幸運を手繰り寄せた蝶
ユキとアサヒがデートをし、お付き合いを始めた日から夜が経過した翌日。この日は月曜日だったためにいつも通りの学校なのだが、その登校中の事。
「今日からまた学校ですね!私、凄く楽しみです!」
「はぁ……ソラって良いよな。学校のある日をこんなに楽しめるんだから」
「アサヒ君こそ、いつも月曜日だけテンションが低いのは何でですか!」
ソラが学校へとウキウキした様子で登校しており、その隣ではアサヒは妙にテンションが低そうな様子を見せていた。
「普通月曜日ってテンションが下がるのが当たり前なんだよ。友達に会える事自体は当然嬉しいけど、それ以上に学校での勉強が……」
「あはは……私もアサヒ程じゃないけど月曜日ってどうしても憂鬱な気持ちにはなっちゃうかな。休み明けだし」
「ま、ましろさんもですか!?」
アサヒが学校に行くのを渋る中でましろも苦笑いを浮かべつつアサヒの意見に少しは共感できると告げるとソラは唖然としてしまう。
「あはは……多分これは私達がスカイランドで学校にあんまり通ってなかったのが原因だと思うよ。ほら、私達はこの世界で言う小学校を卒業した後って次の学校という概念は無かったから」
「むむむむむ、それなら仕方ないのでしょうか」
スカイランド組とソラシド市組で学校に対する感覚にブレがあるのはやはりどうしても住んでいた世界の違いという事なのだろう。
「そう言えば、ユキ。ヒョウは……本当に大丈夫なんだよな?」
「うん。昨日ちゃんと話は済ませたよ。……ヒョウも突然の事で受け入れられてないだけだから」
「そっか……ありがとうな。俺のために」
アサヒはユキがヒョウの事を説得してくれたのはかなりありがたかった。あの状況下では自分がヒョウと話すのが1番だと思っていたが、もし自分が下手に話をしていたらヒョウの機嫌を更に損ねるリスクもあると思ったのだ。
「私達もヒョウ君については気にかけますから」
「うん。ヒョウ君の側にはツバサ君もいるし、2人共同じくらいの年齢で男の子同士。だからヒョウ君もツバサ君になら相談しやすいと思うよ」
ソラやましろももしヒョウがこれからメンタル的に厳しそうなら気にかけると言ってくれた。そのためアサヒは自分が無理に行くのでは無く、周りに任せるのも一つの手だと考えておくことにした。
「そうだ、2人共。学校ではどうするつもりなの?」
「あっ、そう言えばお付き合いしてから学校に登校するのは今日が初めてですよね!」
ヒョウの事は一旦置いておく事にしたユキ達。次にソラやましろが気にしたのは学校でのユキとアサヒの事だ。何故ここでそれに触れるのかという話だが……学生時代のカップルというのは大きく分けて2つに分類される。
単純に恋人としての付き合いを学校でも見せるのか、見せないのかという事だ。見せるにしても見せないにしてもメリットとデメリットがある。
見せる方のメリットはお付き合い相手が既に手つきである事を周知し、周りがそれを理解してくれる点。デメリットはその周りから何かとつけては触れられる点だ。
逆に見せない方のメリットは周りからそういうイジりが無くなり、あくまで普段通りに過ごせる点。デメリットは周りからはあくまでいつも通りの体なのでまだフリーだと思われてしまう点だろう。
「どうするか……か」
「私は……見せるでも大丈夫だよ」
「ユキ……でも、良いのか?」
アサヒのこの言い回しだと彼は最初、隠す方針で行こうとしているようだった。理由としては周りから色々言われる事でのユキへの精神面への負担を避けたかったのだろう。
「うん……後からバレちゃったら結局隠す意味が無いし。それに、多分普通に過ごしたとしても隠し切れない気がする」
「隠し切れない……あー……言われてみればそうか」
ユキとアサヒの視線は一斉にソラの方へと集まるとソラは目を見開く。まさかここで自分に注目が集まるとは思わないからである。
「ええっ!?わ、私ですか!?」
「あはは……ソラちゃんって隠し事できないもんね」
「なっ!?ましろさんまで!そのくらい大丈夫ですよ!……多分」
「その多分って言い回しが1番不安なんだが?」
ソラは多分大丈夫だと言うものの、アサヒはかなり不安な様子で。その不安は一瞬で回収される事になる。
ユキ達が学校に着いた後。ユキ達のクラスメイトで友達の仲田、吉井、軽井沢の3人はある事に気がつく。
「あれ、ユキちゃん。虹ヶ丘君。何だか2人の空気感変わった?」
「確かに、何だか話す時の2人の距離感近づいたよね?」
