カバトンの襲撃を返り討ちにし、ようやく平穏を取り戻した所でユキとアサヒはお出かけを再開。2人は避難していた人々が先程の怪物が跡形も無くいなくなっている事に驚いている様子を横目に見ながら2人きりの時間を楽しんでいた。
「アサヒ君、えと……」
「ん?」
すると、アサヒがユキに呼ばれてその方を向くと彼女は何かを言おうとしてモジモジとした様子を見せる。
「どうしたの、ユキ」
「ッ……あ、あのさ。アサヒ君はその……私なんかと一緒で良かったの?」
ユキは不安そうな顔つきでアサヒへと問いかける。先程お互いに気持ちを伝え合った。ただ、それでもユキはまだ自分がアサヒに受け入れてもらえるという事実が少し信じられていないようで。
「どうして?」
「……私、アサヒ君にとって好きになってもらえるような事……何もしてないよ?……こんな私がアサヒ君の気持ちにちゃんとアサヒ君が満足できる形で返せるかな」
ユキは思い出すとアサヒの事を少しずつ意識するようになっていたものの、ユキ側がアサヒに対して何か特別な事をやったのかと問われるとそこまで大した事はやっていない。
加えて、ユキはアサヒには自分を助けてもらったという大きな恩がある。それだけの大きな恩を返そうと思ったらユキはアサヒに沢山尽くさないといけないと考えたのだ。それだけの事をアサヒに返してあげられるのか、ユキは不安なのだろう。
「……そっか」
「ッ……」
ユキが俯いているとアサヒはそっと彼女の手を握る。そのため、ユキはいきなりの事で思わず驚いてしまう。
「えっ!?あ、アサヒ君……何で」
「俺はそんな事気にしないよ。……それにさ。俺がユキの事を好きになったのはユキが自分でわかっている通り、ユキに特別な何かをされたからってわけじゃない」
「えっ……じゃ、じゃあ何で。私……アサヒ君に迷惑かけてばかりで。何も印象が良くなる事なんて」
ユキは自分の予想が当たっている事をアサヒから告げられて困惑。慌ててアサヒの方を向くと彼は優しく微笑んでいた。
「俺も最初はユキの事が危なっかしくて放っておくのが不安な1人の少女としか見れなった。多分、恋愛感情だって出会った当時には無いよ」
「そりゃあ、私もそうだけど……」
「でも、ずっと一緒に過ごす中でユキが心を開いてくれるようになって。プリキュアとして一緒に戦ってくれてさ。そうやって沢山時間を過ごす度に沢山のユキのありのままの姿を見て。その上でユキの隣にいたいって純粋に強く思えるようになったんだ」
「ッ……」
アサヒの言葉にユキは思わずポロリと涙が溢れてしまう。そのくらいユキにとってアサヒから愛してもらえるという事実は嬉しい事なのだろう。
「アサヒ君、わたっ……私なんか……私なんか……」
ユキの声は様々な感情が混ざっており、震えてしまっていた。そのため、アサヒはユキの手を優しく引っ張るとある事を言い出す。
「ユキ、ちょっと俺に付き合ってよ」
「えっ……」
アサヒはユキと共にソラシドモールを敢えて出ると移動を開始。空は少しずつ太陽が西に傾くと沈み始めているのか、空模様が夕焼けに変わりつつあった。
「あ、アサヒ君……どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ……って言いたいけど、ユキも知ってる場所だよ」
「私の知ってる場所」
ユキが困惑しているとその間にもアサヒはユキが無理しない程度に彼女をリードする形で移動。ユキは困惑しつつもアサヒの言う事なら信じてくれているのか。それ以上は何も聞かないでくれた。そして、2人が目的地に到着するとユキは目を見開く。
「あっ、ここって……」
「うん。いつもランニングで来る高台だよ」
アサヒが連れてきた場所、それは2人がいつも朝のランニングをする際に太陽が顔を出すのを見届けるソラシド市を見渡せる高台であった。
「え、えっと……アサヒ君は何でここが良かったの?」
「……うーん、ここがソラシド市の中だとユキと一緒に沢山来る場所だからかな」
ユキはそれを聞いてまた頬を赤くする。彼女はアサヒが自分の事を見てくれているという事実を確認できるのが嬉しいようで。
「そっか、ありがと。私のために」
「大した事じゃないよ。それで、さっきの話の続き。まず俺はユキの事を好きになったのに大きな理由なんて無い。ユキと毎日一緒に過ごす中で、もっともっと一緒にいたい気持ちが強くなったってだけだよ」
「そっか……」
ユキは自分が知らず知らずのうちにアサヒの事を誘惑してしまっていたのだと感じる。そして、それはユキがアサヒの事を好きになった理由も同じだ。
これまで、自分に自信が持てなかったユキを救ったのはアサヒである。そして、その時点ではアサヒはユキに対して下心を一切抱いておらず。あくまで自然に接してくれた。しかも、自分がピンチに陥ったら何度でも助けてくれるわけで。これだけ寄り添ってくれている相手にユキが惚れないわけが無い。
