今現在、アサヒとユキの二人はソラシド市の中にあるソラシド水族館に来ていた。何故ここに二人がいるのかというと……。
「アサヒ君、早く行こ!」
「待てってユキ、あんまり離れるなよ」
今日は二人きりでのデートの日だからだ。ちなみに、ここに来たいと言った事の発端は数ヶ月前に遡る。
〜回想〜
「ふわぁあっ!ペンギンさん、可愛い!!二本足で歩くあのよちよち歩きに列を成しての行進!直接見てみたい!」
ユキはとある番組にあったソラシド水族館でのペンギンのコーナーを見てその可愛らしさに心を奪われた。そのため、アサヒに次のデートの場所はここにしたいとねだったのである。ユキに上目遣いをされてペンギンを見たいとお願いされたアサヒは断る事ができず。二人でここに来たというわけだ。
〜現在〜
「ユキ、ペンギンのパレードイベントは今日の昼の三時からって予定だ。だからまだ結構時間はあるぞ?」
「え!?そ、そうなんだ……。じゃあ、それまでどうするの?」
「折角来たんだし、他の所も回ろっか」
それからアサヒは入場券を二人分買うためにユキと共に列に並んでから受け付けに行こうとしたその時。
「「きゃっ!?」」
いきなりユキが後ろから誰かにぶつかられてしまったためにユキはアサヒへと密着。するとユキにぶつかった影は急いで二人に謝ってきた。
「ご、ごめんなさい!前を見てなくて……本当にすみません!」
そこにいたのは背の高い二人組の女の子で一人は焦茶の髪をサイドテールに纏めていて、ターコイズのシュシュで留めている。服はシアン色のカーディガンに黄色いシャツを着て下は緑のロングスカートを履いていた。目は赤銅色で雰囲気はクールそうに見えたものの、ユキにぶつかった際に真っ先に謝っていた事から中身は気弱そうな子だと見て取れる。
「はぁ、まゆ。あなた、また集中したせいで前を見てなかったでしょ」
「うぅ……」
まゆと呼ばれた女の子に注意したもう一人の女の子はまゆと同じぐらいの身長で淡い金髪のブロンドの髪に水色のワンピースを着た少女でこちらはクールで落ち着いたような様子を見せていた。髪は雪の結晶の模様が入った青いリボンのヘアアクセサリーで留められており、ハーフアップの髪型をしていた。
「良いんです。あ……その、えっと……」
ユキはまゆと一緒にいる少女をチラチラと見ると少女は訝しそうな顔をした。
「何?私の顔に何か付いてるの?」
「い、いえ……その。何だか親近感が湧くなって思っただけで……」
「……へぇ、奇遇ね。私もよ。ま、これも何かの縁なのかしらね」
少女からそう言われるとまゆは目を見開いていた。こんな風に他人に気さくに話しかける彼女を見たのは珍しいからだ。
「ゆ、ユキが自分から誰かと関わろうとして……」
「「え!?」」
その瞬間、アサヒとユキは驚きの声を上げた。ひとまずここで話すと色々と邪魔になるのでお互いに入場券を買って中に入ってから話すことにした。
「マジか。えっと、君が猫屋敷まゆさんで……こっちの子が猫屋敷ユキさんと」
「まさか二人揃ってユキって名前だなんて」
「俺は虹ヶ丘アサヒだ。よろしく……って、ユキさん?なんか目が冷たくない?」
「別に。これがいつもの私よ」
「ごめんね。ユキはあんまり他の人に心を開かないから」
まず二人は猫屋敷ユキと猫屋敷まゆという親戚同士らしく。今日は二人でソラシド市の水族館を訪れたのだという。その理由は奇しくもユキと同じでペンギンパレードに釣られたまゆがそれを見に来たのだとか。猫屋敷ユキの方は乗り気では無かったものの、まゆの情熱に押されて彼女に構ってあげているらしい。
「ユキさんって……ツンデレなのかな?」
「……まゆが行きたいから行くってだけ。何か文句あるの?」
ちなみに呼び方としてはアサヒとまゆはそれぞれ自分の知っているユキを呼び捨て。知らないユキをさん又はちゃん付けにする事で何とか苗字呼びをせずに二人の区別を付けている感じだ。
「ユキちゃん。行こ!」
そんな中、ユキは猫屋敷ユキの手を取ると二人で水槽の中を覗く。猫屋敷ユキの方は最初こそあまり良い気持ちはしなかったのか不満そうな顔をしていたが、少しずつユキの笑顔を見てその気持ちは消えていく。
