週末の朝。ユキ達が眠りから覚めて起きるとヨヨから言われて動きやすく、汚れても大丈夫な服装へと着替えていく。
「おはよ、ユキ」
「おはよう。アサヒ君」
「……まさかヨヨさんが畑仕事をやるって言うなんてな」
ヨヨから言われた今日のお出かけの目的はヨヨが自分で所有する畑で作業をするという事だったそうだ。
「ただ、畑仕事……正直気乗りはしないなぁ」
「私はやってみたいかな。スカイランドにいた頃は農作業はやった事なくて」
「あれ?でもユキが居候していたソラの実家って農村にあるって話じゃ無かったか?」
そう。スカイランドにあるソラの実家はお城のある島から離れた所にある島の農村に存在する。そのためアサヒはユキに農村の経験があるのではないのかと気になった。
「ううん。実はソラちゃんのお父さんのお仕事はスカイジュエルの炭鉱作業員でね。農業はやってなかったんだ」
「スカイジュエルの炭鉱作業員……普通に農業をやるよりもキツい仕事してたんだな」
炭鉱での作業は相当な肉体労働系の仕事。トレーニング込みとはいえ、ソラが丈夫な子に育った所以の一つとして彼女の継いだ遺伝子も関係しているかもしれない。
それはさておき、話をしている間に出かけるための準備が着々と進んでいた。
「そういえば、車一台じゃこの人数を乗せるのは……」
「そうですよ!あげはさんの車だけじゃ……」
今現在、ユキ達の人数は合計10人。一台の車には確実に乗ることができない。このままでは移動手段が無いという話になるが……。
「え?別に一台で乗る必要は無いんじゃないかな?」
「へ?」
「そうそう。少し前だったら難しかったかもだけどさ。今はもう違うよ」
ましろやあげは達他の面々はしっかりわかってる中でアサヒだけその意味がわかってなかった。それから外に出るとそこにあったのはあげはの車であるハマーの隣に駐車されていた黒いカラーリングのヴォクシーと呼ばれるミニバンの車があった。ボンネットにはしっかりと初心者マークが付いている。
「あれ……この車……あっ!」
「うん。俺の車だよ。実は入学祝いで親戚の人に買ってもらえたんだけど、シャドーに乗っ取られた件とか色々あってあまり使えてなくて……。でも、俺とあげはさんがそれぞれ運転すれば10人全員が乗れるようになったよ」
アサヒは完全に失念していたが、ここにはあげはと同世代の大学生。かけるがいる。彼もその気になれば免許を取れる年齢。そのために車を購入していたのだ。
「そういう事か……。確かにこれなら……」
「ほんと、かけるさんの事忘れるとかアホにも程があるでしょ。アサヒ」
「煩せっ!偶々俺も忘れてたんだよ!誰にだってそういうミスはあるだろうが!」
アサヒが失念していた事をここぞとばかりに毒を吐きながら責めるヒョウ。これもいつもの光景だ。
「さて、どっちの車に乗るかチーム分けしないとね」
一応乗車可能人数はあげはの車が5人。かけるの車は7人。二台で10人という基準は満たしているので後はどう別れるかだ。
「ヨヨさんは俺の方に乗せるよ。多分単純な乗り心地だったらヴォクシーに乗せたほうが良いと思うし」
「うん。ハマーは普通の道路よりもオフロードの方が乗り心地は良いけど、今回ヨヨさんに聞いたら途中までは普通の道路みたいだからね」
というわけでヨヨはかけるの方に決定。それからそれを考慮したらエルもかけるの方にすべきと判断されて芋づる式に自称エルのナイトことツバサもかけるの方へ。
「じゃあ私もかけるさんの方に行くわ」
「という事は私達四人はあげはさんの車ですね!」
割と消去法感が凄かったが、これによりあげはの車にユキ、アサヒ、ソラ、ましろの四人。かけるの車にツバサ、ヒョウ、エル、ヨヨの四人が座ることになる。
それぞれの車に作業に必要な荷物を積み込むと早速車を走らせる事になる。ハマーとヴォクシーが二台縦に並びながら走る。ちなみに、車の運転歴はどんぐりの背比べながらもこちらもまたシャドーからの乗っ取りがあった影響でかけるの方が技術面で拙い。
だからかけるを先にして車を走らせる事で二台が離れないようにしていた。
「おお!やっぱり車は景色がビュンビュンと過ぎていきますね!」
