ヤーキターイの味を少しでも本物に近づけるべく試行錯誤するユキ達。彼女達はそのためにたい焼きの中身の材料を買い出しに行く事になった。その移動の途中。6人は堤防を歩きながら買い物する物を相談していた。
「えっと、はちみつとカスタード。オレンジとか果物も良いかも!」
「うーん、それなら果物をスライスした物じゃなくてジャムに近い物になるのかな?」
「ああ、流石に丸ごとってわけには行かないしな」
付け加えるとたい焼きを作る際はどうしても加熱という工程が入ってしまう。なのでジャムの方が使いやすいというのも挙げられる。
「でもそう考えるとその辺はパンに合うもので一括りにできるよな」
「確かにそうかも……」
アサヒとましろが話をしていると今挙げた物以外に候補があるのかと気になったユキが問いかけた。
「他には何かこれとかあるの?」
「そうだね、えっと……」
「シャケです!思いつくものは全部買いましょう!」
ソラが言い出したのはまさかのこの世界に来てから初めて食べた料理であるシャケである。
「待て待て、たい焼きの中にシャケって聞いた事無いぞ?」
「でも、それがヤーキターイの中身に合致する可能性もあるじゃないですか!」
「う、それを言われると反論はできないが……」
アサヒはソラの意見も一理あると思ってしまっている所があり、完全にソラの意見を通されてしまっていた。
「ヤーキターイの味を知らない俺が言うのも違うかもだけど、ソラさんの言う通りだろ」
「うん。私も賛成。アサヒ君、折角だから試してみよう」
「ッ……」
アサヒはユキからもお願いされると余計に断りにくい心理に持ち込まれてしまう。
「うぐっ……」
「ダメかな……?」
ユキはここぞとばかりに上目遣いによる泣き落としを仕掛けていた。その様子にアサヒはハートを撃ち抜かれそうになる。
「(や、ヤバいヤバいヤバい!?ユキの上目遣いの破壊力が強すぎて気が飛びそう……というか、こんな目。他の奴の前でしてほしくないくらいなんだが)」
「(うぅ、やっちゃった。この前あげはさんに相談した時にやってみたらって言われてやったけど……こんなのアサヒ君以外相手になんてできないよぉ……)」
一方のユキもアサヒ以外に対してなどやりたくないと思える程に恥ずかしさがあったようで。ユキはどんどんと頬が赤く染まってしまう。
「わ、わかった!わかったよ!」
アサヒがソラの提案に乗る意思を示すとそれを見ていたましろやツバサは思わず苦笑いを浮かべていた。
「完全に泣き落としが通りましたね」
「あはは……。アサヒってユキちゃんから何かをされるとかなり弱い所があるから」
「それじゃあシャケとかの変わり種も買うって事で」
ましろはひとまず今のやり取りの結果を受けて買い物の中に普通のたい焼きでは使わないような材料も選ぶことにした。それからましろがスマホを見ると時刻は13時を過ぎており、今の段階から今日中にパーティ開催までやろうとするともうそろそろ試作をするのも限界に近い。
そのため、もし今回の買い物で買った物の中にヤーキターイの味に当てはまる物が無いと厳しい所だろう。
「今13時か。この感じだと時間的に今買った物で上手く作れないと今日中にやるのはキツそうだな」
「ううん、でもだからって諦めたらダメ。チャレンジあるのみだよ!」
ヤーキターイの味に近い物を今日中に作るのは可能性としてはかなり低い。しかし、諦めなければその可能性が0になってしまうという事は無いのだ。
するとそんな時、ツバサやヒョウが自分達のために頑張って試行錯誤してくれている様子を見てユキ達へと声をかけた。
「あの、ましろさん。それにソラさん、ユキさん、アサヒ君。ありがとうございます。ボク達のために皆さんとこんなに頑張ってくれて」
「うん。それとアサヒ、改めてだけどさ。俺の事、許してくれてありがと。あんなに意地悪とかしたのに……」
特にヒョウはアサヒに色々と意地悪やら悪口やらを目の前で言ってしまっていた。それなのにアサヒは自分の歓迎パーティを開こうと計画し、真剣に向き合ってくれている。その温かさがヒョウにとって救いに思えた。
「ああ、その事ならこの前謝ってくれた時にちゃんと許しただろ?それに、ツバサもヒョウも俺達の頼もしい仲間になってくれるのは一緒だからさ。それなのにツバサとヒョウで対応を変えたらいけないだろ」
「そっか……」
ヒョウはアサヒの今の言葉から完全に拗れていた彼との仲はある程度軽口を言い合える程度にまで戻ったと感じ取る。そして、ましろの方も同じように返事を返す。
