アサヒが悪夢を見て一度目覚めてから再度寝るようになった頃。ユキの方も夢の中であった。彼女がいたのは氷の城の中である。
「ここは……」
それからユキは城の中を歩くとそこには誰もいない。どれだけ氷の城が美しくてもユキはその城の中を見るのが楽しいとは思えなかった。
「アサヒ君……皆?何で……何でいないの?」
ユキの心の不安はどんどん深くなっていく。ユキは城の展望台に当たる場所にいくと外を見た。するとそこには城を遠巻きに囲む無数の人々。しかし、それはどんどんユキから離れていく。
「何で……何で皆いなくなるの?私、何か……何か気に入らない事を……」
その瞬間、ユキの頬へと何かが命中する。それは空き缶のゴミだった。それだけじゃない。城を取り囲む人達はユキへの罵倒の言葉を言いながら次々と物を投げつけて彼女を忌み嫌う言葉を言い続ける。
「嫌……何で、やめて!やめてよ……」
するとユキの元に降りてくる青髪の少女。それはソラ・ハレワタールの姿をしていた。
「ソラ……ちゃん」
「大丈夫です。私は、私はあなたの味方です」
誰も味方がいないそんな中でもソラはユキの側にいると約束。ユキの心はそれだけでも安堵へと変わっていく。
「ありがと……ソラちゃん」
するとユキのいた氷の城は規模こそ縮小するものの、それはどんどん周りの人を寄せ付けないような強固な要塞へと変わっていく。
「……私のせいで、私のせいで皆が私から離れていく。嫌だ、嫌だ……。私のせいで皆が傷ついて嫌な思いをするくらいなら、いっそ……」
それからユキは困難が立ち塞がると自分の体を犠牲にするようになった。例えば周りの人間がかならず転んで痛みを感じる所を全て肩代わり。いつかユキの体は常に傷だらけになっていく。そしてそれを表すかのように氷の城は日に日に傷ついて、少しずつ欠けては光を失っていく。
「皆のためだったら……私はどんな痛みを受けても構わない……」
死んだようなユキの目にあったのは今残っている人達が傷つかないように自分を代わりに盾として使うぐらいだった。でも、そんな時。ユキは自分を照らしてくれる太陽と出会う。
「……どうして?私なんかを庇っても何も良いことは無いよ?むしろ、私と一緒にいたら……」
しかし、その太陽は構うことなくユキの事を照らしていく。そしてそれはユキの心を覆い尽くしていた氷の要塞を溶かすとその太陽は人として具現化。アサヒがユキへと抱きしめるとユキの体の傷は次々と消えていく。
「私はこの太陽に……アサヒ君に救われた。それから私の世界は大きく広がった」
氷の要塞に閉じこもっていたユキの周りにまた沢山の人達が集まっていく。それはましろ、ツバサ、ヒョウ、あげは、かける、ひかる、学校の友達、ヨヨ……スカイランドにいる人々もだ。
「私は……もう一人じゃない。アサヒ君のお陰で私は救われた」
ユキはそれから自分を救ってくれた人に対しての恩を彼への愛情で返す事にした。
「私は変わった。アサヒ君のために。アサヒ君が好きでいてくれる自分になりたいと。そうなれる事を信じて努力を重ねた」
ユキは今まで以上にオシャレを気にするようになり、家事も頑張って一通りできるように努力した。ただひたすらに自分を助けてくれた恩を返したい。大好きな彼の隣にいて恥ずかしく無いようにしようと。心に誓った。
「ユキ、好きだよ」
「うん。私も……」
二人は口付けをすると抱き合う。全ては上手く行く。これからの未来に曇りなんて一つも無かった。
するとユキの隣にいたアサヒは頭を抑えると苦しみ始める。何故そうなったのか。ユキにはわけがわからなかった。
「アサヒ君!?どうして……何で……お願い、私。アサヒ君無しじゃ……」
ユキはアサヒに消えてほしく無かった。だから彼が苦しんでいるのを見て彼をサポートするべく行動。しかし、彼の苦しみは日に日に強くなっていき、とうとうユキをたらしてくれた太陽は黒く染まってしまった。
「アサヒ君……目を……覚まして……お願い。お願い……」
ユキはアサヒのために出来ることは何でもやるつもりで、実際それでどうにかなると甘い考えを持っていた。
「アサヒ君……アサヒ君!」
だが、アサヒは闇堕ちしたそして、漆黒の太陽はユキにとって大切な物を全て飲み込んで壊していく。
「嫌……やめて、お願い」
ユキの心はまた粉々に砕けて壊れていく。そして、漆黒に染まったアサヒはユキへも襲いかかる。するとそこにはユキの前に幾つも絶望的な未来が生まれていく。
「何……これ」
