かけるが学校にまた通うようになってから二日が経過。初日こそかけるは周りから敬遠されて孤立していた彼だったものの、あげは達のグループが必死に周りを説得。
かける本人が授業を真面目に受ける事や周りへの丁寧な接し方、自分の役割へのひたむきさを実際に見た他の生徒達があげは達の話を信用して拡散に協力。かける関連の悪い噂を払拭する動きはあっという間に広がっていった。
「かける、こっち手伝ってくれ!」
「うん、今行くよ」
「かける君、最初は悪い人かなって思ってたけど……」
「うん、良い人そうで良かった。噂は鵜呑みにしたらいけないね」
少なくとも、クラス内での誤解はほぼ無くなるとかけるはどうにかクラスメイトの中に溶け込めるようになっていたのだ。流石にクラス内で既にできていたグループに入るのはまだハードルが高いものの、警戒心MAX状態からたった二日でほぼ0にまで持って行けたのは大きい。かけるへの心的負担も小さく済んだのである。
「ありがとな、かける!」
「どういたしまして。っと、仕事もひと段落したし……またいつもの勉強するか」
かけるは授業の終了後の自主的な勉強をするために荷物を持って図書室へと移動。空いていた椅子に座ると遅れていた分の勉強を始めた。
「この状況ならえっと……」
実技等の技術を要求される場面では流石に熟練度の差でまだ周りの足元にも及ばない彼だが、自分が出遅れてしまった分は少しでも取り返そうと必死に努力しているのである。
「……隣失礼しまーす」
「え……あげはさん」
すると勉強をしていたかけるの隣にあげはがやってくると座った。かけるは何故彼女が来たのかわからずに混乱する。
「どうして?」
「私も勉強したい気分だったから……かな」
あげははそう言って悪戯っぽく笑うとかけるはコクリと頷く。そんな固い反応の彼を見てあげははムッとした顔になる。
「もーう、かける君。前々から思ってたけど、こうして見るとやっぱり顔が固いな〜」
「……顔が固い……。うん、きっとそうだと思う」
「まだあの事気にしてるの?」
あげはが言ってるのはかけるがシャドーに乗っ取られたのが原因でユキやアサヒ達プリキュア勢のみならず、戦いに巻き込まれてしまった人々への負い目についてだ。
「そうだね。俺があの時力に魅了されてなかったら……すぐにあの石を捨てていれば……。きっと彼女達を苦しませなくて済んでいた。だから、凄く申し訳ないんだ」
「ふーん。それがあったから助けられた後に協力したいって言ったんだね」
とは言え、かけるがああなってしまったのはその体にかつてキュアルーセントムーンになっていた少女であるルナと同じ血を宿した青年。リュウセイを遠い祖先に持ってしまったからだ。仮にあの場でスカイトーンの石を捨てていたとしても結局は巡り巡って彼の元に収まっただろう。
「俺は許されない罪を幾つも犯した。例え自分の意思が関係無くたって、それをやったのは自分に変わらない」
「そっか……。それで、ユキちゃんやソラちゃん達がスカイランドに帰っちゃってかける君はどうするの?」
「今の俺にできるのはこうして遅れた分を必死で取り戻す事。俺は、俺の力で皆を笑顔にしたいんだ。……それが今の俺にできる事、そしてここから逃げなかった理由」
あげははかけるの言葉にとてつもない重さを感じた。今の言葉はおふざけとか見栄を張るための苦し紛れでは無い。そう感じさせる程の重い覚悟をあげはは感じ取る。ただ、それと同時に彼女はある事を考えた。
「かける君さ、本当にそれで楽しいって思えてる?」
「どういう事?」
「今のかける君は使命に囚われた人みたいな感じがするっていうか、肩の力入り過ぎっていうか。皆を笑顔にしたいならまずは自分が笑顔にならなくちゃ」
そう言ってあげははニッと笑顔を見せる。そんな中でかけるはキョトンとした。
「ほーら、笑って笑って」
「こうかな?」
「ふふっ、そうそう。大事なのはアゲの気持ち。言葉で現すのは私にはちょっと難しいけど、誰かを助けなきゃ〜って気持ちに囚われて自分が心の底から楽しまなかったらきっと誰も笑顔にならないよ。だから、まずは自分の気持ちをアゲるの。そうすれば、きっと皆もかける君のひたむきさを受け止めてくれてアゲになる」
そんな風にあげはが話しているとかけるは少しだけプッと噴き出してしまう。あげはの前向きな言葉を聞いていると自分がどれだけ他人を笑顔にするという使命に囚われていたのかを感じ取った。
「ぷっ……ふふっ……」
「え?かける君、どうしたの?」
