アポロンとアルテミスに変身したかけるとヒョウ。二人が構えるとノットレイの軍団が立ち塞がる。
「アポロン、アルテミス……すみません」
「何でウィングが謝るの……」
ウィングは自分の力の無さを悔やんでいた。自分がもっと上手くやっていればアポロンやアルテミスが助けに入らないといけない事態にはならなかったと思っているのだ。
「むしろ、私は自分に腹が立ってるの……。私、ウィングの事を守りたい気持ちでいっぱいなのに……かけるさんがいなかったらただの足手纏いでしか無いんだから」
ウィングはアルテミスのそんな発言を否定しようとするが、彼女の目を見て戦慄が走った。彼女の目は、ウィングが直視できないほどに怒りを露わにしていたのだ。
「アポロン、アルテミスは……」
「ごめん……多分今俺がアルテミスを宥めても逆効果でしか無いと思う。だから、俺とウィングはエルちゃん達を守る事とアルテミスのサポートに徹しよう」
正直、アポロンも一人で変身できない事への悔しさは感じていた。しかし、アルテミスの今のコンディションを考えると今は弱さへの怒りを募らせるよりも彼女が軽く暴走気味の気分なのでそのフォローをするべきと判断したのだ。この辺はアポロンが大人として全体を見ている証拠だろう。
「ふん。ノットレイ、たった二人増えた程度なんてさっさと潰しなさい!」
「「「「「「ノットレイ!」」」」」」
ノットレイ軍団は三人へと銃を向ける中、アルテミスは“ギリッ”と歯軋りの音が鳴るぐらいに自分の弱さ、未熟さに苛立つとノットレイが声をあげながら向かってくるのを見て動き出すと先頭に飛び出していた個体が反応できないスピードで接近。
その頭を掴んだままノットレイを地面に叩き伏せるようにして引き摺ると前の方にいたノットレイの群れを蹴散らすように内部へと侵入。そのアルテミスの異常な空気にノットレイは慌てて距離を取ると遠巻きにする。
「ッ……小娘の纏う空気が……変わった?」
「はぁ……。正直、ツバサの前でこんなに荒んだ顔とか見せたく無いけど……もう限界。アンタ達、全員……歯、食いしばりなさい!」
その瞬間、アルテミスの無双が始まった。アルテミスは両腕に光のエネルギーをグローブのように纏わせるとムーンライズ、オーロラ由来のスピードに加えてスカイランドでペギンから教わった超高速の拳の合わせ技を発動させた。
「だだだだだだだっ!」
その声色はまるで少女と言うよりは本当に大人の男が喧嘩とかでの殴り合いで上げるようなそんな荒々しい声だった。
「私が!私が!弱く無ければ!ツバサがこんなに傷つく事なんて無かった!私のせいだ!私の、私のせいだぁああっ!」
完全にアルテミスは自分の弱さに対する怒りで暴走。アサヒに揶揄われた仕返しをする時とは比べ物にならない程の怒り混じりの声で大きめなノットレイの個体からの拳を片手で捕まえるとそのまま流れるようにもう片手で腕を捕まえて振り回してから向かってくる新手のノットレイの群れへと投げつける。
「だぁあああっ!」
「強い……アルテミス、あんなに強かったんですか?」
「いや、多分これ……かなり不味い」
「どうしてですか?アルテミス、ボクがあんなに苦戦してたノットレイ?の軍団を相手に圧倒してるのに……」
「外から単純に見たらそうかもね。……でも、アルテミス、周りが全然見えてない」
アポロンが見た先にいるのはアルテミスの暴走を想定通りと言わんばかりに笑みを浮かべるテンジョウがいた。
そのタイミングでアルテミスは大きめなノットレイの下敷きになったノットレイ軍団を上からドロップキックで踏みつけると手に纏わせた光の拳を叩き込んで纏めて粉砕。これにより、ノットレイ軍団の第一陣は完全に打ち破られた。
「次はアンタよ……私が、全部終わらせるわ」
