ユキとアサヒのお出かけの最中、2人は話の流れで映画を観に行くという話になった。そして、2人は移動すると映画館に到着する。
「ふわぁ……ここが映画館って所なんだ」
「ああ。あそこに上映作品が載ってるけど……」
「ッ……」
アサヒがそう言った所でユキの方を向くと彼女は目を輝かせており、それはまるで始めて見る物に興味津々な子供のようでもあった。
「……はっ!?あ、アサヒ君……えと」
「ふふっ、楽しそうにしてくれて何よりだよ」
「ッ、ご……ごめ……」
「ほら、謝るよりもまずは観たい映画のチケットを買わないと」
ユキはアサヒに促されると一緒に上映映画の一覧の場所へと移動。そこにあったのはその名の通り、今現在上映している映画がズラリと並んでいた。
「どれにしよう……」
「あ、でもここにある映画が全部観られるわけじゃなくてだな。ここに上映時間があるだろ?それが上映開始する時間。チケットはこの開始時間までに買わないといけないから」
「そっか、観たい時間に合わせて適した時間の物を買わないとダメなんだ」
ユキはアサヒからの補足を受けると改めて今の時間……10時過ぎの時間帯から選ぶと主に三つの候補があった。
1つ目は見た目は子供、頭脳は大人な名探偵が小島で起きた事件を解決する物である。その中には潜水艦も登場するようで。人気な映画だからか、上映回数はそれなりに多かった。
2つ目は某配管工の赤と緑の髭を生やした兄弟が作品のボスである巨大な火を吹く亀に立ち向かうアクション映画であり、アクションの中に混ぜられたギャグシーンも面白いと思える一因だった。これも人気作で回数が多めである。
3つ目は冴えない男子生徒が主役で幼い頃に一緒に遊んでいた幼馴染が美少女に成長してその子と喧嘩しながらも困難に立ち向かいつつ絆を深めていくという学園青春物語だった。ただ、この映画は公開から時間が経っている事。そして前二つと比べると知名度、人気度共に劣っているのか……上映回数はこの回を含めて夕方遅い時間のもう一度しか無い様子だった。
「どうしよう……どれも気になる」
ユキはあらすじをアサヒから説明してもらうとどうすべきか迷う。ただ、上映開始時間が迫っている事もあってユキは早く選ばないといけないと焦っていた。
「ユキ、焦らなくても良いんだよ。どうしても無理だったら観ないって選択肢もあるし」
「……ううん。私、ここまで説明してもらって興味があるのに観るのを止めるなんてしたく無い……」
「ッ、そっか。じゃあ、焦らないようにな。焦って観たい物を観れなかったは困るし」
ユキはアサヒに促されて小さく頷くと改めて作品と向き合う。そんな中、ユキの胸を強く惹きつける物があった。その映画は……。
「これ……気になる」
ユキが指差したのは学園青春ものの恋愛物語の映画であった。アサヒはそれを聞いて微笑むと頷いた。
「わかった。実は俺も気になっててさ。マイナー所だけど、だからこそ興味が湧くんだよな。じゃあ、これにしよう」
それから2人はチケットを購入するために移動。アサヒがユキにレクチャーしつつ操作しているとその最中で座席の指定画面が出てくる。
「えっ、座席指定?」
「ああ。映画っていうのは基本的に座席指定って物があるんだよ」
座席指定、それは映画を観る際に必要不可欠な要素だ。チケット購入の際に残っている席の中から自分達の観たい場所を選択。その場所を確保するのである。
当然ながら、既に購入されている席は買うことができない。そのため、人気映画とかは席の争奪戦になる例もあるだろう。
「え、えと……私達は2人で来てるから」
「ああ、隣り合ってる席が空いてないと不味いかな」
2人は祈るようにして席の選択画面に移る。……ただ、結論から言うと2人の心配は杞憂で終わった。
「ッ、2席の隣り合わせ……良かった。ちゃんとある」
「むしろこの映画が公開後時間が経ってるおかげで色々選択肢があるな。ユキ、どの辺りが良いとかある?」
空いている席に関しては2人の思った以上に残っており。後はこの中から好きな場所を選ぶのみ。ユキはそれを聞いて少し考える。
「あまり近いのもだし、少し後ろの真ん中くらいが空いてるからここかな」
「わかった」
ユキが選んだのはG列の真ん中くらいの席。丁度上映会場のサイズ的に本当に真ん中に近い場所と言えるだろう。
「チケットを購入したら、次は……」
アサヒは時間を見ながら次の要素について説明しようとする。そんな時、ユキのお腹が“グゥ〜ッ”と鳴ってしまう。
「ッ!?」
「ユキ、お腹が空いたのか?」
「え!?えっと……その……」
ユキは恥ずかしそうに顔を赤くしつつ小さく頷く。彼女がお腹を空かせてしまった理由としては映画館のロビーに広がる良い香りだった。そのため、アサヒはユキを連れてある場所に向かう。
