熱き太陽 静かなる雪の輝きに照らされて   作:BURNING

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かけるの決意 加速するアサヒの異変

かけるが話を終えるとアサヒはようやく理解した。スカイランドから自分達が帰ってきた後にかけるとあげはがあんなに仲良くなっていた理由を。それと同時にかけるはアサヒへと続けて話す。

 

「あげはさんは明るくて、前向きで。誰かの事を笑顔にできるだけの何かがある。でも、俺はあげはさんのような明るい思考をトレースできても……結局できるのは理解力とかを使った他人の真似事だけ」

 

「はぁ……。かけるさん、あげは姉はかけるさんの頭が良い所とか、できない事を工夫でどうにかできる所とか……色々頼りにしてるんですよ。良い加減気がついたらどうですか」

 

アサヒはそう言ってからかけるは愛想笑いを浮かべると自分のネガティブさに自嘲するように俯く。

 

「アサヒ君」

 

「何ですか?かけるさん」

 

「もう少しだけ時間がほしい」

 

「それはどんな目的があるんですか?あげは姉の気持ちを断る理由探しだなんて事を言ったら……」

 

アサヒは鋭い目線を向ける。その瞳の奥にはアサヒの物とは思えない程に黒く禍々しさも含んだような物が映る。そのためかけるは一瞬だけその眼光に動揺するが、それを顔には出さない。

 

「ッ……。俺はあげはさんが好きだ。異性として、女性として。でも今の俺じゃ、あげはさんの気持ちに応えられるような力は無い」

 

「……それで?」

 

「俺はあげはさんに似合う男になる。もっと自信を付けて、あげはさんが付き合って後悔しないような人になるよ」

 

「はぁ……。わかりました。今はそれで良しにしておきます。ただ、あげは姉は確実にかけるさんの事が好きですよ。あげは姉が告白した時にかかるさんがいい加減な対応をして傷つけたら……俺もユキも、そして他の皆も許しませんからね」

 

かけるは苦笑いすると小さく頷く。それから未だに目を回したままのツバサを揺らすと彼を起こす。

 

「はっ!?あ、あれ?ボクが倒れてからどのくらい経ったんですか?」

 

「結構時間は経ってるよ。ツバサ。あと俺はそろそろ限界だから……もう寝るね」

 

「え?あ、はい。おやすみなさい」

 

それからアサヒはフラフラと歩くと部屋から出て寝室へと向かう。そんな中、ツバサはかけるへと問いかける。

 

「えっと、何であんなにアサヒさんは怒ったような感じなんですか?」

 

「うん。ちょっと優柔不断な俺を見て苛立っちゃってるだけ。もっとあげはさんが背中を預けられるような人にならないとな」

 

それを聞いてツバサは目を見開く。ツバサもかけるとあげはが両想い関係なのは知っている。だからこそかけるの決意に自分も背中を押されたような気がした。

 

「かけるさん。じゃあボクもこの辺で」

 

「うん。おやすみ、ツバサ君」

 

「はい。おやすみなさい」

 

ツバサが出て行った後。かけるはツバサも去って行ったのを見てふと考える。先程のアサヒが見せた別人のような鋭い視線だ。

 

「……やっぱり、アサヒ君は体内のアンダーグエナジーにかなり侵食されてる。もしかすると限界が近くなってるのかも」

 

かけるはこの事を他の皆と共有すべきか迷った。確実なのは全員に共有する事だ。ただ、共有の範囲は絞らないといけないとかけるは直感的に感じる。

 

「……まずユキちゃんはこれを聞いたらショックを受ける。……ユキちゃんが沈んだり、この事実を知ったらヒョウちゃんも精神的負荷がかかるからダメ。ソラさんは多分隠せないだろうし、ユキちゃんに伝わるリスクがあるからダメ。……となるとましろさん、ツバサ君、あげはさん辺りが妥当か」

 

しかし、やはりこの三人だと一番頼りやすいのはあげはだという事に変わりは無いだろう。歳下に余計な負担を背負わせたく無い気持ちも相まって無意識にましろやツバサの選択肢も除外していた。

 

「やっぱりあげはさん……か」

 

ただ、かけるはこの期に及んであげはに頼るのを少し躊躇していた。こんな大事な事にあげはを巻き込む事をかけるは嫌がっているのだ。

 

「……何考えてるんだ、あげはさんを巻き込みたく無いだなんて……。それにプリキュアに関連する事だしいずれは何かしらの形でバレるんだ。だったら早い方が良い」

 

かけるは近いうちに今のアサヒの現状をあげはにしっかり話そうと考える事になる。

 

同時刻。就寝のための動きをしているアサヒは意識が朦朧とし始めていた。

 

「ヤバい。かけるさんに気を使わせないようにするためにどうにか起きてたけど……意識が遠くなり始めた。もう寝ないと……」

 

