虹ヶ丘家で朝ご飯を食べたユキ達。その美味しいご飯の数々を堪能してからアサヒとましろはユキやソラに話しかける。
「そうだ。ソラちゃん、ユキちゃん。ごめんだけど少しの間エルちゃんの事を任せても良い?」
「どうしてですか?」
「ましろのご両親は仕事の都合で今海外に住んでいるんだけど、俺達は定期的に二人とビデオ通話をするんだ」
つまり、今日がその日という事になる。勿論そういう理由ならユキもソラも断ることは無い。
「わかりました!でしたらエルちゃんの事は任せてください!」
「うん。私達がしっかり面倒を見ておくからね」
「二人共ありがとうだよ」
それからましろとアサヒは食卓のテーブルの椅子に隣り合わせで座ると二人揃ってタブレットの画面を開く。そのまま時間に合わせてましろの両親とのビデオ通話を開始する事になるのだった。
「ましろちゃん!アサヒ君!早くこっちの仕事を終わらせて会いたいよ。ホワホワのまっしろな綿雲、ま・し・ろ・ちゃん!それに、夜の闇を照らす明るい太陽、ア・サ・ヒ・君!」
最初に声を上げたのはましろの父親である虹ヶ丘あきらだ。彼は溺愛する娘と自分の娘であるましろと同じくらい大切なアサヒへと親しみの意味を込めた言葉を言う。ただ、流石にその言い方が子供っぽかったので二人は揃って困惑の顔つき変わった。
「や、やめてよパパってば。そういうの!」
「それに関しては同意見。……幾らあきらさんでも限度があるし、頼むからやめてくれ。……色々と恥ずかしい」
「そうだよ!それにいつまでも私達は子供じゃ無いんだよ?」
「ええっ!?……そう?」
「「そうそう!」」
その言葉にあきらは唖然とする。彼としては可愛い娘のましろや息子同然に育てたアサヒへの愛情を込めた呼び方をしているつもりだった。しかし、そういうのが通用するのはもっと幼い子供までだと言わんばかりに二人は否定する。すると画面越しの映像にましろの母親であるまひるも顔を見せる。
「元気にしてる?ましろ、あさひ。寂しくない?」
まひるからの言葉にアサヒもましろも大丈夫と言わんばかりの笑顔を浮かべつつ反応を返す。
「大丈夫だよ。おばあちゃんもいるし、それに最近新しい友達もできたし!」
「しかも二人もだ。二人と話していると毎日が楽しくて。出会えて良かったって思えてる」
そんなアサヒとましろの元気そうな所を見て安心したのか、あきらもまひるも微笑んだ顔つきとなっていた。
「そっか。今度帰ったら紹介してね!」
「また連絡するから!」
「うん。二人共、お仕事頑張ってね」
「俺達も学校とかを頑張るから」
「「うん、じゃあね!」」
そんな感じで短い時間ではあったのだが、二人との会話は終わるとビデオ通話は切れてまた暗い画面へと変わる。
そんな様子を居間で見ていたユキとソラは家族の微笑ましい団欒であると感じていた。
「例え家族が離れていても、こうして顔を合わせれば笑い合える……素敵だな」
「はい。エルちゃんもそんな家族の元に戻してあげないとですね」
するとエルを抱っこしていたユキは彼女の頭を優しく撫でる。そんな時だった。エルは少しだけ周りをキョロキョロしてから突如として涙を浮かべつつ泣き始めた。
「え、えるぅ〜!ええ〜ん!え〜ん!」
「うえっ!?私、エルちゃんに何も……」
ユキは自分が何かをしたせいでエルが泣き出したと感じるが、その行動を振り返っても特に心当たりは無い。
「エルちゃん?どうして?」
「エルちゃんが泣いちゃったか……」
そんな彼女の泣き声を聞くとアサヒとましろもタブレットを片付けてソラとユキの元に寄っていく。
そんな中でエルを抱いたユキはまたお腹が空いたのかと考える。そのため、近くに置いてあるミルク入りのマグを手に取るとそれをエルへと差し出した。
「よしよーし。ミルクが欲しいのかな?ここにあるからね〜」
「えるぅ!」
ユキは優しい声色で話すが、その直後に自分が今欲しいのはミルクでは無いと言わんばかりに飲むのを拒否してしまう。
「ミルクじゃ無い……それならおしめの方かな?」
「えるぅ!」
しかし、おしめでも無いとエルが首を振って否定。それから彼女は不安そうにまた辺りを見渡していた。その挙動はまるで誰かを探しているかのようである。
「あ、もしかして……」
「ましろさん、わかるんですか?」
「パパとママに会いたいのか」
二人はエルの目線に合わせる位置に顔を持っていくと、そう話しかける。それに対してエルはその通りであるとその質問に対して首を縦に振った。
