体育祭が終わった週末の夜の事。ユキは一人、お風呂に浸かって一日の疲れを癒している所だった。
「………」
ただ、その顔は少し浮かない。と言うのも、アサヒが最近戦いの中で豹変する事例が出てきたからだ。
「アサヒ君……大丈夫かな……。もし、私がアサヒ君に心の負担をかけていたらどうしよう」
ユキはまた自分のせいでアサヒに色々と気を使わせてないか不安だった。彼女は結構な心配性なので彼氏が変わってしまうと自分が原因なのではと勘繰って余計に心に負担をかけてしまっているのである。
ユキは湯船から上がるとアサヒとお付き合いを始めてから特に念を入れるようになった体を洗う作業を始めた。
「私、アサヒ君の好みの女になれてるのかな」
ユキはアサヒに見合う女になるために努力を惜しまない。ましろやあげはに聞いてアサヒの好きな女の子について研究。それを再現するために色んなアプローチを続けてきたのだ。
ユキは体を洗ってからお湯で泡を流すと今度は髪の毛を洗う。ユキの入浴時間はアサヒに綺麗な自分を見せるべく丁寧に洗うようになったため前よりも伸びている。そして、シャンプー及びトリートメントを終えるとまた湯船に浸かった。
「はぁ……」
ユキは一人溜息を吐くと天井を見上げる。それからボーッとしていると体が温まったせいか若干のぼせ気味になってきた。
「そろそろ上がろうかな。あんまり長いと心配されそうだし」
ユキは湯船から出ると体を拭くために脱衣所に出ようとする。しかし、この時。ユキはあるやらかしをしていた。それは、脱衣所の扉の鍵をかけるのを忘れてしまった事である。虹ヶ丘家では男に対して女の方が人数が多いので風呂の時間は長めになりがちだ。そんな中でのうっかり事故を防ぐためにも女子メンバーが風呂に入る際は特に脱衣所への鍵をかける事を徹底している。
ユキの体はまだ発展途上とは言え既に大人であるあげはや老人のヨヨを除けば女子としての肉体の中では魅力的な部類に入る。それはあげは曰く、大人の自分でさえも自信を無くす程だ。ましろからも“今の年齢のユキちゃんがここまでスタイル良いのに大人になったらどれだけ良くなるか想像が付かない”と言わせるぐらいである。
「タオル、タオルっと……」
ユキはいつも扉に鍵をかけるために今日この日に鍵をかけて無い事に気がついていない。そしてその日に限って事故は起きるものである。
「……あ」
すぐ近くで鳴る扉の開く音。そしてユキがその方を見やると裸の自分を見るアサヒ。ユキの顔は一瞬にして真っ赤になるとアサヒもそれに気がついてすぐに扉が閉まった。
「(み、見られたぁああっ!)」
この時ユキは必死に叫びたい気持ちを我慢して抑え込んだ。恐らく自分が今叫べば他の面々にこの事が知られてしまう。そうなればアサヒに先程まで考えていた自分の事を聞くどころでは無くなるだろう。なので本来なら真っ先に叫ぶ所をユキはギリギリで我慢。そして、ユキの裸を見てしまったアサヒはと言うと……。
「(や、やらかしたぁああっ!)」
アサヒは慌てて部屋にダッシュで戻ると扉にもたれて顔を青ざめさせて後悔した。実はこの時のアサヒは近くにあった別の部屋に行こうとしていたのだが、誤って脱衣所に繋がる扉を開けてしまったのだ。普段であれば鍵がかかっているために必ず扉は開かずに閉まっている場面なので尚更躊躇しなかったのだ。
「最悪だ……ユキが叫ばなかっただけマシだけど……絶対ユキは嫌な思いしただろうな」
事故でも男が女の裸を勝手に見るのは普通にアウトなラインである。そのため、アサヒはユキに嫌われる事も覚悟した。それでもちゃんと謝らないといけないと思い立った彼はユキの所に行こうとする。
「アサヒ……君?」
するといきなり扉の向こうからユキの声が聞こえてきた。アサヒは恐る恐る扉を開けるとそこには寝巻き姿になったユキがドライヤーで乾かした後と思われるサラサラの髪を靡かせてやってきたのだ。
「うわああっ、す、すみませんでし……」
アサヒはユキが怒ってると見てすぐにその場で土下座しようとする。しかし、ユキの顔を見るとその顔には恥じらいこそあったが怒ってはいなかった。
「ねぇ、ちょっとだけ話しても良い?」
「わ、わかった」
アサヒはユキの裸を見てしまった手前、断る事ができずにユキを中に入れると二人でアサヒのベッドに座る。ちなみにアサヒは既に風呂に入ったため、彼も寝巻き姿だ。それから二人は少しの間気まずい空気で沈黙していたものの、ユキがそれを破るようにアサヒへと俯いたまま質問した。
「あ、あのさ……アサヒ君」
「は、はい」
「……見た?」
短いが、単刀直入に聞いてきたユキの問いにアサヒはゆっくり頷く。ここで嘘でも吐いたものなら彼女から軽蔑されるのが目に見えるからだ。
「どう……だった?」
ユキからの質問にアサヒは混乱する。普通なら女の裸を男に見られたら色々と大問題なのだが、ユキの問いはアサヒの予想に反していた。
「どうって?」
「わ、私の体……アサヒ君の好みに合ってた?」
ユキはその一言で自分が怒ってないという事をアサヒにアピール。それと同時にアサヒに自分の体の魅力について聞いたのだ。ユキはその事を聞くために割と勇気が必要だったのか顔真っ赤で恥じらいを隠せておらず。その様子にアサヒは慌てる。
「え、え、えっと……」
