翌日、スカイランドにて。そこではユキとソラの二人は10年間過ごして暮らし慣れた家を出ると都に向かうための遊覧鳥乗り場へと移動した。
ユキとソラの二人は背中に大荷物を背負いつつ遊覧鳥へと話しかけることに。
「こんにちは!都に向かうための鳥さんで大丈夫ですか?」
「せや!わいで大丈夫やで」
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします……」
ソラがハキハキと話す中、ユキの方は多少怖がったかのような自信なさげな話し方であった。
「ユキさん、そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ」
「でも……」
「どうしたんや?こっちの嬢ちゃん」
「あはは。実はユキさんはちょっと引っ込み思案で。少ししたら慣れると思いますから大丈夫ですよ」
「そうかいな。じゃあ、早速行くで」
二人は遊覧鳥に促されると背中へと乗り込む。それから遊覧鳥は時間通り出発して空の旅へと入った。
「わぁ……これが遊覧鳥さんが連れて行ってくれる空の旅ですか」
二人は遊覧鳥の背中の上にいる影響でゆったりと進む空の景色や心地良い風に揺られていた。
「……ソラちゃん。私、この風が好きだな」
「ふふっ、ユキさんがそんなにリラックスできるなら良かったです!」
ユキは先程まで固かった顔つきだったものの、気持ち良いそよ風に揺られた影響で顔つきが緩んでいく。そのやり取りを聞いた遊覧鳥が声をかける。
「お嬢ちゃん。リラックスできてるみたいやな」
「へ!?あ、は、はい。……その、凄く快適です」
「そうかそうか。それは良かったわ」
ユキが上手く話せている様子を見てソラは微笑ましいような顔つきとなった。それから時間が経って翌日の昼前。一応夜中の飛行に関しては遊覧鳥の負担もあるのと、依頼主が寝てしまって転げ落ちる危険を考慮して長距離を飛行する場合は控える事になっている。
どうしても夜中飛行する場合は乗っても比較的近距離の時に限るだろう。そのため、二人は途中の島で一泊。それから改めて都へと向かう事になる。そして、都があと少しに迫った時の事。
「そうです!今でさえこんなに心地良い風に揺られてるんです。このまま立ってみましょう」
「……へ?」
「え、ソラちゃん。それってまさか」
「思い立ったらすぐ行動です!」
ソラはユキが止める間も無く遊覧鳥の上で立ち上がった。すると自分へと感じる風が更に心地良くなる。
「ふぁあああ!」
そのままソラは立つ事で更に開けた空の景色を満喫。そんなソラを見てユキは慌てると声をかける。
「ソラちゃん、そんな所で立ったら危ないよ!」
「お嬢ちゃんの言う通りやで?落ちたら危険やぞ!」
ちなみに今は島と島の間にある雲海のような場所を進んでいる。そのため下に陸地など無く、落ちてしまえばそのまま終わりの無いスカイダイビングコースへと直行だ。ただ、ソラとしては平気様子で逆にユキへと返す。
「これぐらいの事で怖がっていたらヒーローなんて務まりませんよ!それにユキさんも立ってみてください!景色が最高ですよ」
「わ、私にはちょっと無理かな……あはは」
そう言って苦笑いするユキ。するとソラが再びしゃがんでユキの頬をつまむとむいーっと広げる。
「そ、そりゃひゃん?」
「今ユキさん、私なんかソラちゃんみたいに勇気を出せないなんて思いませんでした?」
ソラがユキから手を離すとユキは慌てた様子でソラの言葉を否定する。だが、ソラからしたらお見通しのようであった。
「ふえっ!?ち、違っ……」
「嘘はダメですよ〜。ユキさんってユキさんが自分で思うよりも嘘を吐くのが苦手だと思います!」
ソラに自分なんかと思っていたのが簡単にバレて動揺するユキをソラは納得がいかないと言わんばかりの顔つきで頬を膨らませる。
