砂場のある公園に到着したユキ達一同。エルの様子はユキ、アサヒ、ソラ、ツバサ、ヒョウの五人が優しく見守っており、そんな中でエルは楽しく砂場遊びをしているようだ。
「えるぅ!」
「ボク達はここで砂場遊びをしてますから、ましろさんは絵本作りを頑張ってください!」
「ありがと!」
そんな風にしてましろが絵本を描くために木陰になっているベンチに腰掛けると早速購入しておいたスケッチブックを開ける。そんな中、ユキはアサヒの元に行くとコッソリとアサヒへと話しかけた。
「ねぇ、アサヒ君」
「何?」
「その、ましろちゃんって絵本を描くのは良いけどストーリーって大丈夫なのかな?」
「……あぁ。確かにそれはあるかも。何を描くにしても起承転結の構成がちゃんとしてないと上手く行かないだろうし。多分成り行きで決まった事だからまだ未定……なのかも」
アサヒは苦い顔をしてそう言う。彼の言う通り、絵本作りをするにはまず最初に物語の構成をしっかりとしておかないとならない。構成というのは話の骨組みのような部分に当たるのでここがちゃんとしてないとまともな肉付けすらできないだろう。
「えっ……それ、不味いんじゃ……」
「ま、まぁましろはしっかりしてる所あるし。想像力は割と豊かだから考えれば出てくるはず」
そんな風にユキとアサヒの二人はましろを信じて彼女の様子を伺う事に決めた。そして、当の本人はと言うと……。
「……まずはお話を考えないとだよね」
それから早速ましろは自分の想像力を働かせると借りの流れを思い浮かべる事になる。
“むかーし、むかし。山の中にサラサラと流れる川がありました。そこに大きな大きな桃が流れてきて……”
「って、それじゃ桃太郎だし!?しかも大きい!」
ましろが最初に浮かべたのはパチモンの桃太郎であった。そのため、少しでも桃太郎から遠ざけるために別の案を考える。
「ええっと、桃じゃ無くて……」
“川からかぼちゃが流れてきて……中からそれは美しい女の子が……”
「って、シンデレラだよ!それ!しかも桃太郎とごっちゃになってる!?」
ましろは少し変えた程度では結果的に何かの真似だと思ったために一旦昔話系統の話を捨てると別の話にする事にした。
「さっきまでエルちゃんに昔話ばかり読んでたからその傾向が強いんだ……。なら、昔話から目を離して!こんなので行こう!」
“ここは自然豊かな緑のロアの町。そこには仲の良い双子の姉妹がいました。一人は赤髪を長く伸ばした少女、エリス。もう一人は黒髪をツインテールにした少女、くれあです。エリスは喧嘩っ早く、お嬢様にも関わらず乱暴な子でした。その一方でくれあは妹でしたが面倒見が良く、しっかり者で。そんな正反対な二人でしたが、姉妹仲はとても良いものでした……”
「って……あれ?何かおかしいような……気のせい気のせい!えっと続きはっと」
“エリスとくれあの二人には優秀な侍女さん。イリア・コーラルという人がいました。彼女は二人のお世話役として二人の生活を陰ながら支えていいます。そんなエリスとくれあの二人ですが、ロアの街にある女学院に通っていました。教師はメノウ・ヒーストリア。二人の友達には猫耳の獣人であるフランちゃん。狐のお面を頭に付けた可愛らしい子の真菰ちゃん。公爵家の令嬢であるラフィニア・ビルフォードちゃんが……へ?”