そんな時、アサヒは脳裏に先程のユキの裸を思い浮かべてしまう。水に濡れて水滴が滴る白く美しい髪、ツルツルとした肌。全体的に細い体に中学二年生とは思えない腰のくびれ。胸は成長途中のため平均的な大きさよりも一回り大きい程度。それでもボンキュッボンを体現できるほどのハイスペックな体つき。顔は恥じらいからか頬が赤く染まっているものの、それが彼女の可愛らしさを更に引き立てて、青い瞳が優しい雰囲気を醸し出す。極め付けは髪からほのかに香ったシャンプーの良い香り。
「……凄く良い。俺の好みドストライクで……あっ!」
アサヒは素直にそう言ってしまった。ユキは褒められた事に顔を更に赤くする。また、アサヒは気持ち悪い事を言ってしまったと思い込むと慌てて訂正しようとした。
「ま、待てユキ……今のは……」
「そっか。……アサヒ君にそう言われて嬉しいな」
「……怒ってないのか?ユキ……俺、勝手にユキの裸を見たんだぞ?」
「……アサヒ君にだったら……良いよ」
ユキは恥ずかしそうな顔つきでそう言う。アサヒはユキの方を向こうとするとユキはアサヒを引き込むように体を掴んでそのまま自分を押し倒させた。
「……え?ユキ?」
「もしさ……もし私がこのまま私を脱がせても良いよって言ったら……どうする?」
ユキのその質問はかなり攻めていた。その顔は恥ずかしさでいっぱいで今にも限界を迎えそうに見える。
「ユキ、こんな事……気軽には言わないよな?こんなの、誰だって勘違いするぞ?」
アサヒも流石にこんな事をされては顔も赤くなるし興奮もしてしまう。そのため、必死に自分の気持ちを抑えてユキへと話しかける。
「言うわけ無いよ。私がこんな事言えるのはアサヒ君だけ。……アサヒ君が脱いで欲しいって言ったら……私はいつでも脱ぐよ?」
ユキはアサヒへと上目遣いで色気も全開にした上でそう言う。アサヒは理性をフル稼働させてそれに耐える。そうしないと今にもユキに手を出してしまう。それ程までの魅力が今のユキにはあった。
「アサヒ君、我慢してる?」
「当たり前だろ……。こんなの、反則だって」
アサヒはユキを襲う手前でギリギリ踏みとどまる。と言うより、中学二年生の段階でこの色気なのだから本当にユキは底が知れない。アサヒはユキへと手を出したい気持ちを抑えつける。
「そっか。でも、アサヒ君。今の私に魅力を感じてるって事だよね?」
「ああ。それは確実だ」
「じゃあ良かった……安心した」
ユキは安堵の顔つきになると笑顔になる。アサヒはユキの行動の意図にやっと気がつくとユキへと問いかけた。
「あ。もしかしてユキ。自分に魅力があるのか不安になったとか?」
「え?う、うん。アサヒ君が好きでいてくれるために私、色々頑張ってるんだよ。ましろちゃんやあげはさん、ヒョウにも手伝ってもらってアサヒ君が好きな自分になれるように頑張ってきたから」
アサヒはユキのその健気な姿勢にやっぱり襲いたい気持ちが再燃する。それでもまだ自分の年齢でこんな事をするのは早いと我慢。ユキはそんなアサヒを見て呟く。
「き、キスぐらいなら良いよ。アサヒ君、我慢しきれないでしょ」
ユキはそう言うと目を閉じてキスを待つような覚悟を決めた顔になる。もうこうなってしまえばアサヒに逃げ道なんて無い。女のユキが覚悟を決めて待っているのにそれに乗らないなんて臆病な事はできなかった。
「じゃ、じゃあやるよ」
アサヒがゆっくりとユキの唇に自分の唇を重ねようとする。そんな瞬間の事。
「アサヒ、ユキ姉が見当たらないんだけどユキ姉はもうお風呂から上がった?」
そう言って部屋の扉を開けて中に入るヒョウ。実は今日の風呂の入浴順はユキの次にヒョウが入る事になっていた。この時ヒョウはいつまで経ってもユキが上がった事を言いに来ないのでお風呂でのぼせているのではと風呂場を見に行ったものの、そこには誰もおらず。風呂は空いている事を確認したが、それでもユキに何かあったのではと不安になったヒョウがユキの事を一番知ってそうなアサヒの所に来てしまったのである。
「「……あ」」
「え?」
アサヒとユキは今現在、アサヒのベッドで二人重なっている状態でキスまでしようとしている。しかも、周りから見ればアサヒが上でユキを押さえつけているような格好に見えた。そのため、ヒョウはアサヒが無理矢理ユキを押し倒したと勘違い。その目が軽蔑へと変わる。
「は?アサヒ……アンタ、何無理矢理ユキ姉を押し倒してんの?」
「ち、違っ……これはユキが」
「この期に及んで言い訳?ユキ姉が嫌がってるのわかんないの?」
「ヒョウ落ち着いて、誤解!誤解だから!」
ユキも何とかヒョウを落ち着かせようとするが、ヒョウはユキがアサヒにそう言わされていると解釈。怒りの矛先がアサヒへと向いてしまう。
「見損なったよアサヒ。アンタがここまで愚かな奴だったなんて」
「いやいや、違うって。ヒョウ、これはお互い公認でやった事だから」
「言い訳無用!覚悟しろこのド変態!」
それから結局この一件はソラ達を始めとする一同にバレてしまう。ユキが素直に話したのでヒョウの解釈が誤解だと言うことは割とすぐに証明されるものの、アサヒとユキはそれぞれましろやあげは達を筆頭とした面々に詰め寄られては一通りイジられることになるのであった。
また次回もお楽しみに。