体育祭本番の日。その日は天気も晴れて絶好の体育祭日和だった。そして、ソラシド中学校での体育祭は幕を上げる。
「「「「「「オーエス!オーエス!オー、エスオーエス!SOS!SOS!」」」」」」
「って、違ーう!誰だ、SOSって言い出したの!!」
綱引きでは誰が言い出したのか、引っ張る際の掛け声がいきなりSOSとなって観客の笑いを引き出していた。
「凄い、会場がウルトラハッピーに包まれた……」
「いや、それ違うプリキュアのネタだからね?」
ユキが観客の笑いを引き出したネタに関心する中、ましろは苦笑いしてツッコむ。
続けて行われた玉入れでは、ユキ達のクラスの属する赤チームの球をユキが必死に投げる中、隣でアサヒは体に今にも体から赤い色のオーラが出るのではと言える程に超高速で拾っては投げ続ける。
「はぁああっ!身体保ってくれよ!三倍○王拳!」
「アサヒ君!?」
「おお、アサヒさん、気合い十分ですね!私も負けてられません!」
するとソラもつられて投げ始める。そのまま赤チームの玉入れは完全にソラとアサヒの二人の独壇場へと変貌した。
「「オラオラオラオラオラ!」」
「なんか別のアニメのネタ混じって無い!?」
「まだまだぁ!四倍だぁああっ!」
そこで更にパワーを上げたアサヒ。しかし、投げた球の一つが籠の縁に当たるとアサヒの投げた力が強過ぎたのか……。跳ね返ってアサヒの顔面に命中。そのままアサヒは目を回して倒れてしまう。
「ああっ!アサヒ君!!」
ユキが慌ててアサヒへと駆け寄る中アサヒはセルフ○王拳の反動か疲れて動けず。その後はソラの活躍で勝ったものの、アサヒは恥を晒す事に。
「はぁ……あの馬鹿……」
「まぁまぁ、ヒョウちゃん。アサヒ君も頑張ってたしそれを褒めてあげようよ」
「かけるさんがそう言うなら怒りませんけど……てか、アイツこれで疲れたら選抜リレーどうするのよ」
しかし、ヒョウの予想に反してアサヒは割とすぐに復活した。そもそも倒れた原因がアサヒが投げた高速弾の跳ね返りによる顔面激突が影響していたので体力の方はヒョウが鍛えた成果かあまり失ってないように見える。
更にその後の騎馬戦ではチーム戦でクラス対抗戦だったのだが、女子の方はソラ、ユキ、ましろが上に乗るメンバーとして参加。ましろは早期脱落してしまったものの、対面で強いソラが引きつける間にユキが相手の裏を取って奪う戦法を決める。
するとそれを警戒して他のチームは裏を取ってくるユキの騎馬が弱いと予想してターゲットを移す。しかし、それこそがユキ達の立てた作戦だった。ユキが乗る騎馬は敢えて体幹が強めで多少ユキが上で暴れても問題無いパワー系の女子でチームを組んでおり、ユキがプリキュアでの経験で培った空間認識能力を活かして他チームから伸びる手を全て回避。
すかさずソラの乗る本命の機動力の高い女子で組まれた騎馬の機動戦術でソラが次々と相手の帽子を奪って脱落させていく。最終的にユキも取られて脱落したが、その時に残っていた敵チームの騎馬は殆どなく。最後はソラがタイマンで勝利して見事作戦勝ちを決めた。
「ユキさん!やりました!」
「作戦、ちゃんと決まったね!」
二人がハイタッチをして喜ぶ中、すぐに男子チームの騎馬戦も始まる。騎馬の上に乗ったアサヒやひかるは意気揚々と出て行ったが……。
「良し、ひかる。俺達も続くぞ!」
「おう。俺達で相手を全滅させ……」
開始のピストルが鳴った瞬間、敵チームはアサヒとひかるの乗った騎馬を危険視していたとばかりに集中攻撃。
「え!?」
「ちょっ!?待っ!?」
結果、殆ど活躍の機会も与えられないまま二人共負けてしまった。こればかりは先程の女子チームの試合を見てユキ達のクラスがこれ以上勝つと自分のチームの点数が足りなくて総合的に負けると考えたのか、他のクラスのメンバーが事前に結託したと言わんばかりに群がって来たのだ。
「嘘だろ……」
「俺達見せ場無しかい……」
尚、これを見たヒョウはアサヒが集中攻撃されて見せ場なく脱落した事に満足したのか軽く吹き出し、アサヒ達と作戦を練るのを手伝ったツバサは頭を抱えた。
「ぼ、ボクの作戦が……」
「まぁまぁ、少年。こういう時もあるよ」