「ターイムターイム!何でこうなったの!?まず色々とツッコミたいんだけど、おかしいよね?まず何で名前が平仮名カタカナ漢字が混ざってるの?そもそも双子なら容姿とか似るはずだよね?しかも何で声質が同じような人の名前がしかも具体的に出てくるわけ?」
ましろはあまりのカオスっぷりに脳内をパンクさせると頭から湯気が出てしまう。そんな彼女を見た通りすがりの親子がそれを見るとましろを指差して変な人を見るような声を上げた。
「あのお姉ちゃん、なんか喋ってる」
「え?そ、そうだね」
通りすがった少女はましろが一人悩んで声を上げている所を目撃すると父親にその事を話す。父親はあまりましろに関わらせたらダメと判断したのかそのまま子供を連れてそそくさと行ってしまった。
勿論ましろはそういう扱いをされて恥ずかしさのあまり俯いてしまう。そして、それを見たユキとアサヒは苦笑いをする始末だ。
「……ダメ、だったみたい」
「そっか。ましろって想像力豊かだけどおかしいと思った事はすぐに口にしちゃうからな。それに、その想像力豊かがツッコミにまで出ちゃうから……」
二人はましろの良い所が悪い方に今回振り切れてしまったがための事故だと考えると当のましろ本人は焦っていた。
「はぁ……。やっぱり無理かも。ストーリーは全然浮かばないし、絵だってあんなに綺麗には描けないし。……そもそも、私に才能なんて」
するとそんな彼女が心配になったのか、ユキとアサヒ、ソラの三人がましろの周りにやってくる。
「ましろさん」
「えっ!?あ、ソラちゃん。それにユキちゃん、アサヒも」
「……すみません。私が先走ってましろさんを困らせてしまいましたね」
「ううん。褒めてもらえて嬉しかったのは本当だよ。でも、皆みたいにこれをやりたい……なんて気持ちにはなれなくて」
ましろがそう言いつつ天を仰ぐ。ましろとしては他の皆がやりたい事を実行しているのに自分だけ置いて行かれている現状が嫌なのだ。そのため、やりたい事を早く見つけないとという形で焦っている。だからこそそのやりたい事を見つけるためにチャレンジしてみた絵本作りが上手く行かずに悩んでいた。
「……別にすぐにやりたい気持ちにならなくても良いんじゃない」
「で、でも……」
「結局さ。そうやって焦ってやりたい事を決めてるうちは何も上手く行かないと思う。それで上手く行かない現状に焦ってもっと上手く行かなくて。そのままズルズル気持ちが入らずに結果的に失敗するよりもさ。ましろが本当に絵本作りをやってみたいという気持ちがあるのならまずはそれだけに集中しないと」
アサヒとしてはましろが上手く描けない事の原因はましろの考え方に原因があると指摘。そこで彼はましろにまずはやりたい事を見つけるための絵本作りでは無く、自分がやってみたいからという意味での絵本作りという考え方その物を変える必要があると話す。
「私自身がやってみたいか……」
「ましろちゃん。アサヒ君は私の時にあった事を経験にして話してくれてるの。ほら、前に早く強くならなきゃって私、焦って負荷をかけ過ぎたトレーニングをして倒れてたでしょ?……ましろちゃんに同じように焦ってほしくないんだと思う。私は焦るななんて指摘はできないけど……。もしましろちゃんがやってみたいと思って絵本作りに真剣に取り組むのなら……皆きっと受け入れてくれるから」
ユキはアサヒがある程度強めの話し方をしたのでましろに優しめの話をしてアサヒの説明の足りない部分をフォローする。事前の話し合い無しでこの連携ができる辺り、二人の絆が前よりも深くなっている証拠だろう。
「ユキちゃん、ありがと。……後でアサヒにもお礼は話しておくね」
「あの、ましろさん。私からも良いですか?」
「ソラちゃん?」
「その、私はましろさんはましろさんのままで良いと思う気持ちは今でも変わりません。だからその……そんなに重く受け止めないでください」
ソラもソラで自分が我儘を言ったせいでましろを困らせたと悩んでいた。そのため、彼女もましろへとフォローの言葉をかけたのである。
そんな中、砂場の方からツバサやヒョウの困ったような声が聞こえてきた。
「プリンセス、ひとつくらい貸してあげれば良いじゃないですか」
「この子もエルちゃんと一緒に遊びたいんだからさ。ね?」