「ねえねえ、ユキちゃんの好きな魚って何?」
「そうね……食べる魚ならシャケが好きだわ」
「……え?」
「あ!え、えっとね。ユキはあんまり魚の事は詳しくなくてね。食べる方の魚しか知らないんだ!あはは……」
ユキはまゆが慌てて訂正したのに首を傾げる中、アサヒは何となく二人の事情について察した。
「(ん?これ、絶対なんか訳アリだよな?でも無理に聞く話じゃ無いし、良いか)」
それから四人はジンベエザメや小さな魚達が泳ぐ大きな水槽だけでなく、タツノオトシゴやチンアナゴ、クラゲに蟹にヤドカリやエビ等。色んな水槽を見て回る中、アサヒはそれらの魚達の解説役に回った。
「へぇ……アサヒ君、凄い物知りなんだね。今度兎山君と会わせたいぐらい!」
「兎山君って?」
「私達のクラスメイトでね。生き物の事に関してなら凄く詳しいの」
「そっか。あ、でも多分。俺が魚とかに関して調べたのって……ユキにもっと知ってもらいたかったからで」
「……え?それって?」
その瞬間、まゆの纏う空気がいきなり一変する。それは悪役とかそういう怪しい雰囲気では無く、色恋沙汰に関して興味を示したような顔だった。
「あ、アサヒ君ってもしかしてユキちゃんの事……」
「ん、好き。っていうかもう恋人」
「ふーん。そうなんだ……ってええっ!?じゃあ二人で今日来てたのは……」
「デートになるかな」
「へぇーっ、そうなんだ……(うぉおおおおっ!うぉおおおおおー!)」
まゆはこの場所で叫ぶと変な人に思われるため、心の中で尊さのあまり叫んだ。そんな彼女は興奮すると更に詰め寄って話しかける。
「それっていつから!?二人共相思相愛って事だよね!?」
「相思相愛なのは間違いないと思う。でも、やっぱり俺はユキに似合う人になれてるか不安になるかな」
「そうなの?」
「うん。ユキって、ここ最近ずっと俺の隣に立つために。隣に立って恥ずかしく無いように凄い努力しててさ。だから俺もユキに引っ張られてるだけなんてダメかなって思って」
「それで今日のために魚の知識を覚えてきたって事?それってユキちゃんへの愛情以外の何物でも無いじゃん!」
「あはは。そうなるかな」
まゆはユキのために努力するアサヒの話を聞いてますます二人を応援したい気持ちが芽生えた。そんな中、ユキユキコンビの方は更に仲良くなったのか、二人で楽しそうに水槽を見て笑っている。
「ユキちゃん、今度はあれに行こ!」
ユキが指差したのはイルカのショーだった。猫屋敷ユキはそれを見て微笑むと了承する。
「ふふっ。仕方ないから構ってあげるわ」
その構ってあげるという言葉もいつもの猫屋敷ユキよりも嬉しそうな声色だったため、まゆは二人がこの短時間でかなり仲良くなったのだと察せられた。
「ユキちゃん、ここにしよ!最前列!」
「良いけど……」
四人はタイミング良く、丁度最前列が空いていたのでそこに座る。だが、先程まで楽しそうだった猫屋敷ユキは僅かに顔を歪めていた。でも、仲良くなったユキや一緒に来ているまゆのためならと覚悟を決める。それから少しの待ち時間の後にショーが始まると早速飼育員に指示されたイルカが遊泳を始めた。
「きゃーっ!可愛いっ!」
ユキがイルカの泳ぐ姿を見て興奮するとアサヒがユキが笑顔になって良かったと微笑む。するとイルカが席の近くで大ジャンプすると空中にある輪っかにタッチして着水。その衝撃で水飛沫が四人へと飛んでくる。
「冷たいっ!」
「ニャッ!?」
するとユキは隣から猫が水を嫌がるような声を聞いてビックリすると猫屋敷ユキの方を向く。
「あれ?今、猫がいなかった?」
「な、何でも無いわ。……怖くない、怖くない……」
猫屋敷ユキは小声で水への恐怖心を落ち着けようと呟く。それを見たユキは心配して手を繋ぐ。
「大丈夫?ユキちゃん……」
「へ、平気よ。心配は要らないわ」
そう言うが猫屋敷ユキの顔は引き攣っており、明らかに水を怖がっている様子だったのだ。
「ごめんね。我儘言っちゃって。水、苦手なのにこんな最前列なんて」
「良いのよ。……あなたのためなら我慢できるから。……ユキ、一緒に楽しみましょ」
猫屋敷ユキはそう言って微笑む。ユキは罪悪感を感じつつも、それでも二人で楽しむ事を優先。ショーが終わる頃には四人共ある程度水に濡れてしまった。