「アサヒ君……私、アサヒ君の事が好き。勿論、異性として……アサヒ君と恋人になりたい。……だけど、私がアサヒ君の側にいて……きっと沢山迷惑をかけるよ」
「うん」
「だけど私、何となくだけど自分が面倒な女だってわかるし……きっとアサヒ君をうんざりさせちゃう。それでも良いの?」
「そのくらい大丈夫だよ。ユキがそれ以上に魅力的な子だし」
「ッ……」
ユキはアサヒへと何度も確かめるような形で問いかける。普通ならこんなにも確認をされたり自信のない発言をされたら相手は嫌な奴だと思うだろうが……アサヒからしてみればユキという女の子を自分の恋人にできる事を考えたら些細な問題だ。
「私、きっとアサヒ君に強く甘えちゃうよ?もしかしたら愛が重い女になっちゃうかも」
「それでも俺はユキの事が好きだ。……この気持ちは止められないよ」
ユキはアサヒに何度か確かめるように自分の欠点を幾つも幾つも話して確認を取る。一見すれば、ただの面倒な女にも見えてしまうが……ユキはそれだけアサヒと恋人になった後に自分の多すぎる欠点のせいで愛想を尽かされる方が辛いのだろう。
ユキはそこまでアサヒに言われて胸がキューっと締め付けられるような感覚を感じる。
「(アサヒ君、私をちゃんと見てくれてる……後は私が受け入れればそれで済むはずなのにこんなにも面倒な事に付き合わせて)」
もう良い加減覚悟を決めないといけない。これだけアサヒに自分の都合を押し付けておいて今更逃げるなんてできないのだ。
「……ユキ、俺はユキにどれだけ欠点があったとしてもそれを受け入れるよ」
「うん……」
ユキはアサヒから促されると頭の中に不安な気持ちが大量に湧き上がる中で、どうにか気持ちを落ち着かせようとする。そして、アサヒはユキに先程彼女の口にした好きという気持ちに対する返事を伝えた。
「俺はユキの事が好きだ。それは、ユキに沢山欠点があったとしても変わらない。むしろ、俺がユキの欠点をカバーする。……だからユキ。ユキにその気持ちがあるのなら俺と付き合ってください」
アサヒはとうとうユキに対して本当の意味で好きな気持ちを伝え、告白した。ユキの答えは先程までの流れで確実にOKなのは分かりきっている。……しかし、まだユキの中ではアサヒに答えを返せるだけの覚悟が決まってないのか。上手く答えを返せずにいた。
「(ッ……アサヒ君は私の事が好き。告白だってしてくれた。……応えなきゃ、応えなきゃいけないのに)」
もうとっくにお互いが両想いで自分もアサヒが大好きである事な揺るぎのない事実。後はユキが最後の一歩を踏み出せば済む話なのだ。
それから数秒の間が空くとユキは気持ちを落ち着ける。その間、アサヒはユキの事を待っていた。
「アサヒ君、待たせちゃってごめん。……私、私……アサヒ君の事が好き!この気持ちに蓋なんてもうしたくない。だから……だから……その」
ユキは最後の一言を言おうとして止まってしまう。あと一歩、あとちょっとで自分の気持ちを伝え切れるのに……最後の最後で詰まってしまったユキの胸にはアサヒに嫌われる恐れが生まれてしまう。
「ッ……」
「ユキ、俺はユキの気持ちを尊重するよ」
アサヒはそんなユキを見て彼女をそっと後押しした。その言葉にユキは自分の意見を尊重してもらえる事への安心感を抱いたのか。改めてその気持ちを口にした。
「アサヒ君……私と……私とお付き合いしてください!」
ユキは最後まで言い切ると出し切れた安心感から大きく息を吐き出す。そして、2人の答えは見事に一致した。もうお互いの気持ちを我慢する必要なんて無い。
「2人共気持ちはお付き合いしたい……か。おいで、ユキ」
「ッ!!」
アサヒがそっと両腕を広げて優しく微笑むとユキを受け入れる仕草を見せる。ユキはそれにすぐさま反応。アサヒの胸に飛び込むような形で抱きついた。
「アサヒ君、アサヒ君……」
「もう、折角お付き合いするんだから泣くなよ」
「泣いてない……泣いてないよ」
ユキ本人は否定しているものの、実際にはアサヒの胸で泣いてしまう。それだけアサヒとお付き合いできたという事実が嬉しいのだ。
「私、ずっと怖かった。アサヒ君が私の事を好きになっていなかったら。アサヒ君が私の事を受け入れてくれなかったらって思うと不安で不安で仕方なくて……」
「よしよし」
ユキは溜まっていた不安を一気に吐き出すようにアサヒの胸で泣きじゃくる。それだけアサヒに受け入れられないかもという気持ちがユキの心に大きな不安を与えてしまっていたのだ。そのため、ユキの不安が少しでも和らぐように改めてアサヒはユキの背中をさする。
