らそ山に到着したユキ達一同。彼女達は早速チーム分けを行うと山登りへと入る事になった。
まずは急な山道へと入る登山ガチ勢向けのコースを進む4人の方から見ていくとしよう。
「段々傾斜が厳しくなってきましたね……でも、このくらい私にとっては屁でもありませんよ!ふんす!」
「ソラちゃん、張り切ってるね……」
「俺達は何とか見失わないようにするのが精一杯とか。ユキは俺に合わせてくれてると思うけど、まだまだユキやソラの本気には程遠いって事か」
アサヒは視線の先にソラを捉えつつ、自分と彼女や隣を余裕そうな顔で歩くユキとの間にはまだまだ埋められない身体能力の差があるのだと痛感する。
「でもアサヒ君も最初と比べたら体力が付いてきてると思う。多分私達と出会ったばかりの頃だったら今の場面でもソラちゃんにどんどん置いて行かれたと思うから」
「ユキにそう言ってもらえるのは嬉しいな。俺もちゃんと成長してるって実感できる」
「うん!」
そんな風にユキとアサヒはソラの後を追いかけつつ話しながらでも彼女を追うことができていた。……ただ、この3人に着いて行けてないのか。少し後ろに半ば置いていかれかけている者が1人。
「み、皆……早いよぉ……」
「あっ、そうだましろちゃん!」
「ソラ!少しだけストップだ!」
「えっ?……あっ!?」
それは、ソラに半ば無理矢理こちらの急斜面コースを歩かされる事になったましろであった。彼女はどうにか声を上げるとそれに気がついたユキとアサヒは慌てて1人でグングン進んでしまっているソラへと声をかける。
そのため、ソラはようやく後ろが遅れている事に気がつくとその場でストップ。ユキとアサヒの方も一度止まるとそれから間も無くして遅れていたましろが追いついてくる。
「はぁ……はぁ……はぁ……や、やっと2人に追いついた」
ましろはソラはおろか、ユキやアサヒのスピードにさえついて行けておらず。この時点で彼女はかなり疲れ切った様子を見せていた。
「ましろちゃん、大丈夫?」
「なんとかだよ〜。ユキちゃんはアサヒに合わせてたんだよね?それに、ソラちゃんの方はもうあそこにいるなんて……」
ましろはどうにかユキとアサヒの元に到着すると荒れた息を整えつつ3人でゆっくりとソラの元へと移動する。
「ましろちゃんはましろちゃんのペースで大丈夫だよ。もし私も一緒の方が良いならましろちゃんに合わせるから」
「ッ、そんな。ユキちゃんはそんな事しなくても……」
「俺もましろのペースに合わせるよ。もしここでバラバラに行っても最後には待たないと行けないし、山道とかでバラバラになるのって結構危険だから」
アサヒの発言は間違っていない。山登りで危険なのは一緒に歩く仲間のペースが違う事を気にしたせいでバラバラに移動してしまう事。そういう時が1番遭難やその影響で取り返しの付かない事故に繋がるというパターンが多い。
そのため、ユキやアサヒは遅くなったとしても1番歩くペースが遅いましろに合わせて山登りを進めるのが1番良いと考えたのだ。すると、3人はゆっくりとしたペースを維持しつつソラの元に到着。それと同時にソラはましろへと手を差し伸べる。
「すみません、ましろさん。私、ついうっかりいつものペースで歩いてしまいました……。ここからは私もましろさんのペースに合わせます」
「ソラちゃん……ごめんね、気を遣ってもらって。それと、ありがとう」
「はい!」
それからソラは意図的にペースダウンすると最初と同様にましろの手を取って他の3人にペースを合わせた。これにより、4人全員が1番歩行スピードが遅いましろに合わせる形となる。
そんな中であった。アサヒがソワソワし始めるとユキと手を繋ぐか迷う素振りを見せる。アサヒとしては勿論繋ぎたいのだが、ユキに迷惑をかけると思って躊躇。
「(どうする?ユキと手を繋ぎたいけど……勝手に繋いだら嫌がるかな……)」
ただ、アサヒの心の中に一度繋ぎたい欲が出てしまうと中々そういう気持ちは抑え込めない物で。
「ゆ、ユキ」
「どうしたの?アサヒ君」
アサヒは結局我慢できずにユキへと話しかける事にした。そして、それを受けてユキはアサヒの方を向く。
「えっと……その。ユキと手を繋ぎたいなって……」
「ふえっ!?」
ユキはいきなりアサヒから提案された影響で思わず顔が赤くなってしまう。そのため、アサヒはユキが嫌がってしまったかもしれないと不安になったのか。
