それから時間が経ってユキ達中学生組が家に戻り、夜を迎えた。あげはは一人スヤスヤと眠るエルを抱えて彼女のベッドの上に寝かしつける。そして、部屋から出てくると疲れからか、少しだけ目を擦った。
「あげはさん?大丈夫?」
そこには他の皆と共に下にいるはずのかけるがいて、あげはを心配して声をかける。
「大丈夫、大丈夫。このくらい平気。……って、言ってもかける君は心配になるよね」
あげははかけるに隠し事をしても無駄だと思うとそう呟く。かけるはそんなあげはへと優しく語りかけた。
「うん。俺は正直今のあげはさんは心配になる。……それに、ヒョウちゃんもそれには気づいてる。体だけは壊さないようにしてね」
「わかってる。それと、かける君だって少しは無理してるでしょ。そこはお互い様だから」
あげはとかけるは最低限のやり取りだけをして下へと降りていった。あんまり長々と上で話していると下にいる中学生組やプニバードの二人に心配されると考えたからだ。
「それにしてもエルちゃんがこんなにも早く寝付くなんて……」
「やっぱり凄いです!あげはさんは!」
下ではソラやましろ、ユキの三人が話していた。ちなみにアサヒはもう既に寝てしまっている。何故彼が一人だけ寝るのが早いのか。それは、彼の活動時間が少しずつ短くなってしまっているからだ。
「……」
「ユキ姉?アサヒが心配なの?」
「うん。アサヒ君、アンダーグエナジーに侵された体が少しずつ侵食されてるせいで休眠時間を伸ばさないといけなくて……このままじゃ、そのうち日常生活にも支障をきたすってヨヨさんが……」
忘れがちだが、今のアサヒは先代プリキュアのキュアルーセントムーンとキュアライトピラーが彼の体のアンダーグエナジーの力を弱める事で睡眠時間以外は普通に生活できるようにしているだけに過ぎない。先代プリキュアでもアンダーグエナジーの侵食を遅らせるのは不可能のため、彼の肉体は少しずつだが確実に死への道を進んでしまっている。
ユキが焦るのも無理は無かった。それでも、彼女はまだ希望を捨てていない。
「絶対に……アサヒ君は私が助ける。立ち止まってなんていられない」
「ユキ姉」
ヒョウはユキの事も心配だった。ユキはこう言っているものの、彼女自身の心はかなり弱い。そんな心が折れてしまわないように必死に強がっているようにも見えてしまうのだ。
「お待たせ!じゃあ、始めよっか」
「待ってました!」
そこに二階にいたあげはとかけるが降りてきた。あげはが手に持っているのは爪にネイルを付けるための道具である。ユキやヒョウもあげはの所に行くとソラやましろと共にあげはからネイルを付けて貰った。
「「「「ふわぁああっ!可愛い(ですっ)!!」」」」
色はソラが水色、ましろがピンク、ユキが白にヒョウがミントグリーンだ。
「爪が可愛いと気分アガるよね!あ、そうだ。これも!」
それからあげはは手にしたパウダーフレグランスを四人の首や手に付けていく。四人はパウダーフレグランスの良い香りでリラックス効果を得られて気持ちが落ち着いた。
「パウダーフレグランスの良い香りでリラックスできるよ!」
「ありがとうあげはちゃん!」
「私、あげはさんと一緒に暮らす事でアゲが何なのかを理解できた気がします!」
「えっと、可愛い物や楽しい事で自分を元気にするって事かな?」
「ああっ!ユキさん、私が言おうとしたのに!!」
ソラが台詞をユキに取られてしまって唖然とすると一同にささやかな笑いが起きる。
「あははっ。確かに言葉にするとそんな感じかもね!少年も付ける……って、もう寝ちゃったか」
あげははパウダーフレグランスを片手にツバサの方を向くが、もう既にツバサは寝てしまっているためにこれ以上は言わなかった。
それから夜も更けていき、中学生組やヒョウも眠った後。あげはは別部屋に移動すると先に作業をしていたかけるに合流する。
「かける君、ごめんね。一人で任せちゃって」
「大丈夫。寧ろ、あの場にいても多分俺は話についていけなかったし」
女性のメイクや身嗜みの話に関しては男であるかけるはあまりついていけないと判断。そのため、彼はあげはが四人へのネイルを始めたタイミングで更に奥の方へと移動して一人で専門学校から出された課題をしていたのだ。それに、追いついたとは言ってもまだかけるは元々出遅れた分があるので人一倍勉強しないといけない。特に実技の方は経験値が少ない分、少しでも補いたいのだ。