「あはは、結局濡れちゃったな」
「ユキちゃん、大丈夫?本当に嫌じゃない?」
「良いのよ。気にしないで。ユキの事を嫌いになるとかはしないって約束するわ。だって、折角できた友達だもの」
猫屋敷ユキはツンツンした表情ながらも、ユキに対して嫌ではないと宣言。ユキも次からはちゃんと彼女の事も配慮しようと心に決めた。
それから四人は時間になったと言う事でペンギンのパレードへと行く事に。
「「きゃーっ!可愛いっ!」」
ユキとまゆはペンギン達が一生懸命によちよちと歩く姿を見て興奮。二人で手を合わせて飛び跳ねていた。
「ユキ、あんまり叫ぶと他の人の迷惑になるし、程々にね」
「まゆもよ」
「「はぁーい」」
二人はそれからペンギン達に魅入る中、猫屋敷ユキはアサヒを見ると声をかけた。
「あなた、ユキの彼氏だってね。あの子から聞いたわよ」
「そうだけど、どうしたの?」
「……あの子、何だか昔のまゆとそっくりな雰囲気がしてね。元々は弱気な性格をしていたんじゃないかなって」
「ああ。ユキにも色々とあってな。初めて出会った時なんかは俺達に怯えてる感じがしてた」
それからアサヒはユキとの出会いとかを猫屋敷ユキに話す。ただし、あまり知られたくない内容(主にプリキュアや過去の虐めについて)は伏せてになるが。
「そう。そりゃあ、私が守りたくなる気持ちもわかるわ。……悪かったわね。話させて」
「ユキさんも誰かと話すのが嫌な感じだったのか?」
「……えぇ。元々他の人間が信じられなかったものの。でもあの子、まゆのお陰で私はひとりぼっちじゃなくなった。だから私とユキは誰かに救われた点において似ているという事になるわね」
アサヒは猫屋敷ユキにも複雑な事情があるのだと知ってそれ以上の詮索をしなかった。猫屋敷ユキもそんなアサヒに感謝しつつ、ペンギンを見終わった二人を迎えに行く。
「アサヒ君!こっちこっち!」
アサヒは猫屋敷ユキの話についてはこれ以上考えずにユキの元に向かう。最後に一同はお土産屋に向かうとそこに何故か猫耳のカチューシャが置いてあり、猫屋敷ユキはそれを手に取るとユキの頭に乗せた。
「ゆ、ユキちゃん!?」
「ふふっ。似合ってるわよ。ユキ」
「あ、アサヒ君はどう思う?」
「おう。猫耳、凄い似合ってる」
アサヒは心の中でユキに“にゃあ”と言って欲しい気持ちになったが、今は我慢する事にした。そんな中、猫屋敷ユキもそのカチューシャを手に取ると付ける。
「ユキも凄い似合ってる!」
「これで私達はお揃いよ」
「うん!」
それから二人はその猫耳カチューシャを購入。友達の証として取っておく事にした。こうして太陽が西の空に傾く頃。四人はお土産を手に水族館から出る事になる。
「今日は楽しかったね。ユキちゃん!」
「ええ。あなたに会えただけでもここに来た意味はあったわ」
「すっかり仲良しになったな。二人共」
「アサヒ君……ごめんね、二人きりの邪魔しちゃって」
まゆはデートの邪魔をした事を謝るが、アサヒもユキも気にしていなかった。むしろ、二人と会えた事が嬉しかったまでもある。
「大丈夫だよ。こうしてまゆさんとも話せてまた一つ繋がりができたから良かったと思ってる」
「ヨヨさんの言う通り、こうして私達が出会えたのも運命って事になるのかな」
「私達なりに言うなら鏡石の導きなのかも」
「「鏡石?」」
アサヒとユキが首を傾げる中、まゆはその石について解説。それを聞いて二人は行ってみたい欲に駆られた。
「私達の街にある不思議な石の事だよ。また機会があったら来てみて。その時は私達が案内するから」
「わかった。今度また絶対に行くからね!」
「今度は友達も誘っていくからさ」
「うん!じゃあ私達も街のお友達と一緒に歓迎する!」
「ま、仕方ないにゃん。いつでも遊びに来れば良いわ」
猫屋敷は思わず語尾ににゃんと付けたが、二人はそれに気が付かず。こうして、猫屋敷ユキと猫屋敷まゆと共に巡る水族館での一日は幕を下ろす事になるのであった。
「また会おうね!絶対だよ!」
猫屋敷ユキはユキが見せてくれた笑顔の前に滅多に見せない全力の笑顔でそれを見送った。
「ユキってば、ユキちゃんにすぐに心を開くなんて。それにいつもは嫌がる水も我慢してたし」