「そう焦らないの。ほら、お代わりをあげるわ」
テンジョウが指を鳴らすと今アルテミスが倒したノットレイの総数の倍はいるであろうノットレイの軍団が地面から液体として湧き出てきて用意される。
「はぁ……はぁ……どういう事……さっきよりも増やして……」
「残念ね。あなたはその感情を剥き出しにしている。今のあなたは私達にとっては格好のカモよ」
「強がりは……その辺にしなさい!」
アルテミスがまたノットレイ軍団と交戦。先程と同じようにアルテミスはノットレイを圧倒するが、そのキレが段々と落ちていた。何しろ、今のアルテミスは心が荒んでいるせいでかなりのオーバーペースで戦闘を進めている。そんな無理な攻めに頼った速攻は長くは続かない。
普段のアルテミスなら冷静に判断できるはずなのに今はウィングが一人で奮闘してかなり傷ついた様子を見たせいで気持ちが動転してそれができなくなっていた。
「弱い雑魚のくせに……退きなさいよ!!」
アルテミスが手を振るとオーロラの輝きを模した近距離戦用の短剣が次々とノットレイに命中して爆発。ノットレイは次々と倒されていく。しかし、それは地面に液体として飛び散るのみに留まっていた。何なら、どんどんその液体は大きくなっていく。
「ふふっ。馬鹿な小娘。浄化もしないで私達を倒せるとでも?」
アルテミス、そしてアポロンにも言える弱点。それは敵をオーバーダメージで倒すことはできても浄化まではできないという点だ。つまり、単純に言えばスカイランドのシャララ隊長や青の護衛隊と同じ。どんなに倒しても相手はすぐに復活できるという事である。
「くっ……邪魔なのよ……私は、私はツバサがあんなに傷つくまで何もできなかった……。やる気を奪われて……足手纏いで……。もうそんなの嫌!はあああっ!」
アルテミスはオーロラのカーテンを周囲に展開するとその奥から何人ものアルテミスが出現。それを見て慌ててノットレイ達は手にしたレーザーガンを新たに出てきたアルテミスへと撃つが、それらは全て簡単にすり抜けてしまう。恐らく、アレはアルテミスの幻影という事だろう。
「ノットレイ!?」
「気づくのが遅い!」
その瞬間、本物のアルテミスが幻影に紛れて高速でノットレイをすれ違い様に手にした小さなエネルギーのナイフで切り刻むと全て液体として消滅。だが、アルテミスも体力の限界が近いのか、その場に苦しそうに膝を付く。
「はぁ……はぁ……ぜっ……ぜっ……」
「ふふっ。もうグロッキーねぇ」
「まだ、私は終わってなんか……」
テンジョウが指を鳴らすとまた倒されたノットレイ達が変化した液体が更に増加した状態でノットレイとして復活。しかも、その数は液体その物が増えたせいで増加していた。
「どういう事……仮に私が浄化できなくても、ただ倒しただけなら同じ数に戻るだけなのに……どんどん敵が増えてく……」
「この空間はもう既に乗っ取られているのよ。今のこの空間の特性、それは人間の持つ負の感情を受けてそれが具現化するという機能。あなたが自分への怒りを増加させるたびに私達をどんどん強くさせたのよ」
「ッ……そんな」
アルテミスはようやくここに来て自分のやってきた事が全てウィング達にとって不利になる事だと理解した。そして、それを示すかのようにアルテミスはウィングやアポロンとは分断されて二人の方もノットレイが取り囲んでいた。
「どうします?アポロン……」
「……ウィング、俺に一個案がある」
「……!!」
アポロンの提案にウィングは頷く。そのタイミングでアルテミスはノットレイ達からの人海戦術に圧倒されていた。アルテミスは完全に勢いだけに任せて敵中深くに突撃して孤立。その状態で勢いを完全に殺されればもうそれは敵にとって狙いやすい的でしか無い。
「さぁ、ノットレイ。この小娘をいたぶりなさい!」
