虹ヶ丘家で掃除をした翌日。この日、ユキやアサヒ達他の面々はそれぞれに用事があって外に出払っていた。そんな中で家にいるのはツバサ、ヒョウ、ヨヨの三人だけである。
するとツバサは一人プニバードの姿で自分の巣箱が置いてある木の置き物の上に座って溜め息を吐いていた。
「はぁ……」
「やっぱり元気ないわね。ツバサ」
溜め息を吐いた彼の前にやってきたのは人間態のヒョウである。ヒョウはポンと音を立てるとツバサの隣に降り立った。
「ヒョウ」
「この前の件でツバサが悩んでるのは何となく察してる。相談くらいになら乗るから」
ヒョウがツバサへとそう話すが、ツバサはヒョウへと愛想笑いを向けてから俯いてその提案を断る。
「いえ、ボクは大丈夫だから。気にしなくても……」
「気にするわよ……。そんな顔してるツバサを見てたら気にするに決まってるでしょ!」
ヒョウはツバサに断られたのを受けてツバサに手を置くと半ば無理矢理に自分の方を向かせた。
「ツバサ、あなたが何で私を頼ろうとしないのかは知らないけどさ。私とツバサってほら。一年以上ここで一緒に暮らしてる付き合いでしょ。少しくらい私を信頼してほしいな」
ヒョウから言われてツバサはやっぱり言いにくそうな顔つきとなる。ヒョウはそんな煮え切らない態度のツバサにムッとした。
「……もしかして、私に関わる何かをやらかしてそれが言えないって事?」
「そんな事は無いですよ。ヒョウ関連の事で後ろめたい何かをやったわけじゃ」
「そう」
ヒョウはツバサからの返事を聞くとその返し方が自信無さそうだったので更に詰め寄ろうとするが、そんな時にヒョウの脳裏にある事が浮かんだ。それから彼女は覚悟を決めるために深呼吸する。
「ふぅ……だったらさ。その……」
ヒョウは何かを言おうとしてはそうじゃ無いと言わんばかりに顔を難しくするのを数回繰り返す。更に一度人間態になってからツバサの周りを忙しなく動いたり腕組みしたり、そんなツバサの周りをウロチョロしたら流石に気になるわけで。
「ヒョウ、何してるんですか」
「え、えっと……その……」
ヒョウがこうしている理由を言い出そうとしては言うのを躊躇う気持ちでいっぱいになるも、それでは先程までツバサを問い詰めていた行為と色々矛盾するのでヒョウは意を決して話した。
「……ツバサがどれだけ話しづらい悩みだったとしても私は受け入れるわ。だからその……話してよ」
ヒョウはポンと再度プニバードに戻るとツバサの隣に降り立ちつつ顔を赤くしながら先程までの高圧的な態度から一変。ツバサの気持ちに寄り添うような可愛らしさを出した話し方をした。ただ、彼女が男勝りな性格のせいでその喋り方も仕草も不恰好である。
「ヒョウ……」
すると彼女は口角がピクピクとしている上に顔も引き攣っている。ヒョウは甘えるようにしてわざと可愛らしい仕草をするのに慣れていないのだ。
「無理してそんな顔しなくたって……」
「じゃあ、教えてくれるの?……教えないならずっとこうやって見つめてるよ?」
ツバサはそんなヒョウの言葉を聞いてとうとう折れる事になった。ヒョウはかなり無茶して今の顔を見せていたのだ。先程、彼女が悩む前に深呼吸をした。その直前までヒョウはツバサへと更に強めに言うように迫るつもりだったのだ。
だが、彼女はそれを思い留まるとユキやあげは達に言われた女の子としての可愛らしさを出してあざとくおねだりする事を選ぶ。そのやり方をした方がツバサとの溝を深めずに済むとヒョウは考えたのだ。ただ、それは普段のヒョウが全くやらないような行為。それにそんな慣れない事をするのは羞恥心だってある。だからこそヒョウは覚悟を決めてツバサへと甘えるような仕草を見せたのだ。
「わかりました。ちゃんと話しますからそんな無茶して作った顔を向けないでください。ボクが見たいのは自然に微笑んでくれるヒョウですから」
ヒョウはそれを聞いて赤くなってた顔が更にカァーッと熱くなるのを感じるとそっぽを向いてしまった。
「ふ、ふん!わかれば良いのよ……」
ヒョウがいつものようにツンデレ気味な言い方で納得すると、その隣でツバサは己の中に溜めていた悩みを話そうとする。そこにヨヨがやってきた。
「ふふっ。やっと話は纏ったみたいね」
「ヨヨさん!話が纏ったって?」
「ヒョウさんにツバサ君へと聞きに行くように言ったのは私だからよ」
どうやらヒョウが来て、ツバサ相手に悩みを打ち明けるように頼み込んだのはヨヨからの話だったらしい。
「ヨヨさんも人が悪いわよ。ツバサに話しかけるなら自分から行けば良かったのに」