先程プリキュア状態で抱きしめた時もそうだったが、ユキは心を許した相手から撫でられたりすると気持ちが落ち着いてリラックスできるらしく。特にユキが大好きなアサヒからしてもらっているのもあって彼女の心は癒されていった。
「アサヒ君は私にとって太陽みたいな温かい光で。アサヒ君がいてくれなかったらきっと……きっと……私は昔の事をもっと長く引きずってた」
「(ユキがもっと長く引きずってたか。……そういえば、言われてみたらもし俺がユキの事を助けてなかったら、誰がユキの心の支えになったんだ?)」
アサヒはユキの発言に少し考えると彼女はそういう意味でかなり危険な精神状態だったのではないのかと考える。恐らくアサヒがユキを救えていなければ、ソラやましろ辺りは助けに入れただろう。しかし、ソラもましろもユキと同性だ。そのため、アサヒみたいにユキの恋人になるという選択肢は取る事ができない。
「(……まぁ、結果的にユキを助け出せたとしても今とはもっと違う形。少なくとも恋人関係は無理だろうな)」
そういう意味で考えるとアサヒはユキが1番大変な時に最適なタイミングで助けに行けたという事である意味運が良かったと言えるだろう。
「アサヒ君、私……もっとアサヒ君に相応しい女になる。アサヒ君がお付き合いして良かったって思える相手になれるように努力するから」
「ユキ……」
ユキはいつの間にか泣くのを止めて覚悟を決めたような顔になっており。それだけアサヒのために沢山尽くしたいという気持ちの現れだった。
「……ユキ、その気持ちは嬉しいけど。その場合、ユキは自分が満足するまで俺の隣に並ぶために色々頑張るだろ?」
「えっ……えと、うん」
アサヒはユキが覚悟を決めた顔を見せた時点で何となく嫌な予感がしたのか、ユキへと問いかけると彼女は言いづらそうな顔をしつつ頷く。
「やっぱりか……。もしそうなった場合、ユキは今まで以上に無理すると思う。それこそこの前ランニングのやり過ぎで倒れた時みたいなレベルで。……それは俺が望む事じゃないのはわかるよね?」
「ッ……で、でも今のままじゃ私はアサヒ君と釣り合いが取れないよ……。アサヒ君がお付き合いを許してくれたとは言っても私はまだまだ全然」
アサヒはそれを聞いて頭を抱えたくなってしまう。勿論、ユキが自分のために頑張ってくれる事自体は喜ばしい事で出来ることなら頑張るというユキの気持ちを否定はしたくない。
ただ、ユキの場合は無理するのを許した結果。ランニング中に倒れてしまった挙げ句、肝心な時に体力切れでまともに戦えなかったという致命的な前科がある。
「……それなら、俺と約束して」
「えっ……?」
「俺のために頑張る事は否定しないけど、絶対に無理をしない事。特に、前みたいに頑張り過ぎていきなり倒れるような事態になったら……俺はユキと別れる」
「ッ!?あ、アサヒ君!?それだけは……それだけは……」
ユキはアサヒから付き合いたて早々からいきなり別れ話まで切り出されたせいか、見るからに分かりやすい程に動揺。それだけはやめてほしいとばかりの様子だった。
「……だったら、日常生活に支障が出ない程度にね」
「ッ、もう。そんな事言うなんてアサヒ君、ズルいよ……」
「俺だってこんな事したく無いし、ユキが無理して倒れるのは嫌なんだ。……そこはわかっててほしい」
ユキが少しだけ頬を膨らませてアサヒへと文句を言うとそれはこっちの台詞だとばかりにアサヒが返す。
「……わかったよ。無理しない程度に頑張る」
「そうしてくれると助かるよ。俺もユキとはずっと恋人として……いや。家族になりたい気持ちだってあるから」
「か、かぞっ……」
ユキはアサヒからのまさかの発言に顔が真っ赤になると一瞬で恥ずかしさも爆発。
「ふふっ、ユキ。そういう所が可愛くて好きなんだよ」
「え、ええっ!?」
アサヒは悪戯成功とばかりに微笑むとユキは少し悔しそうな顔を浮かべる。それからアサヒはある事を提案した。
「そうだ、ユキ」
「何?」
「さっきは思わず初めてを奪っちゃったけどさ。状況が状況だっただろ?だから……」
「ッ……うん」
アサヒの提案、それは先程不意打ちで奪ってしまったユキとのファーストキスである。そして、ユキもファーストキスのやり直しがしたかったのか。アサヒの意見に頷くとアサヒの方を向いて頬を赤らめつつゆっくりと目を閉じた。
「これで良い?」
「ああ……。これからよろしくな、ユキ」
「うん……」
それからアサヒは少しだけ待ってユキを焦らしてからその唇をそっとユキの唇に重ねた。勿論今回も唇だけでする軽い方だったが、これでお互いに不意打ちで奪われたファーストキスのやり直しとして見做すとキスを終えた2人は手と手を繋ぐ。
その手の感触は温かく。これまではただの親友でしか無かった2人の間にあった大きな壁は取り除かれ、これからは将来を見据えた恋人としての関係に変わる事になるのだった。
また次回もお楽しみに。