女子の選抜リレーが終わり、男子の選抜リレーが始まる直前。突如として校庭のトラックの中央に現れたランボーグ。その姿はトラックのライン引きをモチーフとしていた。
「ランボーグ!」
「ッ!あれは!!」
その様子を見てユキやアサヒは目を見開き、それと同時に他の生徒や観覧席にいる保護者達は慌てて避難を開始した。
「こんな時に来るなよ!」
アサヒが悪態を吐きながら急いでユキの元に行くとそこにソラ、ましろ、ツバサも合流。四人はツバサからミラージュペンを受け取って構えた。
「体育祭をメチャクチャにさせるわけにはいきません!」
「皆さん、行きましょう!」
「うん!」
「「「「「スカイミラージュ!トーンコネクト!」」」」」
「ひろがるチェンジ!プリズム!」
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」
「ふわりひろがる優しい光!キュアプリズム!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!」
「夜空にひろがる煌めく幻想!キュアオーロラ!」
「日暮れにひろがる輝く月!キュアムーンライズ!」
「「「「「レディ……ゴー!ひろがるスカイ!プリキュア!」」」」」
五人が変身を完了し、早速ランボーグへと向かう。今回のメイン担当はプリズムだ。そして、向かってくるプリキュアを見たランボーグは猛スピードで突っ込んできた。
「ランボーグ!」
五人はそれを躱すとスカイが飛び出して攻撃を仕掛ける。しかし、ランボーグのスピードはとてつもない。そのため、一瞬にして回避されてしまう。
「コイツ、速い!」
「これじゃあ追いつけないよ!」
「だったら、ムーンライズ、プリズム、気弾をばら撒いて!」
オーロラの言葉に二人は頷くと三人がかりで気弾を周囲に放出。その弾はランボーグを狙う事はせずに雨のように降らせた。
「スカイ、ウィング!」
スカイとウィングはそれによってランボーグに生まれた一瞬の隙を逃さない。ランボーグはスカイとウィングの攻撃を躱そうとするが、周囲に降り注ぐ気弾がその動きを制限。先程までのスピードが出せなくなった。
「ララ!?」
「良し、動きが止まった!」
「スピードが落ちれば捕まえられます!」
スカイが動きの鈍ったランボーグへと脚を振り抜いての蹴りをぶつけるとランボーグは吹き飛んで横倒しとなる。
「今!」
そこにムーンライズ、オーロラが気弾を集中砲火してランボーグを追撃。かなりのダメージを与えた。
「ラン……ボーグ……」
「やった!」
「これで決めます!ひろがる!ウィングアタック!」
ウィングがトドメのために技を放つと倒れたランボーグへと向かっていく。そのまま勝負が着くかに思えた。
「うっ!?」
その時、突如としてムーンライズが頭を抑えると何かの衝動がいきなり湧き出てくる。そして、いきなりムーンライズの視界が暗転すると心の中へと意識が移動した。
「……ッ、ここは……」
「お前の心の中だよ。アサヒ・マブシーナ」
「誰だ!」
ムーンライズは、いや。アサヒは突如として見える景色が変わった事に驚くと辺りを見渡す。しかし、周りには闇が広がるのみで誰もいない。
「何だよ。いきなりこんな所に連れてきて……」
「……呼んだか?」
その瞬間、アサヒの中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。それは、自分と全く同じ声である。
「なっ!?俺と同じ声……。てか、どこにいるんだよ!」
「おいおい。お前、俺が誰なのかわかってないのか?」
アサヒはどこからともなく聞こえてくる自分と全く同じ声に不快感を覚えた。
「本当に誰だよ。ああもう!ランボーグをあとちょっとで倒せる場面なのにいきなり呼びやがって……姿ぐらい見せろ!」
