ユキとアサヒが行っているソラシドモールへのお出かけは映画を観終わった昼時へ。今現在、2人の姿はフードコートにあった。
「「……」」
ただ、2人は席を確保して向かい合っているものの……お互いの顔色を伺っている状態なのか。沈黙が続いている状態に陥ってしまっていた。
「(どうしよう……このまま気不味い空気なのは嫌だ。話しかけたい……けど)」
「(うぅ、アサヒ君と仲良くなりたい。一緒に笑いたいのに……)」
2人共相手の出方を見ているせいでお互いに仕掛ける事ができておらず。まずはどちらかが話しかけないといけなかった。
「……ゆ、ユキ」
「は、はいっ!」
「何食べるか決めた……?」
「えっ?あっ……えと」
ユキは慌ててキョロキョロと周りを見渡すと何を食べるべきか迷う。それから目に入って来たのはハンバーガーショップだった。
「あそこ、あそことかどう?」
「えっと、プリバーガーか……わかった」
それから2人はハンバーガーショップの所に行くと早速メニューを見て何を食べるか探す事に。
「(ッ……セットで買うとジュースとフライドポテトってやつも付くんだ。……うん?)」
ユキはメニューを見る中でフライドポテトの形状を見ると何かに気がつく。それは、細長いスティック状であるという点だ。
「(そうだ……これならきっと……)」
ユキはフライドポテトに何かの可能性を見出すとセットで買う事に決定。ちなみにアサヒはユキがセットで買うという話を聞き、そのフライドポテトをLサイズにして2人で食べる事を提案。彼女は了承し、双方共に自分が食べたいハンバーガーを2つ購入した。
「これがハンバーガー……」
「ああ。感覚としてはサンドイッチに近い形かな。2枚のパンで具材を挟んでる感じ」
「そっか」
アサヒもユキがハンバーガーの話題を振ってくれたおかげで喋りやすいのか。先程までの気不味い雰囲気はひとまず収まるとハンバーガーの話をする事に。
「は……むっ」
ユキは早速一口を食べるとアサヒはその様子に一瞬胸が高鳴る。やはりこういう仕草一つでドキッとする辺り、アサヒはユキの事が好きな証なのだろう。
「ッ……美味しい」
ユキは幸せそうな顔つきでハンバーガーの美味しさを堪能しているとアサヒは微笑ましい気持ちになってくる。先程もそうだったが、アサヒはユキがこの世界で新しい物に触れて喜びを噛み締めてくれるだけでも心が救われるような気がしていた。
「野菜はシャキシャキで、お肉はジューシー。チーズもとろけてて……それが口の中で全部混ざってるって感じ。サンドイッチはパン自体が柔らかいけど、こっちはパンがそれなりに固いからまた感じが違うね」
「うん、確かにサンドイッチってパンがフワフワな所があるけどハンバーガーはパンがちょっと硬めなんだよな。だからどっちも違う美味しさがあるかな」
「それに、さっき思ってたけど出てくるまでが結構早かったよね?これだけ色々物が挟まってるから普通時間がかかると思ったけど」
「あー、それはある程度予め準備した具材を後から挟んでいるって感じなんだ。だから店が開く前とかにある程度準備してるって思っておけば良いかもね」
アサヒはユキからの疑問に一つずつ答える形で対応。ユキは丁寧に教えてくれるアサヒを見て胸が温かくなる。
「(アサヒ君、こんな私の疑問にちゃんと付き合ってくれて嬉しい。……そういえば、アサヒ君って学校でも結構頼られてたよね)」
ユキは学校でのアサヒを思い出すと学級委員長とかそういうレベルでは無いが、周りに上手く馴染んでいる。それに、周りから頼られる事も多かったので彼は誰に対しても温かい対応をする所があった。
「(アサヒ君……私が本当に恋しても良い相手なのかな……。私みたいなのが側にいても邪魔だったりしないかな)」
ユキの心はすっかりアサヒに対する事ばかり。本人も自覚こそしてないが、ここまで来るとアサヒの事が好きとしか思えないような事ばかりを考えているくらいで。
この状態で本人がアサヒの事を好きじゃないと否定してもそれは無理がある話だろう。そのくらい、ユキの中でのアサヒの存在がどんどん大きく膨らんでしまっていた。
「そうだ……アサヒ君。そろそろこれも食べない?」
「っと、そうだな。折角ポテトも買ってるし食べるか」
続けてユキが促す形で2人はフライドポテトを一本ずつ手に取る。そんな中、ユキはフライドポテトの形状をまじまじと見ていた。
「………」
「ユキ、食べないのか?」
「へ?えと……食べる。食べるよ!」
ユキはアサヒに言われて慌ててフライドポテトを口にするとその食感とフライドポテトの中に残った熱で美味しさが広がる。
