太陽と雪のデートに向けた準備
ツバサとヒョウの歓迎会が無事に終了し、ユキが自分からアサヒをデートへと誘った翌日。アサヒは自室のベッドの上で目を覚ますと体を起こしつつ窓やカーテン越しに外から差し込む朝の日差しの方を向く。
「ん……もう朝か……」
アサヒは寝ぼけ眼の状態でベッドから降りて伸びをすると昨日の夜にユキから言われた事を思い出す。
“私はアサヒ君と2人きりが良い……”
「2人きり……ッ……」
アサヒはユキからの言葉の意味を思わず頬が赤くなってしまう。同時に、アサヒにとってユキからのこの提案は完全に想定外だった。理由としては、ユキのその性格である。
「まさか、ユキの方から2人きりが良いって言ってくるなんて……」
ユキは身体能力の面で見るとソラと同等近くの強さを発揮できる。ただ、そんな高いスペックを持ちつつも、それと相反するように他人からの悪意に対しては滅法弱い。
特に、ユキは自分が他人から見捨てられてしまうという事態に陥るとあっという間に精神が不安定化してしまう。だからアサヒもユキとの2人きりになりたいと思いつつも、彼女が誰かと2人きりになるのを避けるような動きをしてきた。
「……昨日もつい俺と2人きりよりもソラ達を誘おうとしたからな。ユキは俺と2人きりでも大丈夫って事なのか?」
アサヒとしては別にユキとの2人きりが嫌というわけでは決してない。彼の考えはむしろその逆……。可能であるならユキとの2人きりを望んでいる。
しかし、それはあくまで自分の持ってる欲望でしか無い。そしてユキは恋愛面の出来事で心に深い傷を負い、そういう目線で見てくる相手に苦手意識を持っているはずだ。
「ダメだ……ユキから誘われたかって調子に乗るなんて。それこそユキに嫌な思いをさせてしまう」
アサヒは頬を両側から2回程軽く叩いて目を覚ましつつ考えを巡らせる。そのままの流れで部屋から出ると洗面所に移動して顔を洗いながら考えた。
「(ユキの気持ちを履き違えるな……今日のはあくまでただのお出かけ。変な気なんて起こしてみろ。ユキからの信頼どころか、この家での信頼すら消える)」
アサヒは今回のお出かけはユキから言い出した事とはいえ、ユキには何か考えがあるのだと予想する。例えば、ソラ達と一緒では準備できない何かを用意するためとかだ。
「(それに、俺の気持ちとは関係なく。ユキにお出かけで嫌な気持ちにだけは絶対にさせないようにしないと)」
アサヒは顔を洗い終わると覚悟を決めた。少なくとも、今回のお出かけではユキの方から促されない限りは彼女への手出しは絶対にしないようにするという事を。
「(ひとまず、お出かけする前に朝ご飯とかもあるし……部屋に戻って……)」
アサヒは一旦部屋に戻って気持ちを落ち着けようとするとその最中に廊下の角を曲がろうとする。……そんな時だった。
「「うわっ!?」」
突如としてアサヒは角を曲がった瞬間に誰かとぶつかってしまうと2人揃って倒れそうになってしまう。
「「ッ!!」」
どうにか双方共に転ぶ前に体勢を立て直すと踏み留まる事に成功。転ばずに済んだ。
そして、アサヒが前を見るとそこには彼とぶつかった影響か……頬を赤くしたユキがいた。
「ゆ、ユキ?」
「お、おはよ……」
「おはよう、ユキ」
アサヒはユキから挨拶されて反射的に返事を返すと彼女と少しだけ見合う状態になってからユキは耐えきれなくなったのか。アサヒの横をすり抜ける形で行ってしまう。
「ッ……ご、ごめんね」
「えっ?ユキ!?」
アサヒはユキが行ってしまったのを見送った後、少しの間ボーッとした顔でそれを見送っていた。
「そっか、ユキも洗顔しに行ったのか」
アサヒはそう呟きながら彼女の事を考えると胸の鼓動が先程よりも強く、早くなっていく。そして、そんな自分の鼓動を感じ取ったアサヒはユキの事を更に強く意識してしまう。
「……ユキ……付き合えるなら、恋人として付き合いたい。だけど……下手に行ったらきっと嫌われる……それだけは、それだけば嫌だ」
アサヒは今し方出会ったユキは洗顔のために洗面所へと向かったものの、その際に自分の顔を見た時のあの顔は明らかに自分に対して特別な意識を向けている物だった。……しかし、もしかすると寝起きの姿を見られた事に対する恥ずかしさという可能性も否定できない。
だからアサヒは下手にユキの側に近寄ることができない。もしユキの気持ちに反して彼女へと近寄ってしまったのなら……彼女に嫌われてしまうのが目に見えてわかっているのだから。
