ツバサとヒョウの歓迎会をやるためにソラシド市の方で手に入る材料を使ってヤーキターイを作る事になったユキ達。ヤーキターイの味を知るツバサからたい焼きの餡が違うという話になり、早速その餡を入れ替えた物を作る事になった。
「ツバサ、ヤーキターイの餡がどんな感じか表現できそう?」
「うーん……ちょっと難しいかもしれません。甘いというのは確かなんですけど……少なくともたい焼きの餡はどこか違うというのはわかります」
どうやらツバサもヤーキターイの餡を詳しく言語化するのは厳しいらしい。イメージ的には餡に近い物ではあるのだが、完全一致とは言えないのだろう。
「こっちの世界でたい焼きに使ってる餡ってこれ一種類だけ?」
「ううん。他にも幾つかあるよ。カスタードとかさつまいもとか」
一応たい焼きはお店で売っている物の中には餡以外の物がある。つまり、たい焼きにはカスタマイズの余地があるのだ。そのため、そのカスタマイズを試行錯誤していけばどこかでヤーキターイと同じ物になる可能性があるわけで。
「それなら十分ヤーキターイと完全一致する物が作れる可能性があるよ!」
「うん!」
そんなわけで早速ユキ達は多種多様な餡を作るのとその餡を作るために大量の生地を作る事になった。まずはメジャー所であるカスタードやさつまいも、カボチャにチョコと言った物から用意を始める。
「それにしてもどの材料を中に入れても美味しい味になるというのは凄いですね」
「多分それはたい焼きを焼くときに物を更に生地で包むからじゃないかな」
たい焼きという食べ物は生地を加熱して固める形で外装を作り、その中に他の材料を閉じ込める物。そのため、生地を固める過程の中で中の材料に変化が起きにくい。
あとは固まった生地自体が中に詰め込む材料に対して相性が良い組み合わせが多数あるという汎用性の高さも挙げられるだろう。
「じゃあ、そろそろ生地の方を作ろっか!」
「そうですね!」
ましろはある程度餡の代わりとなるバリエーションを作った所で今度はそれを詰めるための生地を作る事になる。
「ましろさん、次はどれを入れれば良いんだ?」
「えっと、薄力粉だね」
「薄力粉?これかな……」
ヒョウの質問に対してましろが薄力粉だと答えるとそれに合わせてユキが幾つかある紙袋の中の1つを手に取る。それをそのままボウルへと入れようとした。
「待ってユキ、それは薄力粉じゃなくて強力粉!」
「ふえっ!?」
ユキは慌てて入れるのを中断するとそこにはしっかりと“強力粉”と書いており、安堵した顔になる。
「あ、危なかった……。アサヒ君、ありがと」
「ユキ、焦らずに確認を1つずつしていこう。ユキの入れ間違いって少し確認したら済む物も結構あるから」
「うん……気をつける」
ユキはまた自分のミスを助けてもらった事に申し訳なさを感じると今度はしっかりと紙袋を見て薄力粉と書かれた物を取り出す。
「ツバサ君、これかな?」
「今度は大丈夫ですね。しっかり薄力粉です」
「じゃあ、今度こそボウルの中に入れて……」
ユキはそれから薄力粉の袋を開けるとそれを傾けてボウルの中に入れようとした。するとそのタイミングでヒョウの鼻がムズムズし始めてしまう。
「ふぁ!?は……は……」
「ッ!?ヒョウ君待ってください!今ここでクシャミしたら……」
ソラはヒョウが今クシャミをするのは不味いと考えて慌ててそれを止めようとする。しかし、それで止められる段階は既に過ぎてしまったようで。
「ご、ごめん……もう限界……クシュン!」
「「「「「うわあっ!?」」」」」
ヒョウは出来る限りクシャミの威力を抑えたものの、クシャミ自体が止められなかった事もあって丁度ボウルに入れていた薄力粉やユキが手にしている紙袋の中の薄力粉が空気の動きに反応して一瞬で舞い上がり、煙のように広がってしまう。
