昼食を終えたユキとアサヒのお出かけは午後の部に突入。2人は話し合った上で行きたい場所を決定。それから2人がやってきたのは衣服が売っているお店であった。
「着いたぞ」
「うん……」
ユキの反応は控えめだったものの、少し声が興奮したように明るくなっており……それだけ彼女はここに来るのが楽しみだったようである。
「えっとレディース、レディース……」
「こっちだな」
2人は早速お店の中にある女性用の服、レディースのコーナーに行くとユキはそこにある服を色々と見始めた。
「可愛い……こっちも……どれが良いのかな」
ユキは服を手に取りつつチラッとアサヒの方を向く。それから頬が少しだけ赤くなるとある事を考え出した。
「(アサヒ君が好きなのはどれなんだろ。アサヒ君が可愛いって言ってくれる服はどれなんだろ……)」
ユキがそう呟きつつ服をどれにするか迷っている様子であり、アサヒはそれをそっと見守る形となる。勿論ユキに聞かれればちゃんと答えは返すが、あくまで今選んでいるのは女の子の服。男の自分が下手に口は出せない。
「(アサヒ君が気に入ってくれたら私……ッ)」
一方のユキはどんな服ならアサヒに気に入られるか色々考えるが、そこまで思い浮かべた所でが彼女はある事実に思い至る。
「(……私、アサヒ君の事を沢山考えてる。それに、アサヒの好みの事も。……だけど、私は……私なんか……)」
ユキの胸には先程のアサヒの問いに対する答えなんてとっくに浮かびつつあった。ただ、その答えをアサヒへと返したとして……自分ではその後にアサヒの隣に居続けられる自信が持てない。
「(ッ、ダメダメ……。今はそんな事考えるなんて)」
ユキはどうにか自分を戒めると暗い考えを排除。今はこの時間を楽しむべきと考え直す。そして、何着か服を手に取るとアサヒの元に戻ってきた。
「アサヒ君、あのさ……」
「どうしたんだ?」
「この世界の服もさ、可愛かったりオシャレな服が多くて……」
「え?う、うん」
ユキが少し言いづらそうな様子で何かを言おうとしているのをアサヒは感じ取ると頷く。そして、彼女は少し迷ってからアサヒへとお願いを伝える。
「だから、その……アサヒ君。私に似合いそうな服……選んで」
「へっ……俺が、選ぶ?」
「あっ、でも最初から選ぶんじゃなくて……えと……私が試着したやつの中から選んでほしいというか……うと……」
ユキは頬がまた赤くなっていくとどんどん言葉が小さくなっていく。アサヒはユキの意思を確認すると笑顔で答えを返した。
「わかった。参考にできるかはわからないけど任せてくれ」
「ッ……!良いの?」
「ああ」
「あ、ありがと……」
ユキは恥ずかしそうにしつつ頷くとそれからユキは自分の中でピンと来た何着かを手にすると試着室へと移動。そこからはユキのファッションショーが始まる事に。
「これはどうかな……?」
「ッ……」
最初に着たのはフリルが沢山あしらわれて可愛らしさ重視の水色のワンピース。所々にある白いリボンも可愛らしさを強調する。
「可愛い……」
「ふえっ……」
「あ!えっと、感想だよな。ユキの可愛いを強調してくれる感じがして好き……かな」
アサヒにいきなり可愛いと言われてユキは恥ずかしさが爆発。アサヒの感想が耳に入らなくなってしまっていた。
「あ、ありがと。次に行くね」
次に着たのは先程とは一転して濃い青のジーンズに白くシンプルなシャツ。更に灰色の上を羽織る形でクール系のコーデに。そんなユキの服を見たアサヒは普段が可愛い系のコーデをするのにクール系を着ても似合う様子を見せつけられる事になる。
「凄い、ユキってクール系の要素も普通に着れるんだ」
「で、でもあんまり着ないけどね……。アサヒ君に似合う系統を聞きたかったから」
「うーん。確かに可愛いさとクールの両立はできててこれも嫌じゃない……けど、やっぱり一番相性が良い可愛い系のと比べるとどうしても一歩劣るのは間違いないと思う」
アサヒはユキに頼まれているので彼女を無条件で持ち上げるのではなく、ちゃんと意見を返す。それを聞いてユキは小さく頷いた。
「ッ……わかったよ。じゃあ、クール系は一旦除外して考えるね。教えてくれてありがと」
ユキはそう言いつつ引っ込むとアサヒは少しだけモヤッとしてしまう。やはり彼女が真剣に決めているものとはいえ、ユキの意見を否定してしまうのはどうしても抵抗感を感じてしまうのだ。
「……でも、俺が目指してるユキとの関係の中にはこういうのも含むし……仕方ないよな」
ただ、アサヒはユキと付き合う際にお互いに本音で気軽に意見を言い合えるようになりたい。そのためにはユキの考えの否定もやれるようにすべきと思っていた。
「じゃあ、次行くね?」
「ああ」