「あっ!嫌だったか……?もし、ユキが嫌なら……」
「ッ!?ううん……急だったからビックリしただけだよ」
ただ、ユキの視点だと大好きなアサヒの方から手を繋ぎたいと言われるのは満更でも無かったのか。頬を赤くしたまま自然な様子でアサヒの手を繋ぐ。そして、それがユキの答えを示していた。
「ユキ、良いのか?」
「うん。その、むしろ私は……この方が好き」
ユキはそう言いつつ手を繋ぐ事でアサヒの温もりを強く感じており、その時に感じられる温かさがアサヒの隣にいたいと思える彼女の動機となり得るのだ。
「そうなんだな……良かった」
「私の方こそ、不安にさせてごめんなさい……。私も、本当はアサヒ君と手を繋ぐか迷ってて」
「えっ……」
ユキはモジモジと恥ずかしそうな様子を見せており、その仕草がアサヒのユキをもっと近くで感じたい欲を刺激。しかし、その行為となると手を繋ぐだけとは訳が違う。少なくともユキに許可を得ないといけない上に下手にしたら逆に嫌われるリスクも高い。
「(ヤバい……ユキの色気とか色々がすぐ目の前にあるせいで脳が焼かれそうになる……。というか、ユキってマジで可愛いんだよな。それがこんな風に色気まで出してくるとか反則だって)」
「……アサヒ君?」
「ッ、ごめん……ちょっと考え事。そんなに気にしなくても大丈夫だ」
アサヒはユキに勘づかれかけたからか。慌てて自分はユキに何かをするわけでは無いと否定。ここで誤解なんて与えたらそれだけでユキは嫌がるかもしれない。その不安がアサヒの前に出る気持ちを阻害した。
「(そういや、何でこんなに色気とかヤバいのかなって思ったけど……ユキ、今回は山登り用とはいえ薄くメイクしてるんだよな。それに、この香り……。俺の好みで……まさか)」
「ッ……」
アサヒはユキがメイクや自分の好みの香水をつけているのに勘づくとユキもアサヒの挙動から自分のオシャレ要素に気がついたと判断したのか。恥ずかしさで僅かにアサヒから目を逸らす。
一方のアサヒは隣から漂うユキの良い香りに完全に心を奪われていた。この香りについてだが、ユキはアサヒと付き合うようになって以降。今までと比較してより一層美容にも力を入れるようになった。
「(アサヒ君、多分私がメイクとかしてるのに気づいてる。この反応は良かったって事で良いのかな……。少なくとも嫌がっては無い……よね?)」
ユキは折角アサヒが自分を好きになってくれたのだから、まずはその心を離さないようにするために彼の好きな香りとかをましろやあげはに聞いて研究。どれが最適かも相談したりしてアサヒが好きな自分でいられるように努力しているのだ。
そして、流石のヘタレなアサヒもこの事は聞いても大丈夫だと思ったのか。ユキへとこのメイクについて問いかける。
「ユキ、もしかして俺のために俺好みの香水とか付けてくれたりしてる?」
「ッ……うん、そう……だよ。もしかして、合わなかったりした?」
ユキは僅かに不安そうにしつつ上目遣いをしてアサヒへと可愛く誘惑。そんな事をされたアサヒはドクンドクンと心臓が高鳴ると慌てて首を横に振った。
「ッ……いやいや。そんな事無い。その、むしろ俺はこっちの方が好きで」
「ホッ……良かった」
ユキもアサヒに認めてもらえて安堵したように胸を撫で下ろす。そして、彼女はこういう事をやるようにした経緯を話す事に。
「私……ね。アサヒ君とお付き合いさせてもらう以上は似合う女になりたいと思ってて。だからそのためにまずはアサヒ君がより一層私を好きになってくれるような事から始めた方が良いのかなって」
「そうだったんだな。……じゃあ俺もユキが好きでいてくれるような自分でいられるようにしないとな」
「えっ!?で、でもアサヒ君は無理にしなくても」
「えー?俺の事誘惑しておいて俺の方からの誘惑禁止はちょっとなー」
「はうっ!?」
ユキはアサヒへと色仕掛けをしたのだからアサヒ側がやっても文句は言えないとばかりに言うと思わずユキは顔から湯気が出てしまう。
そんな風にユキとアサヒの2人がイチャイチャを繰り広げているとその様子を敢えて少しだけ後ろに下がった状態で見ていたソラとましろはコソコソとその事を話していた。
「ユキさん、かなり積極的になりましたね」
「うん。アサヒに似合う女になりたいって張り切ってるから。でもこうして見ると少し妬いちゃうな……」
「それはアサヒ君を取られたって事ですか?」