「アゲの気持ち……か、うん。俺に足りない物を埋めてくれた気がする。あげはさんがずっと前向きでいようとする理由がわかったよ。ありがと」
かけるはそんな風に少し前まで敵だったはずの自分に何の躊躇いも無く接してくれたあげはの言葉に救われた気がする。そんな中で、彼女へと聞き返した。
「それでさ、あげはさん。少し聞きたいんだけど……」
「何?私にできる事だったら……」
「何でさっきからずっと同じページで手が止まってるの?」
「……え?あ、えーっと……その……」
あげはは冷や汗をかき始める。先程から話している分を差し引いてもずっと同じ問題で詰まりっぱなしになっている所をかけるに見抜かれたらしい。
「見せてご覧」
「え?でもそこはまだかける君は勉強していない場所で……」
あげはがやっていたのはかけるが入ってくる約一週間程前に出された課題だった。ただ、明日提出期限なのに全くわからないせいで足踏みが続いてしまっているために期限ギリギリになってしまったのである。
「えっと、教科書で言ったらここだから……。うん、この問題を解くためにはこの公式を使うんだよ」
「へ?えっと、じゃあ入れてみるね……」
「あ、違う違う。その数字はここじゃ無くてここだよ」
「あっ、そうだった!ありがとう!」
それからあげははかけるからのアドバイスを貰いつつ問題を解いていく。しかもかけるは並行して自分の勉強も進めていた。
「お、終わった……」
「お疲れ様」
「かける君、頭良すぎない!?かける君からしたらまだここやってないよね?」
「あはは。でも教科書に関しては前に教えてくれた授業で進んだページまで何とな〜くだけど目は通したんだ。だから少し理解が早かっただけだよ」
そうやってサラッと言うが、あげははかけるの頭の良さに驚きを隠せない。何しろ今やった部分の前にはこの公式に辿り着くための別の公式もあったのだ。それを少しやっただけで意味を理解して本題の公式を理解する所までできたかけるの能力の高さに感心してしまう。
「かける君、スタート遅れてるのに勉強できるなんて凄すぎだよ。というか、その内私達をごぼう抜きしそうなくらい」
「そうかな……。でもさ、わからなかった問題がわかるとさ。アゲ!って感じだよね」
それを聞いてあげはは目を見開く。かけるは今、先程自分が言った“アゲ”という言葉を特に照れることも無く言った。自分の口癖のアゲを最初の一回目で躊躇無く言ってくれたのは他を探したらスカイランドから来て最初はこちらの常識がほぼ皆無だったユキやソラぐらいだ。
ちなみに幼馴染のましろやアサヒに関しては、最初は戸惑ってしまったらしい。あれだけ仲の良い二人なら最初から言いそうではあるが、その事は今は置いておこう。
「かける君……私のアゲ……言ってくれた」
「あげはさんが教えてくれたんでしょ?アゲの気持ちが大事だって。俺は良いと思った事は割と抵抗感なく実行できる人みたい」
かけるのその顔は無理をしてアゲを使ったわけでも何でもない。ごく自然に、しかも楽しそうな顔つきをして言ったのだ。
「かける君、勉強の事とか色々ありがとう」
「色々?」
「うん、色々!」
それからというもの、二人は打ち解けあった。その週の週末までの数日間の間、毎日のように二人は図書室で勉強をしながらお互いの事を話したのだ。そんな中で金曜日の自主勉強の終わり際の事。
「ねぇ、かける君」
「何?あげはさん」
「明日さ、時間ある?」
「時間……あるけど何で?」
「じゃあ、ちょっと買い物付き合ってよ」
「え?」
翌日、二人は買い物に行く事が決まった。そして、当日の朝。かけるはあげはに言われた通り、ソラシドモールにやってきていた。
「ヤッホー、かける君!」
「あげはさん」
「急にごめんね、遅れた分の勉強とかも忙しいのに」
「ううん。今回の件は勉強関連の話だし、俺も買い物だったらするつもりだったから」
この日、あげはとかけるの二人は授業に必要になるために持ってきてほしいと学校側から指示されたために一緒に買い物をしに来ていた。
「でもまさか、絵を描くための道具を買って欲しいって言われるなんてね」
ちなみにこの時二人で買い揃えた絵を描くための道具は後に保育園の壁画を描く話の時に出てきた絵を描く課題で活かされる事になる。
「でも意外だね。かける君、スケッチブックとかを買うだけだったらホームセンターって手もあったのに」
「あはは、実はちょっと二人で行きたい場所があってさ」
「そうなんだね!」
「あ、あとそれとヨヨさんからまた買い物を頼まれてて……」