「そうですよ。どうしてヒョウを使おうと思ったんですか?」
「そうね、……その方がツバサさんにとって悩みを話しやすいと思ったからよ」
ヨヨには全てがお見通しだった。恐らく、ヒョウが相手なら最終的にツバサが折れるのも計算済みだったのだろう。
「それに。ヒョウさんの方もツバサさんと向き合う中でちゃんと成長すると私は信じてたわ」
それはつまりヒョウがツバサから話を引き出すために正面から強く圧をかけるのではなく、ツバサが質問に答えやすくするために自分で考えて可愛らしさを強調した聞き方をするとヨヨは最初から判断していた事になる。
「本当にヨヨさんには敵いませんね……」
「じゃあ、説明も終わった所であっちでお茶をしながらゆっくり話しましょうか」
「える!えるる!」
するとエルもお腹が空いたとばかりに声を上げる。ヨヨはエルがこの時間にお腹が空くだろうと予想していた。という事はヒョウを向かわせたタイミングをこの時間にしたのも狙ったタイミングと言えるだろう。
「こういう時はリラックスできる……」
「「「カモミールのハーブティー!」」」
ヨヨが言った言葉とツバサ、ヒョウの言葉は一致していた。そして、答えが満場一致になったことを受けてツバサとヒョウは顔を見合わせる。
「あら。ツバサさんやヒョウさんもお見通しみたいね」
それから顔を見合わせていたツバサとヒョウは吹き出して笑い、ヨヨもつられて微笑んだ。ただ、エルだけは状況がわからずにキョトンとしていたが。
「「「あははっ」」」
約十分後。準備が整った所で三人は居間のソファーに腰掛けてお茶をしていた。それと同時にエルもミルクを飲む。その直後に早速ツバサが悩みを打ち明ける事にした。
「ぷはぁ!」
「……ボク、プリキュアになって空を飛ぶ夢が叶った事。凄く嬉しいんです。ただ、なんていうかその……」
「努力が無駄になったような気がする?」
「はい」
それを聞いてツバサは頷き、ヒョウは目を見開く。確かにツバサは今まで沢山の努力をしてきた。その事実は側でずっと見てきたヒョウはよくわかる。そのためにヒョウは声を上げた。
「待って、ツバサ。努力が無駄だなんてそんな事……」
「別に良いんですよ。結果的にボクは夢を叶えましたし、今のボクにとってプリンセスをお守りする事が大切な事ですから」
ヒョウが声を上げるものの、ツバサはヒョウからの指摘を無理矢理上書きして自分を納得させるように呟く。
「ただ……」
「ただ?」
「プリンセスが大人になったら……ボク達がずっと側にいる必要も無くなります。そうなった時にボクだけ何も目指す先が無いなって思ってしまって」
言われてみると、空を飛ぶ夢がこんなにも早く達成されて終わった影響でツバサの目指す先は空白になってしまった。ソラやユキは青の護衛隊。アサヒも将来的に見たらユキと結ばれるならきっと後追いでも護衛隊には入るだろう。
ましろには最近見つかった絵本作家としての道があるし、あげはとかけるは既に専門学校に通ってるので当然のように保育士を目指す。ヒョウは少し前に護衛隊のサポート役として就いていた事も考えると彼女も護衛隊のサポート役になる可能性が高い。
「皆さんが頑張ってるのにボクだけボーッとしてるのは……」
ツバサがそんな風に落ち込んだ顔つきになっているとヒョウが横で一度溜め息を吐く。
「……ツバサ。まさかと思うけど、夢が叶ってしまって少し前まで勉強した事が全部無駄扱いに思えてしまって。だからもう叶った夢への努力のために私の少なからぬ時間を奪ってしまった事に後ろめたい気持ちとか持ってるんじゃ無いでしょうね?」
「ッ……それは」
ヒョウはそれからツバサの顔を両手で挟むように優しく抑えると顔を僅かに赤くしながらツバサへと顔を近づけた。
「冗談を言うのはその辺にして。私は自分からツバサの夢を手伝うって決めたの。実際、ツバサの夢は凄いと思ったし。当時、自分の夢どころじゃ無かった私にとって……ツバサはその、カッコ良く見えたのよ」
だからこそヒョウは自分からツバサを手伝う意思を示し、協力してきた。その時間を全部夢が叶ったから“はい、お終い”にされた挙げ句、自分への後ろめたさを持たれるのはヒョウにとってはこれ以上無いくらいに嫌なのである。
「ツバサの努力は無駄なんかじゃ無い。そうよ!その努力はきっと、何かを得るための力になってくれる!だから、私の時間を奪ったとか、私に無理に手伝ってもらったとか。そんな風な後ろめたさなんて感じないでほしいわ」
ヒョウに激励されてもツバサはやっぱり自信が持てない。そもそも、ヒョウに努力が役に立つと口で言われただけだと結局実例が無いのでツバサとしては上手く受け止められないのだ。