そこであげはが女子組四人の相手をしている間に彼は自主勉強に取り組んでいた。
「……あれ?これって……」
「うん。この前の保育園での実習の合同レポート。空いている時間に少しでも進んだ方が良いでしょ」
「そうだけど……かける君にばかり負担が行き過ぎだよ。今書いている物の中の七割ぐらいはかける君が書いた物でしょ?」
「良いよこのくらい。あげはさん、引っ越したばかりなのに皆の面倒を見るのに気を回しすぎてる所あるから」
かけるの言葉にあげはは苦笑いすると隣に座って彼女は机の上にスケッチブックと色鉛筆を広げて作業を始めた。
「って、あ。それ俺と二人で書くって言ったのに……」
「かける君が私の分まで頑張ってるんだもの。……私だけサボってるわけにはいかない」
「もう。眠気だって来てるんでしょ。寝落ちする前にはちゃんとベッドに入ってよ」
「うん。わかってる」
二人はそれぞれの課題に集中する中、そこにヨヨがそっと二人分の紅茶の入ったマグカップを置いて二人の邪魔をしないように戻っていく。そして、その様子を部屋の外からそっと見る二つの影がいた。
「あげはさんにかけるさん?」
「……まだ起きてたのね……」
「ヒョウ……」
「二人共、お互いの事を思って行動しているからどんどん無茶がエスカレートしてる気がする。正直、不安だわ」
ヒョウは二人に気付かれないように小さくそう言うとすぐに踵を返してまた寝るために戻ってしまう。ツバサも同じ気持ちなようで小さく頷くと彼も自分の巣箱へと戻っていくのだった。何故この時に行かないかと言うと今、二人の前に出ると邪魔になりかねないからである。
そして、深夜に入って日付が変わって一時間程経過した後。あげはは結局睡魔に勝てずに寝てしまっていた。かけるもかなり眠たそうにしている。
「流石にそろそろ止めようかな……って、やっぱり寝ちゃったか」
かけるはそう言うと起こさないように静かに立ち上がると自分の部屋へと戻り、毛布を取ってくるとそっとあげはへとかけてあげた。
「……ひとまず、電気ぐらいは消しておこうか」
かけるは電気を消すと自分の部屋へと戻ってちゃんと寝る事に。彼もかなり疲れが溜まっていたせいか、布団に入った途端に目を閉じて寝てしまった。
それから明け方になって太陽が顔を出し始めた頃。ツバサはカーテンから差す日差しによって目を覚ます。
「!!良し……あげはさんやかけるさんより早く……」
「おはよ、ツバサ。あなたも起きたのね」
「ッ!?ヒョウ!何で……」
「私だって早起きぐらいするわよ」
それから二人はプニバードから人間に変わると二人がいた部屋を見る。そこはかけるが電気を消したために薄暗くなっていた。そのため、二人はかけるとあげはがちゃんとあの後部屋に戻って寝たのだと察する。
「ヒョウ、今日の朝ご飯はボク達で」
「ええ。大変だけど、あの二人にだけ負担をかけてられないわ」
そして二人がかけるとあげはのいる部屋に入って電気を付けるとその瞬間、あげはが思いっ切り机の上で突っ伏しているのを見て固まった。
「「……え?ええっ!?」」
その後、二人は驚きのあまりそれなりに声を出してしまったためにあげはは寝ぼけ眼で机から起き上がる。
「ん……って、ヤバっ!寝ちゃってた!!」
あげはが自分が寝てしまったと自覚。そして、二人はあげはが体調不良で気を失っていたのでは無いと知って安心する。
「何だ……ただ寝ていただけですか……」
「寝てただけねぇ……って、ん?」
「「まさか、ここでずっと?」」
プニバードの二人が声を揃えてそう聞くとあげははギクッとして誤魔化すために態とらしく舌を出して笑った。
「えへっ!」
「“えへっ”じゃ無いですよ!」
「やっぱり疲れが溜まっていたんじゃないですか。かけるさんの方はちゃんと寝たみたいですけど」
「あはは。かける君と言えばこの毛布。多分あの子のだよね……」
あげはが自分にかけられた毛布を見てかけるがやったのだと何となく察しが付くが、その間にもツバサやヒョウからの言葉の応酬が続く。
「かけるさんもそうですけど、あげはさんは特に頑張り過ぎなんですよ」
「いやぁ、そんな事……」
「「あ・り・ま・す・よ・ね!!」」
あげはは自身がやったオーバーワークを何とか誤魔化そうとするものの、今度はツバサとヒョウ。息ピッタリで咎められた。
「はぁ……ユキ姉と言い、あげはさんと言い……どうしてこう責任感が強いというか何というか……。プリキュアになったばかりのタイミングぐらいでこう無茶を重ねるのか……」
