ユキ達中学生組が出掛けた後。積み木で遊び始めたエルをツバサやヒョウは見守る事にした。
「よいしょ!えるぅ!」
「流石です、プリンセス!」
「上手よ、エルちゃん」
「えるぅ!」
三人が遊ぶ中、その周囲ではあげはとかけるの二人が部屋の掃除を行っていた。
「ちょっと、失礼しまーす!」
そう言ってあげはが三人の隣を掃除機で掛けていく。ちなみに、今あげはが使っているのはコードレスの掃除機のためにエルの遊びの邪魔にはなって無い。
「える!」
更にエルは積み木を積んで遊ぶ中、ヒョウはやはりソワソワしていた。先程ツバサに止められたとは言ってもやはり気になって仕方ない様子なのである。
「うぅ……」
そんな中、あげはの様子をさりげなく見ていたツバサは彼女が掃除している場所を見てギョッとした。
「あ、あげはさん!?何しているんですか!?」
「……え?二人の巣箱の掃除だけど……」
「そのくらいはボクが自分で……」
ツバサは流石に自分の寝床を掃除されるのは困るのか、巣箱をあげはから貰うとそのタイミングでヒョウもやって来た。
「何よ、ツバサだって気になってるじゃない……って、あれ?」
ヒョウはあげはが持ってるもう一個の巣箱を見るとそれは彼女が掃除するついでに飾り付けをしたのか、可愛らしい装飾やリボン、クッションなどが置いてあった。そしてそれはツバサも同じなようで。
「可愛いっ!あげはさん、これって……」
「うん。デコ巣箱だよ。そのままの巣箱だと寂しそうだったし」
「だからってボクのまでやる必要ありました!?」
ヒョウには割と好感触だったが、やはりツバサには合わないようで。彼は文句を言い始める。
「えー?可愛いのに」
「可愛いですけど……その、落ち着かないです」
「あ。じゃあさ、かける君!ちょっとこっち来て!」
「ん。どうしたの?」
かけるがその声を聞いてやってくるとあげはがツバサの巣箱について彼へと意見を求めた。
「ってわけで。かける君、落ち着いた男の人の部屋ってどんな感じになるかな?」
「うーん。色合いのバランスかな?例えばあげはさんのコーディネートは確かに気分がアガるけど、ツバサ君みたいな落ち着いた雰囲気を好みにした人とは相性が悪い。だから無理に装飾は増やさずに巣箱の色のバランスを考えるべきかな」
かけるの話を聞いているとツバサは先程までムキになっていた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「ツバサ君。もし良かったら今度巣箱の模様替え。手伝おっか?」
「……あ、ありがとうございます」
あげははかけるへとさり気なくサムズアップ。かけるは微笑んで小さく頷いた。要するにツバサは上手く大人二人組に乗せられた形になる。
「あげはさん。それと、このクッション。使っても良いですか?これはこれで好みなので」
「ありがとう、少年!!」
するとヒョウの巣箱から何かが落ちる音がした。四人がその方を向くとヒョウは何が落ちたのか察して慌て始める。
「あっ!それは……」
「これは……」
そこにあったのは何通もの手紙だった。ツバサがそれを拾うと中を見始める。
「えっと、何々。“ヒョウせんせい、またあそびにきてね”こっちは“ヒョウせんせいだいすき”……って、これ。保育園の子供達からの手紙じゃないですか。それで……」
「ツバサ、それ返して!」
慌ててヒョウがツバサから手紙を取ると隠すように後ろに持っていく。その顔は赤くなっており、恥ずかしさでいっぱいだった。
「何をそんなに慌てているんですか。ボクだって貰った手紙は大事にしてますし。何も恥ずかしい事は……って、あれ?その手紙……いつ貰ったんですか?」
ツバサはヒョウの持っている手紙に違和感を感じた。ツバサとヒョウは前に園児達に貰った時に一緒に中身を確認して識別する作業をしていた。その際に手紙の表紙は全て確認済み。ユキ達が識別して渡された手紙も二人で一緒に読んでいたのでヒョウが持っている手紙については全部ツバサも知っているはずなのである。
「あー。それはこの前の保育実習でヒョウちゃん……ヒョウ先生が女子園児達の間で人気になってね。前に皆に渡した手紙とは別で実習の最終日に貰ってたんだ」
「その時のヒョウちゃんの可愛さと言ったら……。あ、実は保育園の先生にお願いして私のスマホで写真を撮ってもらってたんだ。少年も見る?」
「え?凄く気になります!」
「ちょっ!?あげはさん!?」