ノットレイはアルテミスを押さえつけるように飛び掛かるとアルテミスの腕や脚を狙って組みつこうとする。アルテミスは必死に蹴散らしながら押さえ込まれまいとするが、多勢に無勢。
「ッ、ちょっと!離しなさい!うっ!?」
アルテミスは最初に右腕を三体のノットレイに掴まれると引き剥がそうとそちらに集中した瞬間を狙われて左脚を取り押さえられ、そのまま動けなくなった所に右脚、左腕、体を拘束されてしまう。そのまま身動きできない彼女へとレーザーガンによる集中砲火を受けた。
「ッ!?きゃあああっ!!」
アルテミスは最初の攻撃こそ耐えたものの、休み無しに浴びせられるレーザーガンによる光線攻めに体中に傷を負っていく。
「ッ……離しなさい……このっ!ううっ!?あああっ!?」
アルテミスは全身にレーザー光線を喰らって体中を焼くような痛みに必死に耐えていた。ちなみにノットレイ達は味方ごと撃っているみたいな形になっているが、それに関しては問題は無い。何しろ、そのレーザー光線はノットレイ達にとっては攻撃が当たる一瞬のみ液体化する事で透かしてしまっているのだ。これにより、アルテミスはたった一人で全ての光線を受ける形となって体中がヒリヒリと焼かれるような感覚を受けているのである。
「ひろがる!ウィングアタック!」
その瞬間、ウィングがウィングアタックによってノットレイの軍団を浄化しながら蹴散らすとアルテミスの拘束を破壊。彼女の隣に降り立つとアルテミスは痛みに耐えかねてフラリとウィングへと寄りかかる形となる。
「ッ……ウィング。何で……」
「アポロンの案です」
アポロンは案として自身の能力で光の剣の代わりに光のバットを召喚。ウィングを野球のバッティングのように打ち出す形で勢いを付けてウィングの浄化技に繋げたのである。
「どうして……ウィング、一人で頑張ってボロボロになってたのに……もしかして、私が不甲斐ないから助けに……」
「……アルテミス、幾ら何でも一人で無茶し過ぎですよ。さっきのボクみたいに一人しかいない状況なら仕方ないかもしれませんが、今は三人いるんです。一人で走りすぎないでください」
ウィングからの言葉を聞いてアルテミスは俯く。自分が余計な事をしたせいでウィングを困らせてしまった……と。
「……でも、嬉しかったですよ。アルテミス」
「え?」
「ボクのためにあそこまで怒ってくれて。……それだけボクを大切に思ってくれて」
その言葉を聞いたアルテミスは顔を恥ずかしさのあまり茹で上がったタコのように赤く染める。
「ッ……そんなの……あ、当たり前でしょ……ちゅ、ちゅばさが困ってたら私……」
「今のボクはウィングです。アルテミス、ちょっと動揺し過ぎです。……アルテミス、ここからは一人じゃなくてボクと一緒に頑張りませんか?」
その言葉を聞いてアルテミスは恥ずかしそうにしつつも、頷く。するとウィングはとあるスカイトーンを出した。
「あっ、それって……」
「バタフライとボクがアップ・ドラフト・シャイニングを使おうとして、ミックスパレットが出てきた時の物ですね」
ウィングが持っていたのはスカイトーンWフライングである。基本的にミックスパレットはバタフライが所有して使っているが、一応ウィングも作り出した一員という事で起動に必要なスカイトーン自体は持っている。
「アルテミス、ボクたちであの技……やってみませんか?」
「え……でも、これだけの数の敵を相手に上手く全滅させられる?」
アルテミスはウィングの提案に不安そうになる。ウィングがこれからやろうとしている技は一体の強力な敵には有効だが、数の多い散らばった敵にはあまり効力が無いと考えていた。
「……言ったでしょう。ボク達は一人じゃない……チームなんですよ!」