そんな風にツバサとヒョウがエルを宥めるような声をかけているものの、エルはムスッとした不機嫌な顔つきである。
「えるぅ!」
その隣にはちょこんと立っているエルと同じくらいの年齢と思われる男の子がおり、彼がエルの使っている砂場遊びの道具を貸して欲しいと言ったのだろう。ただ、エルはそれを断固として拒否している形だ。
「どうしたんですか?」
「この男の子がエルちゃんが使ってる道具を貸してって言ったんだけど……」
「プリンセスは絶対に貸さないって言ってて……」
「ぜったいいや!」
ここで問題になっているのはこのくらいの年齢の子によくある物の貸し借りトラブルである。ユキ達はどうにかしてあげたかったが、無理にエルへと渡すように言っても余計に状況が悪化する事がわかっているのでまずはエルを優しく諭す方向で考えた。
「そんな心の狭い事でどうするんですか。仲良くしなきゃダメですよ!」
「えるぅ……」
「ソラちゃん、もう少し優しめに……」
「ふえっ!?」
「かけるさんが前に言ってたけど、今のエルちゃんはまだ他の子と触れる機会が少なくて物を貸すとか物を他人から借りるっていう事に慣れてないの。だからまずはもっと優しめに諭さないと」
「えっ、そうなんですか!?す、すみません」
ソラは慌てて自分のやったことが逆効果だと認識すると咄嗟に謝る。しかし、だからって状況は好転しない。
「こんな時にかけるさんかあげはさんがいれば……」
二人ならある程度上手く状況を纏められるかもしれない。ヒョウは今こそ二人の手が欲しい所だったが、その二人は今はこの場にいないのだ。するとましろが一人エルへとしゃがんで話しかける。
「エルちゃんの大好きなこの玩具で、お友達と一緒に遊べたら……きっともっと楽しいよ」
そんな風にましろが優しくエルへと話すとエルは悩むそぶりを見せるが、結局彼女が出した結論は……。
「いやーや!」
「そんな……」
ましろでもダメならどうすれば良いのか。このままでは隣にいるこの子も泣き出しかねない。そうなれば更に打つ手無しとなってしまう。するとそんな時だった。
「ねぇ、エルちゃん」
「える……にゃ、にゃんこ」
「君は、保育園のらんこちゃん……」
そこに来たのはこの前かけるとあげは、更にヒョウの三人が実習を受けた際にいたこちらの世界の風波らんこであった。彼女も砂場で遊ぼうと思ってやってきた所、この場面に出くわしたのである。
尚エルが何故からんこの事をにゃんこと呼んでいるが、これは度々ヒョウがエルが他人との触れ合いを覚えるために連れ出した際にらんこと遊んで彼女の名前を渾名として覚えたかららしい。
「にゃんこって……らんこちゃんは猫さんじゃないのに……」
「ほ、ほら。小学生ぐらいまでの小さい子供って同い年の子を渾名で呼ぶとかあるでしょ?それと一緒……だと思う」
名前間違えで覚えてしまっている現状だが、決してエルに悪気があるわけでは無いというのだけ彼女を擁護しておこう。
「ヒョウせんせい。わたし、やってみる」
らんこがそう言ってエルと男の子の間に立つとらんこはまずエルの方へと優しく話しかける。
「エルちゃん、エルちゃんはこれをつかいたいんだよね?」
「える!」
「きみも、えっと……」
「ぼく、あきと」
「あきとくんもこれをつかいたいんだよね?」
「う、うん」
らんこはまず二人の意思を確認すると双方が砂場遊びのための道具を使いたいんだと言う。
「じゃあ、エルちゃんはあとであきとくんにかしてあげられる?」
「える?……えるぅ」
らんこはエルに貸すタイミングを今では無く少し後に出来るかと聞いた。それを聞いてエルは小さく頷く。エルとしては今はこれを使ってるのだからすぐには貸せない。だから無理に今すぐ貸させるのでは無く、あくまで後で。エルが使い終わったら貸すという事にした。
「あきとくんはそれまでまってられる?」
「うん」
「じゃあ、それまでのあいだはわたしとあそぼ」
そんな風なやり取りをするとらんこはその男の子と二人で砂場遊びを始め、エルは貸さなくて良くなったために上機嫌で砂場遊びの続きを始める。
「らんこちゃん、前まであんなに他人と話せなかったのに……」
「しかも、相手が年下って言ってもちゃんとお互いの気持ちを納得させた」
「……世界が違っても、やっぱりらんこちゃんはらんこちゃんだよ」
