スカイランドとの通信が終了した直後、ソラは自分の部屋に行くと部屋でましろから貰ったヒーロー手帳にある物を書こうとしていた。
「良し、では早速……」
「……何してるの?」
その瞬間、いきなり部屋の入り口付近からエルを抱いたましろに声をかけられたソラはビックリすると共に慌てたような声を上げる。
「えっ!?うわぁああっ!?あ、あ、あああっ!」
それと同時に驚き過ぎたあまり、ソラは何故か片足立ちになるとバランスまで崩してその場に倒れてしまった。まさかの光景にましろはソラへと唖然とした顔つきを向ける。そして、ソラは少し申し訳なさそうにましろへと視線を向けた。
「あはは……すみません、ましろさん……」
ましろは苦笑いするとソラは立ち上がり、改めて今自分が書こうとした物を見せた。それは、スカイランドの言葉で書かれたある手紙である。
「あっ、これって……」
「はい、そうです。……シャララ隊長が私宛てに残してくれたメモです。そこには“立ち止まるな、ヒーローガール”という隊長の言葉……折角なのでヒーロー手帳に書き写そうと思って」
「そっか……。邪魔しちゃってごめんね」
「ごめんねー」
ソラの作業の邪魔をしてしまったと感じたましろはひとまず謝る事に。そしてそれを聞いたエルも復唱した。ソラはエルによく言えましたと言わんばかりに彼女の頭を優しく頭を撫でているとましろが話し始める。
「……でもさ。何でもかんでも手帳に書いているソラちゃんが……隊長さんの大切な言葉をまだ書き写してなかったなんて意外だよ」
「何でもかんでもってわけじゃ……」
ましろからの指摘にソラは心外だと言わんばかりの答えを返すが、実際問題そう思われるような事を彼女はしていた。
「えっ?でもさ、この間も……」
それからましろは二人で買い物当番として出かけた時の事を思い浮かべる。それはソラがお肉売り場の場所で見たある物を手帳に書いていたという話だ。
「買い物に行った時に、“毎週火曜日はお肉半額の日”というのをしっかりメモしてたじゃん」
「あ、あれは……無かった事にしてください……」
「あはは……わかったよ」
「えるぅ!」
ソラは恥ずかしそうな顔つきを見せるとましろに頼み込む形でその例は除外してもらう事にした。それから改めて真剣に話す。
「……この手帳に書いた事は絶対に守らなきゃいけない。そういうつもりで書いてます」
ソラの言葉にましろは目を見開く。それはつまり、手帳に書いた理想のヒーロー像を常に守り続ける事でソラはヒーロー足り得るのだと言わんばかりの考えだった。そして、時にそれはソラを縛り付ける鎖にもなり得る。
「……“立ち止まるな、ヒーローガール”。これを絶対に守れるっていう自信が無くて。……シャララ隊長の身にもしもの事があったら……それでも私は前に進めるのでしょうか?……ヒーローでいられるのでしょうか?」
この言葉を一度書いてしまえば、その言葉通りに立ち止まる事ができなくなってしまう。ここまで何度も立ち止まってきたソラにそんな事をやれる自信は無かったのだ。
「ソラちゃん……」
「……さっきはありがとうございました。前に進む脚が止まりそうになっても、隣にましろさんがいて……背中を押してくれる」
それは、隣に大事な人がいてくれて……止まりそうになった自分の脚を動かさせてくれるのなら。背中を押してくれる誰かがいるのなら大丈夫だと、ソラはそう思ったのだ。
「私、今日なら書けそうな気がして!シャララ隊長の言葉を、この大切な手帳に」
それからソラは手帳を開くと何の迷いも無く、シャララ隊長からの言葉を書いた。そして、それを見たエルが声を上げる。
「ひーろー!」
「うん?……はい!絶対ヒーローになるぞ!」
「える!ひーろー!」
「なるぞー!」
「おーっ!」
ソラは拳を突き上げてヒーローになると宣言。エルもそんなソラに便乗する形で両腕を上げて万歳をする。そんな二人の姿にましろは微笑ましさを覚えた。
「(きっと……なれるよ)」
ましろはソラの決意を聞いて、彼女なら絶対にできる。そう信じたような目線を向けるのだった。
その頃、ミラーパッドの前ではペギンに言われて残されていたあげはとかけるが彼女と話をする。
『そろそろ大丈夫か?』
「はい、それで何だったんですか?話したい事って」
『……シャララ隊長の事だ。多分だけど……アンダーグ帝国の手に落ちてる気がして……』
