その日の保育園での実習が終わり、虹ヶ丘家に戻ってきたあげは、かける、ヒョウ。あげはの手には大きな箱があり、その中には大量の手紙が入っていた。
「「ただいま」」
「おっじゃましまーす!」
かけるとヒョウは実際にこの家に住んでいるが、あげははまだ家にお邪魔する側なのでこのような形となっている。家では既に学校を終えたユキ、アサヒ、ソラ、ましろの四人に加えてソラが抱えているエルに一人巣箱の中にいたツバサも揃っていた。
「皆、保育園の園児の皆からいっぱいお手紙を貰ったよ!」
「「「「ふわぁ……」」」」
ユキ、ソラ、ましろ、ツバサ、エルが感嘆の声を挙げる中、アサヒは一人疑問符を浮かべた。
「……あれ?何であげはさんやかけるさん達が俺達プリキュアの仲間だってバレてるの?」
「あはは、実は色々あって……。この前俺達がプリキュアと一緒にいる所を見られてたらしくてバレちゃったんだ」
かけるはあげはが自らバラしたとは言いづらかったので上手い事誤魔化すように話す。アサヒは一応理由としては納得がいったのでそのままスルーしたが、ツバサはそれを聞いてハッとする。
「あ、あんまりボク達の事が周りにバレるのは……」
「まぁ、正体まではバレて無いしセーフセーフ」
「そういう問題じゃなくてですね……」
「ごめんごめん。あ、でもね。これを見て」
それからあげははツバサへと一通の手紙を渡す。それはツバサことキュアウィングに救われた男子園児……長内たけるからの手紙だった。
「えっと……“キュアウィング、大好き”……ズキューン!」
その瞬間、ツバサは子供からの手紙がとても嬉しかったのか。一気に心を撃ち抜かれたような顔つきへと変わった。
「あ……あぁ……」
「たける君、ウィングの大ファンみたい」
「バキューン!」
ツバサの心は完全に園児に撃ち抜かれたのか、また心を撃ち抜かれたような効果音を自分で言いながら手紙を巣箱の中にしまう。
「へ、返事はいつまでに書けば?」
「!!ありがとう!!」
「ッ、うわあっ!」
あげはは思わずツバサを抱きしめようとツバサへと両手を広げて抱き締めようとする。そのため、慌ててツバサはあげはを飛び越えるように躱すとポンと音を立てて人間形態に変わった。
「へ、返事を書かないのは騎士としての礼儀に反しますから!ですよね!プリンセス!」
「はい!」
ツバサはそう冷静に返しつつも興奮は抑えられないようである。そのために顔が若干赤くなっており、口角はしっかりと上がっていた。
「ましろん達もお願い」
あげはのお願いに他のプリキュアメンバーの四人も嬉しそうに声を合わせて頷く。
「「「「勿論!」」」」
「ありがとう!」
「ごめんね、わざわざ手間をかけさせて」
「このくらいどうって事無いですよ」
「うん。むしろ、皆が私達の事を知っててくれて嬉しいです」
かけるとアサヒ、ユキがやり取りをする中であげははプリキュア組の五人が返事を書いてくれると言ってくれてハイテンションに。そのまま踊るような動きでリズムを取りながらサプライズである事を口にした。
「あ、そうそう。実習中はここに泊まらせてもらうね!ヨヨさんには了解をもらってるから!」
「「「「「え!?」」」」」
「あげはさんがこの家に!?」
「やったぁ!」
「えるぅ!!」
「マジか。サプライズにも程があるでしょ」
「また賑やかになるね!」
ユキ達は嬉しそうな声を上げ、ソラとましろ、エルはリズムを取りながら踊る。あげはが泊まるという嬉しい出来事にその場の空気は歓迎のムードへと変わっていったのだ。
「って事で、実習の準備準備〜!」
「あげはさん、凄く楽しそうですね!」