「ヒョウちゃん?ちょっとメタ発言じゃ……」
「あげはさん?あなたの事を言ってますからね?」
ツバサとヒョウは更に自分達が夜遅くまで無茶をしていた二人を見ていたという事をあげはに伝え、それを聞いてあげははこれ以上は誤魔化せないと悟った。
「ボク達のために色々とやってくれているのはわかります。でも、ソラさん達だってこんな風にあげはさんが疲れてしまうのは不本意だと思いますよ」
「だね……」
「自分の事は自分でできます。……むしろ、お二人は私達を頼らなさ過ぎです。だから、もっと私達を頼ってください」
「ヒョウの言う通りです。あげはさん」
二人にそう言われるとあげはは一度気持ちに整理を付けると深呼吸。そして、二人へとお願いをした。
「そこまで言うのなら……頼っちゃうね。二人共、明日空けておいて。じゃあ、ベッドで寝てきまーす」
あげははそう言って欠伸をすると自室へと戻っていく。その姿を見送って二人は頼ってもらう覚悟を決めるのであった。
同時刻。工事現場の鉄骨の上で座っていたバッタモンダーは苛立ちを露わにしていた。
「チッ……プリキュア共め。数が増えるなんて聞いてねーし。弱ぇえ奴らが群れて集まりやがって」
するとそこに風が吹いてからヒューストムも降り立つとバッタモンダーへと話しかける。
「ふん。そろそろプリキュア相手に本気を出す気になったか?馬鹿バッタ」
「誰が馬鹿だ。ただ、やはり八人が相手だと僕のランボーグだけでは勝ち目が無いのは目に見えて明らかだ……。チェッ。バラバラになっちまえば良いのに!!」
バッタモンダーが半ばヤケクソ気味にそう言うとヒューストムはバッタモンダーの隣に移動してその肩に手を置くと彼の意見に同意した。
「……おい。バッタモンダー、お前にしては良い案だな」
「は?バラバラのどこが……あ。そうか。……別に何も八人全員と同時に戦わなくて良いのか。……癪だが、お前にも手を貸してもらっても良いか?」
バッタモンダーは苦肉の策と言わんばかりに多少顔が引き攣っていたが、ヒューストムへと応援を求める。
「ああ。俺もアイツらにやり返しはしたい。……その案に乗ってやる」
こうして、バッタモンダーとヒューストムは利害の一致により、久しぶりに最初から手を組む事になる。
〜おまけ〜
あげはが部屋に寝るために戻った後。暫く経ってかけるは自室で目を覚ました。
「もう朝か……。やっぱりオーバーワークした上であの時間まで起きてるのはそう何日も続けてられないな……」
かけるは完全に体の疲労が回復しておらず、まだ疲労感に包まれていた。そんな中、ある違和感に気がつく。布団の上で起きたかけるの隣が妙に温かいのだ。それだけでは無い。女性のような優しく、可愛らしい寝息も聞こえてくる。
「……あれ?ここってちゃんと俺の部屋だよな」
かけるは周りを見渡すとしっかり間取りも景色も自分の部屋だった。なので、この部屋に他の誰かがいるはずがない。かけるはそれを確認した上でふと自分の傍らを見るとそこには自分の隣でスヤスヤと寝息を立てるあげはがいた。その瞬間、彼の思考が停止してバグり始める。
「……は?」
彼は寝る時ちゃんと隣に誰もいない事は確認済み。それだけでは無い。そもそもあげはは自分が毛布をかけた上で電気を消して眠りにつきやすくさせた。だからこの場に彼女がいるはずがないと考える。
「(いやいやいや、何で?嘘だろ?あげはさん?どうしてここに……)」
実はあげは、二人と別れて二階に上がった後にすぐに強い眠気に襲われてしまうと自分の部屋の一個手前の部屋に入るという初歩的なミスをしてしまう。それだけでは無く、そのままボーッとした彼女は後で片付ければ良いと自分の荷物をかけるの机の上に置いてからかけるの寝る布団に入ってしまったのだ。この時、彼女は布団の温かさのせいで特に考える間もなく体が温まって寝落ち。今に至る。
「あげはさん……」
かけるはあげはの可愛い寝顔を見ると彼女を優しく撫でる。そして、クスリと笑った。
「やれやれ、困った人だよ」
かけるはそれからあげはがそれなりに寝られるようにまた布団をかけてあげると無言で起きてからの支度を始めるのであった。ちなみにあげはは起きてからようやく自分が寝ぼけた上に間違えてかけるの布団に入ってしまったのだと知り、頬を赤らめて恥ずかしがる事になる。
また次回もお楽しみに。