そこにあったのはアサヒの奴隷としてこき使われるような物。また一人で誰も信じられずに出口の無い闇の中を歩く自分。そしてアサヒの手によって自分が命を落とすような物と数多くの絶望の未来が出てくる。
「何か、何か無いの?」
ユキは一つでも自分の大切な物が全部戻ってくる未来を信じて探した。しかし、そんな物は一つもない。ユキはまた一人孤独で惨めな思いをしなければいけないと思ったのだ。するとそんな彼女の前に一人の少女が降り立つ。
「あなたは……私……?なの?」
そこにいたのは顔が今よりも絶望に染まりかけたような顔をした自分がいた。
「まだあなたは平気そうね。少し前の私。あなたに言っておきたいことがあるの」
いきなり夢の中に現れて未来の自分を語る少女がユキへと詰め寄ると必死な顔つきで話しかける。
「今ならまだ間に合うわ。……今のアサヒ君には深い闇が取り憑いているの」
「え?」
「この先の未来。あなたはその闇に飲み込まれる彼を目にするわ。……その時のあなたの気持ち次第で未来が決定するの」
ユキはそう言われて困惑する。いきなり未来の自分が夢に出てきてアサヒが闇堕ちしかけていると言われたのだ。
「もしかして、アサヒ君が突然豹変してるのは……」
「ええ。彼がそうなる兆候を見せているという事よ」
するとユキは未来の自分に詰め寄ると真剣な顔つきで彼女へと食い気味に問いかける。
「ねぇ、あなたは私なんだよね?」
「そうよ。そう遠くない未来のね」
「どうやったらアサヒ君は、アサヒ君を救えるの?私にできる事なら何でもする。オーバーワークでも、体を壊す事になっても良い。だから、だからアサヒ君を助ける方法を……」
「……ごめんなさい。そんな特効薬みたいな方法は無い。それと、オーバーワークとか体に無茶を強いる方法だけは絶対にダメ。そんなやり方じゃ、多分アサヒ君を救うのは不可能。そのくらいの実力差がアイツとの間にあるの……」
アイツというのは闇堕ちしたアサヒの人格の事だろう。そう言われてユキの目にまた絶望の二文字が浮かぶ。
「……諦めないで。大丈夫。私が言いたいのはあなた自身が心を強く持つ事。……どんなにあの闇にやられても絶対に挫けたらダメ。もしそんな事になればあなたがさっき見た未来を回避する事はできないの」
未来のユキにそう言われてユキは小さく頷く。しかし、彼女の目には不安が宿り、それを拭えていない。
「もしあなたにあの闇からアサヒ君を救う気持ちがあるのなら……アイツに何をされても希望の二文字は捨てないで。諦めなかったらきっと奇跡は起きてくれる」
「でも、そんな保証なんてどこにも……ッ!」
ユキはそう返しかけるが、ユキの前に幾つもの光景が映された。そこにはシャドーとの最終決戦やクルシーナとの戦い。これまで幾つも潜り抜けてきた幾つもの厳しい戦いの情景が映る。
「これは……」
「あなたが乗り越えてきた闇だよ。特にクルシーナの時。あなたは十中八九死ぬ運命だった。でも……ユキ・アラーレ。あなたが生きられたのは……」
「アサヒ君に、……皆の支えがあったから」
ユキの答えに未来のユキは力強く頷くとユキへと更に話しかけていく。それは未来で自分にできなかった分を今の自分に頑張ってもらいたいからだ。
「きっと闇の中に囚われたアサヒ君は、私を愛してくれているアサヒ君なら私自身が諦めて希望を捨てない限り頑張り続けてくれる。私はその事に気づけなくて諦めてしまった。だからこんな絶望の未来になってしまったの」
未来のユキは不安でいっぱいのユキへと叱咤激励。彼女の心を奮い立たせる。
「ユキ、最後まで希望を捨てたらダメよ。私が壊れてしまったら闇の中で抵抗してくれてるアサヒ君を見捨てる事になる。だから……お願い」
未来のユキの言葉を聞いてユキは力強く頷く。それを見たユキは微笑むと自分の姿が消え始めた。
「体が……」
「もう私がここにいられる時間も限界ね……。でも、伝えるべき事は伝えられた。ユキ、未来を変えられるのはあなたの頑張り一つ。もう私の未来を救う事はできない。……もう昔のアサヒ君は完全に消えてしまった」
「そんな……まだ今からでも遅くは……」
「ううん。……ライトピラーが言ってたわ。アサヒ君を救うために頑張ってくれたルーセントムーンも消えてしまったって。彼女だけじゃない。バーニングサンも、私の手元にあったブリザードもアサヒ君を助けるために彼の闇へと抵抗して消えてしまった。……最後に残ったライトピラーさえもね」
それを聞いてユキは息を呑む。それはつまり、もう絶望の未来を歩んだユキの世界でユキはプリキュアには変身できないという事。そして闇堕ちしたアサヒがユキの大切な物を全てを破壊したとなると恐らく彼に抵抗できるプリキュアも全滅したという事だろう。