「もしかして休みの間になんかあったか?」
「(ッ……皆鋭い)」
「(マジか……これは思っていた以上に隠せないかも)」
3人は早速ユキとアサヒの距離感が休みの前と後で違う事に気がつくとユキ達へと問いかけてくる。対してユキ達は一旦は様子見でいつも通り過ごそうとしていた。
ただ、この3人の様子から思っている以上に恋人関係の件は隠す事ができないかもしれないと考える。
「ましろん。何か知らない?」
「えっ?うーん、私はあんまりわからないかな」
まず最初に質問が投げられたのはましろに対して。ただ、ましろの方はユキとアサヒが最初からカミングアウトをしないと言われている以上は誤魔化そうとする。
「そっかぁ……じゃあさ、ソラはなんか知ってる?」
「えっ!?えっとですね……お二人の関係ですか……」
すると、ソラは軽井沢から軽く質問されただけで驚いたような仕草を見せると目線を泳がせる。
「あー、ソラちゃんなんか隠してる?」
「べ、べ、べ、別に隠してなんかいませんよ!」
「「(あれ、これもうバレる感じ?)」」
ソラが動揺しまくっている所でクラスメイト3人組は完全にソラが隠し事をしていると断定。ユキとアサヒは先程予想した通り、ソラでは隠し切れないと思ってしまう。そして……
「例えば、ユキちゃんと虹ヶ丘君が付き合ってるとか?」
「うええっ!?ち、ち、違いますって!別にユキさんとアサヒ君が休みの日にデートして告白して付き合ってるだなんて。そんな事全然知りませ……」
「ソラちゃん!もうアウトだけどそれは……」
「あっ……」
ユキとアサヒはソラがあっさり周囲に付き合ってる事実を漏らしてしまうのを見ると呆れたような顔になり、ましろもソラが話の流れで平然とバラしてしまった事を指摘。
ソラもましろから言われて自分がとんでもない発言をしたと自覚するとまたいつもの如くうっかり言ってしまったために両手で口を塞いだ。
「アサヒと……」
「ユキちゃんが……」
「デートして告白して……付き合ったぁああっ!?」
そして、当然の如くそんなビッグニュースを聞いたクラスメイト3人組が何も起こさないなんて楽観的な話は起きるはずが無く。
彼女達はまさかの衝撃的なニュースに思わずビックリして叫んでしまう。その直後、クラス中の視線がユキとアサヒの方へと一斉に向けられた。
「え、えっと……」
「ユキ、多分もう無理だ。諦めよう」
ユキはクラス中から目線を向けられた事に慌てて誤魔化す事を考えようとする。ただ、アサヒはこうなった時点で誤魔化すのは不可能だと悟ったためか。ユキにも諦めるように促した。
そして、アサヒのその発言で確信を得たのか。そのままクラスメイト達による質問攻めが始まる事になる。
同時にこれ以降、ユキとアサヒの恋人関係はクラス中……いや、学校中の噂へと発展していく事になるのだが。それはまだ先の話のため割愛するとしよう。
「マジか……ユキさんと虹ヶ丘が……もうお付き合いするだなんて。……良いなぁ。俺も早くらんこさんと付き合えたら……」
尚、このユキとアサヒが恋人になったという話を聞いたクラスメイト……雷田ひかるは並行世界に住む少女、風波らんこの事が好きになっていた事もあって出会って数ヶ月でお付き合いを始めた2人の関係性を羨む事になるのだった。
それから数日の時が経過したある日の夕方。ソラシド市の隣町ではあげはが1人で食料品の買い出しから帰る途中だった。
「ふんふふふ〜ん」
あげはは1人で鼻歌を歌っており、上機嫌なのが感じられる。そんな中、彼女が商店街を歩いていると福引を見つけた。
「あれ、あそこにあるのは……福引かぁ」
あげはは最初、それをスルーしようとしたものの……その中の景品を見て目を見開く。
「うーん、この後そんなに時間無いし一旦スルーで……ん?これって……良し」
あげはは時間的にこの福引に参加しても次の予定にはギリギリ間に合うと思ったのか。彼女が見つけた欲しい物を手にするために参加する事になった。
尚、福引に参加するには商店街で買い物を一定額以上しないといけないという制限がある。今回は既に買い出しを済ませていたために問題無く参加できた。
「お嬢ちゃん、挑戦するかい?」
「はい!ちょっと欲しい物を見つけちゃったので!」
あげはに与えられたチャンスは1回。これで引き当てられるかと言われたら正直無理ゲーだが、それでもやらないよりもやった方が良いと思ったのである。
「(チャンスは一度きり……お願い、来て!)」
あげはが祈るような思いで福引を回す。そして、福引のための抽選機を一回転させた直後に出てきた玉の色は……。