そして、それはその場にいた6人の体に付着すると粉物料理でお約束とも言える真っ白な姿に変わってしまう。特にプニバードであるツバサとヒョウはビックリした影響で鳥の姿になってしまった。
「ッ……ご、ごめんなさい」
ヒョウは自分のせいで全員が汚れてしまった事から申し訳なさで謝るとその場に少しだけ静寂が流れる。だが、少ししてツバサが思わず吹き出してしまう。
「ぷっ……くくっ……あははっ!」
「つ、ツバサ!?何で……」
「だ、だってヒョウ。元々体が白いので1人だけいつも通りというか……」
「あははっ、確かにそうですね!」
「そ、ソラさんも!?」
ヒョウが慌てて周りの人と自分を見比べると確かに他の5人が全員薄力粉を被って白い汚れが所々に付着しているのに対し、自分だけは羽毛が元々真っ白なせいで粉による汚れが無いように見えてしまう。
勿論彼にも粉はしっかりと付着してはいるのだが、それでもこの状況では1人だけ異質であるため思わず笑えてしまうのだ。
「そういう所はちょっとズルいよな……くくっ」
「う、うん……あはは……」
「あーっ!アサヒ!ユキ姉も!」
終いにはユキ、アサヒも笑うとヒョウは薄力粉を撒き散らした事をまた気にしそうになったためましろがフォローした。
「大丈夫だよ。このくらい小さなハプニングだし。誰かが怪我したわけじゃないから」
「うん……その、気遣ってくれてありがとう」
ヒョウは最初、自分の失敗を責められると思っていた。しかし、先程のユキの失敗をカバーした時と同じ。誰一人として失敗した者を責めることは無く。時にはカバーし、時にはその失敗を皆で笑い合う。その温かい光景がヒョウにとっては新鮮だった。
「あ、ヒョウ泣いてるのか?」
「ッ!泣いてないよ!」
ヒョウはこの温かい環境に思わず泣いてしまうとアサヒから涙を流した瞬間を見られたために指摘され、それを慌てて否定する。
「そんな風に片意地張らなくてもここでヒョウの事を責める奴なんかいないぞ?」
「ッ!煩い、馬鹿アサヒ!揶揄うにしてもタイミングくらい考えてくれ!」
「まぁまぁ……」
ヒョウは感傷に浸っている所を揶揄われて少しだけ不機嫌になるものの、ユキに宥められて落ち着く事に。そして、話がひと段落したためにましろが声をかけた。
「ふふっ、じゃあまずは散らかっちゃった粉の片付けからしよっか」
「そうですね。変に粉まみれだと二次被害が起きるかもしれませんし」
それから順番にたい焼き器を使って焼いていくと横に並べていき、識別のためのシールを近くに付けた。これにより、ある程度のバリエーションを確保する。
「完成!」
「それにしても沢山できたな」
そこに並んだのはあんこ、ピーナッツ、さつまいも、カレー、チーズ、しおキャラメル、かぼちゃ、チョコ、じゃがいも、カスタード。合計10種類の中身が入ったたい焼きであった。
「さぁ、ツバサ君。ヤーキターイと同じ味のたい焼きはあるか、食べてみて!」
「はい。少しずつですが食べてみますね!」
それからツバサは少しずつたい焼きを食べると味を吟味していく。しかし、結論から言えばヤーキターイと同じ味のたい焼きは残念ながら無かった。こればかりはトライアンドエラーを繰り返す上でどうしても仕方のない事だろう。
「ツバサ、どう?」
「ヤーキターイと同じ味のたい焼き……ありそうか?」
「すみません、やっぱりどれも……」
「うぅ、そう簡単には行かないよね」
ツバサがどの味もヤーキターイに適した物では無かったと言って落ち込むユキ。特に彼女は昔にプニバード族から直々に作り方を教えてもらった際に味をしっかり覚えておけば良かったと後悔している所もあった。