「……える」
「そうなんですか。……とは言ってもスカイランドに戻る方法はわからないままですし」
「うーん、だよね。……せめてパパとママの顔を見せてあげられればなぁ……」
「ただ、現状スカイランドと通信できる凄い物なんてここには無いだろうしなぁ」
「うん。……こっちの世界の機械は便利ってわかってても、そこまでは融通効かないだろうし」
四人はエルが家族と会う事ができず、そのせいで発生していたホームシック問題をどうするべきかと困り果てているとそこにヨヨがある物を持って入ってきた。
「……できるわよ。両親の顔を見せてあげる事方法があるの」
「「「「……え?」」」」
「ヨヨさん、そんな便利な物があるんですか?」
ユキの問いにヨヨは微笑むと四人の座っているテーブルの上に何かを置く。それはピンクの縁取りに下側の縁取りに一つ付けられたピンクのボタンのような物が付いた一枚の不思議な鏡である。
四人はこのアイテムを知らないが、実は前にエルと一緒にお留守番をしている際に虹ヶ丘家で四人の様子を見た鏡でもあった。
「これを使えばスカイランドと通信することができるわ」
「なるほど、なるほど、それは随分と便利な物だ……は?」
「「「「え?……えぇーっ!?」」」」
四人はヨヨからの言葉に一瞬唖然とするが、意味を改めて飲み込むとまさかの展開に一同は驚くばかりだ。しかも、この普通に見るだけなら何の変哲も無い鏡を使えばスカイランドとの通信もできるらしい。
「この鏡の名前はミラーパッド。好きな場所を映せるの。スカイランドにいるこの子の両親ともお話できるのよ」
それからヨヨはピンクの丸いボタンを一度押すとミラーパッドが起動し、タブレットのようにスワイプ操作をするだけで実際に鏡の中に街の景色が次々と映っていく。
「マジか。まるでタブレットと魔法の鏡が合わさったような感じだな」
「へぇー、この世界には便利な道具があるんですね」
そんなミラーパッドと呼ばれる超が付くほどに便利な鏡を見たソラは感心したかのような声を上げる。
「いやいや、そんなの無いよ!」
「あはは、だよね……」
「この世界だけなら兎も角、異世界の景色も映せるくらいに便利な道具なんて普通は有り得ないしな」
ソラの言葉にましろが慌てて否定の言葉を示すとユキやアサヒもそんな彼女に同調。それからましろは何故自分の祖母がこんな物を持っているのか。本人に直接聞く事になる。
「おばあちゃん、こんな鏡を持ってたなんて。一体何者なの!?」
ましろだけで無く、他の三人も詰め寄るとヨヨの回答に注目する。そん中、彼女はニッコリと笑うと平然とした顔つきである事を口にした。
「実はねぇ……私はスカイランド人なの!」
その言葉を聞いた瞬間、一同の間に少しだけ間が生まれる。そして、数秒後にましろはその言葉を繰り返した。
「そっかぁ……おばあちゃん、スカイランド人なんだねぇ……」
「え、えっと……ましろちゃん?大丈夫?」
「あー、これは完全にキャパオーバーしたやつだな」
ヨヨから告げられたまさかのトンデモ発言にましろの脳内は一気にキャパオーバー。それと同時に湯気が出てくると改めて事実を理解して叫び声を上げる。
「ス、スカイランド人!?」
「なるほどなぁ。……だからユキやソラと会った時に全く驚かなかったのか」
「だとすると本当にヨヨさんは……」
「スカイランド人って事になるよね」
それから彼女の口から事情が説明される。どうやらヨヨは元々、スカイランドの方で博学者だった。今から五十年ぐらい前にアサヒやましろ達のいるこの世界を調べるためにソラシド市へとやってきたらしい。
「そんな事があったんですね」
「ふふっ。最初にこれを言わなかったのは、いきなりこんな事を話してもきっと信じられないと思ったからよ。……でも、今なら夢なんかじゃ無いって。信じてもらえるかしら?」
ヨヨからの言葉に四人は揃って頷く。それと同時にソラはハッとした顔つきになるとある事を聞いた。
「って事は、ヨヨさんはもしかして……私やユキさん、エルちゃんがスカイランドに戻る方法も……知ってたりするんですか?」
「ええ。ちょっと時間が必要になるけど、私に任せておいて」
「本当ですか!?」
ヨヨからの言葉にユキとソラは嬉しそうな顔つきに変わると二人揃ってお礼を言う。
「「ありがとうございます!」」
「ふふっ。だから今は……」
