ユキとアサヒはクラスメイトから質問されて自覚の有無という差異こそあれど、お互いの事を意識しているような感情がある事を確認できた。そんな日の放課後。
ユキはアサヒへと日頃のお礼のプレゼントを選ぶために1人で帰宅中だった。それを聞いたましろが手伝おうかと提案するが、ユキは1人で選びたいと言って今は1人でソラシドモールの中にいる。
「えっと、アサヒ君が好きそうな物……」
ユキはそう呟きながら男性用のアクセサリーコーナーを探していた。その際に彼女は改めてアサヒの事を考える。
「……アサヒ君は私の事、どう思ってるんだろ。もしプレゼントを嫌がられたら……ッ」
ユキはアサヒから向けられている感情をかなり気にしている様子だった。それこそ、彼から負の感情なんて向けられような物なら嫌だと思える程に。
「それに、よくよく考えたらアサヒ君って私と接する時と他の皆と接する時って対応が違う気がする」
ユキはふと脳内に浮かべたのは自分に対してと他の人に対してのアサヒからの対応の差だ。そして、ユキ自身もアサヒは自分と接する時に他の人と接する時と比べて明らかに親密な対応をしてくれている。
「……どうして私なんかに……」
ユキは俯くとアサヒが自分に特別な対応をしてくれている事を感じて胸がギュッと締め付けられるような感じがした。普通であれば自分が好意を向ける相手から特別扱いをしてもらえるという状況というのは恋する女の子にとってはこれ以上無い程に嬉しい話だ。
しかし、ユキの中には嬉しさよりも不安が募ってしまうとどんどん胸が締め付けられていく。
「私、アサヒ君に特別扱いされる程の人間じゃないのに……。私なんかを特別扱いしたって、アサヒ君には何も返せないのに」
ユキはそう言えば言う程胸が苦しくなってしまう。それはまるで、自分の気持ちに無理に蓋をして封印するかのようであった。同時にアサヒへの気持ちを無理に閉じ込めようとすればする程、目尻に少しずつ涙が浮かんできてしまう。
「ッ!ダメだダメだ……アサヒ君へのプレゼントを選ぶのにこんな気持ち」
ユキは両手で自分の頬をペチペチと叩いて気を取り直すとまずはアサヒに対するプレゼントをしっかり決めるべきだと考える。
それから約一時間後。ユキは未だにプレゼントを決める事ができず、頭を抱えたくなってしまう。
「うぅ、どうしよう。アサヒ君が欲しいって思える物が何かわからない……」
どうやら、先程からずっと探し続けているアサヒのプレゼント選びの中で必要不可欠なアサヒの好みがユキにはわからず。そのせいでプレゼントを決め切る事ができなかった。
「さっきましろちゃんに手伝わなくて大丈夫って言っちゃった手前、今更助けてなんて言えないし。どうしよう」
ユキはここに来て一人で選ぶと言った自分の発言を後悔してしまう。そして、先程から動揺しまくっているせいでここに来る前にましろから言われていた困ったらメッセージで頼っても大丈夫いう言葉もすっかり忘れてしまっていた。
「(どうしよう、どうしよう……。もし私が変な物を選んでアサヒ君が嫌がったら……。きっとアサヒ君に嫌われちゃう。そんなの、嫌だよ……)」
ユキの心がどんどん不安に侵食されてしまい、この前ではプレゼント選びではなくなってしまう。彼女はアサヒの好みを予め聞いてから来なかったのをかなり後悔していた。
「ッ、時間もどんどん遅くなっちゃうし。このままじゃ皆にまた心配をかけちゃう。……どうしよう……」
ユキはスマホの時間を見るともう既に17時30分近くであり、もうそろそろプレゼントを決めないと今度は虹ヶ丘家に戻るまでの時間のせいでアサヒ達に心配をかけてしまうだろう。
「ユ〜キちゃん!」
「うひゃああっ!?」
そんな時だった。突如としてユキの真後ろから聞き覚えのある声がかけられて彼女の体へと後ろから何者かが抱きついてくる。。勿論ユキはそんな事をされればびっくりするわけで。思わず変な声が出てしまう。
「おお、凄い声出るね!」
「な、な、な、何ですか……って……あ、あげはさん!?」
ユキが慌てて振り向くとそこにいたのはまた手をキツネの形にして挨拶をしてくる者……アサヒやましろの幼馴染である聖あげはだった。
「コンちゃ!って、前もこんな流れやったよね?」
「た、確かに……何だか既視感がありますよね」
「ま、でもこんな所でユキちゃんと会えるなんてね〜。お姉さん嬉しいな」