ツバサがそう言う中、かけるもあげはと共に実習の準備をするために部屋へと戻っていく。
「あ、そういえばさっきからヒョウ。お前、いつも以上に大人しいけど何があっ……え?」
アサヒが先程から静かなヒョウの方を見ると僅かにギョッとした顔つきへと変わる。その顔は完全に緩み切ってきたのだ。
「えへへ……可愛い園児達から先生って呼ばれた……今度はヒョウお姉ちゃんって言ってもらいたい……。あ、おままごとではお母さんとかママっても呼ばれたなぁ……。それも良い」
「ヒョウ?」
「……はっ!」
ヒョウへと注がれるプリキュア組とエルの目線にようやくヒョウは現実へと戻ってくる。
「……何よ、アサヒ」
「いや、今更取り繕っても無駄だからな?」
アサヒが冷静にそう言うとヒョウは無言になる。そして、ユキが恐る恐るヒョウへと聞いた。
「……もしかしてヒョウ、ヒョウが実習に参加したいと言った理由って……」
「べっべっべっ、別に……可愛い可愛い園児達から慕われたいだなんて……そんなわけ無いじゃない!勘違いも甚だしいわよ。ユキ姉」
「あのな?そんな慌てたようなテンションで言われても説得力皆無だから」
アサヒから冷静にツッコミを喰らったヒョウは胸に思い切り棘が刺さったかのようにダメージを負う。
「ふぐっ……し、仕方ないじゃない!あんな可愛くて純粋な心を持った子供達に囲まれたら浄化されちゃうのも当たり前でしょ!私だってちょっと気を抜いたらプニバードになっちゃうのをかなり我慢してたんだからね!」
「まぁ、そうなったら一大事ですしね」
「でも意外です。ヒョウさんが幼い園児達が好きだったなんて」
「良いじゃない。子供達を見てると庇護欲が掻き立てられるんだから。私はいつも守られっぱなしなんだし偶にはそういう立場にもなりたいわよ」
ヒョウはもう隠しても意味が無いと悟ったために開き直って答えを返す。そんなヒョウにましろは苦笑いした。
「あはは、プニバード族って園児に心を撃たれる子が多いのかな」
「いや、多分この二人だけだろ」
そういう面を見ればツバサもヒョウも似た者同士という事だろう。実際、園児を相手に心を撃ち抜かれたのだから。
「二人共心がキュンキュンしちゃったみたいだね」
「ユキ、それ別のプリキュアな?」
そんな事を話してから、ひとまず五人は箱の中の手紙を宛先ごとで仕分けをする事にした。返事を書くにしても何人分書けば良いのかわからないからである。
「……あれ?この名前……」
「へ?かざなみ……らんこ?は!?」
ユキ達は並行世界にいる友達と全く同じ名前があるのを見て驚きの声を上げる。それを聞いてヒョウが補足。あげはの予想だと恐らく彼女がこちらの世界のらんこだというのだ。
「凄い偶然もあるものだな」
「ね、向こうの世界のらんこちゃんが聞いたらどう思うんだろう」
「少なくとも、驚くのは確定だと思いますね」
それかららんこの事で一通り盛り上がりつつ、ユキ達は自分の分の手紙を回収していく事になる。
その日の夜。かけるの部屋ではあげはがかけるの部屋の扉をノック。かけるは彼女を中に入れて話をする事になった。
「へぇ……。えっと、つまり。らんこちゃんが俺やヒョウちゃんにお礼が言いたいけど、内気で臆病な性格が原因でなかなか言い出せない……と」
「うん。あと人に嫌われたく無いって言ってたから、多分だけど他の人と接するのがそもそも苦手なのかも」
「あー。でもさ、らんこちゃんって人との接し方を間違えて喧嘩になったとかはまだしてないんだよね?」
「そうだね。だから純粋に他人と接するのが怖いって感じかな」