「ユキさん達のチームが圧勝しちゃったから相手チーム全部がアサヒ達を狙っちゃったし仕方ない所だけどね」
「
「ヒョウ、本音と建前が入れ替わってますよ!」
「オイコラ!ヒョウ、マジで後で覚えとけよ!」
ついでにアサヒがヒョウへと叫んだせいで更にアサヒは悪目立ちする羽目に……。尚、ヒョウとツバサとアサヒのやり取りは周りに丸聞こえだったので三人揃ってコントだと笑われたが。
その後も競技は順調に進む中、もうすぐ選抜リレーの時間が迫ってきた。順番としては女子→男子のため、先にやる女子チームは整列のために移動を開始する時間が迫る。
「ちょっとトイレ行くね」
「え?ユキさん、もう整列しに行く時間ですよ!」
ユキはソラが呼び止めるのも聞かずにユキはどこかへと走っていく。しかも、アサヒはそれを見て目を疑う。それはトイレとは真逆の方向だったからだ。
「ユキ……?」
ユキはトイレに行くと嘘を吐いて急いで校舎の影にある手洗い場へと向かう。そして、周りに誰もいないと確認すると一人胸に手を置く。
「……ふぅ……。大丈夫、絶対勝てる……一番取る……。ましろちゃんが気にしないようにするために……」
「こんな所で何してるんだ?ユキ」
「……ッ!!」
ユキが声に気がついて振り向くとそこにはアサヒがいた。どうやら知らない間に付けられてしまったらしい。
「な、何でも無いよ」
「……ダウト」
ユキは笑って誤魔化そうとするが、やはりアサヒ相手に隠し事はできないのか一瞬で嘘はバレた。
「ユキ、何で一人で溜め込んだ?」
「だから、何も私は……」
「はぁ……クラスの奴から全部聞いた」
「ッ……」
アサヒは気がついていた。ユキが何かおかしい事を。その上で体育祭が始まる前にユキがおかしくなった理由に心当たりが無いかとクラスメイトに聞き、前のましろの悪口や陰口の件を全てを知ったのだ。
「今日の朝からユキがおかしいのは何となく気がついた。まぁ、昨日まではそんなそぶりすら無かったから気がつかなかったけど」
「時間があるから私は……」
「待て」
アサヒはユキがさっさと行こうとするとその手を掴んで止める。そして、ユキへと言う。
「時間が無いから手短に言うね。……お前がそこまで気負う必要は無い。そもそも悪いのは悪口を言った奴等だ。ましろの名誉を守るためにお前は自分を追い詰めてるけど、ましろはそんな事望んで無い。だからユキ、お前は前だけ見て走れ。ましろからのバトンを信じて待ってろ。それがお前のできる事だ」
ユキはアサヒにそう言われて一度深呼吸をすると先程まで固かった表情や胸のつかえは和らいでいく。そして、ユキは小さく頷いた。
「良し……じゃあ、行ってこい。女子チームのエース!」
「うん!って、エースはソラちゃんだよ!?」
「細かい事は気にしない!時間無いんだろ!」
アサヒがそう言ってユキを送り出すとユキは急いで走る。そして、時間ギリギリだったが、選抜リレーの列に加わった。
「ユキさん、どこ行ってたんですか!」
「ごめんソラちゃん、皆。……もう大丈夫だから!」
そんなユキの顔を見たソラはさっきと違ってユキが大丈夫だと安心すると笑顔になる。そして、ユキはましろの方を向いて小さく言う。
「ましろちゃん。どんなに遅くても良い。どんなに周りに抜かれても良い。……ましろちゃんからのバトン、信じて待ってるから」
ユキの言葉にましろも安心感に包まれたのか彼女の緊張をほぐすことに成功。ましろも覚悟を決めた顔で頷く。
それから女子の選抜リレーの位置に全員が着くと早速リレーが始まった。ユキ達の赤チームは最初、相手のチームの陸上部を中心とした脚の速いメンバーによって差を付けられてしまうが、吉井を中心に何とか喰らいつく。しかし、やはりスピードの差は覆せずに最下位でソラにバトンが渡った。
「(アンカーのユキさんに繋ぐためにも絶対にこのバトンをましろさんに渡します!)」
ソラは全力を解放すると一気に加速。前を走っていた三人の走者をあっという間に抜き去っていく。
「やっぱりソラさんは速い!」
「次はましろちゃんだよ!」
「やばい、こっちもドキドキしちゃうんですけど……」
「いっぱい練習してたのよ。大丈夫」
「がんばえー!!」