「ま、それだけあの子の事も好きになったってだけよ。あと、私は水を得意になったりしないわ。そこは間違えないで頂戴ね」
アサヒとユキがいなくなった後。誰もいない場所で猫屋敷ユキは光と共に小さな白い猫の姿に変わった。そしてまゆはそれを抱き上げると二人……と言うよりは一人と一匹で自分達の街に帰っていく事になる。
〜おまけ〜
アサヒ達が水族館デートをしていた頃、ソラシドモールにいたひかる。彼は今現在、とある光景を目にしていた。
「あれは……めっちゃ人がいるんだけど何でだ?」
ひかるが気になって行ってみるとそこには何と人気のアイドルである剣崎真琴のサイン回が開かれていた。ただ、これは抽選式でスーパーとかでよく見る抽選機を回して色付きの物に当たった先着十名に限るという物で彼が行く頃には殆ど終わってしまっており、あと一名分のみになっていた。
「マジかよ。らんこさんのためにサインは貰いたいけど、まだ三十人は人いるし、これ俺の番まで保つかな」
ひかるはダメ元で列に並ぶと順番を待つ。それからあと三名分と言った所で最後の一つが出てきてしまうとサイン回は終わってしまった。
「嘘ぉおん。あと三人だったのに、当たらなかった……」
ひかるはガッカリして帰ろうとした所、うっかりしていたのからんこの世界に行くためのスカイトーンに似た宝石を落としてしまう。
「ッ!」
ひかるはそれに気が付かなかったものの、そのタイミングでサインを描き終わった真琴はそれを見てファンへの対応を終えて立ち上がる。
「真琴?」
撤収のための指示を出していた真琴のマネージャーのDBは移動し始めた真琴を見て彼女の方を向く。
「あの。落としましたよ?」
真琴がスカイトーンを拾うとひかるへと声をかける。ひかるが振り返るといきなり目の前にいた真琴に目を見開いた。
「真琴さん!?何で……」
ひかるは慌てて理由を思考する中、彼女が持っていたスカイトーンを見て理由を理解すると手に取った。
「すみません!ありがとうございます」
「そう。……あなた、その宝石はどこで手に入れたの?」
真琴からの質問にひかるはビックリするが、並行世界の事については伏せないといけないので嘘を極力言わない方向で誤魔化した。
「えっと、真琴さんのファンの友達からプレゼントされて。何かお礼できないかなって……」
「それで私のサイン会に並んでいたと」
「はい……」
ひかるはバツの悪そうにそう返す。真琴は一度溜息を吐くとひかるへとある事を言い出した。
「……今回は特別よ。もう一枚だけサインを書いてあげるわ」
「……え?」
「あんまりこういうサービスをしたら怒られるけど、今回はそれも甘んじて受けるわ。だから早く来なさい」
ひかるは真琴からの言葉に唖然としているとそのまま引き戻されてサイン入りの色紙を手渡された。
「その、ありがとうございます」
「良いのよ。それと、今回の事は絶対他人に口外しない事。ファンの子に渡す時もサービスで貰ったなんて言わない事ね」
その言葉を最後に真琴は関係者用の奥の部屋に引っ込んでいってしまう。ひかるは書いてもらった色紙を手に彼女へと無言で頭を下げる事になるのであった。
その頃、関係者の部屋では真琴がマネージャーのDBに注意を受けていた。あのようなサービスなんて誰かに見られたら問題になるのは目に見えてわかるからである。
「真琴、あんまりああ言うのはダメって言ったでしょ」
「わかってるわ、ダビィ。でも、友達のためにって……何だか妙に放っておけなかったから」
真琴も普通ならこんな対応はしないし、してはいけないとわかっている。それでもひかるに何か惹かれるものを感じた。別の街にいる彼女の大切な友達の事を思い出したからである。
「もう。仕方ないわね。お偉いさんには黙っておくわ。次は無いわよ」
真琴もその言葉を受け止めると次の予定のために準備を進めていく。こうして、ひかるにとっても特別な一日が終わる事に。彼は次にらんこの所に行けたら絶対に渡そうと心に決めて色紙を大切に保管する事になる。
今回は寄り道のデート回でした。次回はまた本編に戻るか、もう一個番外編を入れるかになります。また次回も楽しみにしてください。