「ううん。それは多分違うよ。あんなに仲良く話せる恋人が近くにいるっていうのがちょっと羨ましいだけ」
ましろの言葉にソラは納得したのか、頷く。勿論、ソラにもましろにもまだそういう相手は現れていない。そのため、まだこの2人みたいな事をするのは無理だ。それでも、いつかそういう人が現れてほしい。年頃の2人はそう考える事になる。
「あ、でもヒョウ君は複雑な気持ちでしょうね」
「それなら多分大丈夫だと思う。ユキちゃんがヒョウ君とお付き合いに関して話をしたみたいだし。それにユキちゃんとアサヒが付き合うのには普通に納得はしてたから」
ソラはユキとアサヒが2人でラブラブな恋人生活を送っているのを見つつふとこの場にいないヒョウの事を脳内に浮かべた。
「それはそうかもしれません。ですが、ヒョウ君からしてみたらやっぱりアサヒ君にユキさんを取られるのは良い気持ちがしないのかなってどうしても思ってしまいます」
「あはは……確かにこの様子を直接見たらそうなっちゃうかもね……」
ソラは先程のましろの発言からヒョウが慕っていたユキをアサヒが独占している今の状況に妬いているのでは無いのか。どうしても心配だった。
「……だけど、きっと大丈夫だよ。確かにヒョウ君にとってはユキちゃんとアサヒが付き合うのはあまり良い気持ちはしないかもしれない。でも、ユキちゃんが幸せでいる事がヒョウ君にとって望む事ならヒョウ君はいつか必ずアサヒを受け入れてくれるよ」
「ッ……!そうですよね。ヒョウ君も一度アサヒ君とユキさんのお付き合いを受け入れた身。そんな簡単にそれを破ったりはしませんよね!」
ソラはましろにそう言われて納得し、ヒョウなら大丈夫だと判断。ひとまず、今の自分達にできるのはユキとアサヒの微笑ましい光景を見守ってあげる事だと考えて邪魔しないようにそっとしてあげるのだった。
尚、当の2人は自分達が温かく見守られていたと知ると2人揃って顔を赤くして恥ずかしがるのだが……その事は余談であるために今回は触れないでおこう。
ユキ達の方はこの辺にして。比較的傾斜が緩やかで体力が無い人でも自分のペースでゆっくりと登ることができるのんびりコースの方にいるツバサ達のチームへと場面を変えよう。
「えるぅ〜」
「ご機嫌だね、エルちゃん」
あげはが抱いているエルはご機嫌な様子であり、嬉しそうな声を上げていた。そんな中でヒョウも外を歩けるのは嬉しいようで。
「俺、この世界で皆と一緒に遠出とか初めてだから嬉しいな」
「そっか。少年もヒョウ君もプニバード族……だっけ?その事は隠さないといけなかったし、遠出とかできなかったからね」
「はい!」
ヒョウはツバサと共に自分達の正体をずっと隠していたというのもあって中々外に出るという機会に恵まれず。更に言えばこの世界で友達とこうして遠くに出かけるというのも初めてである事からこの時点で嬉しいのだ。
「ふふっ、良かった」
「………」
あげはがヒョウの事を微笑ましい様子で見ているとツバサはその間無言であった。そのため、あげははツバサが疲れていると考えたのか。ツバサの方へと話しかける。
「そうだ、少年。荷物重くない?もしキツかったら……」
「ッ……!」
ツバサはあげはからそう聞かれると背負っていた荷物が多少重いとは感じていたものの、見栄を張るように顔をムッとさせつつ答えを返す。
「大丈夫です!ボクはプリンセス・エルの騎士!このくらいの荷物なんともありません!」
ツバサが意地を張ったのを見てヒョウはツバサが素直に重いと言ってくれなかったのにモヤっとするが、そこはツバサにもプライドがあってそう返したのだと考えて敢えて詳しくは言及せずに彼をフォローする事にした。
「ツバサ。あんまり無理はするなよ?」
「そうそう。ヒョウ君の言う通り、もし1人で運ぶのが大変になったら言ってね」
「………」
あげはとヒョウからの言葉にツバサは少しだけ安心感はあったのか。拗ねてはいたものの、2人共が自分の事を心配してくれていると感じた影響で少しだけマシになっていた。するとそんな時、あげはは何かを見つけたのかある方向へと指を指す。
「あ、あれじゃない?謎解き!」
あげはが見つけたのは最初にらそ山クエストについての説明があった掲示板と似たような物がツバサ達の向かう先にあり、3人はそこを目指して進む。
そしてそこにはあげはの予想した通り、らそ山クエストの謎が提示されているのだった。
また次回もお楽しみに。