スノーとサンライズが爆発を聞いてその方を向くと降り立った刀を背中に挿した仮面の男がいた。スノーの方はそれに見覚えがあったために声を上げる。
「あなたは、あの時の……」
スノーはスカイランドで会った事があるためにそう呟く。そんな彼女の反応を見て仮面の男はユキへと声をかけた。
「あの時ぶりだな。随分と強くなってくれたようで嬉しいぞ」
「え……」
ユキが仮面の男からそう言われて困惑する中、続けて彼は近くにいたカバトンへと話しかける。
「カバトン、お前。いつまでも何をしてる?何度もプリキュアに負ける醜態を晒し、プリンセスを手に入れられてないとは情けないな」
「なっ!?お前、こっちに来ていたのなら教えろよ!」
「ふん。お前にわざわざ言う義理は無い。ただ、これからはあのお方の命令によりお前と正式な仕事仲間になれと言われた。せいぜい俺の足を引っ張るなよ?」
「煩いのねん!お前こそ俺様の足を引っ張ったら許さないのねん!」
早速二人は一触即発に近い空気を見せるが、どちらにせよエルを狙う敵が増えた事に変わりはないために二人は気を引き締める。
「……あなたは一体何者なんですか?」
スノーはひとまず仮面の男の名前を聞く。律儀だが、まずはそれが無いと始まらないからだ。
「ふん。敵に対して名前を聞くか。……良いだろう。俺も良い加減自己紹介くらいはしてやりたいと思ってたからな」
仮面の男は自己紹介に前向きな様子だった。しかも、口調は割と丁寧だったために少なくともカバトンよりは真面目な男だという印象を受ける。そして、それと同時に彼は仮面を外して被っていたフードを取る。
フードの下にあったのは黒く短い髪に紫の目をした男であった。また、目つきは鋭く相手を睨めばほぼ確実に相手は怯む程の怖さを持っている。背中に挿してある鞘に入った刀。それは彼の武器であると一目でわかるぐらいの存在感を放っていた。
「俺の名はシャドー。影に生きる戦士だ」
「シャドー……」
スノーが彼の名前を呟くとサンライズは男の名前なんてどうでも良いとばかりに声を上げる。
「シャドーだか邪道だか知らないけど、お前をさっさと倒して……カバトンの奴が持ってるミラージュペンを取り戻す!」
サンライズはシャドーが増えた所で関係無いと言わんばかりに強気な姿勢を見せる。そんな中でシャドーは自身の目の前にいる敵。キュアサンライズ、キュアスノーを見据えた。
「キュアサンライズ……そしてキュアスノー。俺が求めた伝説の名を引き継ぐ二代目のプリキュアか」
「二代目……」
「何でお前があのプリキュアの事を知ってるんだよ!」
サンライズとスノーは何故自分達が別のプリキュアから力を与えられた上で変身している事に彼が気がついたのかわからずに困惑する。だが、シャドーはそんな二人の疑問に答えること無く呟いた。
「その調子だとスノーの方は満身創痍か。……ならばキュアサンライズ、お前が俺の相手をしろ。……どのくらい強いか腕試ししてやる」
それを聞いたサンライズはシャドーに上から目線の言葉を言われて体に漲る炎を燃やす。
「へぇ。腕試し……ねぇ。随分と舐めた事言ってくれるじゃねぇか」
「舐めてなんか無いさ。……ただ、この前のランボーグみたいに正面からごり押すだけで俺に通用すると思ったら大間違いだぞ?」
「そうかよ。……だったらお望み通り倒してやる!」
サンライズがやる気になったのを見てシャドーは構えを取る。しかし、背中の刀は抜こうとしなかった。今のサンライズなど素手で相手できると言わんばかりである。
「はあっ!」
サンライズはそんなシャドー相手に舐めた事を後悔させるつもりで先手必勝とばかりにシャドーへと向かっていく。
「うらぁああっ!」
サンライズの拳に炎が宿るとそれがシャドーの顔面へと迫る。直後、サンライズのパワーによってシャドーは後ろへと押し下げられていった。
「はぁああっ!」
サンライズは力を入れて押し込みを強化。一気にシャドーを捩じ伏せようとした。
「……ッ!?」
しかし、サンライズは押し込む最中で何かの違和感に気がつく。それは、彼の押し込みの勢いが途中で殆ど無くなってしまった事だ。
「……どうした?勢いだけの馬鹿力はもうお終いか」