らんこは現在、年齢的には5歳前後。普通ならこんな仲介は難しいはずなのだ。でも、彼女はそれをやってのけた。その頭の良さは並行世界の中学生らんこを連想させるような物である。少し前まであんなに引っ込み気味な性格だったのだが、かけるやあげはの取った作戦の賜物と言えるだろう。
「える……」
そんな中だった。らんこは相手の男の子と楽しそうに二人で砂場遊びをしているとその声は当然隣にいるエルにも聞こえてくる。そして、エルはそんな二人を見てある感情に駆られた。それは……。
「える、にゃ、にゃんこ!」
「……エルちゃん、どうしたの?」
「い、いれ……いれて!」
それは決してらんこが狙って仕組んだ状況では無い。むしろ、男の子がエルから物を貸してもらうまでの間の時間稼ぎ程度のつもりだったはずだ。だが、エルはそんな二人が仲良く楽しく砂場遊びをしている姿を見て考えその物が変わったのである。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
「うん。いいよ。じゃあ、あきとくんとさんにんであそぼ!」
それからエルは三人で遊ぶために独り占めしていた砂場遊びの道具を二人にも貸すようになった。この見事な手際にその場で見ていたユキ達は感嘆の声を漏らしてしまう。
「マジかよ……。らんこちゃん、凄っ」
「これ、どこまでが計算なんですか!?プリンセス、さっきまであんなに嫌がってたのに……」
「多分計算なんて殆ど入ってない。……この感じだとらんこちゃんの優しさが二人を上手く繋げたんだと思うわ」
するとそこにやってきた一人の女性。それは男の子の母親である。彼女はユキ達に声をかけてきた。
「すみません、うちの子が我儘を言ってご迷惑をおかけして」
「いえ、むしろ……あきと君が泣き出さずに待ってくれてたおかげですよ」
「私達、実際何もできませんでしたし」
それから男の子の母親は息子が優しい人達に囲まれて楽しそうに遊ぶのを見て安心したのか、先程まで休んでいたであろうベンチへとまた戻っていく。
「……反省です」
「え?」
「私はエルちゃんを叱る事しかできませんでした。でも、ましろさんは優しい気持ちをエルちゃんに伝えて、らんこさんはこの場を穏便に収めてくれました。……凄いです」
「そんな事無いよ。私の力じゃ、結局上手い事纏められなくて……」
ソラとましろはお互いに自分の力の無さに悔しさを浮かべる中、エルはらんこ達と楽しく遊ぶ際にある言葉を発した。
「えるぅ、にゃんこ、あきと、なかよち!」
「仲良し……あっ!」
エルの言った仲良しという言葉。それはましろの中で何かのトリガーになったのか、脳裏に先程読み聞かせた絵本をも連想させた。
「ごめん。皆、エルちゃんの事お願いしても良い?」
「良いけど……急にどうして?」
「ましろさん、何かあったのかな?」
ましろはこの閃きが消えてしまわないうちにそれを急いで纏めるべく、急いで家へと戻っていく。そんな彼女を見てアサヒは安心したような顔つきになっていた。
「……これならもう心配無さそうだな。……まさかこっちの世界のらんこちゃんに助けられると思わなかったけど」
「うん。……ましろちゃん、上手く描けると良いね」
ましろのあの様子を見てユキ達はもう大丈夫と判断。そして、彼女達は仲良くするエル達三人を見守る事になるのだった。
今回、園児のらんこが上手くエルとモブキャラの男の子を繋げましたが、一応劇中で言及された通り、これは頭の回転が早いらんこだからこそできた事です。恐らく同年代……5歳前後の子に同じ事をやれと言われても多分無理だと思います。なので今回だけの特別措置だと思ってもらえると幸いです。
この園児らんこちゃんの元ネタである獅子河馬ブウさんの作品に出てきたらんこも小学の低学年から頭の良い設定なので多分それに近めな5歳ぐらいの園児らんこも上手くやれるという判断で独断で付けた設定なのでそこはよろしくお願いします。
また今回モブキャラを名前ありにしましたが、彼の登場は今回だけなので特に気にしないでもらえると助かります。
元ネタとなった獅子河馬ブウさんの作品のURLは改めてここで貼っておきますね。
https://syosetu.org/novel/328218/
それではまた次回も楽しみにしてください。