熱き太陽 静かなる雪の輝きに照らされて   作:BURNING

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リレーに向けたトレーニング

選抜リレーの選手となったユキ達は一度準備のために家に戻ってからまた街の中にある公園にまで移動。早速そこで特訓を開始する事に。

 

「それでは、早速リレー特訓を始めます!」

 

ユキ、アサヒ、ソラ、ましろの四人は運動できる格好になっており、この場をツバサが仕切った。ちなみにあげはとかけるの二人はエルの相手をしている。

 

「よろしくお願いします!ソラコーチ、ツバサコーチ、ユキコーチ!」

 

「「コーチ……」」

 

「あはは、ましろちゃん。私はコーチには向かないよ?あんまり人に厳しくできないし」

 

「それでも、お願いします!」

 

ソラとツバサはましろからコーチ呼びされた事に嬉しそうに笑う中、ユキは苦笑いする。

 

「あれ?俺は?」

 

そして、一人コーチ呼びから外されたアサヒは効果音があるなら“ガーン”という音が確実に鳴りそうな顔つきになって愕然とした。

 

「まぁまぁ、アサヒ君も手伝ってくれるよね?」

 

「いや、そうなんだけどさ。何で俺だけコーチ呼びされないのかなって」

 

「うーん、多分このメンバーの中だと唯一女子の選抜リレーに関係無いからかな?」

 

ソラ、ましろ、ユキはリレー選手なので言わずもがなだが、ツバサはその指導役で一応関係者に区分される。しかし、一方でアサヒは男子の選抜リレー選手なので一線を引かれた可能性が高いのだ。

 

「ったく。俺もトレーニングしないとダメだから一緒にやってるのに……。ってか、俺一人じゃバトンパスの練習にならないだろ」

 

その瞬間、突如としてアサヒの足を思いっきり何かが踏んだ。アサヒはそのあまりの痛みに声を上げる。

 

「痛ってぇ!?」

 

「ちょっと文句が煩いから静かにしてもらえない?」

 

そこにいたのはやはりというか、案の定というか……ヒョウだった。彼女は澄まし顔でアサヒを見ながら頭に鬼と書かれた鉢巻を巻いている。

 

「痛いな、ヒョウ!お前は最初から暴力振るうことしか頭に無いのかよ!」

 

「……ふーん。そう言ってて良いの?アサヒ」

 

「は?」

 

何故かやけに上から目線のヒョウの手に握られていたのはクリップボードであり、いつの間にか教官のような格好をしていた。

 

「お前、その格好どうした?」

 

「コーチよ」

 

「へ?」

 

「私が今回のあなたのコーチ。だからちゃんとメニューはこなしてもらうわよ。ちなみに、あなたのパス相手にも来てもらったわ」

 

「よっ、アサヒ。よろしくな」

 

そう言って来たのはアサヒの一個手前の走者であるひかるだ。ひかるも運動神経の高さを買われてリレー選手となったのである。

 

「待て待て待て待て待て!何で?何でヒョウがコーチなんだよ!てか、普通ツバサとヒョウ逆だろ!」

 

アサヒが全力でツッコミをする中、ユキ、ソラ、ましろは早々とトレーニングを始めてしまう。

 

「じゃ、こっちも早速始めるから。まずは……」

 

「おい、俺の質問に答えろよ!」

 

「大丈夫よ、手加減はしてあげるし」

 

「答えになってねぇよ!」

 

「はぁ……。女子リレーの方はましろちゃんのペースに合わせる必要があるのと、スムーズなバトンパスの実現のために優しめの指導をするツバサが。こっちは二人共元の体ができてるから少しぐらい厳しい指導でも大丈夫という事で私が心を鬼にして指導してあげるって言ってるの」

 

つまり、適材適所だとヒョウは言い張る。それでもやはりアサヒは納得いかないようで。

 

「お前、絶対俺に上から目線ができるから立候補しただろ」

 

「……は?私がわざわざそんなつまらない理由でやると思ったの?」

 

アサヒとヒョウの言い争いがどんどんヒートアップする中、ひかるは二人を仲介しようとして割って入る。

 

「まぁまぁ、落ち着けって二人共。ひとまず今回はよろしくお願いします、ヒョウコーチ」

 