それからはユキが興味を持った服を次々と試着していく事に。最初に可愛い系の方が似合うという話になったのでユキはそっちの方に重きを置きつつ試していく。
勿論一回だけでは全部の服は持って来れないので何回か試着室と売り場を往復しながら一つずつ詰めていく。この間、それなりにアサヒは時間を取られたが……それでも彼は文句一つ言わずにユキの選択に付き合っていた。
「(ッ、そろそろ決めないと……アサヒ君に迷惑をかけちゃってる)」
そして、その事をユキは危惧したのか。少しだけ深呼吸するとある服に手をつける事に。
「アサヒ君、またお願いしても良い?」
「ああ」
それからユキは選んだ服に着替えるとその姿を表す。その容姿は黒をメインにしつつ青を差し色にしたスカートにオフショルダーで肩を露出させたクリーム色に近いシャツ。肩のストラップには白いリボンがあり、胸元も少し大きめに露出。更に特筆すべきなのは履いているスカートがかなり短いという点だ。
どのくらい出ているかと言うと、太ももが半分以上出て、尚且つ少し足を上げたらそれだけで中に履いているパンツが見えてしまいそうなくらいで。当然そうなるとユキの綺麗な生足も周りに見えてしまう事に。
「ッ……」
「ど、どうかな?アサヒ君」
アサヒはユキのその姿を見て可愛いよりもエロいという感情が濃くあらわてしまう。……ユキとしては無理にでもアサヒの高評価を得て今回の服選びを終わらせるつもりだった。勿論だからってこれが嫌というわけでも無い。アサヒが好きな衣装であるのなら喜んで着るつもりだし、周りからどんな目線を向けられても耐えるつもりだ。
ユキは顔の熱さを感じる程に真っ赤な顔をして視線に耐えており、今にも恥ずかしさで隠したいと思いながらモジモジとした様子を見せる。そして、それを見たアサヒはユキがかなり無理をしてまで好きって言ってもらいたい気持ちを察したのか。特に長考する事も無くバッサリと言い切った。
「その服は絶対ダメだ。……むしろ、外で着るのはやめてほしい」
「えっ……?」
アサヒがユキの露出の多い服を拒否すると彼女の中に困惑と共に焦りの気持ちが浮かぶ。先程まであんなにも自分の事を褒めてくれてばかりだったアサヒがどうしてこの服を嫌ったのかがわからないのだ。
「どうして……アサヒ君、私のこの服は嫌だったの?」
「……そうじゃない。むしろ、俺が見る分にはユキが凄く魅力的に思えるくらいの服だよ」
アサヒはそう言いつつユキの容姿を直視できないのか。少しだけ申し訳なさそうな様子である。
「……えっ、じゃあ何で……」
「その露出が多い服。家とかで着る分には良い。多分ソラやましろ達なら普通に接してくれる。……だけど、その服を外で着て。他の男とかにユキの肌とかをジロジロ見られるのは俺としてはどうしても許容できない」
「ッ……」
アサヒからの言葉を聞いたユキは少し硬直するとその言葉の意味を飲み込む。次の瞬間、彼女は赤く染まっていた頬が更に熱を帯びると慌てて引っ込む。
そのままの流れで慌てて着替えをしてるのか。着替える音が少しだけ試着室の外に聞こえるのをアサヒは聞きつつ心の中でユキへの申し訳なさを募らせる。
「(……ごめんな。でも今のユキ、凄く可愛かった。……それに俺のために露出までしてくれて。……本当は凄く恥ずかしいはずなのに)」
アサヒとしては今の場面、本当であればユキの事を褒めたかった。何なら、ユキが露出を増やして色気を見せてくれたために思わず“ドキッ”としていたくらいである。……しかし、幾らユキが勇気を出して露出を増やしてくれたとしてもやはり赤の他人。特に男達からユキをジロジロ見られるような事はされたくないわけで。
「(俺はユキの可愛い部分を他人に見られる分には特に思わないけど、流石にエロい部分を他人になんて見せたくない)」
アサヒはユキの可愛い部分は兎も角、エッチな部分は他の誰にも見せたくなかった。そのくらい心の中ではユキの事を愛したい気持ちが強いのだろう。その瞬間、アサヒの心の奥底。彼の中に黒い感情が出てきてしまう。
「(ッ……ユキってあんなにエロい所あったんだな。もし付き合えたら……あんなエロい部分を……)」
しかし、そのタイミングでアサヒは自分がとんでもない事を考えてる事に気がつくと慌てて意識を戻す。
「(って、何考えてるんだ……!ユキが俺のその考えに勘づいてみろ。1発で嫌われる。繊細なユキの前でこんな考え、絶対に口にしたらダメだ)」
今回はユキが目の前にいなかったから良かったものを、もし仮にこんな心の奥底に存在する彼女への性的な気持ちを今の段階で口にしようものなら彼女はそれだけで自分を見捨てて逃げてしまうだろう。