「……もう私の未来は助からない。逆に言えば今ならまだあなたが気持ちを強く持つ事ができれば絶対に助けられる。……私から言えるのは可能性の話。……多分これがアサヒ君のお陰でスカイランドで救われた私にできる唯一の方法だから」
アサヒがアンダーグエナジーを受ける事によって発生したルート分岐。それを完全に乗り越えるには今度はここでユキが踏み留まる必要があるという事だろう。
「それと、この事は絶対に口外したらダメよ。多分アサヒ君に知られたらきっと彼伝いで闇のアサヒ君にもそれは伝達される。そうなったら私が今ここにいる意味が無くなるから」
そう言われてユキは頷く。そしてその言葉を最後に未来のユキは消えていく。それと同時にユキの目は覚めた。
「ッ……」
丁度そのタイミングで目覚ましのアラームが鳴っていた。時間を見ると確かに朝の時間になっていた。
「……アサヒ君。……絶対に私が助ける」
するとその隣であまねが目を覚ましたのか起き上がる。ユキは隣で起きたあまねを見ると彼女から声がかかった。
「おはよう、ユキ」
「おはようございます。あまねさん」
そして、ちゆやあすかも目を覚ましていたのか部屋の奥から現れる。それから四人が起きた後の支度をしていると異常を知らせる警報がホテルへと鳴り響き始めた。
「何!?」
「これは……」
しかし、警報が鳴るのみでエンジェリーからの業務連絡らしき音声は無い。ひとまず四人はすぐに支度を済ませるとペギタンも連れて部屋の外に出る。するとそこには液状化している何かが廊下に点在していた。
「な、何なのペ!?」
「まさかこんな……」
するとそれが変化していくとその姿が構築。そこにいたのはあまねにとって一番見たく無い姿になっていた。
「レシピッピを奪わなければ。ゴーダッツ様のためにも!」
そこにいたのはあまねがかつてプリキュアの敵としてブンドル団に所属していた時の姿。ジェントルーであった。
「どういう事だ!?あの時タブレットにデータとして残されていたジェントルーはクッキングダムで楽しく暮らしているはずだ!」
「私はお前達の負の記憶を元に作り出された。つまりお前の中にはまだこの私の記憶が嫌な記憶として存在しているという事」
そう言って無機質にあまねへと残酷に言う彼女を見てあまねは悔しそうに唇を噛み締める。
「あまねさん。今は私達しかいません。皆さんと合流するためにも戦いましょう」
「私達も力になります!」
「ああ。折角の楽しい時間を邪魔なんてさせない」
「……すまない。行くぞ!」
それから四人は光に包まれると次々とプリキュアへと変身。そのまま名乗りを上げていく。
「静かにひろがる白い雪景色!キュアスノー!」
「ジェントルにゴージャスに、咲き誇るスウィートネス!キュアフィナーレ!食卓の最後を、このわたしが飾ろう」
「はためく翼!キュアフラミンゴ!」
「「交わる二つの流れ!」」
「キュアフォンテーヌ!」
「ペエ!」
四人のプリキュアに変身したユキ達。しかし、ユキは変身した姿を見て驚いた。まさか今は変身不能のはずのキュアスノーになっていたからである。
「って、あれっ!?何で……今は変身できないはずじゃ……」
スノーはキュアブリザードに話しかけるが、彼女からの返答は無い。するとキュアライトピラーがスノーへと補足した。
『恐らくだけど、このホテル内は想像力を働かせたらそれを実現できるような場所。あなたは無意識のうちに自分の力で記憶の中にアクセスしてキュアスノーの力を想像した。だからそっちの気持ちが強く出てキュアスノーとして具現化したのよ』
スノーはその言葉に半分訳わからない様子だったが、それでも今だけはキュアスノーの力を取り戻せるという事なのでこのままこちらで戦う事にした。
「ふん。ではこちらも行くぞ。出でよ、モットウバウゾー!」
するとジェントルーが召喚したエネルギーが具現化。それがフライパンのモットウバウゾーへと変化する。
「馬鹿な……ジェントルー時代の私にはモットウバウゾーを作れないはず。……これも記憶の中から生まれたからこそできる芸当か」
「その気になればゴッソリウバウゾーも作れるが……まだ私にはそれを作り出すための内蔵パワーの総量が足りない。それでもお前達にはコイツでも十分だ。やれ!モットウバウゾー!」
それから四人のプリキュアはモットウバウゾーとの交戦を開始する事になるのであった。
また次回もお楽しみに。