あげははユキと会う事ができた事が嬉しいのか。満面の笑顔でユキに対応するとユキも少しだけ気持ちが楽になった。そして、何故彼女がここにいるのかを問いかける。
「そういえば、あげはさんはどうしてここに……?」
「あ、私?実はね、丁度私も学校帰りで買い物に来たんだけどね。近くを偶然通りかかったらそこに制服を着てるユキちゃんを見つけてさ。そしたら衝動的に声をかけたくなって!」
「えっ!?わ、私って後ろから見ただけなのにわかるんですか?」
あげはの言葉を聞いてユキは自分の姿がそんなにも特徴的だったのかという動揺で脳内が混乱してしまう。そして、そんな彼女を見たあげははニヤニヤしながら話を続ける。
「えー?ユキちゃん、それ言っちゃうの?ユキちゃんって自分が思ってる以上に綺麗な子だから周りから見たらすぐわかっちゃうよ」
「ッ!?き、綺麗って。私なんか綺麗って言われる程……」
ユキはいきなりあげはに自身の姿が綺麗な事に思わず謙遜をしてしまう。しかし、あげははそうやって一度自分を否定するユキの姿を見るとわざと少しだけ嫉妬が混ざったような声で彼女に問いかける。
「ほーら、ユキちゃんの悪い癖だよ?すぐに自分を否定する所から入って。ましろんから聞いた話なんだけどさ。ユキちゃん、学校でモテモテなんだってね?」
「はうっ!?ち、違……」
「嘘言ってもわかるよ?ラブレターとか沢山貰って告白とかもされてるんだってね〜?」
「(ま、ましろちゃん!?あげはさんに何てこと話しちゃってるの!?)」
ユキはまさかのましろからの情報漏洩が原因であげはにここまで追及されてしまうとは思っておらず。どうにか否定しようとするが、もう誤魔化しは効きそうになかった。
「……は、はい」
「ふふっ、やっと素直になった。それで、ユキちゃんは何でここに?あ、もしかして誰かへのプレゼント?」
するとあげはは揶揄うのもこの辺にして、今度はユキが何故ここにいるのかを問いかける。それを受けてユキはビクリと体を震わせた。
「うえっ!?え、えっと……新しいアクセサリーが欲しいかな……って」
「ふーん、アクセサリーか。女の子らしいといえば女の子らしいと思うんだけど……今ユキちゃんがいるのって男性用のアクセサリーコーナーだよ?」
「……えっ?あっ……」
ここでユキ、痛恨のミス。今現在、彼女がいるのは男性用のアクセサリーコーナー。もし仮にユキが自分のためのアクセサリーが欲しいのなら女性用のアクセサリーコーナーにいないといけない。
しかし、彼女はこの迷っている1時間の間。ずっと男性用コーナーにいてしまったのだ。これでは自分の分を探しているという言い訳は成立しない。
「(ど、ど、ど、どうしよう!?このままじゃ、あげはさんにバレちゃう!?どうにか誤魔化さないと……!)」
ユキはあげはからの鋭い指摘に焦ってしまうと顔を赤くしつつ、あげはの事を誤魔化そうとする。どうやら、同居しているソラやましろ。既に話してしまっている学校のクラスメイト以外相手には何が何でもバレたくないらしい。
「ふーん。ユキちゃん、その感じだと気になる男の子がいるんだ。誰?」
「ち、違いますよ。これはアサヒ君へのプレゼントとかじゃなくて……」
「……え?私アサヒなんて一言も言ってないけど」
「……あっ」
ユキ、焦り過ぎてまたしても痛恨のミス。そもそもユキの気になる人がアサヒであるとあげはは一言も言っていない。そのため、ユキは完全に墓穴を掘る形となるとそのまま顔から湯気を出してノックアウトされてしまう。
「ふ〜ん?アサヒの事が好きなんだ〜」
「え、えっとこれはその……」
「ユキちゃん。そういうのはちゃんと話してくれないと。助けが欲しいとかなら尚更だよ」
「ッ……わかりました」
ユキはあげはに諭されてしまったためにとうとう彼女へと全てを話して少しでも気持ちの面で楽になる道を選ぶ事になる。
「なるほど、ユキちゃんを変えてくれたお礼に何かをあげたいんだ。それに、今の時点ではまだ好きだとは断定できないと」
「大体そんな感じです……」
ユキは落ち着いて少し頬が赤い程度に戻るとあげははユキがアサヒへと向けた誠実な想いを受けて心が温かくなる。
「それにしても大切な人へのお礼をしたいなんてやっぱりユキちゃんは良い子だね」