「寂しそうなエルちゃんのため!」
「スカイランドと通信するのが先……って事ですね」
「えぇ」
それからヨヨは改めて分厚い本を持ってくるとその本のとあるページを開く。そこにあったのは透明度のある綺麗な青い鉱石だった。アサヒやましろはその鉱石を見た事が無かったが、ユキやソラはそれを知っていた。
「これってもしかして!」
「スカイジュエルですね」
「「スカイジュエル?」」
通信をスカイランドにまで届かせるには沢山のエネルギーが必要となる。それを賄うためのエネルギー源としてスカイジュエルを使おうという事だ。
「スカイランドにある様々なエネルギーとして使える鉱物です!」
「こっちの世界で言えば電気や燃料として使えそうな物って事か」
「……こんなの見た事無いし、簡単には見つからなさそうだね」
「でも、今はエルちゃんが悲しそうにしてる。あんな子を放ってなんておけない。だから、何としてでも見つけよう!」
アサヒは一瞬だけエルの方を向くと悲しそうな顔をしていた。そのために、スカイジュエルを何としてでも探す決意を口にする。また、それに続くようにしてましろ、ソラ、ユキも頷くと立ち上がってヨヨに場所を聞く事にした。
「私達、エルちゃんを助けるためにもスカイジュエルを手に入れたい!」
「絶対にエルちゃんのパパとママに合わせてあげよう!」
「ヨヨさん、そのスカイジュエルって、どこに行けば見つかるんですか?」
四人の覚悟の言葉を聞いてヨヨは今の四人なら可能な限りは世界のどこにでも行きそうな空気を見せているため、彼女はその場所を伝える事にした。
「……ふふっ。ウチの裏山にあると思うわ」
「「「「どわーっ!!」」」」
四人はここまで壮大な前フリがあったためにスカイジュエル探しはかなりの長旅になると思っていた。そのため、意外と近場に落ちているという事実を聞いてあまりの近さにビックリしてズッコケる始末である。
「う、裏山!?」
「意外と近場でしたね」
「うん。……あ、でも私達四人だけで裏山全部探せるかな……」
「……う、そういえばその問題があったな」
そう、スカイジュエルを見つけるには恐らく裏山を隈無く捜索する必要が出てくる。近場にあるとは言っても裏山はそれなりに広い。ミラーパッドを使えばある程度特定可能とは言ってもかなりの根気が必要となる。
「それなら心配無いわよ。宝石のありかはソラさんやユキさんのミラージュペンが導いてくれるわ」
「そうと決まれば、早速向かいましょう!」
「うん!」
「えるうぅ!えるうぅ!」
すると四人がいなくなってしまうのも寂しいと感じたのか、エルはまた泣き出してしまう。
「あら……」
「エルちゃんも行きますか?」
「丁度良いから、エルちゃんにもこの世界の事をもっと知ってもらいましょう」
「うん!じゃあ、早速準備しよっか!」
それから四人は早速、スカイジュエル探しのために準備を進めていく。そんな中でヨヨもとある物を部屋から取ってくる。
暫くして、ユキ達四人は準備を終えるとヨヨがとある物を差し出した。ユキはそれを受け取るとそれを襷掛けの形で装着する。
「スリング装着完了だね!」
それは、エルを抱っこするためのスリングであった。今回はエルも連れていくので、これは必要不可欠だろうと用意される事になったのだ。
「ありがとうございます。ヨヨさん」
「これで安心してエルちゃんを連れて行けます!」
「ふふっ。色々と役に立つと思うわ」
「……え?色々と?」
すると、今ヨヨが言った言葉の意味がわからずにましろは思わず疑問符を浮かべる。
それはさておき、全ての準備が揃ったという事で四人は裏山に向けて移動を開始する事にした。
「この世界に来てから初めてのお出かけですね、エルちゃん」
「えるるぅ……」
ただ、エルは両親に会えなくて少し不機嫌な様子だった。しかし、一応泣くのは止まったので連れていく上での問題は無い。
すると、そんな四人の様子を前にユキ、ソラ、エルが来た時と同じようにオレンジの鳥と白の鳥がジッと見ていた。ただ、その視線にユキ達が気づくことはない。
「それじゃあ皆。何かあったらすぐに戻ってくるのよ。気をつけて行ってらっしゃい」
ヨヨに見送られて四人は出発。裏山への道を歩き始める。荷物はアサヒが持っていき、エルはユキが抱っこして移動していく。四人は早速裏山の中に入ると山道を進む際に話をしながら先へと進んだ。