シャドーは冷静な口調で話す。サンライズはそれにもまた違和感を感じた。自分の拳は確かにシャドーの顔面を捉えたはず。それなのにシャドーは普通に喋ってるのだ。サンライズが目を見開くとその拳の当たった先を見るとそこにはシャドーの左手があった。
「なっ!?」
サンライズの拳は他の二人のプリキュアよりも重い。それこそ、これまで体を鍛えてきたキュアスカイよりもだ。これは基本的なスペックの問題だろう。それは良い。しかし、シャドーはそんなサンライズからの拳を片手一本で止めたのだ。サンライズはランボーグとは質の違う強さに驚く事になる。
「嘘……だろ?」
「……その程度の拳では俺の防御を押し切るのは無理だな」
「一発止めたくらいで調子に乗るなよ!」
サンライズは一発目がダメならと逆の拳を握ってすかさず繰り出そうとする。
「だあっ!」
しかし、サンライズが拳を放った直後。シャドーは空いている右手を使ってその拳を下から捕まえると力を逃す事無く利用。右手の拳を握っていた左手を離してから胸ぐら辺りを掴んで投げ飛ばしてしまう。
「がっ!?」
サンライズは力を利用されて投げられた事に慌てるものの、すぐに着地して反転。もう一度炎の拳を繰り出す。
「遅いな、ぬん!」
だが、今度は受け止める必要すら無いと言わんばかりに目を光らせると眼力によって発生した衝撃波でサンライズを吹き飛ばす。
「うわっ!?」
「サンライズ!そんな……あれだけ力があるサンライズをあっさり……」
スノーはサンライズが完全に遊ばれている事に動揺する。一方で地面に倒れたサンライズはすぐに起き上がると痛みに耐えつつ構える。
「痛ってぇ……コイツ、強いな」
「そうだ。今のはほんの小手調べ。もっと俺の敵として相応しい力を見せろ」
「随分と余裕だな。だったら、まずはその余裕を無くしてやる!」
サンライズはまだまだ平気そうな様子で構えるとシャドーとの戦闘を継続。そんな彼を見てカバトンは溜め息を吐く。
「シャドーの野郎、早速勝手に動いてくれて。まぁ、良いのねん。今はあんな奴よりも、目の前にいる奴だ」
「ッ!?」
スノーは自分がターゲットにされて身構えた。この時点でスノーの中にある前提条件が崩れてしまっている。それは、屋上に向かったランボーグを止められないという事だ。校舎内に入った小型のランボーグはいつの間にか見えなくなってしまっているために恐らくもう校舎の階段を登っているだろう。そうなれば、変身できないソラやエルを抱えたましろ、非戦闘員のあげはの身に危険が及ぶ。
「ッ……体はガタガタ……でも、こうなったら私がやらないと」
スノーはこうなった以上は満身創痍な自分でもカバトンからどうにかペンを奪わないといけなくなってしまったのだ。
「ランボーグ、そこにいる邪魔なプリキュアを倒すのねん!」
カバトンの指示でランボーグが動く中、スノーはどうにか構えを取る。そして、二人の拳は同時に放たれた。
「ランボーグ!」
「やあっ!」
二つの拳はぶつかり合って大きな音を立てるが、スノーは全身に力を込めてどうにかランボーグの力を抑えようとする。しかし、当のランボーグは全くもって余裕だった。
「うううっ……」
「ランボーグ!」
「きゃあっ!?」
スノーは自分の拳を簡単に押し切られるとそのまま地面に叩きつけられて転がった。それから立とうとするが、体は鉛のように重く息が切れてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「YOEEE!何をしてたか知らないが、お前もうバテバテなのねん。そんな体で勝てると思ってるのか?」
カバトンはスノーを馬鹿にするような目線を向ける。そんな彼女はどうにか立ち上がるとまだやれる事を見せるために構えて見栄を張る。
「まだだよ……。はぁ……はぁ……こんなの痛くも痒くも無い」
「へっ、その強がりがいつまで保つか。俺様が見てやるのねん!」
スノーはカバトンへとそう言うとランボーグに向かって踏み込む。しかし、スノーはオーバーワークの影響でいつもの半分の力さえも発揮できない。
「ランボーグ!」
「ッ、ああっ!?」
スノーの遅い動きにランボーグは面倒に感じたのか、思い切り大きな図体を活かして体当たり。スノーは呆気なく跳ね飛ばされてしまう。