「せめて……ユキの方から大丈夫な気持ちを伝えてくれたらな」
アサヒは本当の意味でユキの隣に立つことができない自分にモヤっとした想いを抱えつつ、ひとまずは自室に戻る事になった。
そして、アサヒとすれ違ったユキの方は水で洗顔しても顔の熱は完全に冷めてくれず。未だに体に多少の熱さを感じていた。
「(はぅうう……な、何でアサヒ君の前から逃げちゃったんだろ……)」
どうやら、ユキは先程自分がアサヒの目の前から逃げてしまったと考えており……アサヒの事を考える度に心臓が強く早く脈を打ってしまう。
「(アサヒ君はきっと、私に気を遣ってくれてる。……それも、私が嫌な思いをしないようにするために)」
ユキは何となくだが、自分のためにアサヒが気を遣っていると思っていた。そして、同時にアサヒの方から自分に近寄ってもらうにはもう気持ちを伝える以外に無いという事も察していた。
「どうしよう……どうしよう」
ユキには正直な所、アサヒとお付き合いをしたい気持ちがある。それに、今回のお出かけは元々アサヒに日頃の感謝を伝えるための物だ。だからその気になればお付き合いをする事をお願いするのだって出来るはずである。
ユキは自室に戻ると着替え等の準備を進めながらアサヒの事を考える。すると、この世界に来てから彼が自分にしてくれた事を思い出しながら顔がどんどん赤くなっていく。
「ッ……アサヒ君……私のために色々やってくれて。私の事、助けてくれて……」
ユキはアサヒと一緒に過ごす日々が幸せだった。そして、同時に今のままではアサヒと自分の関係は友達よりもちょっと親密な関係止まりだという事もわかっている。
「……今日のお出かけで、私の気持ちをちゃんと確かめなくちゃ……」
ユキは前にあげはと話した際に決めた今回のお出かけの主旨として。アサヒに向ける自分の気持ちに整理を付けるという目的の上で彼女はアサヒと出かける覚悟を決めた。
それからユキとアサヒはソラ達と朝食を食べ終わると2人は出かけるための準備のために自分の部屋へと戻っていく。それを見送ったソラ、ましろ、ツバサ、ヒョウの4人は居間に残って話をしていた。
ちなみにエルはヨヨがお世話をする形で預かっているためこの会話には参加していない。
「まさかユキさんとアサヒ君がお2人でお出かけをするなんて……」
「でも、やっと2人が一歩踏み出したなって感じだよ」
「ふふっ、確かにそうですね!」
ソラとましろは今までずっとユキもアサヒも相手への特別な想いに気がつきつつも、ここまではずっとお互いにアクションを起こす事は無く。
そんな事もあってとうとうお出かけするという流れになった事が嬉しい気持ちであった。これで2人の関係値が進むのであれば、後はお付き合いするのも秒読みであるだろう。
何なら上手くすればこのお出かけから帰ってくる頃には2人はお付き合いをしているかもしれない。
「ボクもお2人が互いを想っている事はわかりますし、折角お出かけをするのなら楽しんできてほしいですよ」
「………」
そんな風にユキとアサヒが仲良くお出かけを満喫している事を望むソラ達。……そんな中でただ1人。ユキとアサヒが2人きりでのお出かけをするのに対して複雑な想いを抱く者がいた。
「……アサヒとユキ姉がお出かけ……アサヒがもしユキ姉に変に手を出したら……でもユキ姉は明らかにアサヒの事を意識してるし、ユキ姉はアサヒとお付き合いがしたいのかな……ブツブツ」
「ひょ、ヒョウ?そんなにアサヒさんはユキさんと2人だけだと信用できないですか?」
「ッ……そ、そんな事無いよ!でも……ユキ姉が初めて男の人と2人きりで出かけるんだしアサヒが変な事をしていたら……」
ヒョウがユキの事を心配しているとましろは思わず苦笑いをしてしまう。確かにユキが男の子と2人だけでのお出かけをするのは今回が初めて。しかもユキは恋愛面でトラウマを持っている。そのため、彼の心配する気持ちも理解はできた。
「ヒョウ君、アサヒ君は変な事なんてしませんよ。ヒョウ君だってそんな事はとっくにわかってるはずです」
「ッ……そりゃあ、アサヒはユキ姉とお似合いで。ユキ姉もアサヒの事を信頼した上でお出かけしてるのは確かだけど」
ヒョウとしては内心かなり複雑だった。勿論ユキには幸せになってほしい。アサヒであればそれが出来るのもわかっている。……ただ、姉として慕うユキが完全に誰かの物になってしまうというのはヒョウにとって不安だったようで。
「俺はユキ姉が誰かの物になってしまうのが……」