かけるが持っていた手帳をちぎったメモに書いてあったのはごく普通の物からそれはまた何に使うかわからない物もあった。
「ピンクの布に……え?鬼の描いてある旗?」
「正直俺も何でこんな物が必要になるのか全くわからなくて」
他にはピンクの布とは別で裁縫が可能な布や絵の具やらやたら小物が多かった。まるで劇でもやりそうな感じのセットである。
「ヨヨさん、劇とかでもやりたいのかな?」
「でも、ヨヨさんと親しい園児の子達っているのかな」
尚、これらの道具は翌日にはすぐに必要になる物達ばかりであった。その理由に関してはまた後でしよう。
それから二人が買い物を済ませると足を運んだのはゲームセンターであった。それからかけるが向かった場所にあったのは空気によって浮いた弾を打ち合って相手のゴールに入れるゲーム、エアホッケーである。
「これって、エアホッケー?」
「うん。この前ヨヨさんの買い物で来た時に偶々見かけてね。でも流石に俺がここでゲームしたいなんて言い出すのはちょっと恥ずかしくて」
かけるとしては他の面々よりも年齢的に歳上の自分が歳下の子達相手に対戦ゲーム。しかも腕力とか反射神経とかが割と重要になるゲームを誘うのが恥ずかしかったらしい。
尚、その場にユキやソラ達もいたので彼女達なら喜んでこのゲームに参加しそうであるが。
「あはは、なるほどね。じゃあ、やるからにはアゲて行くよ!」
「うん」
それから数分後、二人は少しだけ弾んだ息をしながらエアホッケーを終えていた。結果としては8対10でかけるが勝ったものの、割と接戦ではあった。
「かける君、楽しそうだね」
「折角来てるんだし、楽しまないと損だと思ったからだよ」
その言葉を聞いてあげはは嬉しそうに頷く。そのままの流れで二人はゲームセンターを楽しんだ。今やってるのはゾンビを討伐するシューティングゲームである。
「かける君凄っ……。さっきから出てくるゾンビとか全部撃ち抜いて倒しちゃうじゃん!」
「昔、中学一年くらいの時にこのゲームをやった時に友達から同じように褒められた後確か……弾バカって渾名も付けられたね。しかもその時着ていた服が“千発百中”……だったかな?」
「意外にもかける君ってその頃ははっちゃけてたんだね」
そしてあげはは後に保育園実習関連の話の中、虹ヶ丘家でかけるがこのくらいの年齢まではあまり頭が良くなかったと聞いて驚きと同時に内心でどこか納得したのはこれもまた余談である。
その後も二人はゲームセンターを楽しむとこの日はもう夕方となる。二人は買い物した荷物をそれぞれの車に乗せるともう別れる時間になってしまった。
「今日はありがと。かける君といられて楽しかった!」
「俺も。あげはさん、ずっと明るい顔ばかりだから俺も今日は嫌な事全部忘れて楽しめたよ」
二人はたった一週間という時間しか経ってないはずなのに絆はかなり深まったと思えたのだ。それと同時にかけるはやはりあげはが虹ヶ丘家にいないのを少し寂しく感じてしまう。
「あげはさん」
「何?かける君」
かけるはあげはに一緒に虹ヶ丘家で暮らす事を誘おうと考えた。しかし、それを言おうとした所で踏み留まる。それは今の自分達の関係だ。あくまで今の自分達はまだただの学友でしか無い。
自分は今回の件も含めてあげはに興味も湧いたし、好意的な気持ちだって出始めてる。だが、それはあくまで自分の気持ちが勝手に一方通行しているだけだ。あげはにそれを伝えたって迷惑に取られるかもしれない。そう思ってかけるはこの土壇場で躊躇してしまう。
「えっと……」
かけるは一度この気持ちはしまっておくべきと最終的に踏み留まると今度は誤魔化す口実を思考する。そんな中だった。ヨヨから電話がかかってきたのは。
「あれ?かける君、携帯鳴ってない?」
「ほんとだ。ごめんね。はい、もしもし……え?」
それからかけるは通話を終えるとあげはの方を向くと真剣な顔つきになって彼女へと話しかけた。
「……あげはさん、ユキちゃん達が……スカイランドに行ってた皆が全員こっちの世界に戻ってくるみたい」
「え?」
こうしてあげははその日、急遽隣町の家に戻って支度をするとユキ達を迎え入れる準備をするために虹ヶ丘家に急行。翌日、帰ってきた一同を迎え入れるとソラシドモールで購入した道具を使用してエル太郎一座の鬼退治をやる事になるのだった。
本当なら今回で回想後のアサヒとかけるの二人による会話までやるつもりでしたが、諸事情で分割する事にしました。それではまた次回もお楽しみに。