「そうなのでしょうか。私は助けてもらってばかりでその恩を少しでも返さないといけないと思って」
「普通はそこまでの感情を抱かないよ。こうして見るとやっぱりユキちゃんってアサヒの事を特別扱いしてるんだね」
あげははユキの想いを聞くとそれだけユキがアサヒの事を1人だけ特別な人として認識しているという事。そして、彼に向けた特別な想いを感じ取る。
「でも私、アサヒ君の好みなんて知らなくて……。スカイランドとこっちの世界じゃ価値観が違う所もあるし。こっちの世界生まれのアサヒ君に変な物を渡したりしたらって思うと」
「あー、そういう感じか」
「あげはさんはその……プレゼントを贈るときに気をつけてる事とかありますか?」
ユキの想いを聞いたあげはは彼女がぶつかっている悩みに納得できる所もあった。自分も幼い頃にアサヒやましろへと自分のお小遣いを使ってでも可愛い弟や妹的存在の2人にプレゼントをした事がある。
そのため、あげはは今のユキの抱く気持ちに自分でも共感できる所があった。
「うーん。私が昔アサヒやましろんにプレゼントした時は2人のために沢山悩んで、2人が喜んでくれそうな物を感覚で選んでいたかな。だから、2人が欲しい物かどうかはさておいて。2人の事を考えながら選ぶ事かな」
「贈る相手を考えながら……。でも、私のセンスが悪いなんてアサヒ君に思われて嫌がられたら……っ」
どうやら、ユキは自分のセンスに自信を持てておらず。そのせいでアサヒが好きではない物を選んでしまった時の事を心配していた。
「(そっかぁ、そっちの考えの方に行っちゃうタイプね……。うーん。あんまりここで悩ませるのも良くないし。うん、もういっその事……)」
あげははまた悩みまくってるユキを見ると彼女が自分の選ぶ物に自身が無い事をこの場で解決するのは難しいと考える。そのため、ユキへとある提案をする事にした。
「じゃあさ、ユキちゃん。アサヒ君と二人っきりで出かけてみるのは?」
「……え?」
あげはから出たのはアサヒとのお出かけ……実質的なデートである。そして、それを聞いてユキは混乱してしまう。
「わ、私がアサヒ君と?」
「そうそう。ユキちゃん、自分で選ぶのが厳しいんでしょ?だからアサヒと一緒に選べば良いと思う。そうすればアサヒの好みとか色々わかるかもしれないよ。あ、でも2人きりがハードル高いとかなら私からましろんの方へ近い内にお出かけするように言っておこうか?」
「ッ……」
ユキはあげはからの提案を聞いて迷う。自分なんかがアサヒの隣で一緒にお出かけをしても良いのか……と。しかし、だからと言ってアサヒ抜きで彼の好みがわからず。ソラやましろに変に相談して手間をかけされるのもまた良いとは言えない。
そのため、ユキの選択肢というのは一つしか無かった。それは勿論、アサヒと2人きりでのお出かけである。
「……わかりました。やってみます……」
「そっか!じゃあ私も上手く行くように隣町から応援してる!」
「はい!あげはさん。悩みを聞いてもらってありがとうございました」
ユキはあげはに礼儀正しく綺麗なお辞儀をするとお礼を言って家に戻るためにその場を去っていく。それを見届けたあげははスマホを開くとその画面にはメッセージアプリのましろとのトーク画面が映し出されていた。
「ふふっ、こっちは上手くやれたし。後はましろんに根回しだね。それにしてもましろんの言う通り、あんなにも私に悩みを話すのを躊躇うなんて」
どうやら、この様子だとあげはがユキへと声をかけたのは偶然でも何でもなく。ましろの方からあげはに要請が行っていたらしい。
「ユキちゃん、多分近いうちにアサヒへの気持ちを自覚するんだろうなぁ……。そしてアサヒもユキちゃんが好きっぽいし。これはもうお付き合いまで秒読み段階かな?」
あげははそんな事を呟きつつ、自分が幼い頃に一緒に遊んでいた友達に彼女ができる流れができている事が微笑ましかった。
「アサヒって昔から困ってる子を見捨てられない所があったし、ユキちゃんはきっとアサヒの温かさに当てられたんだろうなぁ……。ま、何にせよ2人が付き合うって事なら私は応援しないとね」
あげははましろへの連絡を終えるとユキがアサヒを上手くお出かけに誘える事を願いつつ、自分もまた隣町に戻るためにソラシドモールを出ると愛車であるハマーに乗り込んで運転。移動を開始する事になるのだった。
また次回もお楽しみに。