「ヒョウ、それはボク達にどうこうできる話ではありませんよ?仮にユキさんがアサヒ君とお付き合いする事を決めたのならボク達はそれを受け入れてあげるのが……」
「ッ……そう、だよな」
ヒョウはツバサに諭されるとユキとアサヒの関係を決めるのは彼女達自身である事を再認識。同時に彼は2人が話し合って決めた事に部外者である自分が何かを言うのは間違っている事も何となくわかっていた。
「ヒョウ君、答えがどうなったとしても……2人の決めた事を私達は受け入れよ?」
「それがお2人のためでもありますから」
「……うん……ごめん、俺の我儘で困らせて」
ヒョウは自分の考えが間違っているという事を改めて認識すると2人の決めた事を受け入れる覚悟を固める事になる。
そして、下の階でソラ達が会話をしている時。ユキとアサヒはそれぞれ出かけるための準備が着々完了しつつあった。
「ふう。服装良し、荷物良し、髪の方良し……後はユキの方だけど……」
アサヒは敢えて部屋の中で待機しており、こうする事でユキを心理的に焦らせないようにしている。これも事前に彼女と決めており、ユキの準備が完了し次第部屋に迎えに来てもらう形にしていた。
「ッ……落ち着け、大丈夫だ。いつも通りに接すれば良い」
アサヒは下手に変な対応をするよりもあくまでいつも通りの接し方の方がユキに精神的な負担を与えずに済むと思っている。一方のユキは少しだけ焦っている気持ちがあった。
「どうしよう、早くしないと……アサヒ君の事を待たせちゃう。でも、このままじゃ絶対ダメ……アサヒ君に恥をかかせるなんてできない」
ユキは服装、荷物、髪以外に香水やメイク等、準備する要素が多いのでどうしても時間がかかってしまう。そして、どのタイミングでアサヒの準備が終わってるかはわからないため下手に長々と待たせられないと思っていた。
『……ユキ、焦らなくて良いのよ』
「ッ、ブリザード?」
そんなユキの焦りを察したのか。ユキの持っているスカイトーンから先代プリキュアであるキュアブリザードが話しかける。
『あの子はバーニングサンが近くで見ているけど、あなたの準備が遅い事に焦ってなんか無いわ。むしろ、あの子のためにあなたは準備しているのでしょう?』
「それは、そうだけど……」
『それなら、あなたは自分が虹ヶ丘アサヒという男の子と並んでも恥ずかしく無いと思えるだけの準備をするべきよ。多少時間がかかるのは仕方ない事よ』
ブリザードはあくまでユキに落ち着いた準備を薦めていた。これも、彼女が満足できる状態でアサヒに対面させるためだ。そのため、ユキも深呼吸してから心を落ち着かせる。
「すぅ……ふぅ……」
『落ち着いた?』
「う、うん。ありがと……。ブリザードのいう通り、ちょっと焦ってたかも。落ち着いて見直せるよ」
ユキはブリザードがそっと自分の気持ちを落ち着けてくれた事に感謝をすると彼女は優しい声色でユキへとエールを送る。
『ふふっ。大好きな男の子とのデート、楽しみなさいね』
「なっ!?ぶ、ブリザード!?」
ただ、最後の最後でユキは揶揄われてしまうとユキの頬は赤くなってしまう。何にせよ、ユキの準備もラストスパートだった。
場面は戻ってアサヒの方へ。そこではアサヒが精神を落ち着けようとしているとバーニングサンが話しかける。
『随分と落ち着いてるね。あの子とのお出かけ、楽しみなんでしょ?少しくらい興奮しても良いんじゃない?』
「バーニングサン……ああ。確かに興奮はしてるけど、今回はこっちの世界をよく知ってる俺がちゃんとエスコートしないとって思ったら落ち着けなくて。だから少しでも気持ちを落ち着けたかったんだ」
バーニングサンはアサヒの言葉を聞いて微笑ましい気持ちになった。大好きな子であるユキのために色々と考えているアサヒの事は彼女も側で見てきている。
そのため、バーニングサンはアサヒがユキのために健気に頑張ろうとしているのが微笑ましかった。
『そっか……。アサヒ、ユキさんの事をエスコートするのも大事だけど……そればかりに固執するのは良くないからね?』
「うん……心配してくれてありがとう。バーニングサン」
その言葉を最後にバーニングサンはスカイトーンの中に消失。その直後、部屋のノックがされるとユキの声が聞こえてくる。
「あ、アサヒ君……お待たせしちゃってごめんね」
「ッ、ああ!今行くから待っててくれ」
こうして、アサヒは自室の扉を開くと部屋の外で待っているユキと顔を合わせる事になるのだった。
また次回もお楽しみに。