ヒョウはまさかその時に写真を撮られていたとは思っておらず。しかも彼女はその時、クールキャラが崩れる程に顔が緩んでいたのだ。そのため、ツバサにだけはそれを見られたく無かった。
「ツバサ、ダメ!そんな私の顔を見ないで!」
「良いじゃないですか。ヒョウのそういう顔も見てみたいです」
「わ、わ、私のそんな顔に需要なんて無いの!それに、ツバサだけには私の弱い所を見られたくなんか……あ」
ヒョウはツバサの前でとんでもない爆弾発言をしたと自分で気がつくとそのまま自らの熱でオーバーヒート。湯気を出しながら倒れてしまった。
「ひょ、ヒョウ!?」
ツバサが心配でヒョウをゆする中、かけるはあげはを半ば呆れたような顔で見ている。
「あげはさん……こうなるのわかっててやったでしょ」
「えぇー?偶には良いじゃん。ヒョウちゃん、いつも顔が硬いから。こういうヒョウちゃんも少年に見せたくってさ」
「える?ひょーおどうちたの?」
「ヒョウちゃんはね、少年の事が大好きなんだよ」
「えるぅ!だいすき!」
あげはに教えられてエルは納得すると手を叩きながら復唱する。ちなみにエルの解釈は友達、又は人として好きという事になるが。
「もう、あげはさんってば。冗談はよしてくださいよ……」
ツバサはヒョウを何とかソファーの上で寝かせるとあげはへと口を尖らせて文句を言う。ただ、ツバサの心臓はかなり早く脈打っていた。ツバサもツバサでヒョウへの好意がある証拠だろう。
「それと、自分の事は自分でやります。ヒョウだって同じ気持ちだと思いますよ」
「そっか。オッケー!」
あげははそれからエルの前に来ると両手の人差し指を突き出した状態で頭の辺りに手を置くと子供達に人気な童歌を歌い始める。
「鬼〜のパンツは良いパンツ〜♪」
「ぱんちゅ〜♪」
「強いぞ〜♪」
「つおいぞ〜♪」
「履こう〜履こう〜鬼のパンツ〜♪」
「いぇい!」
エルはそんなあげはの歌を聴いてノリノリになり、その間にかけるは一人掃除を続けていた。
「ん……うぅっ……」
そのタイミングで気絶したヒョウは目を覚ますと起き上がる。ただ、幸いだったのは先程までのヒョウの恥ずかしい記憶を脳が無意識に奥底に封印。何故自分が気絶したのかを思い出せないようにしていた。そのため、彼女は記憶が飛んだような感覚に陥る。
「ねぇ、ツバサ。私、何で寝てたのかしら」
「え!?え、えっと……ほら、プリンセスの相手をしていたらいきなりヒョウの前に虫が飛んできて……ビックリして気絶しちゃったんですよ。あはは……」
「えぇ……私、虫にビックリして気絶したの?それはそれでショックだわ……」
ヒョウはこちらの世界で言えば鳥として捕食する側の生き物である虫にビックリしたと言われてショックを受ける。ツバサは先程のやり取りを覚えてない事を良いことにヒョウに嘘を吐く事にしたのだ。いや、そうせざるを得ないだろう。またさっきの事を思い出せば確実に恥ずかしさで悶えて気絶する危険があるからだ。
「あ、そうだ!少年、ヒョウちゃん。エルちゃんと一緒に外行かない?」
「えっ!?でもかけるさんが……」
「俺の事は気にしなくて大丈夫。すぐに終わらせてそっち行くから」
かけるは自ら掃除の残りを引き受けるとあげははかけるに感謝しつつエル、ツバサ、ヒョウと共に外に出ると早速エルとツバサは草原の上で寝転がる。
「えるぅ!」
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
ヒョウはまた申し訳なさそうな顔でそう言うが、あげははそんなヒョウへと笑いかけると背中を押す。
「大丈夫!ヒョウちゃんも遊んできなよ」
「って、あわっ!?あわわっ!!」
ヒョウはいきなりあげはに押されたので少し持ち堪えようとするが、足元の泥沼のせいで思わずバランスを崩してしまう。
「ヤバっ!?せめてプニバードで!」
しかも彼女の倒れる先にはエルとツバサの二人がいた。今の状態で倒れるのは二人を押し潰す危険があるのでヒョウは咄嗟にプニバードへと変化。そのまま二人の間に倒れるその瞬間。狙ったかのようにいきなり横からほんの一瞬だけ強風が吹くとヒョウの倒れる軌道が少しだけ変化してしまう。
「えっ!?」
「ええっ!?」
そのままヒョウはツバサの上にのしかかってしまうと二人はその勢いでゴロゴロと丸い球のように草原を転がって止まる。
「ん……んんっ……」
ヒョウは倒れる際に目を瞑っていたのだが、彼女は唇……と言うより、鳥のクチバシに自分のクチバシと同じくらいの固さの感触を感じた。草原やツバサの柔らかい羽毛であればここまで硬い感触はしない。それからヒョウはクチバシを動かして何かを話そうとしたが、それが何かによって塞がっているような感じがしたのだ。