「ツバサ君もお礼なんてしなくて大丈夫だよ。私はただ純粋にツバサ君やヒョウ君にヤーキターイを食べて喜んでもらいたいだけだから」
「ましろちゃんってそういう所で他人を気遣える優しさがあるよね」
「はい!私達もここに来たばかりの頃にましろさんにスカイランドをイメージした雲パンを作ってもらいましたよね。……あの時、私もユキさんも凄く嬉しい気持ちになれた事。今でも思い出すことができます!」
ソラが嬉しそうにすると同じようにユキも嬉しそうに微笑みながら小さく頷く。実際、この世界に落ちてきて右も左もわからない状態のこの2人を優しく導いてくれたのはアサヒとましろだ。
「ましろさんの料理には食べた人を笑顔にする。そんな不思議な力があるんです!」
「はい!ボクもそう思いますよ!」
ソラはこの世界に来てから幾度となく食べてきたましろの料理の味を思い浮かべながらそう言うとツバサもそれと同じ気持ちなのか、その意見を後押しする。
「え?そんな事無いよ……でも、もしそうだったら嬉しいな」
「ううん。絶対にそうだよ。私達皆ましろちゃんに救われてきたんだから」
ましろはそれに対して最初は謙遜するものの、ユキの方からも自分の料理に秘められた力についてを褒められたましろは照れくさそうに顔を赤くする。
「そういえば、ましろさんが初めて料理をした時って覚えてますか?」
「あ、確かに気になるかも。あんなにも料理が上手なましろちゃんはどんな風だったのかな?」
すると、ユキとソラはましろが初めて料理を作った時の事を尋ねる。2人は今のましろがとても美味しい料理を作っているのだから昔のましろも同じように美味しい料理を作っていたのかと予想したのだ。
「あはは、幾らましろさんでも最初から上手な事は無いと思いますよ?」
「え!?そうなんですか?」
そんな興奮気味の2人にツバサはまるでましろをフォローするかのように仲介する。それを聞いて2人は慌ててましろの方を向くと彼女は頷く。
「うん。私も最初は今のユキちゃんみたいに料理が上手くできない状態だったよ。確か、私が初めて料理をした時はあげはちゃんが近くに住んでいたくらいの小さい頃かな」
そう言いながらましろは昔の事を思い出した。それは彼女が初めて料理を作ろうとした時の事である。
「その時はお仕事で疲れているパパとママのために、おにぎりを作ってあげようと思ったんだけどね。……でも、初めてだったから中々上手く行かなくて」
ましろは当時から仕事が忙しかった両親のためにおにぎりを握ろうとした。しかし、おにぎりを作るためのやり方自体を知らなかったましろは上手くご飯をおにぎりの形で握る事ができず。その場で泣き出してしまう事になる。
「そんな時、アサヒが最初に気がついてくれて。一緒にやろうとしたけどアサヒも上手くできなくて。そうしたらパパとママも気づいたんだ」
それから4人で仲良くおにぎりを握るとそこでようやくましろは1人でおにぎりを作れるようになったわけだ。
「家族皆でおにぎりを作ったあの時間は私にとってとても大切な想い出で。作った後に皆で食べたおにぎりはとっても美味しくて。笑顔で……ずっと忘れられない味」
ましろはそう語りながら当時の想い出は中学生になった今でもずっと忘れられない程に大事な物であると考える。そして、先程ツバサが言っていた家族の時間と照らし合わせるとある結論に至った。
「もしかしたら、その時のおにぎりの想い出は私にとってのヤーキターイなのかも……」
「ましろ、それを言うなら
「あ、そっか。アサヒにとっても大事な想い出だもんね」
そんな風にアサヒやましろが家族で一緒に食べたおにぎりの話をしていると話の間、ずっと静かにしていたヒョウは目に涙を浮かべていた。先程から静かにしていたのもそれが原因だろう。
「ヒョウ?大丈夫?」
「ッ……やっぱり皆が羨ましいよ……」
するとヒョウはずっと閉じ込めていた気持ちを解放するかのように涙を溢れさせながら自分の想いを口にし始めた。
「俺は、俺の親は揃って俺になんて冷たい目しか送ってくれなくて。ましろさんやアサヒみたいに家族と一緒に心まで温かくて美味しい料理を食べた事が無い……。だから、2人が羨ましい」
「ヒョウ……ッ、大丈夫ですよ。ここにはボク達がいますから」
そんな風に泣き出してしまったヒョウを慰めるようにツバサが優しく背中を撫でる。
「うん……。あのさ、俺……この家に来て。皆と打ち解けて食べた料理はスカイランドで家族と食べた料理よりもずっと美味しかった……。同じ家族で食べてるはずなのにこの違いって何だろう」