「これも美味しい……」
「ふふっ、良かった」
それから2人は少しの間ハンバーガーとポテトを食べているとふとユキがアサヒへも話しかける。
「アサヒ君……」
「うん?」
「え、えと……これ。あーん……」
すると、ユキはアサヒへとフライドポテトの先端を差し出しており……その頬は恥ずかしさで赤く染まっていた。その様子にアサヒは一瞬唖然としていたものの、意味を理解した瞬間に頬が同じように赤く染まる。
「ッ!?ゆ、ユキ!?何で……」
「わ、私がアサヒ君に食べさせたかったの……だから……その………」
ユキはかなり無理してるのか。アサヒの事をまともに見る事ができておらず。手にしたフライドポテトの先端はプルプルとしていてそこから手の震えが伝わっているのがわかる。
「……わかった。じゃ、じゃあ食べるぞ」
アサヒはユキが勇気を出して差し出してくれたのだから食べないと彼女の気持ちを無駄にすると考える。
そのままアサヒはユキから出されたポテトを食べるとユキは嬉しそうに頬が少し緩む。それを見てアサヒの中にある気持ちが浮かんできた。
「(ユキ、もしかして……俺に好意を持ってくれてるのか?)」
ただ、今の一回だけでそれを断定するのは早計が過ぎる。そのため、アサヒは確認の意味を込めて自分からもやってみる事にした。
「ユキ、俺からもお返ししても良いか?」
「ッ!?い、良いよ……食べる」
ユキはアサヒからの提案にビクッと体を振るわせるものの、それは恐怖から来る感情ではなく。むしろ嬉しそうな幸せオーラを出しながらアサヒが差し出してくれるのを待っていた。
「(ッ、露骨に嬉しそうにしてる……。まさか……。いやいや、それは俺とユキがそれなりに長い時間一緒にいる事から来る物。ここで下手に前に出たら嫌がられる。まずはポテトを)」
アサヒはポテトを手に取るとユキが食べやすいように口元にある程度近く、尚且つあまり距離が近すぎない絶妙な位置に出した。
「(アサヒ君、私の事を考えてくれてる……ッ。どうしよう……ドキドキが止まらない。でも、そのくらい嬉しい)」
ユキはそれを受けて胸の高鳴りを感じながら出されたポテトを食べる。すると、その際にポテトが少し長めだったからか。ユキは一口では食べ切れなかった。
「はむっ……」
「(ッ、しまった。ユキが一口で食べられる長さにしないといけなかったのに……)」
アサヒはここで自分がフライドポテトの長さを見誤り、ユキが一口で食べ切れないサイズを選んでしまった事を後悔する。すると、少しだけ残ったフライドポテトを見たユキはアサヒが何かをする前にすかさずもう一度アサヒの持っているフライドポテトの短い部分を口にした。
「んっ」
「あっ……」
ただ、やはり手に持っていたフライドポテトが短くなっていた分はユキの一口には小さすぎたのか。ユキの唇がアサヒの指に触れてしまうというアクシデントが発生。アサヒはまさかユキが自分の指に触れながらでも食べる事になるとは思っておらず。
「ゆ、ゆ、ゆ、ユキ!?え、えと……」
「ん。お、美味しかったよ……」
ユキはすましたような顔でそう言うものの、やはりこんな事をすれば恥ずかしいわけで。彼女はどうにかすまし顔を維持している状態だった。何なら頬の赤さは隠せていない。
「(う、嘘だ……何でこんな……)」
「(う、うぅ……恥ずかしい……)」
ユキは今にも穴に入ってしまいそうなくらいに顔を赤くするとアサヒは動揺を隠せていない様子だった。アサヒとしてはユキがここまでしてくるのに自分に好意を抱かないなんて事があるのかと考えてしまう程だ。
「ゆ、ユキ……今のって」
「ふぇっ!?え、えと……ほ、ほら。私が口つけた物とか食べにくいかなと思って。それなら私が全部食べちゃった方が良いかなと」
「確かにそうかもだけど……」
アサヒはこれだけの事をしておきながらユキが自分に好意を抱いていないなんて考えるのが難しくなってしまう。そのため、アサヒは思い切ってユキへとある事を問いかけようとする。
「な、なぁユキ。……もしかしてユキって」
「ッ!?え、えっとぉ……昼から何処に行こっか?」
「えっ……」
アサヒがユキへと聞こうとした瞬間、彼女はその話題に持って行ってほしくないとばかりに露骨に話題を逸らしてしまう。そのため、アサヒの心にはかなりのダメージが入ってしまった。
「(ッ、今の避け方……やっぱり俺の勘違いなのか?……それどころか、ユキに嫌な想いまでさせて……)」