「……ッ!んんーっ!」
ヒョウが慌てて目を開けると目の前にツバサの目があった。そして、その位置にツバサの目があるという事はヒョウのクチバシに当たっているのは……ツバサのクチバシであった。ちなみに転がったせいでヒョウが下側になっており、上にツバサが乗っているような感じだ。
「「ぷはっ!」」
ツバサが状況を理解すると急いで離れる。そして、やっと塞がっていたクチバシが空いたために二人共呼吸を整えながら今起きていた事を整理。そのまま二人共顔を背けて恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「えるぅ!ちゅばさ、ひょーお、だいちゅき!」
エルがそう言うと二人はお互いに相手の事を更に意識すると顔から湯気が出てきてしまう。
「お待たせ、あげはさ……ってこれどういう状況!?」
かけるが掃除を終えて出てくると既にカオスな状態になっていたので慌てる。そんな中、あげはは二人の気持ちが両想いになっていると確信。微笑ましい物を見ていた。
「ふふっ。内緒だよ」
「あー……何となく事情は察したけど、まさかこんな事になるなんてな」
「ちゅばさ、ひょーお、あしょぼ!」
そんな二人のプニバードの気持ちは露知らずのエルは二人の手を取るとそのまま走って泥遊びを始めてしまう。
「ぷ、プリンセス!」
「ちょっと私達に落ち着く時間を!」
そのまま問答無用で二人は泥遊びに参加。結局先程の件は泥遊びによって誤魔化され、有耶無耶に終わってしまう事に。
その様子をあげはは上機嫌で写真を撮っていく。かけるは泥遊びする三人を見て次に何がいるかを察して準備を始めていた。
「可愛すぎなんですけど〜!あ、かける君。私も手伝うね!」
「え?あげはさんはツバサ君達と……」
「あんまりかける君にばかり負担はかけられないし。私も一緒にやるから!」
それから二人がある準備を終える頃には三人共泥だらけになってしまう。
「あはは、三人共泥んこなんですけど〜」
「もふもーふ!」
「プリンセス〜!」
「あははっ、楽しいわ!」
「皆が泥んこになった後は水浴びのプールにご案内!」
あげはがそう言って小さな子供用のプールを出すとその中にエルやプニバードのツバサ、ヒョウを入れるとかけると共に二人で水道に繋いだホースから水のシャワーをかけた。ついでに小さな虹もできたためにエルは大喜びである。
「にじ!にじ!」
「って、ついでとばかりにボク達もやらないでください!」
「ツバサ、良いじゃない。こんな機会滅多に無いわよ」
「だからって……」
結局そのままツバサとヒョウはエルと共にあげは、かけるに抱えられると部屋の中で三人纏めてドライヤーをされる結果に。
「自分の事ぐらいは自分でやりますよ!特にヒョウはここ最近デリケートですし!」
「別にあげはさんなら私の気持ち良いようにドライヤーをかけてくれるし良いわよ」
「何完全に懐柔されちゃってるんですか!」
「あはは……」
あげはがエルとヒョウを、かけるはツバサをそれぞれドライヤーでかけていく。ヒョウ的にはあげはからのドライヤーは悪く無いらしい。ツバサの方もなんだかんだ言ってかけるからのドライヤーを受け入れてしまっているが。
「ほら、完了だよ」
そう言ってかけるはドライヤーを終えたと言うが、ツバサは自分の姿を見てギョッとしてしまう。それは、ドライヤーのせいで羽毛が毛羽立ってモフモフがマシマシな状態になってしまう。
「って、全然ダメじゃないですか!」
「あれ?」
「意外とかけるさんってドライヤーかけるの苦手なのかな……」
ちなみにヒョウの方はあげはが丁寧にかけたのでいつも通りの状態になっている。
「少年、そのモフモフがマシマシな状態も似合ってるよ!」
「はぁ……こうなるならあげはさんにかけて貰いたかったです」
「ごめんね……」
「ねぇ、少年。そのまま人間に戻って……」
「やりませんからね?」
ツバサはあげはの発言から恐らくあげはがかけてもこうなる可能性が高いと判断。つまり、どちらがかけてもダメだという事なのでこうなる運命は避けられないと肩を落とした。
余談だが、後日。かけるはドライヤーを羽毛にかける練習をしたためか、もう一度ベタベタに濡れたツバサにドライヤーをかけた時はリベンジに成功してちゃんと元通りに戻せるようになるのだった。
また次回もお楽しみに。