「そ、ソラちゃんがそれを言っちゃう?ソラちゃん、私よりも正直だと思うよ」
「だとしたら二人揃って正直者で良いじゃないですか。嘘を吐かないのは良い事ですよ」
「うぅ……」
ソラに指摘されてユキは狼狽える。ソラに比べると気が弱いユキはどうしても自分に自信が持てないのだ。
「でも、私……弱いし、ダメダメだし……こんな私がソラちゃんの役に立てるのかなって……」
そう言うユキの目は怖がるような目だった。それと同時に脳裏にある事を思い出すと体が震え始める。それを見たソラは優しくユキを抱きしめると背中を優しくさする。
「大丈夫ですよ。あの頃とは違って私もユキさんも相応に強くなりました。もうあんな人達に負けるような弱い私達じゃありません。……それに、もしもユキさんに何かがあったら今度こそ私がユキさんを守って見せます」
それからソラがユキの頭を優しく撫でるとユキはその現状に安心感を抱くとソラに抱きついて心を休めた。
ただ、その下で二人を乗せて飛んでいる遊覧鳥は少し複雑な気持ちのようだった。
「(ワイの上でイチャついとるなぁ。彼氏彼女の関係でも無いのに。仲が良いのはえぇ事やけど)」
遊覧鳥としては自分の背中の上で濃厚な百合状態を見せられてるせいで多少困惑したが、彼はひとまず先程の会話に出てきたある事を聞いた。
「そういや、聞くのが遅れたけど……ヒーローを目指してるって?」
「あっ、はい!私達、ヒーローを目指して日々精進してるんです!」
「そんな……私にヒーローなんて無理だよ。私、誰かにヒーローって思ってもらえる自信無いし」
「あー、またユキさんってば……」
ソラがもう何度もやったお馴染みのやり取りをまた繰り返そうとしたその時。二人は目の前に広がる景色を見て一度会話を止めてそれに魅入る。
二人の目の前にあったのは巨大な島であり、これまで見てきた島と比べ物のにならないくらい大きかった。加えて、そこには巨大な城や城下町と思わしき大規模な街が広がっていたためにソラとユキが声を上げる。
「「あれは……」」
「せや、スカイランドのお城や!」
ユキはその城に感激したのか、思わず首から下げて胸の辺りにあるくすんだ色の丸い宝石のような物を握った。これはユキが幼い頃からずっと持ってるお守りである。彼女が物心ついた頃には自分の親であるシドにそう教えられてきたのだ。
それはさておき、今二人が見ている巨大な島はスカイランドの中で一番大きい島である。その島の一番奥に存在するのがスカイランドの王城だ。
そんな王城の付近には何発もの花火が上がっており、今日は何かの記念の日として見て取れる。
「あの花火……何かのお祝いの日でしょうか」
「確かに。あの花火って毎日は上がりませんよね?」
「せや。実は今日、スカイランドの王様と王妃様の一人娘のプリンセスがお誕生日を迎えるんや」
「そうなんですね!」
「それじゃあ私達もお祝いしなきゃ」
二人はまだ見ぬ王様と王妃様の娘の誕生日で湧き立つ街に想いを馳せる。そんな幸せの真っ只中の城下町では人々が賑わいを見せており、口々にプリンセスの誕生日を祝う声でいっぱいだった。
「きゃっ、きゃっ!」
その頃、城下町を一度に見渡す事が可能なお城の展望デッキでは。スカイランドの王様と王妃様が街を見下ろしている。そして、王様の腕の中には今日誕生日を迎えた赤ちゃん……プリンセスがいた。
「ハッピーバースデー。キラキラ輝く私の一番星」
「プリンセス・エル、これからも健やかに」
エルと呼ばれた赤ちゃんは両親の腕の中から花火を見て嬉しそうに声を上げる。このまま幸せがいつまでも続く……そう感じられた時だった。突如として邪悪な声が聞こえると王様と王妃様の二人は驚く。
「むっふっふ〜む〜ふっふっふ〜!」