「(俺はこんなクズ男になったらダメだ。ユキの心の支えにならないとなのに、こんな気持ちなんて抱いたらいけないんだよ)」
アサヒは無理矢理その気持ちを心の奥底へと封印。その際に少しだけ自分の気持ちを抑えた際の苦しみを感じるが、それさえも彼は最終的に消し去った。
「ああ、クソッ……やっぱ俺はユキが好きで、ユキの事をあっちの意味で好きにしたい気持ちもあるんだな」
アサヒがボソッとそういう中、そのタイミングでユキは着替えが終わって出てくる。
「アサヒ君……さっきは……その……」
「気にしないでくれ。……俺も頭ごなしにユキの気持ちを否定してしまった」
「ッ!?えっとね、あれは……」
アサヒが申し訳なさそうに言うとユキは慌てて先程の露出多めの服の着ようとした真相を明かそうとした。
「……俺の事を待たせてる事に対する焦り……だろ?」
「えっ……」
「ユキ、俺はユキに今日のお出かけを楽しんでほしい。だから、少しくらいユキのペースに合わせても大丈夫だよ」
ユキはそれを聞いて胸の中にザワザワと動揺が広がる。勿論それはアサヒに心を見透かされた恐怖では無く、アサヒにまた気を遣わせた事への深い後悔と罪悪感だ。
「あ……ぁあ……」
「ユキ?」
「ご、ごめん!ちょっとお手洗いの方行ってくる!ここで待ってて!」
ユキはその瞬間、大慌てでアサヒに先程まで着ていた服を押し付ける形で預けると彼の横をすり抜けて走り去ってしまう。
「えっ、ちょっ……ユキ!?」
アサヒはそんなユキを止める事ができず。その後ろ姿を見るだけしかできなかった。それから少しして。ユキは女子トイレの洗面台で悔しい気持ちを噛み締めていた。
「何で……何で私は……大好きな人にあんなに気を遣わせちゃうの……」
ユキは震える声でそう呟く。そして奇しくも、今の事がキッカケでユキは完全にアサヒが心の奥底から好きな相手だと自覚した。
「私がダメな女だから、私が小さい頃の出来事を全然乗り越えられないから……。アサヒ君にあんなに辛い気持ちにさせて。あんなに私のために尽くさせて……。こんなの、こんなの……私が最低な女ってだけじゃん」
ユキは幼い頃のトラウマが原因で他人に対して心を閉ざしてしまっていた。他人からの目線が怖くて、恐ろしくて。ソラやその家族以外の人間を誰1人として信じられなかった。
でも彼女は、約1ヶ月前にその心の氷を溶かしてくれる人と出会う。それが先程まで隣で微笑んでくれていたアサヒだ。
「本当なら、アサヒ君は私との時間をもっと楽しめていたはずなのに……私の我儘に付き合わせて。私のペースに無理に合わせてもらって。それじゃあ、それじゃあ……私がアサヒ君の足をずっと引っ張ってたって事じゃん」
アサヒはユキにとっての太陽で。側にいるだけでユキは救われたような気持ちになれた。……だが、それらは全てアサヒが自分に合わせてくれているから出来上がる状況で。
そしてそれは即ち、ユキはアサヒに過剰なまでの気を遣わせていたわけである。
「これじゃあ……私はアサヒ君の隣に胸を張って並べない。もっと変わらないと、ダメなのに……」
ユキの瞳には自分の無力さを突きつけられたように思えて涙が浮かんでしまう。ユキは今のままだと仮にアサヒと付き合ったとしても自分のために彼に沢山我慢をさせてしまう。そんな気がしてならない。
「でも、もう私はアサヒ君への気持ちを無かったことにはできない。さっきのアサヒ君の気持ちを断ったらきっと後悔しちゃう。どうすれば……どうすれば」
ユキは拳を強く握りしめるとどうするのがアサヒにとって一番良い事なのかがわからずに唇を噛んでしまう。ただ、そんな動転した気持ちで上手く答えが出せるはずもなく。
五分程そこで必死に考えるものの、段々とその答えさえも出ない現実を思い知らさせてしまう。そのため、ユキはどうにか深呼吸をする事に。
「すぅ……ふぅ……。すぅ……ふぅ……」
ユキはどうにか落ち着くと女子トイレから出る事にした。このまま1人で悔しさを募らせた所で現状が何か変わるわけじゃない。その答えに辿り着いたユキはひとまず待たせてしまっているアサヒの方に向かおうとする。
「ひとまずアサヒ君の所に戻らないと……またアサヒ君に気を遣わせちゃう。アサヒ君、許してくれるかな」
ユキはそう呟きながら女子トイレから出るとトイレのある横道のような場所から出ようとする。……そんな時だった。
「ねぇねぇ、君!」
「ッ!?」
ユキの目の前に現れたのはアサヒ……では無く、5人程で固まった明らかにチャラい雰囲気を見せる高校〜大学生くらいの男達。そんな風に明らかにユキよりも背が高くガタイのある男達に完全に包囲されたユキ。そのままの勢いで彼女は壁際に追い込まれ、逃げ場を失ってしまうのだった。
また次回もお楽しみに。