「ッ……ピンク色!って事は……!」
そこに出てきたのは奇しくもあげはのラッキーカラーであるピンク色。そして、福引の商品一覧を見るとそこにはピンク色は2等であった。これだけだと惜しくも1等を逃したという話になる。
「おめでとう!2等の最大10名まで参加できる旅行券が当たりました!!」
「旅行券……やったぁああっ!」
どうやら、あげはの狙っていた商品とドンピシャで一致していたらしく。彼女は見事幸運の蝶を手繰り寄せたようだった。
「おお、お嬢ちゃん。目的の物だったみたいだね。おめでとう!」
「はい!ありがとうございます!!」
あげはは最大で10人まで参加可能な旅行券を当てた事で自分の考えを実行できると思い至る。
「良し、これならきっと行ける!後はましろん達に接触しないとだけど……うん。今週末は空いてるね」
あげはは念願の旅行券を手に入れた事でただでさえ上機嫌だった気分は更にアゲアゲとなり、スキップをしながら家に帰宅する事になるのだった。
そして、更に時間が進んであげはにとっては運命の終末。土曜日の朝となった。
この日の早朝。未だに太陽が顔を出したばかりで少しだけ薄暗さが残っている。そんな時間帯の虹ヶ丘家の居間。そこを歩く1人の影がいた。
「(流石にまだ皆起きてなかったかな〜)」
それは勿論、週末に虹ヶ丘家を訪れる予定のあげはである。ただ、彼女がこの時間帯に何故いるのかに関しては疑問に思う所であるが。
「(どうしようかな。ここで皆が起きてきたのを出迎えるのもありだけど……ん?)」
あげはは自分が住んでいないはずの虹ヶ丘家の中を平然とした様子で歩いていると視界の中に何かを見つけた。
「(あの木箱、しかも中にいるのは……ッ!!)」
そこにあったのは2つ並んだ鳥の巣箱であり、中にはツバサとヒョウがそれぞれ座った状態で目を閉じている。2人はユキ達中学生組とは違い、彼女達で言う自分の部屋に存在するベッドの代わりとしてこの巣箱を使っていた。
そして、このプニバードコンビを見つけたあげはがそこに近づくとそこにはツバサとヒョウが未だに襲ってくる眠気と格闘している所である。
「ふぁああ……眠いです」
「んー……もう朝かな……」
ツバサとヒョウは2人揃って目を薄らと開けるとどうにか眠気を飛ばそうとしていた。そんな2人の内、ヒョウはツバサよりも先に意識が覚醒したのか。目の前の状況を認識した瞬間にギョッとした顔つきになる。
「んん〜……そろそろ起きないとダメか……えっ?」
ヒョウはこれにより眠気が吹っ飛ぶと思わず唖然とした声を出し、それを聞いたツバサは曖昧な意識の中で疑問に思った。
「ヒョウ、どうしまし……」
「ツバサ、早く起きろ!というか、前!前!」
「何ですかいきなり……それにま……え?」
ツバサはヒョウに起こされる形でどうにか前を向いた瞬間、彼もまた一瞬で意識が覚醒。そんな2人の前にいた人物は先程の状況的にただ1人しかいない。
「きゃーっ!可愛い!」
「「うわぁああ!?」」
ツバサとヒョウの目の前に現れた人物、それは勿論早朝からこの家に遊びに来ていた者……あげはであった。
そんな彼女はお忍びで来ていたという状況を忘れるといきなり2人を持ち上げつつそのまま抱きしめるようにする形でプニバード状態のツバサやヒョウに勢い良く頬擦りを始めてしまう。
「モチモチできゃわわ〜!早速堪能しよ〜っと!」
「うわあっ!?」
「な、何で俺も!?」
あげはは興奮したような顔つきでプニバード2人組の感触を堪能。2人はいきなりの出来事に目が覚めた所までは良かったが、その気持ちの整理までは追い付かず。
暫くの間、あげはにやりたい放題を許してしまう。ただ、流石にずっとそれを許すつもりは無いのか。ツバサもヒョウも慌てて“ポン”という音と共にプニバードから人間の姿に変身。
「おっと……」
「「はぁ……はぁ……」」
これにより、ようやく2人はあげはから解放されると荒くなってしまった呼吸をどうにか整える。それから2人は揃って自分達に頬擦りをした人物であるあげはを見上げた。
「わぉ!今のどうやったの?」
「あ、あなたは……」
「あげはさん!?」
「お邪魔してまーす!私、聖あげは!」
あげはがプニバード2人の変化にノリノリで話しかける中、ツバサは先程のあげはの行為に不機嫌な顔つきになる。ヒョウは最初は驚きこそしていたが、あげはからの頬擦りはそこまで不快な気持ちにはならなかったのか割といつも通りの表情を見せるのだった。
また次回もお楽しみに。