「だ、誰だ!?」
すると突如として三人の後ろに置いてあった巨大な豚のぬいぐるみが動き出す。恐らく、この豚のぬいぐるみもプリンセスことエルへの献上品だったのだろう。しかし、そのぬいぐるみは無惨にも内側から破壊。
出てきたのは紫の体色に肥満体で丸い体、左腕にはハートのタトゥーが刻まれて腹からはでべそが覗く。また顔つきはモヒカン頭に豚の顔。前歯二本が出っ歯で左耳にはピアスを付けていた。そんな彼は先程まで狭くて動きづらいぬいぐるみの中にいたせいか動きやすくなってスッキリしたような顔になると邪悪な笑みを見せる。
「あなたは何者ですか!?」
「俺様はカバトン!折角の誕生日だ。俺様からもプレゼントをくれてやるのねん!……ハッピーバースデー。プリンセス・エル」
カバトンが手にしていたのはまさかの爆弾であった。そして、既に爆弾の導火線には火が付いていて今にも爆発寸前である。
「ッ!?プリンセス!」
「プレゼント……フォーユー!」
カバトンが地面に爆弾を叩きつけると同時に爆弾の導火線が全て無くなって爆発。
その爆発によって城の展望デッキから轟音と共に紫の煙が発生。そしてそれは城下町からもハッキリ見えるわけで、その様子を城下町にある建物の上に立つ一つの影が確認する。
「……あれは……」
その影は旅人のような濃い紫に近いマントを着て頭部もフード及び黒い仮面で隠している影響か、顔が全く見えなかった。彼の背中には長めの刀が襷掛けのような形で背負ってある。その影の体型的にがっしりとした普通の男性であり、カバトンのような人間と動物が混ざったような姿では無かった。
「アレは、カバトンか。あの感じはとうとう始めたみたいだな。……手伝ってやっても良いが……。一度テレパシーで連絡を入れて様子を見るとしよう」
そう言って仮面の男は迷う事なく目立つ屋上から飛び降りる形でどこかへと移動を開始。
そして、城下町から爆発が見えるように遊覧鳥の上にいるユキやソラからも爆発はしっかり見えたようであった。
「嘘……あれって……」
「スカイランドの城が……」
「えらいこっちゃ!」
遊覧鳥は事態の急変に動揺。そんな中で遊覧鳥の上に乗っていたユキとソラの二人は同じタイミングで見合う。その息ピッタリの動きを見るにどうやら二人の考えている事は全く同じなようだった。
「ユキさん……」
「って事はソラちゃんも同じ考え?」
「そのようですね……すみません。スピードを上げてもらえませんか?」
ソラが足元を見るようにして自分達を乗せる遊覧鳥へと声をかける。それは遊覧鳥にとっても死地に行けというような無茶な言葉だった。
「はぁ!?ま、まさかクチバシ突っ込む気かい!?」
「……あの様子を見てしまった以上、見て見ぬフリなんてできませんよ」
「私もソラちゃんと同じ。このまま見過ごしたらきっと後悔する」
「えぇ……」
ただ、やっぱり遊覧鳥は気乗りがしない。客である二人を乗せて無かったらすぐにでも反転したかった。
「無茶なのは分かってる。でもお願い!」
「私達にできる事をしたいんです!」
二人からの熱意に押された遊覧鳥は困惑。悩んだ果てに二人の気持ちを変えるのは無理と判断するとヤケとばかりに声を上げた。
「ああ、もう!ワイは適当な所で退き上げさせてもらいまっせ!しっかり掴まっといて!」
遊覧鳥がそう言うと二人は屈みつつ遊覧鳥の背中にしっかりと掴まる。その感触で二人が掴まったと判断した遊覧鳥は一気に加速。先程までのゆったりしたスピードから一転して物凄いスピードで進む事になった。
「「ヒーローの出番(よ)(です)!」」
二人がそう言う中、ユキが首から下げた色のくすんだ丸い宝石が一瞬だけ白く小さなオーラに包まれる事になる。