「それにしても本当にびっくりだよ。まさかおばあちゃんがスカイランド人だったなんて」
「という事はましろさんもちょっとだけスカイランド人って事ですね?」
「ヨヨさんまでが純粋なスカイランド人って事は……クォーターになるのかな?」
「そういう事になるね……」
「やっぱり、ふふっ」
「え?」
ソラはましろがほんの少しだけスカイランド人である事を確認すると彼女は微笑む。それからエルやユキ達三人を順に見てから話を続けた。
「ヨヨさんが言うように、私達が出会ったのは運命なのかもしれませんね!」
「ふふっ、そうだね!」
「うん!きっとそうだよ!」
そんな中だった。アサヒは僅かに複雑そうな顔つきを浮かべる。それを見てユキが問いかけた。
「アサヒ君?」
「あはは……でもそう考えると俺はちょっと場違い感があるかな?俺は多分純粋なこの世界の人間だし……」
それを聞いて三人は少しだけ固まってから気がつく。そう、ユキとソラはスカイランド人。更にましろはクォーターなのだからスカイランド人としての血は引いている。……しかし、アサヒだけは他人から預けられたという経緯を考えてもこの世界の人間。スカイランド人の血を含んでいるわけじゃ無い。そう考えると少し気まずい気持ちがあった。
「アサヒ君……その、ごめんなさい」
「いや、大丈夫さ。逆に俺は皆に感謝してる。この世界の人間で、ましろの家に預けられなかったら異世界の人達と関われるなんて滅多にできないから」
アサヒが笑ってそう言う中、突如としてユキが抱いていたエルが泣き始めてしまう。
「え、えるぅー!」
「よしよーし」
「……エルちゃん。元気を出してくれると良いんですけど」
ユキがエルをあやしている間にソラが隣でそんな風に呟くとましろは近くにあった綿毛を取ってエルを喜ばせるためにそれを見せた。
「エルちゃん、はい!フワフワの綿毛だよ」
「える!」
しかし、エルは綿毛を見ただけでは面白くも何とも無いらしく。そのまま不機嫌そうにプイッと拗ねてしまう。
「じゃあ、これは?」
ましろがそれから綿毛に息を吹きかけるとその種がフワフワと風に吹かれて優しく飛んでいく。そして、同時にそれを見たエルは嬉しそうにその綿毛へと手を伸ばす。ユキ達はましろがエルを上手くあやした事を感心した様子で見ていた。
「える!える、えるぅ〜!」
「ましろさん上手ですね!」
「うん、エルちゃんが元気になった!」
「そ、そうかな……」
「赤ちゃんにとって大事なのは今何を感じているのか、わかってあげる事ですから。こうして、エルちゃんが好きそうな物がわかったのもきっとましろさんの優しさの力ですね」
「そう言われると照れくさいよ……」
「ましろの優しさはまるで陽だまりみたいの温かさだからな」
「もう、褒めすぎだって〜」
ましろはソラやアサヒに褒められると照れて顔を赤くする。するとソラは今度は自分がと言わんばかりにキョロキョロと周りを見渡す。
「そうです!私も何かエルちゃんのために……」
「あ、ソラちゃん。これ!」
そして同じ事を思ったのか、ユキも何かを探していると彼女は鮮やかな赤い色をしたキノコを見つける。それから二人は揃ってキノコの前にしゃがんだ。
「これは……」
それからソラがそのキノコを手にしようとしたその時。ましろとアサヒがそっとそのキノコを確認すると大慌てで止めに入る。
「いっ!?」
「待って!それ、毒キノコ!!」
ましろの言葉にどうにか触らずに済んだユキとソラ。それからましろはホッと息を吐いて二人がキノコに触れなかった事に安堵する。
「山には危険な物がいっぱいだからよくわからない物は無闇に触っちゃダメだよ!」
「はい……危ない所でした」
「ましろちゃん、アサヒ君、止めてくれてありがと」
「後で家にある図鑑を貸してあげる」
「ありがとうございます!ましろさん!」
こうしてユキとソラはまたこの世界で知らない事を一つ勉強する事ができた。そんな事を話していると再びエルが泣き始めてしまう。
「うわぁああん!えぇえん!」
「エルちゃん……」
「今度は何だ?」
「きっと、お腹が空いたのかなと思います。さっき、ミルクを飲まなかったですし」
今度のエルは空腹で泣き出したためにこの辺りが休憩するタイミングであった。
「じゃあ、ちょっとこの辺で休憩にしよっか」
「そうだね。休憩も大事だし」
こうして、四人は善は急げとばかりにシートを広げると休憩の方に入っていくのだった。
また次回もお楽しみに。