あげははらんこにもっと人と接して欲しいと思っていた。ただ、このままだとらんこはなかなか自分から踏み出せないままズルズルと行ってしまうと考えてかけるに相談したのだ。
「オッケー。じゃあ、俺に一個提案があるんだ」
「嘘、もう思いついたの?」
「うん。ちょっと準備には時間がかかっちゃうけどね」
それからかけるはあげはと共に虹ヶ丘家のキッチンへと向かうとある物を作り始めた。
「これをキッカケに上手く他の子とかと話せるようになると良いけど」
「うん。でも、かける君はやっぱり賢いね」
「……そんな事は無いよ。中学一年の時までは成績が下から数えた方が早いぐらいには頭悪かったし」
「……え?」
「どんなに勉強しても上手く頭に入らなくて。俺なんかが努力しても虚しいだけ。……そう思ってたんだ」
どうやらかけるは元々成績が最底辺だったらしい。それは彼が勉強を嫌がっていた訳ではなく、周りの速度に着いて行こうと必死に足掻いた上での結果だった。
「それから沢山のアプローチ方法を研究して勉強して、やっと自分に合ったスタイルを見つけて……。俺が今みたいになれたのって高校二年の時。当時は受験にギリギリ間に合ってホッとしたぐらいだったから」
「そうだったんだね」
あげはがかけるがそう語るのを隣で聞きながら彼の手に自分の手を重ねる。
「ねぇ、かける君」
「何?」
「絶対にらんこちゃんの笑顔を取り戻そうね」
「……うん。勿論だよ」
二人は何としてでも他人と上手く接する事ができないらんこを救うために決意を固めるのであった。
同時刻。ソラシド市の夜の街並みを見下ろせる高台では、山の中に篭っていたヒューストムが姿を表す。
「やれやれ。特訓でそれなりに強くなれたし……そろそろ苦戦続きの馬鹿の手伝いをしてやるか」
するとそこにたまたまタイミング悪くやってきたバッタモンダーが面白く無さそうな顔つきになる。
「チッ、お前やっと出てきたのかよ」
「ふん。俺抜きで勝手にプリキュアに挑んで惨敗してる奴が何言ってるんだか」
「へっ、この僕が更に本気を出せばあんな奴等なんて……」
その瞬間、バッタモンダーの頬を掠めるように風の刃が飛んでいくとバッタモンダーはいきなり攻撃された事にビビり散らかす。
「ひいっ!?」
「やれやれ、お前ともうここまで格の差ができたのか。まぁ、お前なんざ最初から眼中にすら無いけどな」
「お、お前、どうやって」
「あ?今度はお前のようなウスノロでも見えるようにゆっくりやって欲しいってか?」
ヒューストムは瞬間移動と見間違える程に早くなったスピードでバッタモンダーの前に来ると彼の顎を掴んで上に上げる。所謂顎クイだ。ただし、この状況ではバッタモンダーにとってホラーでしか無いが。
「もうお前一人でプリキュアに太刀打ちできるなんて思い上がるな。アイツらはスカイランドで初めて俺達と出会ったあの時と比べて確実に強くなってる。あと、さっきお前は本気を出せばとか言ってたな」
ヒューストムは次の瞬間、姿がブレると一瞬で移動してから手に空き缶を持って戻ってくる。
「負け惜しみとして更に本気を出すとか言うくらいなら最初から死に物狂いで戦っとけ。良いな?」
次の瞬間、ヒューストムの手にした空き缶は一瞬にして粉々に砕け散った。しかもバッタモンダー目線からでは本当に一瞬風が吹いたとしかわからなかったために彼は戦慄する。
「さてと、キュアオーロラ……いや、ユキ。お前を今度こそ再起不能にまでしてやる。そのためにも、アイツの協力を仰ぐか」
そう言ってヒューストムはバッタモンダーから手を離すとその場から竜巻を纏って消えるのであった。
また次回もお楽しみに。