「鳥に乗せてもらって走るよりも最高速は速いだろうから。スカイランドじゃなかなか味わえないスピードだよ」
ユキやソラ曰く、スカイランドで乗れるような地面を走る鳥はこちらの世界で言う所のダチョウのような姿をしているらしい。ダチョウの最高速は時速にして約70〜80キロ。高速道路を走る車とほぼ同じだ。ただ、生き物なのでそれを維持できる時間は車よりも圧倒的に短い。
しかも早々出さないとはいえ車はそれ以上に速く走ることができる。そう考えるとスカイランドでの移動で使う鳥は周囲の景色を眺めたりするためにゆったり乗る方が適しているだろう。
「それにしてもヨヨさんって本当にやれる事の幅が広過ぎだよな……。畑も進めてるってさ」
「お婆ちゃんから聞いたんだけどハーブを栽培しているのは前々からやってて。今年から初めて野菜畑をやるんだって」
「私、野菜の収穫とか初めてなんだ。テンションもアガるよね!」
「はい!空もこんなに晴れ渡ってくれましたし」
「それと、ましろちゃんとさっきお弁当を作ったんだけどさ。今日は野菜畑で収穫した採れたて野菜を使うって話だからちょっと特別なお弁当だよ」
その言葉を聞いてピクリと耳が動いたのが二人。アサヒとソラである。それからソラの方は興奮して目がキラキラとした物に変わった。
「採れたて野菜の特別なお弁当!?それは、楽しみですね!そうとわかれば沢山動いてお腹を空かせないと!」
「もう、ソラちゃんってば食い意地張り過ぎだよ」
ユキがそういう中、ユキは自分の席の右側から熱い熱気を感じ取るとその方を向いてギョッとする。
「あ、アサヒ君!?」
「うぉおおっ!ユキが作ってくれた特別弁当……楽しみ過ぎる!!そうとわかれば全力で野菜の収穫を手伝うまでだぜ!」
「もう、アサヒ君ってば……」
ユキが恥ずかしそうに顔を多少赤くすると照れたような雰囲気となる。それに対してアサヒはユキが作った弁当と聞いただけでこうなったアサヒへと苦笑いを浮かべた。
「アサヒ、ユキちゃんの手作りだって知っただけでこんなにやる気になるものなんだね……。ユキちゃん、初めて来た時に比べたら料理の腕が段違いだから余計に楽しみなのかも……」
ユキはましろに料理を教えてもらって以降、料理の腕はかなり上達している。何しろ最初はただの朝食を作るだけで失敗を三〜四回も重ねた挙げ句どうにかご飯として成立はするが、飯マズと言えるくらいに下手な料理しか出せていなかった。それでも今はアサヒが夢中になるくらい美味しい料理を出せるようなレベルにまで達している。
そんな彼女が真心込めて作ってくれた特別メニューと言われればアサヒが動くのも無理はない。
「あげはちゃん、そういえばピーマンの方はもう大丈夫なの?」
「え?何で?」
「ほら、うちに来たばかりの頃ってピーマン料理があってもあげはちゃん食べてなかったし。これから野菜畑に行くからきっとピーマンもあると思うよ」
「あはは……。それはもう前の話だよ。何でかわからないんだけど、ドリームホテルに泊まった時にピーマン大王が出した生のピーマンをちゃんと食べてからピーマンの苦味を全然感じなくなったというか」
「えぇ……。あげはちゃん、そのピーマン大王?にどんなピーマン食べさせられたの……」
尚、何故あげはがこうやって克服できたかというとそのピーマン大王が食べさせたピーマンというのは普通に生で食べたらとてつもないくらいに苦いと言えるようなピーマンだった。
ましてやピーマン嫌いのあげはでは絶対に食べられないような代物だったのである。ただ、そのピーマンをかけるへの想い補正があったもののあげは食べ切った。
そのため、却って普通のピーマン程度の苦みでは嫌がらないくらいの耐性が彼女の中にできてしまったのだ。
「まぁ、何にせよずっと食べられなかったピーマンが食べられるようになった。大学生になって苦手な食べ物を克服する事もできるんだね!」
「あはは、多分その苦手な食べ物への耐性の付け方……絶対普通の方法じゃないよね」
ましろはあげはの言葉に苦笑いさえも起きる始末。そんなピーマンのやり取りがある中、かけるの方の車ではエルが外の景色を見て喜んでいた。
「えるぅ!そと、びゅんびゅーん!」
「エルちゃん、お外の景色綺麗だね!」
「えるぅ〜!」