この時、いつもの寝る前のルーティンが今日のアサヒはできていない。ただ、そんな事を言ってて寝る時間が足りないと翌日の活動に支障が出てしまう。それは避けないといけなかった。

 

「くそっ……頭もズキズキし始めたし。本格的に不味い」

 

アサヒは壁にもたれかかる形でどうにか部屋にまで移動しているが、限界が近かった。あと数メートルで自分の部屋なのにその数メートルが移動できなくなりつつある。

 

「アサヒ君!?大丈夫!?」

 

そこに偶々通りかかってきたのはユキだった。慌ててユキは倒れかけているアサヒへと肩を貸す。

 

「ユキ……すまない」

 

「ううん。このくらい大丈夫。あと少し、歩けそう?」

 

「ああ……ユキが支えてくれるならどうにか」

 

それから二人がアサヒの部屋の前に来る中、アサヒの瞳はボーッとし始めてしまう。

 

「アサヒ君、着いたよ」

 

「………」

 

「アサヒ君?」

 

「ああ……大丈夫」

 

アサヒは意識が飛び飛びになっているのを見て自身がかなり危険な状況だと再認識する。それと同時に闇の自分がこんな状態の自分をそのまま見過ごさないと考えるとユキへと伝えた。

 

「ユキ、悪い……中まで来てくれ。もう、一人では行けない」

 

「うん。わかった」

 

それからユキがドアを開けると中に入る。それからドアを閉じると一度部屋の電気をダウンライトとして付け、アサヒをベッドに寝かせた。

 

「ユキ、ごめんな……」

 

「ううん。それよりも、アサヒ君。体、平気?」

 

アサヒの顔色は見るからに悪くなっている。かけるの話を聞く関係で無理して起きていたせいで体への負担が増加してしまったのだ。

 

「ああ。ちょっと頭が痛いけど……もう寝るから、大丈……夫」

 

そのままアサヒは小さく寝息を立てながら寝てしまった。そんな彼を見てユキは不安そうな顔のまま彼の手をそっと握ると寝顔を眺める。

 

「アサヒ君……私のせいでこんなにも苦しめて……ごめんね」

 

ユキはアサヒの寝顔を見て癒される……なんて事は無かった。むしろ、彼女が抱いた気持ちは逆。自分が不甲斐ないせいでこのような事態にしてしまった事への謝罪だった。

 

「……アサヒ君は私が絶対に助けるから、あと少し我慢してて」

 

ユキがそっと声をかけてから立ち上がって去ろうとする。すると、そんな中だった。寝たはずのアサヒがいきなり薄らと目を開けると起き上がってからユキへと声をかける。

 

「……ユキ、そんなに気にしなくても大丈夫だぞ」

 

「えっ……アサヒ君?体は……大丈夫なの?」

 

その動きはまるで先程まで感じていた体の不調をまるで感じさせなかった。そんな中でアサヒはユキへと更に話す。

 

「流石にまだキツイよ。でも、ユキに心配をかけたく無いからさ」

 

そんな風に平然とした返しをするアサヒを見てユキが困惑する中、彼はベッドから降りるとユキの元にゆっくり詰め寄っていく。

 

「アサヒ君!?もう夜遅いし、寝てないとダメだって!」

 

ユキが慌てた様子でアサヒをベッドに戻そうとするが、彼女の背中にいきなりゾクっと悪寒を感じる。それはいつものアサヒから感じられる物じゃなかったからだ。

 

「ねぇ……。あなたは本当にアサヒ君なの?」

 

「今更何言ってるんだよユキ。俺はアサヒだ」

 

するとユキはアサヒに詰め寄られて恐怖を感じたためか、後退りする。今、手元にミラージュペンは無い。プリキュアへと変身しての対抗はできなかった。

 

「ッ!?きゃっ!」

 

そして、そのままユキは恐怖のあまり足をもつれさせると後ろに尻もちをついてしまう。

 

「ふふっ。ユキ、そんなに慌てて恐怖に怯えてどうしたの?俺はお前の彼氏だろ」

 

アサヒはユキの上に跨るようにしてマウントポジションを取ってしまうと顔を近づける。

 

「ッ!?」

 

「ユキ……愛してるよ」

 

「あ、アサヒ君?」

 

アサヒからかけられた“愛してる”宣言。普段のユキなら嬉しい事この上ないこの言葉だが、今の彼女にとって見れば目の前にいるアサヒはアサヒの姿をした別の何かにしか見えてならなかった。

 

「やっぱりユキは可愛いな。俺のために色々頑張ってくれて……そんな健気な所も好きだ」

 

アサヒはユキの頬を断りもなくいきなり触る。ユキの顔に浮かんでいたのは目の前にいるアサヒに対しての恐怖心以外何も無かった。

 

「……や……」

 

「うん?」

 