「せめて私が味をちゃんと覚えてたらここまで当てずっぽうにならなかったのに」
「ユキさん、そんなに自分を責めなくても大丈夫ですよ」
ソラはすぐにユキの背中をゆっくりと撫でる形でフォローし、ツバサも同じくそんな彼女の気持ちを察したのかすぐに一言を入れる。
「ソラさんの言う通りですよ。それに、違うとは言ってもこのたい焼き全部美味しいです!」
「ふふっ、良かった」
ましろはツバサが楽しんでくれる分にはそれだけでも嬉しいのか、微笑ましい顔を浮かべる。そんな時、ヒョウが恐る恐る話しかける。
「ユキ姉、さっきツバサが食べて残った分……食べても良いかな?」
「言われてみたら、ツバサ君1人で全部なんて無理だよね?」
「え?まぁ、確かにそうですね」
ツバサはふと視線をたい焼きに下ろすと確かに自分1人でここにあるたい焼きの残りの部分を全部食べてしまったらお腹を壊してしまう。
「ましろ、それだったら」
「うん。丁度お昼くらいだし、このまま残しても最後は捨てちゃうから皆で食べよっか!」
「良いですね!」
「ランチタイムだな」
それから一同は丁度時間が12時に近い事もあって沢山並んでいるたい焼きを好きな物を取る形で試食する事に。
「よーし、じゃあ俺は……」
「ストップ、アサヒ。まずはソラちゃん達に選ばせよう」
アサヒは試食が決まったために自分から取ろうとするとそれをましろに止められてしまう。
「ましろ!?」
「皆はスカイランドから来ててまだこっちの世界に馴染みが無いんだから」
「うっ……それもそうか。すまん、勝手に取ろうとして」
アサヒはましろの言う事も一理あるとしてまずは選択権をスカイランドから来たメンバーに譲る事にした。
「そ、そんな……むしろ私の方こそ気を遣ってもらってごめんね」
「では、ツバサ君とヒョウ君から……」
「あ、ボクは既に全種類食べちゃってるので後回しで大丈夫です。何ならそんなに食べられないかもしれません……」
そんなわけでプニバードの2人からという話になるが、ツバサは試食で残春を食べてしまったからか……この場での選択権を放棄する。
「じゃあ、俺から……」
すると流れ的にヒョウが一番最初に取って良いとなったので彼はチョコのたい焼きを手に取る。
「はむっ……ッ、甘くて美味しい……」
「そっか、ヒョウってチョコ好きだもんね」
「うん……」
ヒョウは自分が好きなチョコの入ったたい焼きを手に取ると食べ、その甘い味わいに頬を緩ませる。そんな可愛らしい仕草を見てツバサが微笑んでいた。
「ヒョウってこういう所がギャップを感じて可愛いですよね」
「んぐっ!?つ、ツバサ!!」
「言われてみたら……いつもあんなに暴力的なのに何でだろうな?」
「ッ!?煩いわねっ!」
その瞬間、ヒョウはアサヒの足を思いっきり踏みつけると彼はその痛みに声を上げた。
「痛だぁっ!?ヒョウ、お前何するんだ!」
「お前に言われたらイラッてするんだよ!」
どうやらヒョウは大好きなユキをアサヒに取られているせいか、ヒョウからアサヒに向けているヘイトは完全に無くなってないらしい。
「あはは、それじゃあ私達も食べましょうか」
「う、うん……」
それから順番にたい焼きを手にして行くと食べ始める。最後にアサヒがたい焼きを手に取ると一口食べた所である事を思いつく。
「ッ……そうだ、折角なら……ユキ」
すると、アサヒは手に取ったしおキャラメルのたい焼きをユキの口元の方へと持っていく。
「はい、あーん」
「ふえっ!?い、良いの?」
ユキはいきなり出されたたい焼きにアサヒの分を食べてしまう事への遠慮で気が引けてしまう。
「あ、当たり前だろ……俺が食べて良いって言ってるんだから」
