヒは布団から起きた。
「なっ!?」
アサヒは手を見るとガクガクと震える。それは自分のせいでユキを失う事への恐怖もあった。
「クソッ、最近この夢ばかりだ。やり取りだっていつもこれだし。……でも、段々とリアルさや夢を覚えられる時間が増してきてる」
つまり、この出来事が起きてしまう瞬間が近づいているという事だ。アサヒはそれに恐れを抱いた。
「どうすれば……どうすればユキを救えるんだよ」
それからアサヒが時間を見るとまだ早朝でいつもアサヒが起きる時間よりもかなり早かった。
「まだこんな時間……。でも、眠気を感じないし……」
アサヒはどうするか困り果てたために一旦また寝れないか布団に潜ろうとする。すると部屋の外から誰かが通るような音が聞こえてきた。
アサヒがそれを聞いてそっと扉を開けるとユキやソラがジャージ姿になっているのを見かける。
「あれ?ユキにソラ?」
アサヒがそんな二人を見て思わず声をかけると二人はそんなアサヒの方を振り向いて返事を返す。
「あ、アサヒ君!おはようございます!」
「おはよ!アサヒ君!」
「お、おはよう。え?二人共そんな格好で何を……」
「何って、これから二人でランニングだよ」
アサヒはそれを聞いて驚く。この数日間、自分は早朝の少し早い時間帯はゆっくり眠っていた。そのために気が付かなかったのだが、その間にも二人は朝早くにランニングをしていたというのだ。
「じゃあ、アサヒ君。また後で……」
「待って!……俺もそのランニングに一緒に着いて行って良いか?」
ソラとユキはアサヒの発言を聞くと少しだけ顔を見合わせる。ただ、断る理由なんて無いので喜んで受け入れた。
「良いよ。偶には一緒に走ろ、アサヒ君!」
「私達のランニングは厳しいですよ。しっかり着いてきてくださいね!」
「あはは、お手柔らかにな……」
そして、それから早速三人でランニングをするために家を出ると薄暗い早朝のソラシド市の中を走る事になる。
……ただ、走り出してから僅か十分程でアサヒのペースは少しずつ乱れ始める。
「はぁっ、はぁっ……う、嘘だろ……ソラ、ユキ。いつも、こんなペースで……走ってる……のか?」
この様子からアサヒは二人のペースに全く着いていけてない。そもそも、中学生男子は持久走を体育とかでやったとしてもその時間的最大値はどんなに遅く走っても15分とかだ。早い人は10分以下で終わる。
ただ、今三人がやってるのはそのペースよりも少し早い上に時間は10分をとうに超えている。そう考えれば、並程度の体力しか無いアサヒでは追いつけなくなるのも当然であった。
「はい!あ、でも普段はこれよりもう少しペースは速いですが、今日はアサヒ君が参加してるので」
「うん。アサヒ君の様子を見ながら無理しないように調整してる」
しかもこれでユキとソラは抑えて走っている。アサヒはましろよりは体力があるから多少は着いていけると思ったが……見立てが甘すぎた。幼少の頃から鍛えてきていた二人の背中が遥かに遠く思えてしまう。
「マ、マジかよ……。手加減してこれ?なかなか……やばい」
それでもアサヒはどうにか根性で喰らい付くと少しでも二人に遅れまいと走り続ける。
それから暫くして、何とか折り返しの中間地点であるソラシド市を一望できる高台に到着した。
「「……おはようございます!」」
それから二人はいつもの通り、地平線の向こうから登ってくる朝日へと挨拶をする。
「は、はひぃ……ヤバい、死ぬかも……うぅ」
「アサヒ君!?はわわっ……無理はしたらダメだからね」
アサヒはこの時点でかなり疲れ果てており、少し気を抜いたら本当にダウンしそうで怖かった。そんな彼をフォローしようとユキが慌てている。ただ、この様子を見るに、ユキとソラのスカイランドコンビはまだまだ元気そうな顔をしていた。
「やっぱりすげぇよ。二人共」
「そうかな……」
ユキは少し恥ずかしそうな顔をしてアサヒへと返事を返す中、アサヒはそん彼女を更に褒める。
「ユキはもっと誇っても良いだろ。……だって、こんなに走れる女子中学生。普通に見た事無いし」
「そっか。……ふふっ、ありがと!」
ユキはアサヒに褒められたからか、どこか彼女の声色は普段よりテンションが少し高そうだった。そして、そんなユキの変化に気づいたソラはその理由を聞く事にした。
「ユキさん、今日は何だか上機嫌ですね」
「え?そう見えるかな……」
「あー、それはわかる。ユキ、いつも暗い感じだからな」
アサヒもそんなユキの変化が気になった様子だ。いつもよりも明るい顔をするユキが珍しいのだろう。
「あはは、……それは多分、私がプリキュアになれたからかな」
それを聞いて二人は顔を見合わせると一緒に頷いてから納得の顔つきになる。……ユキが今まで自分を卑下していた理由の一つとしては彼女には自分に自信を持てる何かが無かったという事が挙げられる。だからこそ自分はダメな人間だと思って下を向く事が多かった。
しかし今はプリキュアという絶対的な自信を持てる何かがユキにはある。だからこそユキはこうして張り切っているのだ。
「こんな私の力でも皆を守れるって考えたら嬉しくて」
ユキが嬉しそうにして微笑んでる。そう言う中、アサヒはふと夢の事を思い出した。夢の中に出てきた少女の言った事が本当であればユキがこの後、近い未来でランボーグ相手にボロボロに負けてしまうという事実がそこにはある。
「(そうだ、夢の事をちゃんと二人に言わないと……)」
アサヒは二人に自分の見た夢について話そうと考えた。その方が今後のためでもあると感じたからである。
「あのさ、ユキ」
「……ん?アサヒ君、どうしたの?」
アサヒはそのまま夢の事を話そうとする。……しかし、その直前。アサヒの心にある不安が降って湧いた。
「(……待て、もし今ここでその事を話したら……ユキはどう思うんだろ)」
ユキは今、自分に自信を持ち始めたばかり。しかもそのおかげで彼女は前を向けている。それをこのタイミングで自分の見た夢の内容を言えばどうなってしまうか。
少なくとも、彼女は確実に自信を喪失してしまうだろう。加えて夢で見たからそれがそのまま起きるという不確実な要素で二人を混乱させる事になる。
そして、そうなれば折角彼女が明るくなってくれたのにまた元の暗い顔に逆戻りだ。それをアサヒは嫌った。
「アサヒ君?」
「ごめん、やっぱり何でも無い」
「そっか。……もし、私達で力になれるならいつでも話して大丈夫だからね?」
「アサヒ君の悩みならいつでも聞きますから!」
「ありがとう。じゃあ、相談ができたら話すね」
そう言って誤魔化すアサヒ。そして、彼は夢の内容は一度話さずに胸の中にしまっておこうと決意する事になる。
「(……ひとまず、この事は黙っておこう。その方が余計な混乱を与えなくて済む。それに、ユキやソラが二人揃っててそう簡単に負けるわけ無いもんな)」
アサヒはそう言って決めつけると体力が戻ってきたという事で三人はまたランニングを再開。折り返し地点の高台から家に戻っていく事になる。
三人が家に戻った際の余談だが、家でその時朝食を作っていたましろはアサヒが珍しく一人で早起きした事にとても驚く事になるのだった。
また次回もお楽しみに。