アサヒの叫びにその声の主は地面から湧き出るようにアサヒの真後ろに現れる。
「……俺は、お前だ」
「は?何言ってんだよ。俺自身とでも言うんじゃないよな?」
「……そうだよ?俺は他の誰でも無いお前自身だ」
「嘘だ!何でこんな急に……」
アサヒがその存在を否定するように言う中、影から出てきたもう一人のアサヒと名乗る人物は笑みを浮かべる。そして、そいつはまた地面の中に消えてからアサヒの前にスッと出てきた。
「知らないなんて言わせないぜ?俺は前にもお前の代わりに戦ってやっただろ」
それを聞いてアサヒは何かを思い出す。それは、前にダークネスの残滓と戦った時に自分を動かしていた存在だった。
「まさか、あの時の……」
「おう。ただあの時はお前がピンチだったから代わりにアイツらをぶっ潰す手伝いをしてやっただけだけどな?」
それを聞いてアサヒは一瞬だけこの影の存在を良い奴だと思ってしまった。そして、彼はその考えをすぐに後悔する事になる。
「あの時お前を助けたのはあそこでお前らプリキュアに全滅されたら困るからだよ。あと、あのユキって女。お前に献身的に尽くす健気な女だなぁ」
「何言ってんだよ。いきなりユキの事を言い出して」
「なぁ?見たいと思わないか?あの女の好意が俺の手で粉々に砕け散る所を」
それを聞いた瞬間、アサヒは影がやろうとしている事を理解すると直感で反応するように拳を繰り出していた。
「ッ!!」
ただ、影はその拳を簡単に受け止めると邪悪な笑みを浮かべる。そして、アサヒの足元がいきなり泥沼のようにズブズブと沈み始めた。
「なっ!?」
「お前はそこで眠ってろ。ちょっとお前の大事な物……壊してやるから」
そのまま影のアサヒはアサヒと入れ替わる形で現実世界に戻ってくるとムーンライズがダランと脱力。それと同時にアサヒの人格に合わせて体が入れ替わるように一瞬だけブレた。その時、ヒョウは何かに気がつく。
「ウィング、避けて!」
ヒョウが慌てて叫ぶが、もうウィングはランボーグの目の前にまで移動していて躱す事ができない。するとウィングの突撃はいきなり何者かによって止められた。そこにいたのは片手でウィングの浄化技を防ぎ、邪悪な笑みを浮かべたムーンライズである。
「……え?」
そして、いきなり豹変したムーンライズを見たスカイ、プリズム、オーロラの三人は驚きの顔に変わるとそれを横目にムーンライズがウィングの浄化技を一瞬で掻き消してしまう。
「ッ!?ムーンライズ、何をするんですか!」
「……ふふっ。何をするのか?今よーく見せてやるから取り敢えず痛みに備えて歯でも食いしばれ」
その瞬間、ムーンライズがウィングを投げ飛ばすとウィングは物凄い勢いで壁に激突。ウィングがかなりのダメージに悶える中、ムーンライズのターゲットがスカイへと移る。
「ムーンライズ止めて!」
「ッ!」
オーロラの叫びも虚しく、ムーンライズは黒いオーラを漂わせるとスカイへと攻撃を開始。スカイは何とかそれを捌こうとするが、ムーンライズからの攻撃のスピードがあまりにも早く、スカイは僅か数撃で防御を崩されるとガラ空きの腹に拳を貰ってしまう。
「がはあっ……」
スカイは肺の空気を吐き出してしまう程のパワーで殴られたためにその場で崩れ落ちるとむせてしまう。
「ゴホッ……ゴホッ……」
「おい、そんなものか?もう少し楽しませてくれよ」
そのままムーンライズがスカイの髪を掴んで持ち上げようとする。プリズムは我に帰るとスカイを助けるために気弾を放つ。しかし、ムーンライズはそれをノールックで手を突き出すと簡単に掻き消してしまう。
「そんな……」
「ふーん。じゃあ次はお前を潰してやる」