「……ッ!!確かにそれはソラちゃんやユキちゃんの前では話せない事ですけど……」
あげははにわかに信じられない様子だった。先程と同じであくまであったのは目撃情報だけ。つまり、シャララ隊長が敵の手に落ちたという情報も無い。だからこそ軽率な判断は避けようとしているのだ。
『できるのなら私も無事な事を信じたい。……だが、シャララ隊長の消え方が……バッタモンダーとかが消える時に発生するアンダーグエナジーが露散していく物に似ているというか……』
「ッ……。確かに、どこかで見た事ある消え方だと思ってましたけど……そっか。俺が感じた違和感の正体はこれなんですね」
かけるは先程シャララが煙のように消えると聞いた際に何かが引っ掛かると思っていた。その光景を前にどこかで見た事がある……という。
「かける君凄っ。もしかして違和感をわかってないの私だけ?何だか私が場違い感が……」
『いや、場違いだなんて事は無い。むしろ、プリキュアの中では責任ある立ち位置の人間だと思ったからお願いしたいんだ』
つまり、あげはとかける。プリキュアチームの中でも年齢的に他のメンバーよりも責任感を持って動ける大人という枠組みの二人にならペギンはこの話ができると思ったのだ。
『……もし、シャララ隊長が敵の手に落ちていた時。ソラやユキ達はきっと少なからずショックを受けるだろう。もしかすると心が折れてしまうかもしれない。だから、その時は……』
「はい。……俺達が責任を持って皆をフォローします」
「私達にできる事、それは落ち込んだ皆の気持ちを全力でアゲに変える事だから」
あげはもかけるもそういう意味での覚悟はとっくに固まっていた。自分達がプリキュアチームの精神的な支柱であるとわかっているのである。そして、ペギンはそんな二人の覚悟を受け止めると微笑んだ。
『……そうか。だったら安心して任せられるな』
「大船に乗ったつもりで大丈夫です!」
「ペギンさんも引き続き捜索の方、よろしくお願いします」
『ああ、任せてくれ』
延長戦というべきペギンとの会話が終了するとあげはとかけるは向き合って頷く。そのタイミングで外にいたツバサとヒョウが入ってきた。
「あげはさん、かけるさん」
「ツバサ君、ヒョウちゃん。どうしたの?」
「えっと……その、話したい事があって」
その言葉に二人は顔を見合わせる。今日はいつも以上にやたらと周りが頼ってくれる日だと感じたのだ。しかし、断る理由なんて無い。そのため話を聞く事にした。
「オッケー。話、聞くよ」
「実は……」
それからツバサとヒョウは自分達の予想を……アサヒがカゲロウに乗っ取られている事、更に彼のせいでユキにアサヒが悪い人間だと印象操作をされていると話した。
「……うわぁ……」
「やっぱりそうか……」
あげははわざわざ自分から行かずに分身であるアサヒを使ってユキを奈落の底に落とそうとするカゲロウのやり方に思わずドン引きし、かけるは前々からこれを予想していたために納得した顔になる。
「やっぱりって……かけるさんはわかってたんですか?」
「俺も気がついたのは少し前だよ。でも、まだその時はカゲロウが表面化していた時だったから」
「なるほど。……ただ、多分これ……かなり不味いですよね?」
ツバサは今のアサヒの体が危険な状態に陥っていると考える。前までは人格が一瞬入れ替わるだけだったのに、今はアサヒの体を長時間好き勝手に動かせるだけの力があると言う事だから。
「うん……」
「ユキ姉……このままじゃきっとまた前みたいに精神崩壊しちゃう。まだ彼氏彼女の関係は切ってないけど、下手したらカゲロウのせいで……」
ヒョウは拳を握りしめていた。ヒョウはユキに何度も助けられた恩がある。姉として慕い、彼女を助けるために側にいようと思うくらいには。そんなヒョウにとってユキが辛い思いをする事は嫌だった。
「バッタモンダーやヒューストムも健在だし、これからはより厳しい戦いになる。それでも、俺達はやり抜くしか無い」
「勿論です。それに、シャララ隊長だって見つかったんですし!」
ツバサはそう言うが、実際は敵に回っている危険を知っているかけるとあげはは何も知らない彼に少しだけ顔つきが凍る。ただ、ツバサ達に変な誤解をされると困るのでまたすぐに普通の顔に戻った。
「そうだ!今日は美味しい物を食べよ!」.