「ひかる君の方は素直に聞き入れたわよ。アサヒ、あんたは?」

 

「……よろしくお願いします」

 

「宜しい。じゃあ早速……」

 

「そういや、前にユキさんに聞いたけどヒョウって確か前々から熱血鬼コーチに憧れてたんだよなー。だからこんな役所やりたいって、アサヒに当たりキツイ所ある割には意外と動機が可愛いな」

 

「あ、馬鹿お前!」

 

ひかるは前に学校でユキから聞いた事をついつい本人の前で口を滑らせてしまう。その言葉にヒョウは“カチン”と確実に何かがキレたような感じになるとどこから出したのか手に竹刀を構える。

 

「ふーん。ユキ姉から聞いたんなら話が早くて助かるわね?あんた達、覚悟しなさいよ!まずはウォーミングアップの体力作り、公園のコースを十周よ!」

 

「「ひ、ひいっ!」」

 

ヒョウが半ば怒りを込めたような言葉で二人に声を上げると流石の二人もヒョウの顔つきにびびって走り始める。ちなみに元々は軽めに五周程度で済ませるつもりだったのだが、ひかるの言葉はヒョウを完全に怒らせたらしい。

 

二人は早速ヒョウが作ったトレーニングメニューを開始するのだった。そして、そんな中。ソラやツバサが指導するましろのトレーニングメニューはかなり優しめでましろのスタートの姿勢や走り方。

 

本番での走る順番はソラ→ましろ→ユキの順でましろを間に挟む形のため、ソラからましろへのバトンパス。更にましろからユキへのバトンパスも練習に組み込んでいる。

 

「ほらほら、まだ三周目よ!」

 

「テメェ、ヒョウ後で覚えとけよ!」

 

「コーチに口答えしない!」

 

「あはは……」

 

この間にもアサヒとひかるのヒョウコーチによる割と厳しめのトレーニングも続く。とは言っても、流石に体を壊すような無茶は最初からしていないし、ヒョウもやらせるつもりは無い。あくまでもこれはリレーのための練習。リレーに必要な事をましろ達より少し厳しめにトレーニングしているだけだ。

 

そして、トレーニングをある程度やった所で休憩タイムに入る。ましろ、アサヒ、ひかるの三人は疲れた様子で戻ってくるとアサヒ、ひかるはシートの上に座り込み、ましろは寝そべった。

 

「はひぇ……」

 

「ヒョウのメニュー、キツイ……」

 

「でも、思ってたよりは楽だったな」

 

「当たり前よ。私だって効果的なやり方をちゃんと調べたんだから。最初からそのつもりだったし」

 

「ホントかよヒョウ……日頃の俺への恨みをぶつけてなかったか?」

 

「アサヒ?そんな事言ったら今度は今回のメニュー、倍にするわよ?」

 

ヒョウにそう言われてアサヒは苦い顔をする中、エルはましろの元に行くとお疲れ様とばかりに頭を撫で撫でした。

 

「ましお〜」

 

「凄いね、エルちゃん〜。沢山歩いたね!」

 

「えるぅ!」

 

「エルちゃんは普通に体を動かすだけでも楽しいからね」

 

かけるの補足にましろはエルの方を見ながらかつての自分を思い出そうとする。

 

「体を動かすだけで楽しいかぁ……。私にもそんな時があったのかな?」

 

「あったあった!ましろんってば、アサヒに鬼ごっこの鬼をやらせてずっと走ってたんだから!」

 

「あー、そう言えばそんなのもあったな……」

 

「えー?覚えてないよ……」

 

「でも、こうやって皆で気持ちを一つにして特訓をするの……楽しいね。ましろちゃん!」

 

「うん!それじゃあ、体育祭に向けての特訓……頑張るぞー!」

 

「「「「「「おー!」」」」」」

 

それからというのもの、ユキ達の特訓は続いた。時には朝のランニングで。時には家の中でのバトンパス。時にはヒョウからの鬼指導……されたのはアサヒとひかるだけだが。体育祭に向けての準備は着々と進んでいく。そんな中、ある日の放課後だった。

 

「あっ!ごめん。教室に忘れ物しちゃった!」

 

いつものように一緒に家に帰ろうとするソラ達いつものメンバーが下駄箱に到着した中で、ユキは教室に忘れ物をした事に気がつく。

 