「ランボーグ、もっとやれ!キュアスノーの心をへし折るのねん!」
「ランボーグ!」
ランボーグは体から触手を伸ばすとスノーへと勢い良く向かわせる。そんな中でスノーは必死に体に力を入れて立とうとする。
「ううっ……ッ、きゃあっ!」
スノーはどうにか立つものの、その直後の無防備な瞬間にランボーグからの触手が命中してまた地面へと叩きつけられてしまう。
「はぁ……はぁ……」
スノーはどうにか気絶だけは避けようと正気を保つが、体力切れは間近。最早戦いにすらなっていなかった。そして、サンライズの方もシャドーの圧倒的な力の前に圧倒されてしまう。
「遅い」
「ぐあああっ!?」
サンライズは完全に動きを見切られてしまうと先程のようなカウンターだけでボロボロにされていた。
「……弱い。本当に伝説を継ぐプリキュアなのか?」
「言いたい放題言ってくれやがって。ここから逆転してやる」
「そうか。できるものならやってみろ」
サンライズはシャドーの武器である刀を抜かせてすらいない。シャドーはサンライズの動きを完璧に見切っているのだ。まるで、自分とサンライズとでは経験が違うと言わんばかりに。
「はあっ!」
サンライズはそれならと近づいてから先程までの大振りな攻撃では無く、一撃の威力を落としたボクシングのような動きで連続の拳を繰り出す。
しかし、シャドーはこれでも刀を抜かずに素手で受け止めるか捌いている。彼としてはこの程度を捌くのは造作も無いという事である。
「くっ……このっ!」
サンライズが何とか攻略の糸口を見い出そうとする中、シャドーはサンライズの動きを見切り、拳が顔に迫る直前にサンライズの顔面へとカウンター気味に手を翳してすかさずサンライズへと衝撃波を放つ。その瞬間、サンライズは顔面に衝撃波を受けて怯んだ。
「うっ!?」
「隙だらけだ」
直後にサンライズの足がシャドーによって払われるとそのままガラ空きの腹を蹴り上げて体を完全に浮かせる。
「ごふっ!?」
「はっ!」
シャドーは最低限の動きだけでサンライズを弄ぶと腹を殴って吹き飛ばし、地面へと叩きつけさせた。
「ぐはっ……げほっ、げほっ……」
「弱いな。お前は前しか見れてない。そんな単純な動きでは強敵に手も足も出ないぞ」
「煩せぇ……クソッ」
サンライズはどうにか立ち上がる中、シャドーはゆっくりと距離を詰めてくる。それに対して彼は回し蹴りを繰り出す。しかし、それもシャドーは命中する寸前で後ろへと下がって回避。逆に脚が振り抜かれた直後の完全に無防備な瞬間を狙って距離を詰めると拳をぶつけた。
「がはあっ!?」
サンライズがシャドーからの一撃を受けて体をフラつかせる。そしてここまで一方的にやられたせいか、サンライズも息切れが始まるとかなりのダメージが溜まっていた。ここまで来ると完全にサンライズは弄ばれている。
「このっ!」
「甘い、甘過ぎる!」
シャドーがサンライズからの攻撃に合わせるようにカウンター。その攻撃が命中するとサンライズはよろけてしまう。
「防御を考えなさ過ぎ。攻撃も未熟だ」
更にシャドーはすれ違い様にサンライズへと飛び膝蹴りをぶつけるとサンライズの体は宙を舞う。
「ぐあああっ!」
そのまま地面に叩きつけられて痛みがサンライズを襲う。シャドーとサンライズの力の差は明白だ。
「クソッ……俺の攻撃が、まだ一発もまともに入ってくれない」
「ふん、やはりまだ戦士としてはビギナーも良い所だな。良い事を教えてやる」
「は?」
「……お前の動きは単純過ぎる。アイツのランボーグ相手にはそれで通用するだろうが、それに対応できる相手には手も足も出ないと思え」
「ッ……」
サンライズは段々と自分とシャドーとの力量差がわかってしまっていた。まだ自分ではシャドーの足元にすら及ばないとさえも感じるくらいに。
「でも……だからって俺は諦めたく無いんだよ」
「そうか。ならどうする?」
「そんなの決まってんだろ。しがみついてでもお前を倒す」
「お前のその心持ちぐらいは認めてやる。来い」
サンライズはそれでもシャドー相手にどうにか攻撃を当てるべく気合いと根性を見せた。シャドーもサンライズのその部分を認め、再び戦う事になる。