「あげはさん?」
「ここ最近皆暗い雰囲気ばかりだからさ。少しでも気分をアゲようって事!」
あげははそう言って少しでも明るい事をして気持ちを底上げしようとする。こういう時に周りの気持ちを上げられる彼女の性格や明るさはプリキュアチームにとって大きな意味を持つ。
「確かに、暗い気分の時ほど明るい事をやった方が良いですもんね!」
「うん、私も賛成。もしかしたら、楽しい雰囲気にすればアサヒもユキ姉と一緒にいる間に元に戻るかもしれない」
ツバサとヒョウはすぐにあげはの提案に賛成。かけるも少し迷ったものの、それでも最終的には賛成した。
「それじゃあ、これから買い出しに行こうか」
「うん!」
「はい!」
それからツバサとヒョウがこの事をユキ達に伝えに行くとかけるはあげはの方に話しかける。
「あげはさん……ありがとう」
「え?……別に私は美味しい物を食べようって提案しただけだよ?」
「……それでもだよ。あげはさんは……やっぱりこういう時凄いよ」
かけるはあげはがいればどんなに暗い雰囲気だって最終的には前向きな気持ちに変えてくれる……。そうしてくれるって信じられた。きっとあげははかけるの方が頭が良くて凄いと言うだろうが、かけるはそれだけではきっと限界があると感じ始めているのだ。
「(あげはさんの明るさと前向きさ……。見ていて頼もしい。だから、俺も見習わないとな)」
それからとんとん拍子で話は進んでいく。買い出しに行くという話を聞いて、ユキ、ソラ、ましろは行く事を次々と表明した。更にましろから連絡を送った所、ひかるも手伝いと賑やかしとしてとして来てくれる事に。
「ひかる君、来てくれる事了承してくれた。現地集合にするって」
「ましろちゃん、ありがと。後は……」
「アサヒ君……ですね」
この間、アサヒは部屋から全く出てこなかった。彼はここ最近、朝のランニングと学校。後は食事時ぐらいしか部屋から出て来ず。反抗期の不良男子みたいになってしまっていた。
「私がアサヒ君を……」
「ううん。ユキちゃんはここにいて」
「えっ……でも」
ユキはましろに止められて不安そうな顔になる。普段であればこういう時に呼びに行くのは彼女の仕事だ。ただ、ましろは今の心が弱り切ったユキにあまり無茶はさせたく無かった。
「ユキ姉、ましろさんに任せよ?」
「う、うん……ありがと。それとごめんね……わざわざ気を使わせちゃって」
ユキはまた気負ってしまってるのかどこか落ち込んだ顔を見せる。今こうなってしまっているのは自分がいつまでもアサヒと仲直りできてないからだと考えているからだ。
「ううん。ユキちゃんは悪く無い。だから、安心して待っててね」
それからましろはアサヒの部屋へと移動。その頃、彼は自身のベッド上で腰掛けると目を閉じていた。
「(……この体を長時間乗っ取れるようになってからそれなりに経って。ようやく安定支配できるようになったな)」
するとカゲロウの心へと通知音のような音が響くと彼はそれに気がつき、出る事に。
「(ヒューストムか。何の用だ?)」
『悪いな。カゲロウ……こちらの準備が完全に整った』
「(……そうか)」
それはカゲロウの協力相手であるヒューストムからの連絡だった。どうやらヒューストムは前に話していた総力戦をとうとう挑むつもりらしい。
『わかっていると思うが、カゲロウ。お前の相手は……』
「(ああ。……ユキの心を根本からへし折ってやる)」
『わかってるなら良い。……俺達はこの戦いに勝ち、先に行く』
「(それは良いが、報酬の件……忘れるなよ?)」
カゲロウはヒューストムへと強い声色で念押しする。彼はヒューストム相手に何かを約束しているらしい。その約束と言うのが……。
『ああ。お前をアンダーグ帝国お抱えの幹部にする。……プリキュアを倒せる実力があるなら余所者のお前でも受け入れてもらえるはずだ』
カゲロウはアンダーグ帝国の傘下に幹部として加わるらしい。ただし、その分ユキの八つ裂きにする件はヒューストムと五分五分にする事と引き換えにしたが。
『それでは、奴等がアジトから外に出てある程度街に来た時に教えてくれ。待っているぞ』
「(……ああ)」
こうして、通信が切れると彼は現実世界で目を開ける。それと同時にましろが入ってきた。
「アサヒ、入るよ」
「……何だよましろ」
カゲロウは自身の支配権をそのままに気配を一気に消すとましろへとあくまで不機嫌なアサヒのような雰囲気で対応する。
「これから皆でお出かけするんだけど……アサヒも来る?」
「お出かけって……うん?」
カゲロウはそこまで聞いた所でこの提案はある意味チャンスだと感じた。ヒューストム達は準備が整っていると聞いているし、全員で出るなら袋叩きのチャンスだからだ。
「あとひかる君も来てくれるんだって。……だからアサヒも」
「……ああ。準備したらすぐ行く」
「そっか。行くんだ……えっ?」
ましろはまさかアサヒがこんなにアッサリと提案を呑むと思わなかった。今の不機嫌な彼の事だからもう少しゴネると思ったのである。
「何聞いておいて面食らってるんだよ。ほら、さっさと行くんだろ?」
「あ、うん……じゃあ、お願いね」
カゲロウは内心今の提案に嬉しそうにほくそ笑む。ヒューストム曰く、彼はあまり時間が無いらしい。アンダーグ帝国の上司から早くエルを連れて来いと催促が来ているからだ。どうやら、前任者のカバトンはそのせいで粛清対象になった上にこの街に住み着いて国に戻らなくなってしまったとか。
「ヒューストムが動けなくなったら俺も困るからな。……ふふっ、絶好のチャンスだ。……ユキ、お前を痛ぶったら俺の玩具にしてやる。そして最後は俺の
カゲロウはこういう発言をするからカッコいい悪役になりそびれているため、本当に残念でならない。ただ、その実力は本物だ。こうして、敵側サイドも計画が進む事になるのだった。
また次回もお楽しみに。