ヒョウが泣きながらそう言っていると彼の背中を撫でながらツバサはヒョウが定義した疑問について考える。すると、ふと脳裏にある答えが浮かんできた。そしてそれはましろの家族にあってヒョウの家族には無い物についてである。
「あ……」
「ん?」
「ツバサ君、どうしたの?」
「……ボク、気づきました」
ツバサは他の面々に向き合うと真剣な顔つきで自分が思った事を言う事に。
「あの、先程ヒョウが同じ家族で食べているのにその温かさが全然違うという話をしてたじゃないですか」
「うん、確かにしてたよね」
「ボクやましろさんの家族にあってヒョウの家族に無いもの……それについて気がついたと言いますか」
「なるほど、それって何ですか?」
「はい、それは……」
ツバサが前置きを入れた上で大事な事を言おうとしたその時だった。突如として今自分達が歩いている堤防の下の方……つまり、近くに川が流れている草むらの方から拡声器を通したような音が聞こえてくる。
『かばや〜きいも!おいも!おいも!おいも!おいも!おいもだよ〜!』
それは焼き芋屋に変装したカバトンであった。しかし、変装したとは言っても頭に手拭いを被った程度の間違い探し程度の変化しか無いために外から見たらカバトンである事はバレバレで。
『ほらほら、甘くてホッカホカ。美味しいのねん。グフフフフ』
「アレってカバトンだよね?」
「はぁ、何してるかわからないけどあんな奴無視だ無視」
「そうですね、気にするだけ時間の無駄です」
「え?それで良いの?」
ユキ達は声の主が一瞬でカバトンだと見抜くとユキを除く全員はカバトンをスルーする事に決定。ユキだけはわかっていて無視する事に抵抗感はあったが、今はツバサの話が優先なのはわかっていたために彼との話を進める事になる。
「ツバサ君、教えて」
「お願い」
「俺の家族とましろさんやツバサの家族との違いって何かな?」
「えっと、それはですね……」
ツバサが結論を話そうとしたその時。無視されてしまっていたカバトンはどうにかしてプリキュア達に構ってもらおうと声を上げる。
『ちょいちょいちょーい!聞いてんのか!美味しい焼き芋なのねん!』
「今大事な所なので、後にしてください!」
「お前さ、その程度の変装で俺達を騙せると思うなよ?さっさと出直してこい」
『のはあっ!?』
ソラやヒョウにそう言われてカバトンは精神的なダメージを受けつつ唖然とする。そんなカバトンは置いておき、ましろが改めてツバサへとお願いした。
「ツバサ君、カバトンなんて気にしなくて良いよ。話を続けて」
「えっと……」
『美味しい焼き芋なのねん!』
しかしカバトンも諦めない。自分が構われないのなら少しでも声を張り上げて話を妨害しようとする。そして、こうなると流石にユキ達も鬱陶しくなってきたのかアサヒがカバトンへと声を上げた。
「あのさ、お前少しは空気読めよ!ツバサが大事な事を言えないじゃねーか。わかったらさっさと帰れ!」
「ごめんね、ちょっと静かにしてて!」.
「後日相手してあげるから!」
アサヒ、ましろ、ユキの順番でそう言われたカバトン。自分がいるのに完全に相手にしないムードのユキ達を見て流石に苛立ちも頂点に達したのか。変装に使っていた手拭いを外すとカバトンとして本性を表す。
「クソッ!石焼き芋屋に化けてプリキュアを油断させる作戦だったが全然効かないのねん!こうなりゃ、カモン!アンダーグエナジー!」
するとカバトンは無理にでも自分を意識させるためにアンダーグエナジーを召喚。それが焼き芋に注がれてその姿がランボーグへと変化。6人の前に登場する。
「ランボーグ!」
「「「「「邪魔(しないでください)(しないで)(しないでよ)(すんな)(するんじゃねぇ)!」」」」」
ツバサを除く一同は声を揃えてカバトンへと言い返す中、それぞれがミラージュペンを持つ。しかしプリキュアに変身できない以上、無理に戦えないヒョウは後ろに下がらざるを得なかった。
「ヒョウは下がってて」
「う、うん。ユキ姉達も負けないでね」
ヒョウからの言葉に頷くと5人はミラージュペンを使ってプリキュアへと変身する事に。
一方その頃。虹ヶ丘家の裏山にいたシャドーは体にアンダーグエナジーを纏ったまま瞑想をしていた。
「む……」
するとシャドーはカバトンのランボーグが出た事によるアンダーグエナジーの気配を感じ取る。
「………」
そして、シャドーは何かを考えるとその姿が一瞬にして揺らぎ、どこかへと消えてしまうのであった。
また次回もお楽しみに。