一方のスノーは先程からシャドーにやられているのを見て心配の気持ちが出てくるが、今はそんな事言ってられる状況じゃ無い。
「サンライズ……くっ!?」
スノーは体力が無い中で苦しい戦いを強いられていた。彼女はどうにか残っている力を振り絞って立ち向かうものの、その度に一方的にボコボコにされる始末である。
「やあっ!」
スノーからの飛び蹴りがランボーグの腹に命中。しかし、威力が足りないためにランボーグはその攻撃を受けて平然とした顔を見せる。
「ランボーグ?」
「ッ……そんな」
ランボーグは“何かしたか?”と言わんばかりの顔を向けるとスノーの顔は青ざめる。
「ランボーグ!」
「ああっ!?」
そのままランボーグは真上から拳を振り下ろし、その攻撃がスノーに当たるとスノーは地面に激突。体には激痛が走って悲鳴を上げる。そのまま立とうとしたスノーの脇腹を思い切り蹴り上げた。
「きゃあっ!!」
スノーは人間の構造上、痛みに弱い脇腹を蹴られたせいで苦痛に顔を歪めた。しかし、彼女はその荒い息を整える暇もなくランボーグからの容赦の無い攻撃に晒されてしまう。
「ランボーグ!」
ランボーグはその瞬間、目を光らせると体から幾つもの触手が展開。そしてスノーの体を鞭打つように滅多打ちにする。
「あああっ!?」
スノーはその手数の多さに防御もままならずにボロボロにされてしまう。そのまま崩れ落ちるとスノーは肩で息をし、顔も真っ赤で体の限界が近くなっていた。それでも変身解除しないのは彼女がサンライズを心配させないように頑張って保たせているのだろう。
「立たなきゃ……心配をかけたく無い……嫌だ、負けたく無い」
「ランボーグ!」
必死に足掻くスノーへとランボーグは容赦無く倒れた彼女を蹴り飛ばすとやられたスノーは悲鳴を上げる事すらなく校舎とは別の建物の壁に激突。ぐったりとしてしまう。
「もうギブアップなのねん?」
「はぁ……はぁ……まだ……だ。諦めるつもりは……無い」
「往生際が悪いのねん。良い加減諦めろ」
ただ、スノーの視界はボヤけていた。ランボーグは多重に見え、視線のピントが合ってない。誰がどう見ても気絶する寸前の状態である。
「スノー、無理するな……」
「大丈夫……私はまだ……やれる」
スノーは絞り出すような声を上げて動こうとするが、体に思うように力が入らずに肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
スノーが苦しそうな顔つきで呼吸する様を見てサンライズは自分が頑張らないとと思うと立ち上がってシャドーへと向かう。ただ、サンライズも満身創痍になりつつある。サンライズの拳は空振ってしまうと逆にシャドーからの掌底を腹に喰らってしまった。そして、サンライズも後ろに倒れ込む。
「……もう終わりだな。これ以上は戦っても面白味が無い。カバトン、この二人を気絶させる。邪魔者を排除した上で確実にプリンセスを奪うぞ」
「はぁ?コイツらにトドメぐらい刺さないとダメなのねん!?追ってこられるぞ!」
「別に良いだろ?今のコイツらが追ってきたって倒すのは造作も無い。それに、仮に仕切り直したとしてもあっちは俺達のフィールド。物量で押し潰せば良い。何も問題は無いだろう?」
それを聞いてカバトンは納得の顔つきをする。やはり知能の面に置いてもシャドーの方がカバトンよりも上だ。目の前よりも大局を見て判断する。シャドーはプリキュアに完勝して尚、油断して無かった。
「うぐうっ……そんな事……」
「させない……」
二人はどうにか声を上げるが、体は既に満身創痍。もう動く力さえも殆ど無かった。
「……そう思うのならもっと強くなって出直せ。俺はお前達の挑戦をいつでも待ってるぞ」
シャドーはそう言って二人を気絶させようとしたその瞬間、突如として屋上の方から光が溢れ出てきた。その様子を見た地上の面々はそれぞれ反応を示す。
「あれは、プリキュアに覚醒するための光……でも、既にプリキュアになれる以上、ソラじゃ無い。だったら、まさか」
「もしかして……ましろちゃんなの?」
「げっ!?嘘だろ……」
「ほう?」
四人の反応を他所に屋上ではその光を出した張本人……虹ヶ丘ましろの元にミラージュペンが出現するのだった。
また次回もお楽しみに。