「う、うん」
アサヒは頬を赤らめつつも食べてくれないと引っ込めないよとばかりの様子を見せたため、ユキは同じく頬を赤くしつつアサヒから差し出されたたい焼きを食べる。
「はむっ……美味しい」
ユキがアサヒから一口貰えたのが嬉しいのか、幸せそうに笑うとアサヒは安堵の顔を浮かべる。
「(ふぅ、良かった……やっぱりユキに嫌われてるわけじゃないんだよな……)」
「(アサヒ君から一口貰えた……嬉しい)」
ユキもユキでアサヒから貰えたのが嬉しい様子であり、そんなユキを見たヒョウはやはり不機嫌そうになる。
「ッ、アサヒってばまたユキ姉を……」
「まぁまぁ、ヒョウ。ユキさんが嫌がったわけじゃないので」
「ツバサ……まぁ、それはそうだけど」
ツバサとヒョウが話をしているとその視線の先。今度はユキが顔を赤くしながらアサヒの前に自分が食べていたあんこのたい焼きを差し出した。そんなユキを見てアサヒは驚く。
「ゆ、ユキ?」
「………さ、さっきのお返し。私はアサヒ君に食べてもらいたい。それに、私だけ貰いっぱなしなのは……」
どうやら、ユキは自分だけ貰っておいてそのままというのは自分の中で許せないらしく。それにアサヒ相手なら尚更という気持ちだった。そのため、手が震えるのも構わずにアサヒが食べるまで差し出したたい焼きを引っ込めようとすらしない。
「(うぅ、何で……何でこんな時だけドキドキするの……これじゃあ、アサヒ君に心配されちゃうかもしれない……)」
「ッ、そっか。ありがと、ユキ。じゃあ食べるね」
アサヒはそう言ってあくまで自然にユキからのたい焼きを食べた。正直な所、ユキから“あーん”してもらえるのはかなり嬉しく、そのせいで今にも舞い上がりそうだった。しかし、流石にそんな事をすればユキに引かれてしまうと思ったからか。あくまで自然体を装って食べる。
「はむっ。……美味しいよ」
「そっか……良かった」
アサヒはそのまま優しく微笑む。そんな顔を見せられたユキは先程から強くなっていた心臓の鼓動が更に早まるのを感じた。
「(ッ……また……!)」
ユキは早鐘を打つ心臓に困惑し、どうにか気持ちを落ち着けようとするものの……心の温かさを手放したくない気持ちのせいで上手く行かず。頬は更に赤くなってしまう。
そのまま顔の熱さからか、ユキは少しボーッとした様子を見せていた。それを見てアサヒは心配そうに話しかけた。
「うぅ……」
「ユキ、大丈夫か?」
「え?あ、あぁ。うん……」
ユキはどうにか動揺した顔を見られたくないとばかりに顔を思わず背けてしまった。
「(ッ、ダメだ。こんな事してもアサヒ君を心配させるだけ……なのに、なのに……今顔を見たら熱さで倒れちゃいそう)」
「ユキ姉……やっぱりユキ姉の気持ちはもう……」
ユキは必死にアサヒに心配をかけまいと敢えて彼から顔を背けてどうにか落ち着こうとする。そんな彼女の様子にヒョウは完全にユキの心はアサヒに奪われてしまったのだと察してしまう。
その後、全員でその場にあった10個のたい焼きを食べ終わるとヤーキターイ作りを再開するべくましろが声をかけた。
「食べ終わったね。じゃあ次は買い物に行こっか!」
「買い物ですか?」
「うん。家にある物だけだと足りない可能性が出てきたからね」
「なるほど、それを補うための買い物ですね」
こうして、ユキ達は6人全員で買い物に行く事になった。理由としては今後、バラバラで買い物に出かける可能性を考慮して今の内に道のりを覚えておこうというわけだ。
「それでは、レッツゴーです!」
「おーっ!」
そんな事情もあってユキ達は家にある物を確認した上で早速町へと買い出しに出かける事になるのだった。
また次回もお楽しみに。