「ツバサ君、この畑での収穫作業を通して自信を取り戻せると良いね」
「……そうですね。ボク、畑での収穫作業は初めてなのでどんな風になるか気になります」
「私もどんな風に育ってるかは気になるわね。定期的に行ってはいったんだけど」
その言葉を聞いてかけるは疑問符を浮かべる。定期的に行くとは言っても移動手段に関してはどうやって行っていたのかという事だ。また、野菜畑はこまめに水をやる等の手入れも必要となる。ここ最近ヨヨがそこまで長時間空けていた日は無かったはずだ。そう考えるとかけるは色々とそのカラクリが気になった。
「あの、ヨヨさん。畑って色々手入れが必要ですよね?今まではどうやってやってきたんですか?」
「ふふっ、手入れのための移動方法ね。……また後で教えてあげるわ。ヒントだけあげるとあなた達もよく知ってる方法よ」
それを聞いて一同は首を傾げる事になる。そんな事を話していると目的地である畑のある山が見えてきた。
同時刻、ここからそれなりに離れた山の中。ドサリと音が鳴ると同時に一人の影が汗だくで倒れ込む。
「はぁ……はぁ……」
「お、まだ耐えてたか。バッタモンダー」
そこに降り立つヒューストム。そして倒れた影の正体……バッタモンダーを見下ろす。
「ヒューストム、お前……こんな毎日死ぬ……」
「だろうな?だから前から言ってたろ。死ぬ気でやらなきゃ勝てないって。お前があと一ヶ月早く気がついてたらもう少し楽だったんだ」
バッタモンダーとしても自分がここまでトレーニングを続けられているという事実に驚いていた。少なくともヒューストムに頭を下げる前なら絶対に初めて数日で投げ出しただろう。ここ1〜2週間ぐらい続いているだけでも奇跡なのだ。
「どうする?諦めるのも一つの手だぞ?」
「……馬鹿言うなよ。俺は今度こそ自分が出来る人間だと、無価値なんかじゃないとあの人に……見せるんだ」
その答えを聞いてヒューストムは笑みを浮かべる。この執念をしっかり持てているのならどうにかできるかもしれないと。
「そうか、良い覚悟だバッタモンダー。お前に朗報だ」
「あん?」
「お前……基礎能力は確実に上がってるぞ。少なくとも今お前が作るランボーグは以前作ってたやつよりも強いのは保証できる」
ヒューストムがそう言うとバッタモンダーは笑みを浮かべる。自分が強くなっていると周りから言われればやる気になるのも当然だろう。
「お前の良さはその狡猾さだ。悪知恵だ」
「あ?それは褒めてるのか?」
「ああ、褒めてるぞ?少なくともお前よりも強い力を持っていたカバトンの野郎は脳筋寄りのスペックだからな。だからこそ頭脳戦に弱い部分がある。だが、お前は足りない身体的なスペックを補えられればカバトンよりも成果を残す事ができる。お前は可能性の塊なんだよ」
ヒューストムにそう言われてバッタモンダーは震える。それはヒューストムへの恐怖では無かった。自分が出来る男だと、強くなれる可能性があると。今まで誰も言ってくれなかった事をストレートに言ってくれたのだ。
「くくく……あははっ!だったら応えてやるよ……絶対に強くなってやる……」
「ふっ……続き、やってもらうぞ」
それからバッタモンダーはまたヒューストムのスパルタトレーニングへと戻っていく。
そんな彼を見送ったヒューストム。それから彼は目を閉じて風の流れを感じ取ると何かに気がつく。
「……カゲロウの気配を使って奴等にマーキングしていたが……どこかに移動している?」
ヒューストムはプリキュアの移動先が山の中に入ったのを見て目を細めた。
「アイツらも特訓してやがるのか?……流石に今から追いつかれる事は無いだろうが……一応邪魔しておくか」
ヒューストムは畑に向かったプリキュア達が修行のために移動したと勘違い。これ以上強くなられたら面倒だとヒューストムは感じているがために彼は風を纏うと空中を飛び立って移動を開始するのだった。
「(バッタモンダーの完成まであと少し……。奇しくもそれはあの方と約束した期限の直前。プリキュアの奴等をこれ以上強くさせてたまるかっての)」
こうして、畑での作業を始めるプリキュアの元に移動していくヒューストム。何だかんだで今日も波乱が待ち受ける事になるのだった。
また次回もお楽しみに。