アサヒは自分の判断ミスのせいでユキを傷つけてしまったと考えるとそれ以上その話題を振らないようにするため、話を訂正。彼女に話を合わせる事に。
「そ、そうだな。何処が良いんだろ。迷うな……」
「ッ……」
ユキはアサヒが自分の反応に合わせて話題を変えたのを察すると胸の奥がキュッと締め付けられるのを感じた。
「(ッ、つい拒否しちゃったけど……今の……私の気持ちを聞こうとしてたよね……)」
ユキはアサヒが折角勇気を出してくれたのにその勇気を棒に振ってしまった事で後悔の気持ちが湧き上がってくる。ただ、アサヒもアサヒで自分に気を遣ってくれたのだろう。そのため、余計に今の拒否の訂正なんてできなかった。
「あ、アサヒ君……えと……」
「……ごめんな、ユキ」
「ッ……謝らないで……私も心の整理ができてなくて……」
更にそこに追い討ちとばかりにアサヒはユキへと謝ってきた。これにより、今の言葉はユキの予想している通りであるという裏付けの意図を感じさせる。そのため、ユキは心の中が罪悪感でいっぱいになってしまう。ひとまず、自分が不快な想いをしたわけじゃない事だけでも伝えてアサヒの気持ちを繋ぎ止めようと考えた。
「そっか……」
「……アサヒ君、あのね……」
一方で、ユキの気持ちを害してしまったと感じたアサヒは目に見えて落ち込んでしまっている。自分の身勝手な質問のせいでユキの心を害したのなら申し訳ないのだ。すると、アサヒが思考する間にユキが話を始める事に。
「ユキ……?」
「……アサヒ君は私の気持ちを探ろうとしてくれたんだよね?」
「ッ!?……ああ」
「……私、アサヒ君へと向けてるこの気持ちが何なのか……まだ上手く言い表せなくて。アサヒ君の聞きたい事をわかってて否定しちゃったのは本当にごめんなさい。でも、今のでアサヒ君に対して嫌な気持ちを向けることだけは絶対しないから……」
ユキはそう言うと真剣な顔つきをアサヒへと向ける。……ユキはアサヒに変な誤解を与えたくなかった。彼女は確かに今の質問を思わず拒否してしまって。アサヒに動揺を与えたのは間違いないと思っている。
しかし、それでも自分の胸の中に秘めたアサヒへの気持ちが整理できない以上……アサヒに中途半端な返事をしたくないのだ。
そして、ユキの想いを聞いたアサヒは今の言葉で嫌われてしまったわけでは無い事を言われて安堵の想いが浮かび上がってくる。
「ッ……そっか。……ユキ、正直に言ってくれてありがと。俺、ちょっと焦ってたのかもしれない」
「うん、私もできる限り早く話せるようにする。……だから、今回のお出かけ……もっと楽しみたいの。アサヒ君と2人だけの時間を特別に思う事はできてるから」
アサヒはユキからの気持ちを受けると深呼吸。確かに今の自分はユキからの気持ちが気になりすぎて焦って聞いた所があった。ユキは無理に詰められるのはあんまり好きじゃない子だと改めて思い出すと今のやり方は自分に落ち度があったと感じる。
「わかった。ユキ、ゆっくり考えてくれて良いよ。その上で出してくれた答えならちゃんと受け止めるから」
「うん……」
ユキもアサヒもここで2人で話し合う事でお互いへと抱いている想いが普通の友達の範疇を超えている事を確認。そして、アサヒは今回のお出かけを提案してきたユキの意図をようやく理解した。
「(そうか。ユキは俺に対する自分の気持ちを整理したかったんだ。ああ、くそっ……。折角ユキが俺のために悩んでるのにそれを邪魔するなんてマジ最悪……)」
アサヒはユキの気持ちを尊重する姿勢を取り続けてきたのに今の自分は強引過ぎたと反省。しかし、今のやり方はユキの嫌がる行為には該当しなかったためまだ今なら十分取り返せる。
「(ここからは切り替えよう。ユキだって楽しいお出かけをしたいはず……ユキの気持ちを汲むって決めたんだ。あの子のやりたいようにやらせてこそだろ)」
アサヒは深呼吸をすると気持ちを落ち着かせる。対してユキの方もアサヒに我慢をさせたのは薄々感じており、早く答えを出さないといけないと考える。
「(アサヒ君に気持ちを伝えた以上、きっと私の答えを待ってくれる。早く決めないと……。この胸の想いが何なのか。それをちゃんと見つけなきゃ)」
ユキもまた、アサヒの想いを知った以上は自分も答えを早く探す必要があると思い至る。
「……あの、アサヒ君」
「どうした?」
「……あのさ、この後だけど……こことかどう?」
「ッ……わかった。あそこだね」
こうして、2人はお互いの意思を確認すると次に向かう場所を決定した。これにより、2人のデートは昼食を終えて午後の部に突入する事になる。
また次回もお楽しみに。