「ここは……ッ。さっきからずっと香ってくる良い匂いってここからだったんだ」
「ああ。ここでは映画を観ながら食べたり飲んだりできる飲食物を売ってるんだ」
「そうなんだね……えっと、これは……」
「それは映画館の定番、ポップコーンだな」
「ポップ……コーン」
ユキは初めて見るポップコーンに興味深そうな目線を向けるとその間にアサヒはポップコーンを購入。サイズは小腹が満たせるように2人で一つのMサイズにした。
「お飲み物はどうされますか?」
「えっと、ユキ。飲み物はどうする?」
「ッ、えと……それならカルピスで」
「ならそれ2つ」
ユキは咄嗟に飲み物の中からカルピスを選択。彼女は食べたいと思ったポップコーンがいつの間にか頼まれていた事に困惑していた。
「あ、アサヒ君。ポップコーン以外にも色々あったのにどうして……?」
「え?今の話の流れからしてユキが食べたいのはポップコーンかなって」
「それは……そうだけど」
ユキはほんのり顔を赤くすると知らない間に自分は合わせてもらっていたのだと考えると少し申し訳なさも感じていた。
「ユキもそんなに神経質にならなくて大丈夫だよ。今日は楽しむって決めてるんだからさ」
「ッ、うん」
それから2人はドリンクとポップコーンを受け取ると早速チケットを手にシアターの出入り口に向かう。
「そういえば、入場時間とかってあったりする?」
「ああ。流石に映画館も無制限にスペースがあるわけじゃないしさ。一つの映画館に10個ぐらいのシアターがあるんだけど……それを上手く使い回しているんだ」
「そっか……あ、もしかして準備とかの関係で10分前くらいじゃないと入れない……とか?」
「お、よくわかったな。そうだよ」
ユキは自分の予想が当たった事に嬉しそうな顔をするとアサヒもそんな彼女に微笑ましい顔を向ける。
それから2人がシアター内に入ると事前に購入した席に座る。そのまま2人はポップコーンを少しだけ食べつつ雑談をする事に。
「ポップコーン……初めて食べたけど美味しい」
「だろ?一応今回は一般的な塩バターって味だけど、他にも色んな味があるんだ」
.
「たい焼きみたいに色々変えられるって事だね」
「ああ」
ユキはポップコーンもたい焼きと同じでその気になれば色々味変が加えられそうな食べ物だと認識。すると映画館が少しだけ暗くなると同時に映画の宣伝時間が始まった。
「あ、あれ?暗くなったからやると思ったけど……まだなんだね」
「そうだな。こんな感じで他の映画の宣伝をするんだよ。テレビで言う所のCMって事かな」
「なるほど、CMか……」
ユキは映画にもそういう宣伝のタイミングがあるのだと認識。ただ、テレビの宣伝と聞いて彼女は何かが気になったのか。アサヒへと問いかける。
「えっと、そういえばCMと言えば。映画の本編がやってる時もいきなり宣伝が入るのかな……?ほら、動画投稿サイトとかでも途中でいきなり入るし」
「いや、映画に限ってその心配は要らないよ」
「えっ、そうなの?」
ユキは先程アサヒから大きくなったテレビに近いという説明があったため、テレビと同様にCMがいきなり流れる可能性を考えていた。しかし、アサヒにそれを即否定されて唖然とした様子を見せる事に。
「ああ。映画の上映中は映画の本編しか流れない。その代わり、今やってる映画の宣伝は結構長めってイメージかな」
「……本当だ。いつもならすぐ終わる宣伝がまだやってる」
ユキはアサヒの言った通り、映画の宣伝がテレビのCMよりも長い事を実感。同時にアサヒの言う通りなら映画中は余計なCMや宣伝が無い事を改めて認識する。
「ッ……」
それからユキは映画が始まるまでの間、映画が楽しみだという気持ちが強いのか……興奮したように頬が少しだけ赤くなるとソワソワとし始めた。その様子にアサヒはまた心の中が温かく思えてくる。
「(……これで何度目だろう。ユキ、凄く可愛い……)」
アサヒはユキの仕草一つ一つに完全に魅了されており、胸が高鳴りっぱなしであった。同時に彼はこの笑顔を恋人として側で守りたいという気持ちが強くなる。
「(ユキって自分では否定しそうだけど、本当に女子の中ではトップクラスで可愛いんだよな。ここまで来ると自己肯定感が低いのが本当に勿体無いって思えるくらいだよ)」
ユキは幼い頃のトラウマで他人から悪意の目に晒されたせいで自分の長所を褒められても否定的な返しが殆どだ。この辺りは肉体的にも性格的な面でも非の打ち所が無い彼女にとって本当に勿体無い部分である。
「(いつか、本当の意味でユキが笑顔になってくれたら良いのにな)」
アサヒはユキの心の奥底には過去のトラウマがまだ色濃く染み付いている事を察しており、それを全部取り除かない限り……彼女は本当の意味で救われたとは言えないと考えていた。