「じゃあ、校門の近くで待ってるからね」

 

「うん、ごめん。すぐに取ってくるから!」

 

アサヒやソラ達にそう言って急いで教室に戻るユキ。そんな中だった。自分達の教室の中でとある会話を聞いたのは。

 

「あーあ。ましろさんが選抜リレーの選手って、贔屓しすぎじゃない?」

 

「えー?そうかな?」

 

「脚の速さで考えたらどう考えても無いでしょ」

 

「でも、ソラさんも言ってたじゃん?リレーはバトンパスが大事だって」

 

「そんなの練習すれば誰だって早くできるようになるよ」

 

ユキがそっと教室の中を覗くとそこにいたのはクラスメイトが五人ぐらい固まって話している様子だった。その内容はましろが選抜リレーの選手に選ばれた事に対する不満である。

 

「ましろちゃん、確かに頑張り屋さんだけど……やっぱり不安だな」

 

「そうだよね。それに、バトンパスが上手くいっても走り負けたら意味無いし……」

 

「そこはユキさんやソラさんが何とかするでしょ」

 

「あの二人かぁ……どれだけましろさんが追い抜かれても二人がいれば平気だと思うけど」

 

その会話にましろに向けた悪意があるわけでは無かった。本人達からすればただの何気ない不安を愚痴として話していたつもりだったのかもしれない。それでも、ユキはその言葉を……許せなかった。

 

「取り消して……」

 

クラスメイト達がその方を向くとユキはいつの間にか教室に入っていて、クラスメイトへと声を上げていたのだ。

 

「ましろちゃんを馬鹿にするなら私が許さない!その言葉、取り消してよ!」

 

「落ち着いて、ユキちゃん」

 

「俺達、そんなつもりじゃ……」

 

「どうしてましろちゃんの努力を知らないあなた達がそんな事言えるの?……ましろちゃんだって皆からの期待に応えるためにバトンパスの練習を沢山してるのに」

 

「で、でも……ましろさんって足遅いだろ?だから……」

 

「だからって人の努力を否定するような事を言わないで欲しい。……それに、こんな本人のいない所で言うなら尚更ダメだよ!」

 

それを聞いてクラスメイト達は“ハッ”として我に帰るとユキへと謝罪の言葉を口にする。

 

「ごめん……そこまで考えてなくて……」

 

「うん。悪口のような事を言っちゃってごめんなさい」

 

「……私が一番取るから……」

 

「え?」

 

「ましろちゃんが足遅くて他の人に抜かされて最下位とかになっても私がちゃんと全員抜き返して一番取るから!私が、私がそこのカバーするから!」

 

「ユキさん……」

 

「もし、それで私が一番を取れなかったら皆で私を責めれば良いから。だから、ましろちゃんを悪く言うのはもう止めて」

 

ユキの言葉を聞いたクラスメイトは慌てた様子へと変わる。ユキは一番になれなければその責任を取るとまで言い出したのだ。そして、それはつまりユキへの大きなプレッシャーを与えてしまった事に繋がる。

 

「待って、ユキさん。ユキさんがそこまで事態を重く捉えなくても……」

 

「俺達、そんなつもりでさっきの事言ったわけじゃなくて……」

 

「……私、頑張るから……。だから、ましろちゃんへの悪口はもう言わないで。陰口も言ったら許さないから」

 

ユキはそう言って忘れ物を手に取ると鞄の中に入れて教室から出ていく。クラスメイト達はユキの決意を聞いて青ざめた顔に変わる。彼らはユキの過去についてある程度ユキの了承を得た上でソラやましろ達から聞いていた。そのために形はどうであれ、ユキに心の負担をかけてしまった事を後悔してしまったのだ。

 

そんな中、ユキはいつも通りの顔で校門近くで待っていたアサヒ達の元に行くと声をかける。

 

「お待たせ!」

 

「じゃあ、行こっか!」

 

「うん!」

 

「(……絶対に勝つ……私、一番を取ってみせるから)」

 

こうして、体育祭の本番の日は近づく。結局、当日までユキの中に生まれた心の変化に彼氏のアサヒを含めて気づけなかった。そして、この気持ちがユキを精神的に追い込む事になる。




また次回もお楽しみに。
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