「嫌っ!離し……モゴッ!?」

 

ユキは叫んでしまいそうになるが、いきなり手で口元を塞がれてしまうと声は出なかった。ユキの目には既に涙が浮かんでおり、今にもアサヒの前から逃げ出したかったのだ。

 

「ダメだなぁ。そんな風に逃げたら。……ユキ、俺の彼女なんだろ?だったらさ……俺と※※※*1しようよ」

 

ユキは次の瞬間。アサヒの瞳に禍々しい何かが見えると目の前のアサヒが一瞬だが、前に自分を襲ってきた暴走状態のアサヒに映った。そして、ユキの防衛反応はそれを受けてすぐに機能する。

 

「ッ!!いやあっ!」

 

「ごはあっ!?」

 

ユキは咄嗟にアサヒの胸ぐらを掴んでから彼を巴投げ。そのまま壁に強く体を打ちつけたアサヒは相応の叫び声を上げるとそのまま気絶してしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ユキの顔は真っ赤に染まっており、目の前のアサヒに恐怖しか感じられなかった。そして、彼女は一目散に部屋から逃げ出すと自分の部屋に駆け込む。

 

「怖かった……怖かったぁ……」

 

ユキは冷や汗を大量に流しており、手が震えていた。あのままアサヒじゃない別人の彼に好き放題されたら自分は取り返しのつかない何かをされてしまう。そういう恐怖に晒されたのだ。

 

すると少しして廊下が騒がしくなると同時に部屋がノックされる。ユキがドアを開けるとそこにはソラやヒョウが心配そうな顔をしていた。

 

「ユキさん!?大丈夫でしたか!?」

 

「ソラちゃん、ヒョウ」

 

「ユキ姉の叫び声と大きな音がいきなりアサヒの部屋から聞こえてきたから……。心配して。……あの野郎、とうとうユキ姉に手を……」

 

「待って!……誤解、誤解なの!」

 

ユキは慌てて疑われたアサヒの事を擁護するために声を上げる。それから一通りユキは事情を説明した。

 

「……そんな事が」

 

「うん。だから、いつも過ごしているアサヒ君は冤罪なの。悪いのはきっと……アサヒ君の中に潜んでるもう一人のアサヒ君」

 

「ひとまず、ユキさんはここにいてください。今あげはさんとかけるさんが先頭でましろさんやツバサ君も行ってくれてますから」

 

それを聞いてユキは安心と共に申し訳なさを感じる。自分のせいでまた皆に迷惑をかけてしまったと感じたのだ。

 

「うん……わざわざ私のためにありがと……今日はもう、休むね」

 

「はい……」

 

「アサヒには明日ちゃんと謝るように言っておくから」

 

「……うん」

 

ユキはそう言って頷くと二人がいなくなるのを見送ってからベッドの上で体育座りをしながら顔を埋めた。

 

『……ユキ、大丈夫?』

 

「ライトピラー」

 

『話はルーセントムーンから聞いたわ。あなたが会ったあのアサヒは予想通り闇のアサヒよ』

 

「そう……だよね。ありがと、教えてくれて」

 

ユキは気落ちしていた。自分はアサヒへと自己防衛のためとはいえ反撃してしまったのだ。ユキはその事に罪悪感を感じてさえいる。だが、あの場面で咄嗟に反撃したのはむしろ正解行動だ。ユキが気に病む必要は無いのである。

 

「……ごめんね、アサヒ君」

 

同時刻。気絶したアサヒの精神内にて。カゲロウはアサヒが夜更かしして意識が酷く弱ったために、ユキが近くにいたのもあってチャンスと考えて乗っ取ってユキを襲った。

 

「……チッ。やっぱりバレるよなぁ。……それにしても、恐怖に怯えて弱ったユキを見てるとやっぱり興奮する。ただ、これ以上勝手に動いたらヒューストムの野郎と連携できなくなるな」

 

虹ヶ丘家の自分への警戒度は段々上がりつつある。しかも今回の件が未遂に終わった以上、もうヒューストムからの作戦に合わせないと出るのは難しそうだ。

 

「……なぁに、焦る必要は無い。この体もユキも、あと少しで俺の物になる。絶望に染まる奴等が楽しみだ。そして、その時にユキを俺好みの女として染めてやろう。あははっ!」

 

こうして、カゲロウはアサヒの意識の奥へとまた帰っていった。尚、翌日の朝。意識を取り戻したアサヒはソラ達から事情を聞くとユキへと土下座をしつつ誠心誠意謝罪。

 

ユキは昨日の件はカゲロウがやった事である点からアサヒ本人に罪は無いと判断。彼が本気で謝ったのも相まって今回の件はひとまず水に流す事になるのだった。

*1
卑猥な発言につき何を言ったかはご想像にお任せします。




また次回もお楽しみに。
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