それはさておき、ようやく映画の宣伝が終わるととうとう本編がスタート。映画館内は暗くなると映像が始まる事になる。
『どうして俺みたいなのに話しかけてくれるんだよ……他にも友達は沢山いるのに……』
「ッ……」
最初は自己肯定感が低い主人公の男の子が幼馴染の女の子から仲良くしてもらえる事に疑問を感じている様子で。ユキはそんな男の子に自分を重ねていた。
『えー?そんなの、幼馴染が1人で寂しそうにしてたからに決まってるじゃん!』
『ッ……やめてくれよ。そんな事したら、そんな事したら、周りからお前がなんて思われるか』
それから話が進むについて男の子と女の子が意見の衝突で喧嘩するシーンもあり、ユキは胸が悲しさで張り裂けそうに思えてきた。その喧嘩がお互いに相手の事を想っての行動で。ユキもアサヒもそんな2人の喧嘩シーンでは思わず目を背けたくなってしまう。
「「………」」
しかし、最終的にお互いの想いが通じたのか。主人公と幼馴染の女の子はとうとう結ばれた。夕日に照らされた空の下、2人は学校の屋上でキスをしたのだ。
「(き、き、キスした……。好きな人相手にキス……ッ。今の私に……そんな事できるのかな)」
「(ヤバい……ユキとのキスシーンを想像して……ダメ、ダメだって……。そんな気持ち悪い考えの奴、ドン引きされるに決まってる)」
ユキもアサヒも恋愛映画のおかげか、映画でやっている内容を今目の前にいる自分の好きな人相手にしたいという欲が湧き上がってくる。しかし、お互いにそんな事をやってしまえば相手から嫌な目で見られてしまうと思ったのか……その話を持ち出す事はできなかった。
そして、シアターから出ると早速アサヒがユキへと初めての映画の感想を聞く事に。
「ユキ、どうだったか?」
「えっと……テレビで観るよりも大画面で観やすくて。音の聞こえ方とかも違って……後はその、あの2人が結ばれて良かったね」
ユキは最後のシーンで幼馴染だった2人が互いを愛し合い、告白した上で付き合う事を決めてキスまでした事を思い出すとその光景に思わずまた顔がほんのりと赤くなる。
「ああ。最後はキスシーンも入れてくれて。結構ロマンチックな終わり方だったな」
そんな中、ユキはアサヒの方をチラッと見るとモジモジとした様子を見せた。この時、ユキの中へとある考えが浮かんでくる。
「(どうしよう、映画を観たおかげかわからないけど……アサヒ君のカッコいい所が脳内から抜けてくれない。このままじゃ、勢いに任せてアサヒ君と……ッ!ダメダメダメ!)」
どうやら、映画の雰囲気に釣られてアサヒへの気持ちを強く開放しようと思った所……どうにか理性を働かせて無理矢理抑え込む。勿論、できるのならそうしたいのだが……今のユキはあくまでアサヒとはただのお友達だ。それなのにいきなり親密な事をやり出したら違和感が強すぎるだろう。
「(うぅ……でも、今の私なんかじゃ……きっとアサヒ君は好きになってくれないんだろうな)」
「ユキ?」
「へっ?ふぁ、ふぁい!」
「大丈夫か?」
ユキがまた悲観的な事を考えてしまうと更にタイミング悪くアサヒが話しかけてきてしまった。そのせいで彼女は変な声を出してしまう。
「う、うん……ごめんね、心配かけさせて……」
「ッ、そんなに気にしなくても大丈夫だぞ?俺からしたらユキが映画を楽しんでくれただけで十分だから」
ユキはまた自分のミスでアサヒに恥をかかせたと思ったのか。落ち込んだような様子を見せた。
「うん……」
「ユキ、ひとまず軽めにはなるけどご飯食べに行こ。ポップコーンだけだと足りないだろうし」
「ッ……うん、わかったよ」
アサヒはユキが落ち込んだのをまた感じ取ったのか。一旦ご飯を食べる事で気持ちを整理させようと思った。
「(まただ……。何でそんなに落ち込んじゃうんだよ。俺は、ユキに楽しい時間を過ごしてほしいだけなのに)」
「(うぅ、また気を遣わせてしまった。このままじゃアサヒ君は私なんかの事……すぐ嫌いになっちゃう……)」
ユキもアサヒも映画で一時的にお互いに良い気分になれたものの……やはりお互いの気を遣いすぎる性格が邪魔をして結果的には双方共に良い方に話を持っていくことができなかった。
「(どうしよう……どうすればアサヒ君が私を好きでいてくれるのかな……)」
「(今度こそユキには笑顔になってもらわないと。ここに連れてきた意味が無くなる……。もういっその事、ユキの素直な気持ちを聞いた方がマシかな)」
2人は映画館からフードコートに移動しつつ、相手のために自分ができることは何なのか。そして、相手の笑顔を取り戻すにはどうするべきか。……まだまだこのお出かけでのお互いの目的は果たせそうに無いのだった。
また次回もお楽しみに。