観客席ではツバサ達が固唾を飲んで状況を見守り、エルが応援の声を上げる。そんな中、ソラはある程度リードを作った状態でましろへとバトンを渡す事に成功。これならましろが多少周りに遅れを取ったとしてもユキで十分に詰められる距離だ。
「ましろさん!」
「うん!」
ましろは一生懸命前を見て走る。その先にいるユキを目指して。そして、コーナーを半分過ぎてユキに渡すまであと少しと言ったところでバトンを繋げるそんな時だった。
「ッ!?」
ましろは普段運動し慣れていなかったせいか、コーナーを上手く曲がれずに脚をもつれさせて転んでしまう。
それを見たユキは目を見開く。それと同時に待機していたソラや観客席のツバサ達は思わず声が漏れた。ちなみにアサヒ達は次のリレーのために待機している所のため、状況がわからない。
ユキは声をかけようとした所でそれを止めた。後ろから走ってきた三人の走者が次々とましろを抜かして置き去りにする中、彼女は見る。ましろの目は……まだ諦めていない事を。
そして、ユキは自分の言った事を守るためにただましろを信じて待ち続ける。自分の隣に並んだ他のアンカーは次々とバトンを受け取る動作をするために既に走り始めている。もう一番を取るのは誰が見ても絶望的。
それでも……それでもユキはましろの目を信じて声を上げることは無かった。それに応えるようにましろは立ち上がって走り出す。そして、最後の走者がバトンパスのエリアを出た直後にユキはましろからのバトンパスを受けるために走り出す。
「はい!」
ユキはましろからのバトンパスを受け取ると一気に地面を踏み込む力を強くする。そして、ユキは持てる全力を以て走り始めた。
「ユキ姉、お願い!!」
「頑張れ、ユキさん!」
「最後まで諦めるな!」
「ユキちゃん、頑張れー!」
「ねぇね、がんばえー!」
ツバサ達の声はユキの耳には届かなかった。それ程までにユキは集中した状態を引き出すと所謂ゾーンに入る。もう雑音なんて彼女の耳には入らない。そして、ゾーンに入った事でユキの身体能力は限界を超えて解放。そのスピードはトップスピードを出したソラをも超えていた。
ユキの加速力は他の走者の追随を許さず、前にいた三人の走者をことごとく抜き去り、先頭の走者よりも一歩速くゴールテープを切る。
そのユキのあまりのスピードに周りの観客やクラスメイト達は歓声をあげた。そんな中、ユキはゴールした事にも気づかずに十メートル程走るとようやくゾーンが切れて周りの声が聞こえてきた。
「……え?」
そこに飛び込んでくる女子の選抜リレーのクラスメイト達。その歓声に囲まれてユキはソラとましろの方を向くと二人はその場から走っていくのが見えた。
「ソラちゃん、ましろちゃん……」
しかし、ユキは追いかけなかった。彼女は知っていたのだ。ましろがどんな気持ちに陥っているのか、同じ失敗をかつてしたユキはましろには敢えて声をかけずに対応をソラに任せて他のクラスメイトと共に席に戻っていく。
「ユキちゃん、凄かったね」
「流石女子のスポーツテスト一位だ!」
「あはは、ありがと……」
するとそこに何人かのクラスメイトが来るとユキへと頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
「「「「「この前は本当にごめんなさい!」」」」」
「え?」
「ユキさんに心労をかけた事」
「ましろさんに陰口を言っちゃった事……」
「凄く反省してる。だから……」
「良いよ」
ユキはクラスメイトからの謝罪に微笑むとそれを許した。彼女の顔からは怒りや苦しさなど欠片も無く、ただ純粋にクラスメイトを許す気持ちでいっぱいになっていた。
「私はもう大丈夫。それと、ましろちゃんには後でちゃんと謝ってね」
ユキの言葉にクラスメイトは頷く。その様子をリレーのためにトラックの中に入って横目で見ていたアサヒはユキがちゃんと立ち直った事に笑みを浮かべる。そんな時だった。
「カモン!アンダーグエナジー!」
突如としてライン引きと呼ばれる道具にアンダーグエナジーが注がれるとランボーグが登場。トラックの真ん中で叫び声を上げるのだった。
また次回もお楽しみに。