それを聞いてアルテミスは頷く。そして、二人の会話をアポロンはアルテミスとリンクする能力である程度把握していた。アポロンは自分とエル達を囲むノットレイ達をある程度押し返すとすぐに手を翳す。その瞬間、巨大な剣が空中に何本も現れると地面へと落下。それがノットレイ軍団を取り囲むように配置されるとノットレイは剣へと突撃するが、剣同士が結界で繋がれると光の障壁となった。
「今だよ!二人共!技の発動を!!」
ウィングは頷くとスカイトーンを翳すとその光によってウィングの手にミックスパレットが出現する。
「バタフライなりに言うなら……アゲアゲで行きますよ!」
ウィングがミックスパレットにスカイトーンを装填するとその手に筆を召喚する。
「全ての色を一つに!ミックスパレット!レッド!イエロー!ブルー!ホワイト!」
するとウィングの手にした筆に虹のエネルギーが集約していくとそのままオーロラの光が飛び出す。
「混ぜ混ぜカラーチャージ!」
ウィングは筆を溝に嵌めて三回分回転。それによって四色の力が混ざって光の力が高まると空中からその光はアルテミスへと降り注ぐ。
そのままアルテミスは巨大な氷の鳥へと変身するとその上にウィングが乗り、氷の鳥となったアルテミスは空高く飛翔するとオーロラのエフェクトをバックに美しい幻想の輝きを纏う。
「プリキュア!アウロラレインボー!」
ウィングが筆の光を更に掲げるとアルテミスの変身した氷の鳥にそれは纏われていく。光に包まれたアルテミスは巨大な氷の女神となったヒョウとなった。
そのタイミングでアポロンが手を握り潰すように動かすとノットレイを囲んでいる剣がジリジリと範囲を狭めて大量のノットレイを一箇所に纏めた。
「ブレイク!」
すかさず巨大な氷の女神となったアルテミスは落下の勢いを利用して真下にいる大量のノットレイへと上から氷による固形化で火力が上がった拳による鉄槌をかます。勿論、この時彼女の髪の上に乗ったウィングも一緒に落下するが。
「「「「「「スミキッタァ〜」」」」」」
ノットレイ達はこれに堪らず浄化されると消滅していく。そして、技が終わるとウィングと元の姿になったアルテミスが降り立つ。
「ば、馬鹿な……ノットレイが全滅……ですって」
「流石ウィング。発想は良かったわ。でも……何あの私の格好!?てっきり私もプニバードでヒップドロップするのかと思ったわよ!?」
アルテミスがそう言ってウィングへと詰め寄る。流石の彼女でも自分が女神化してそのまま拳を振り下ろすとは思わなかったのである。
「べ、別に良いじゃないですか。カッコいいですよ、アルテミス」
「私的にはもうちょっと可愛らしいのが良かったのよ……」
そう言って若干恥ずかしそうにするアルテミス。アルテミス的にはダメでは無いのだが、どちらかと言えば技名もシークエンスもカッコイイ寄りなのでもうちょっと可愛い物を期待していた。
「あはは、ウィングもアルテミスも望む形にならず……か。やっぱり技の発動権がパレットを持ってる側になる関係でパレットを使う人の意思が結構入るのかな?」
この結果にやってきたアポロンや彼に守られていたエル、くるるん、プルンス、フワも来た。
「ありゅてみしゅ、かっこいい!」
エルとしてはウィングことツバサのモフモフも好きだが、女神による鉄槌も好きだったらしい。カッコイイ路線に行っても気に入る辺り、ウィングことツバサの教育の賜物だろう。
「さて、後は君だけだよ」
「テンジョウ、覚悟してください」
「ふふっ……こうなったら奥の手よ……はあっ!」
するとテンジョウは本気モードと言わんばかり闇のエネルギーを纏うとその体を巨大化。暴走した天狗のような巨人の姿となる。
「ッ……ここからが本番ってわけね。上等よ!」
三人は本気を出したテンジョウに対して警戒心を高めると同時に集中するのであった。
また次回もお楽しみに。