ムーンライズはプリズムを見るとまた一気に踏み込んで移動。プリズムは気弾を連射するがムーンライズはそれをまるで寄せ付けず。ほぼノーダメージとばかりにプリズムへと向かうと腕を掴んで振り回してから地面へと叩きつける。
「きゃあっ!?」
そのまま腕を後ろへと拘束してから片脚でプリズムを踏みつけた。そのあまりの激痛にプリズムが顔を歪めて苦しむ。
「あぁあっ!」
「止めて……お願い、ムーンライズ……」
オーロラがムーンライズを止めるために抱きつくと押し倒す。プリズムがようやく解放されて体の痛みに苦痛の顔を浮かべる中、オーロラはムーンライズへと覆い被さると涙目で呼びかける。
「なんで、なんでこんな事するの……アサヒ君、戻ってきて!」
「……あ?何言ってんだよ。俺が正真正銘のアサヒその人じゃねーか」
「違う……違う!私のアサヒ君は……こんな事絶対にしない!ねえ、目を覚まして!」
オーロラが懇願するようにそう言う中、ムーンライズはオーロラの首を掴むとそのまま締め上げる。
「うっ!?」
「あんまり彼女だからって過ぎた口聞くなよ?俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。……誰がお前の事救ってやったと思ってんだ?お前、あのままだったら間違いなく心折れてただろ」
「あ……ああっ……」
オーロラが呼吸できずに苦しそうな声を上げる中、ムーンライズの締めつけは更に強くなる。このままではオーロラが殺されてしまうかもしれない。そう思ったスカイ達だが、ムーンライズから受けた痛みは想像以上に深い。そのため、全員が助けに動けなかった。
「むーん……らいず……やめ……」
「止めてくださいだろ?ほら、言ってみろよ」
ムーンライズが邪悪な顔のままオーロラに言う。オーロラは息も絶え絶えになりながら声を絞り出そうとする。
「や……め……て……く……ううっ!」
「聞こえないなぁ」
オーロラが言おうとした直後にムーンライズは首を更に強く締め、オーロラの顔は真っ赤で今にも呼吸困難で死にかねない。
その時、ムーンライズの中でドクンと心臓が高鳴るといきなり力が抜けてオーロラを締め上げた首から手を離した。
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
オーロラはギリギリの所で呼吸できるようになって咳き込んでから荒い息を吐く中、ムーンライズになった影のアサヒは舌打ちする。
「チッ……あの野郎もう戻って来やがったか。まぁ、この女を粉々に砕くのはまた別の機会にしておこう。あとそれと、プリキュア。俺は前にお前らの味方をしたが……あれは俺以外の奴らにお前らをメチャクチャにされたく無いからだ。それだけはちゃんと覚えておけよ」
それと同時にムーンライズはまた脱力してから意識を取り戻すと雰囲気がアサヒの物に戻った。
「ッ……俺は……何を……」
ムーンライズは周りの光景を見ると顔を青ざめさせる。自分が意識を失った間にプリキュア達が傷ついている事、更に目の前でオーロラが咳き込んでいるのと、首の辺りに付いている締め上げの跡を見てムーンライズは呟いた。
「嘘……だろ?俺が、やったのか?これを……」
その瞬間、オーロラがムーンライズへとフラフラと立ち上がって抱きつく。そして、彼へと声をかけた。
「大丈夫……ムーンライズは悪く無いよ」
「何で……だって、どう見てもこれは俺が……」
「ムーンライズは悪く無い……だから、気にしないで!お願い」
オーロラの言葉にムーンライズは混乱しながらも頷く。そこに復活したランボーグが襲い掛かろうとした。
「ランボーグ!」
「させるか!」
そこにウィングが突撃して蹴りをぶつけるとランボーグが地面を転がる。そして、それを見てムーンライズ、オーロラはすかさず技を使った。
「輝け、月の力!」
「煌めけ、光の力!」
「「集まれ!二つの幻想の力達よ!」」
