カバトンやシャドーとの決着が着いてから数日が経ち、あれから少しだけ変わったことがあった。かけるが虹ヶ丘家にお世話になるようになった事だ。かけるは元々この街に引っ越してきた身であったためその方が良いとヨヨに提案されたからである。そして、今現在。ユキ達は感動の瞬間に立ち会っていた。
「える……えるぅ!」
「エルちゃん!」
「頑張って!」
「あと少しだよ!」
ユキ、アサヒ、ソラ、ましろ、ツバサ、ヒョウの六人はエルが一人で歩く瞬間を見て嬉しそうになっていた。
「「「「「「おぉおおー!」」」」」」
「歩いた〜!」
「プリンセス!」
「凄え!!」
するとそこに扉が開くとヨヨ、そしてかけるが入ってきた。そして、六人へと聞く。
「ちょっと良いかしら?」
「「「「「「今はダメ〜!!」」」」」」
「える?」
するとエルは気が抜けてしまったのか、そのままその場に尻餅を着いてしまう。幸いだったのはエルが怪我するような転び方では無かったという点だろうか。
「あはは……ヨヨさん、タイミングが悪かったですね」
「確かにそうね」
それから一同は一階に行くと居間でヨヨやかけると向かい合って座る事になる。
「あんよができるようになったのね。じゃあ、ファーストシューズを買いに行かなくちゃ」
「「「「「「ファーストシューズ?」」」」」」
六人が疑問を示す中、ヨヨは六人へと説明を始める。ファーストシューズとはヨチヨチ歩きの記念にプレゼントする靴の事だ。大切な子供が無限に広がる世界に踏み出していくその一歩目を祝福する大切な靴である。
「なるほど……」
「なら早速買いに行こうか」
「だね。異議無し」
それから六人は満場一致で買いに行くことになるとソラシド市の街の中にあるベビーシューズの売り場へと移動していった。
「ふぁあ!」
「ちっちゃくて可愛いね!」
ソラやましろがそう言う中、一同は早速エルに似合いそうな靴を探すことになる。ちなみに、かけるはヨヨの手伝いがあるということで不参加だ。
「えっと、エルちゃんに似合うのは……」
「俺達も探すか」
「言っておくけどアサヒには負けないから」
ヒョウがそうアサヒに言う中、アサヒもヒョウに対抗心を燃やす事になる。
「買ったわその勝負。どっちがエルのお気に召すか勝負だヒョウ」
「うえっ!?べ、別にそんなに気にしなくても……」
「ユキ姉、気にしなくて良いよ。これは俺とアサヒの勝負だし」
「ああ。絶対負けねー!」
二人が勝負のために靴探しを始める。そんな二人を唖然とした顔つきで見送るユキ。そんな中、ソラが何かを見つけてきたのか一足の靴を手に取る。
「これにしましょう!とっても頑丈そうですし防御力高そうです!」
ソラが手にしたのは青を基調としてマジックテープの付いた脱ぎ履きが楽で尚且つエルが怪我をしないように頑丈そうな物であった。
「える!」
しかし、エルは嫌だとばかりに顔を背けてしまう。どうやらお気に召さなかったようだ。
「防御力の件は取り敢えず置いておこうか。えっと……」
ましろがそう言って目にした靴を手に取るとそれを見せた。今度は歩くとキラキラと光り、可愛らしいタイプの靴である。
「これはどう?ほら、ピカピカ光るよ!」
「える!」
だが、エルはそれも嫌なのかそっぽを向いてしまう。更にソラがピンクの靴を持ってくるがそれも気に入らない。
それから二人は次々と候補となる靴を持ってくるものの、どれもこれも嫌なのかプイと膨れ面になってしまう。
「あはは、エルちゃん。意外とオシャレにはうるさい感じ?」
ユキが苦笑いするとソラもましろもつられて苦笑いしてしまう。そんな中、アサヒとヒョウもそれぞれエルが気に入りそうな物が決まったのか二人同時にやってきた。
「エル!」
「お待たせ!」
それから二人が見せたのかまるで真逆のデザインだった。アサヒは虹が描かれた空模様を模した派手なカラーリングなのに対して、ヒョウは逆に白や水色と言ったそこまで多色では無い落ち着いた感じのデザインである。
「あ?アサヒ、そんな派手すぎる靴で気に入ると思ってんの?」
「ヒョウも大人しすぎない?エルが気にいるのは俺の方だっての」
そのまま二人は口論を始めるとユキは慌てて店の中での喧嘩は不味いと何とか仲裁しようとする。
「と、取り敢えずエルちゃんに見てもらお?お互いの文句はそれからでも……」
「そうだな。確かに正論だ」
「ユキ姉の言う通りだね」
二人はユキの言葉に頷くと二人揃って靴を手にするとエルの前に差し出す。
「さぁエルちゃん!」
「俺とヒョウの靴。どっちが好きなんだ!」
「える!」
気になるエルの答えはどっちも嫌だとばかりのそっぽ向きであった。そのため二人共ノックアウトにされてしまう。
「……あはは。二人共元気出して……」
結局落ち込む二人にユキが何とか気持ちを切り替えてもらおうと奔走する中、ソラが一人エルへと注意する。
「めっ、好き嫌いはダメですよ」
「ふぅ。プリンセスは悪くありません。足りていないんです。皆さんのセンスが」
そう言われて唖然とする四人。そのままツバサはエルを抱いたまま前に出ると靴を探し始める。そして、とある靴を見つけるとそれを手にした。