少しだけ時間を遡り、爆発が収まって煙が晴れたスカイランドのお城の展望デッキ。そこでは視界を奪われていた王様と王妃様がやっと視界を取り戻す。
「ゴホッ、ゴホッ……大丈夫か!?」
「ええ、私は……」
王様と王妃様の二人には特に何も無く無事であった。ただし、それはこの二人に限った話である。そんな中で王妃様は王様の腕の中にいたはずの赤ちゃんがおらず、小さな豚のぬいぐるみにすり替わっているのを見て青ざめた。
「はっ……プリンセスー!?」
王妃様の悲痛な叫びがこだます中で同じくその場から消えていた豚男ことカバトン。彼は爆弾の煙に乗じてエルを誘拐。すかさず人間離れした身体能力による大ジャンプで逃走する。ただ、捕まえたエルはその場で泣き喚くわけで。
「うぇええん!えーん!」
「チッ、カバトントン!」
流石にカバトンも逃げる間、ずっと大声で泣かれると面倒だったので謎の呪文を唱えると額の宝石を怪しく発光。エルをシャボン玉のような物に閉じ込めてしまう。加えて、物理的に遮蔽されたおかげか彼女が泣いても煩く無い程度には音量を抑えられた。
「さ、さっさと行くのねん!」
カバトンは弾力のある大きな尻で地面に着地。すかさず走りながら逃走する。当然ながらエルを連れ去られた王城の兵士達が黙って見ているはずが無い。そのため、すぐに追手が差し向けられた。
「プリンセスを返せ!」
「待て!」
「待てと言われて待つお馬鹿さんがどこにいるのねん!カバトントン!」
カバトンは自分を追いかけてくる追手がダチョウのような鳥に乗っているのを見るとそれをチャンスと判断。また呪文を唱えて魔法のような力を発動。その瞬間、鳥達の視界にだけ一瞬黒い煙を発生させるとそれが爆発。
その影響でいきなり視界が暗くなった挙げ句、至近距離で大きな音を鳴らされてしまった鳥達は錯乱状態になると大暴れ。兵士達は追いかける所では無くなってしまう。
「うわあっ!?」
「お前達落ち着け!」
「ひひっ、おっと次は……」
カバトンが走る先に見えるのは王城への出入り口である城門だ。門の守兵達はカバトンが来るのを見るとすぐに門を閉めようとする。しかし、太ったキャラのお約束であるはずの狭い場所を通れない事案は発生せずに閉まる門をすり抜けてしまう。
「俺、TUEEE!」
カバトンが勝ち誇ったようにそう言う中、城下町へと突入した彼の脳裏に念話が聞こえて来る。その主は先程城下町にいた仮面の男からだった。
「(上手い事成功したからか随分とご機嫌だな、カバトン。やはり俺は必要無かったか?)」
「へん、だから最初に言ったのねん!お前の手なんて借りるまでも無いと!これで手柄は俺様が独り占めなのねん!」
「(やれやれ、だったらいつもみたいに詰めが甘い事による失敗だけはすんなよ)」
「煩いのねん!気が散るから邪魔すんな!」
「(はぁ……)」
それを最後に男からの念話が途切れるとカバトンは城下町を逃げ続ける。そんな彼を止められる力など街中の人々にあるわけが無い。
そのため、カバトンは街中にある障害物等を避ける事すらせずに無理矢理突進で吹き飛ばして破壊。甚大な被害を出しながらの逃走劇だった。
そのタイミングでようやく都に到着したユキとソラは遊覧鳥から降り立った。
「「ありがとうございました!」」
「そんじゃ、わいはこの辺で帰るで。二人共、気ぃつけてな!」
遊覧鳥はその言葉を最後にどこかへと飛び去っていく。恐らく、本来着陸すべき所に行ったのだろう。それを見届けた二人はその場に背中の大荷物を降ろす。
「ソラちゃん」
「ええ。……誰がこんな事をしたのか知りませんが絶対に止めましょう」
二人は再度頷くと走りまくるカバトンを遠目に視認。それから彼女達は追いかけるために軽めの準備運動を済ませると特にそれ以上の会話をする事も無く走り出すのだった。
また次回もお楽しみに。