「そうなんでしょうか……」
するとそんな二人の話を聞いてヨヨは何かを思いついたのか微笑むと二人へとある提案をした。
「……そうね、じゃあ今度の休みの日。皆でお出かけしましょうか!」
「「……え?」」
ヨヨが出した提案。それは次の休みでヨヨが主体である場所にお出かけするという事だった。参加メンバーは虹ヶ丘家に住む面々と別途でひかるも誘う事に決まったので、明日には学校でひかるにも声をかけるという流れも決まった。
このような経緯があって場面は変わり、翌日の中学校にて。学校に来ていたユキ、アサヒ、ソラ、ましろの四人で早速ひかるを誘う事にしたのだが……。
「え?今週末にお出かけ?」
「はい!ひかる君にも来てほしいってヨヨさんが」
「あー……」
ただ、その話を聞いたひかるの顔はどこか申し訳なさそうな感じであった。
「あれ?ひかる君、その感じはもしかして……」
「うん。実はその日は先約があって、その……らんこさんに一緒にお出かけしよって誘われてて」
それを聞いて四人は納得の顔つきとなる。前々から説明があったが、ひかるはらんことお付き合い中だ。そして、らんこの話題になると思わず顔が緩むくらいにひかるは幸せの真っ只中。そうなるとらんこからの誘いを断る理由は無い。
「わかったよ。じゃあひかる君はらんこちゃんとのお出かけを楽しんできて」
「ああ。ありがと!」
それからソラとましろが行く中、アサヒはふと何か気になったのかひかるへと質問する。
「そういや、ひかるはらんこさんからどこに行くとか予定は言われたのか?」
「え?……いや、詳しい行き先とかはわからないな。確か、動きやすくて、汚れても大丈夫な服装で来いって言われてる」
「ふむふむ」
「多分だけど、山にハイキングとかで行くんじゃないのか?ほら。確かお前らもらんこさん達も前にらそ山に登ったんだろ。その時俺はいなかったからな」
ユキ達は以前らそ山へと山登りをした事がある。ただ、まだその頃はひかるとの関わりは強く無かったので誘われる事は無かったのだ。
「それにしてもらんこさんは優しいな。俺の得意分野のお出かけ先にしてくれるなんて……」
ひかるはらんことイチャイチャしながらハイキングができると想像してボーッとする中、アサヒが何かを察したのか一瞬だけ固まる。ユキはそうなったアサヒが気になって声をかけた。
「アサヒ君?どうしたの?」
「……俺の予想だけどな?ひかるの奴勘違いしてるかも」
「え……あっ!そういう事?」
アサヒとユキはひかるの話を聞いて一つの仮説が立ち、それが現実となるのであれば恐らくひかるが誘われたのは二人きりでのハイキングでは無いと感じ取ったのだ。
「あれ?アサヒ、ユキさん。どうした?」
「え、えっと……」
「いや、何でもない。らんこさんとのハイキングデートを楽しんできな」
「おう、楽しんでくるわ!」
ユキが話すのを遮ってまでアサヒは誤魔化す事にした。そのまま話が終わってしまうとユキがアサヒへと何故止めたのか聞く。
「アサヒ君、何で止めたの?」
「……いや、今かららんこさん達に誘われた先が俺達の目的地と一緒って言われたらガッカリするかもだろ。ここはアイツのテンションをそのままに保っておくべきだ。落ち込んだ顔をさせたまま彼女の元には送り出せない」
「う、うん……」
実はユキ達もひかると同じで動きやすく、汚れて良い格好をするようにヨヨから連絡が回っていた。そして、出かける日付が全く同じ事。また、出かけ先がわからないという点から総合して恐らくどちらの世界も同じ場所を目指すのではないのかと二人は察したのである。
「勿論あくまで予想だ。確証が無い話をアイツに教えるのもダメだろ」
「それも……うん、そうだね。アサヒ君、止めてくれてありがと」
こんなやり取りもあってひかるは今回のお出かけには不参加となるのであった。ちなみにヨヨからはお出かけ先は当日発表という事で伏せられている。ユキ達はどんな所に行く事になるか、楽しみな気持ちを膨らませつつ待つのであった。
今回の話でひかるがまた世界を跨ぐ事になりましたので、ひかるの方の動きを見たいのでしたらかねてより関わりのある獅子河馬ブウさんの小説の“ひろプリに野良猫系キャラを入れてみた”の方でもうじきに投稿されますのでそちらを読んでもらえると幸いです。URLは以下の通りですのでよろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/328218/
それではまた次回もお楽しみに。