「「プリキュア!ファンタジーパワー・クレシェンド!」」
二人がエネルギーに包まれて飛び上がるとランボーグは直撃を喰らうと不味いと踏んだのか、逃げに走る。しかし、この技の前でそれは悪手だ。
技威力はランボーグが逃げる度に増加していき、速度も強化されていく。そのまま二人の技のスピードがランボーグを上回るとそのまま激突。ランボーグの体に星のマークを浮かばせて浄化する事に。
「スミキッタァ〜」
「ミラーパッド、オッケー!」
スカイがミラーパッドでしっかりとキラキラエナジーを回収すると何とかその場を収める事ができた。尚、その様子を見ていたバッタモンダーは苛立ちながら撤退。
「んだよ!折角ムーンライズの奴が同士討ちして良い展開になりかけたのに負けたし!しかも何だよあれは何のための道具なんだよ!はいはい、強い強い。良かったね、バッタモンモン!」
ムーンライズの豹変というトラブルが無ければ完敗していたためにバッタモンダーの苛立ちはいつもよりマシマシだったのだが、最早どうでも良いまでもある。
そして、無事に体育祭は終わりにまで漕ぎ着ける事ができた。ちなみに、男子の選抜リレーは結局二位という結果に終わる事に。アンカー対決でアサヒはあと一歩足りずに先にゴールテープを切られて負けたのだ。それから虹ヶ丘家に戻った一同は体育祭について話す事になる。
「ましろちゃん、大丈夫?」
「え?」
「えっと、リレーでの事……気にしてるんじゃないかって……」
「あはは、あれはもう大丈夫。でも、自分でもビックリしてる。涙が出るくらい悔しいと思えたのは初めてだったし」
ましろは体育祭が終わってから片付けをする時にいきなりクラスメイトに謝られて色々と困惑したが、それでも彼女はクラスメイトを許した。今の彼女はそんなことよりも新しい自分に驚いている事の方が重要だったのだ。
「でもさ、新しい自分に出会った時ってドキドキしない?新作のコスメを試した時みたいにさ」
「そんな感じかも」
「ましろさんが出会ったのはどんなましろさんですか?」
「うーん……思ってたよりも負けず嫌いで、思ってたよりも走るのが好きな自分……かな」
ましろの言葉にヨヨは微笑むとツバサやヒョウが見守る中、一人で歩いているエルを見つめる。
「ましろさんはエルちゃんと同じ。歩き出したばかりの赤ちゃんね。自分の中に沢山の可能性がある事を知って、どんどん成長していく。チャレンジして良かったね。ましろさん」
「うん!」
「日課のランニング、これからも一緒に頑張りましょう!」
ましろはソラの言葉に笑顔で頷くと夕暮れを見つめて微笑む。そんな中、かけるはあげはへと声をかけた。
「あ、そういえばあげはさん。あげはさんが楽しみにしてたアレ。もうそろそろじゃなかったっけ?」
「うん!一緒のチームになれたら良いね、かける君!」
「何かあるんですか?」
「ふふっ。内緒」
あげはにそう言われてユキ達は疑問符を浮かべる。あげはとかけるが話していたアレについてはそのうちまた話すと二人に言われて一同は一応納得した。
その日の夜。アサヒは一人自室で頭を悩ませていた。それはいきなり目の前に現れたもう一人の自分についてである。
「……俺と入れ替わったアイツ……アレは何だったんだ?ユキを粉々に砕くとか言ったけど何の目的で……」
今日の戦いでの暴走。思えば、前にらんこと共闘した際もいきなり意識が消えて気づいたら状況が一変していたのだ。混乱しないわけがない。
「とてつもなく嫌な予感がする。それにアイツ、スカイランドに行く前はいなかったはずなのに……何で……」
アサヒの心は混乱するばかりだ。そんな中。アサヒの心の中では影のアサヒがまた邪悪な笑みを浮かべながらその力を高めていたのだが、それはまだ今のアサヒには知る由も無い。
また次回もお楽しみに。