「エルちゃんはスカイランド王家のプリンセス。キラキラ輝く一番星!国民のアイドル。そんじょそこらのデザインで満足するはずが……」
そこにあったのはキラキラと眩い光で発光する靴を手に取るとツバサはすぐにそれが似合うと判断。そのままその靴をエルへと見せた。
「さぁ、お受け取り下さい。プリンセス!あなたのナイトが選び抜いたとびきりの……」
「える!」
ツバサの想いも虚しくエルは受け取るのを拒否。そして、流石に拒否されるとは思わなかったのかツバサも唖然とするとソラとましろには同情の眼差しを向けられる始末である。
「ええーっ!」
「あはは、結局ダメだったね……」
ユキは本日何度目かわからない苦笑いを向けるとましろからユキに声をかけられた。
「ねぇ、ユキちゃんも選んでみたら?ユキちゃんの観点からも探してみた方が良いと思うの」
「そうかな?多分気に入らないと思うけど……」
「だとしてもです。私達もユキさんの選ぶ靴を見てみたいですよ」
ソラにまでそう言われるとユキは断れない。それから靴を見始めるとエルに似合いそうな物を探す。
尚、その間にもアサヒとヒョウは二足目を選んでは撃沈していたが。そして、数分後。ユキが選んだ靴をエルへと見せる。
それは夜の星空をイメージしたような紫をベースに大小の星の絵が散りばめられた可愛らしい物であった。それを見たエルはその靴をジーッと見つめる。
「えるぅ……」
それから悩んだ様子だったがそれでも気に入るには一歩届かないのか拒否されてしまった。
「える!」
「そっか……ごめんね、エルちゃん」
ユキはそう言って優しく頭を撫でる。するとそんな中、エルはユキの事を見ていると小さく呟いた。
「える……ねぇね」
「ん?」
それからユキは何か引っかかったのか疑問符を浮かべる。しかし、エルは次の瞬間にはまたいつも通りのえるという口調に戻ってしまったため、その違和感の正体にまでは気づかなかった。
それから数十分後。お店の中にある靴という靴を調べて回ったが、どれもエルが気に入らず。結局エルが良いと言った靴は一つも無かった。
「他のお店を探しましょうか」
「まぁ、無理にここで買う必要も無いしな」
「仕方ないよね」
「はい!折角のファーストシューズ!エルちゃんのお気に入りが見つかるまで、この街の靴屋さん全部を!いいえ、この世界の靴屋さん全部を周りましょう!」
「あはは、話が壮大になってきたね。終わる頃にはエルちゃん大人になっちゃうよ」
ましろが半ば呆れたようにそう言う中、エルがキョロキョロとすると何かを見つけたのか声を上げる。
「える!えるる!」
一同がそれを聞いてその方向を向くとそこには一人の女性がとある靴を買おうとしていた。
「これ、頼むわ」
「かしこまりました」
そこにあったのはピンクと白をベースに紫のリボンが入った靴である。そして、その靴が気に入ってしまったのかエルは駄々をこね始めた。
「える!えるぅ!」
そしてその女性もエルの声に気がついたのか振り返ると六人は慌てた様子でエルの目線を外させる。
「アレは人のです!」
「別のにしよ?ね」
「もうプリンセス。あまり駄々をこねないでください」
「周りの人も迷惑するから……な?」
するとユキとアサヒは頷くと二人揃ってエルの前に回り込んである事を提案する。
「………ねぇ、エルちゃん。私とアサヒ君で手分けしてこの街の靴屋さんを巡って同じ靴を探してくるよ」
「絶対にエルが気に入ったあれと同じ靴を持ってくるって約束する。だからそれで我慢してくれる?」
「えるぅ……」
しかし、エルは今すぐ欲しいのかどうしても納得しようとしなかった。そんな中、六人の前に女性がやってくると声をかけてくる。
「どえらい可愛い赤ちゃんやなぁ」
「「「「「「あ!」」」」」」
「える!える!える!える!」
「これ、気に入ったん?」
「すみません」
女性はエルが欲しそうにするのを見て何かを決心したのかある事を言い出した。
「える?」
「これあげるわ」
女性が言い出したのは何と靴を譲ってくれるというものである。それを聞いた途端ましろが申し訳なさそうに声を上げた。
「え!?でも……」
「遠慮せんでええんよ。まだお会計済ませる前やしな」
「ありがとうございます!」
ソラやツバサ、ヒョウが感謝の気持ちでいっぱいになり、エルも嬉しそうだ。
「そない気に入ってもらえて靴も喜んで……」
それから女性が話す最中、ユキとアサヒは何かを感じたのか女性へと話しかける。
「待ってください。……本当にそれで良いんですか?この靴、元々はあなたの大切な人にプレゼントする物だったんじゃ……」
「そうですよ。あなたの大切な子が悲しむことになったりしませんか?」
「………」
二人の声に女性は僅かに顔を曇らせるとその場で小さく呟くことに。
「……これで良かったんや」
そのまま女性は後ろを向いてそのまま去って行ってしまう。その後ろ姿はまるで何かを抱えているような様子である。そして、ソラが何かを思うと女性の後を追いかけていく。しかし、店の外に出たタイミングで女性を見失ってしまうのだった。
また次回もお楽しみに。