ユキと対峙するヒューストムは彼女の前で自らの素性を暴露。彼の本当の名はレイン・サミダーレ。そして彼こそが幼いユキの精神を痛ぶり、その心にトラウマを植え付けた元凶である。
「あははっ。やっと俺の事を思い出した?このポンコツ」
「ッ……何で、何であなたは行方不明に……」
「ああ。行方不明になってたよ?でもこうしてお前の前に姿を現してあげたじゃないか」
ユキの声色は震えており、ヒューストム……というよりはレインに対して強い恐怖心が根付いてしまっていた。それでもユキは向き合えなければレイン……ヒューストムを倒せない。
「何で……何であなたは私の事をあんな風にしたの!私があなたに何をしたって言うの!」
ユキはヒューストムへと問いかける。何故自分をあそこまで酷い目に遭わせたのか。ユキはヒューストムの影響で周りから酷い虐めに遭った後。アサヒに救われるまでの間、ずっと他人と接するのが怖くなってしまった。自分が何をしたせいでこうなったのか、その理由が知りたかったのだ。
「へぇ。……何をした?かぁ」
「ッ……」
ヒューストムが邪悪な顔つきでユキを見据える中、彼女はやはりその圧に怯んでしまう。だが、聞かないといけない。もし自分に大きな非があるのなら受け止める必要がある。
「お前もよくわかってるんじゃないのか?自分が何をしたら俺に虐めをされるようになったのか」
「えっ……」
ユキは思い出したくない記憶をどうにか辿ると目を見開く。そして、自分なりに出した答えを口にした。
「あなたが告白してきて……私が振った後……」
「ほーう?よくできました。正解だ」
ヒューストムが拍手する中でユキは顔を歪めてしまう。自分が原因でこうなってしまったのかと思ってしまったのだ。
「本当に……私が原因なの?」
「はっ、何当たり前な事抜かしてるんだ。それとも何だ?お前は何も悪くないとでも思ったか?……だとしたら能天気が過ぎる」
ヒューストムの言葉にユキが唇を噛むと悔しさを噛み締めていた。やはり責任は自分にあったのか。だが、あの時は本当にヒューストムとお付き合いする気になれなかったのだ。だからこそ拒否したと言えるのだが……。
「……質問しても良い?」
「あははっ。今日は気分が良いから一つくらいなら聞いてやるぞ?」
「私のせいでこうなったのは良いとして……。何であそこまでの攻撃をしたの?……ただ断っただけで。……私はそんなにヒューストムの心を傷つけたの!?」
ユキはヒューストムから告白された際にかなり丁寧に断ったはずだ。少なくとも、恨まれるようなくらい雑に振ったつもりは無い。
「そうだなぁ。俺がお前をあそこまで酷く攻撃した理由……ねぇ。……私怨がまず半分。そして残り半分は……。上からの指示だ」
「……えっ?」
その話を聞いてユキは混乱する。“上からの指示”。言っている事はわかるのだが、そもそもヒューストムの上役が幼い頃から近くにいる事実がよくわからなかった。
「ちなみにこれは嘘でもなんでもない事実だ。とはいえ、虐め方に関しては俺に一任されたからなぁ。酷い目に遭わせてやった時のやり方は全部俺の趣味だ」
「待って!ヒューストムの上役からの指示って……」
「別に?その言葉のまんまってやつだ」
「じゃあ私の事をあそこまでやったのは……」
「おっと、勘違いするなよ?あくまで恨みを晴らすやり方を決めたのは俺だ。俺の上司の指示はお前の心を折ることを指示してきただけ。あくまでお前を精神的に病ませたのは俺の意思だ」
結局、ユキへと深い恨みを抱いたせいで他人と接する時のトラウマを植え付けられたという事になる。
「混乱してるなぁ」
「当たり前だよ……。私は……私は……あなたの必要以上の憂さ晴らしに付き合わされて……こんな事になってしまって」
ユキが声を搾り出すようにそう話をしているとヒューストムが気持ち良さそうに笑みを浮かべた。
「あははっ。そういう絶望顔をしてくれる所。俺は好きだぞ?ユキ」
「ッ……」
「俺好みの絶望顔をしてくれたお礼に話をしてやろう。まだお前にとっての絶望はここが一番底じゃない事を教えてやる」
ヒューストムが上機嫌でそう言うものの、ユキはもう正直これ以上話を聞きたく無い。そのためどうにか抵抗しようとする。
「ッ、もう良いよ。私は……」
「あはっ、残念。お前の意見なんて最初から聞いてない」
ヒューストムが指を鳴らすと突如としてユキの体が動けなくなってしまう。
「しまっ!?空気圧の……壁」
それは前にも見せた空気圧による物理的な行動阻害である。これにより、ユキはヒューストムが何を言ったとしてもそれを止める事すらできなくなってしまう。
「さて、これでお前は俺の話を妨害できない。……じゃあ話そうか」
ヒューストムはユキの抵抗する術を奪った上で話し始める。そしてそれはユキが虐められる少し前に遡る事だった。
「さて、どこから話すかって所だけど……そうだな。俺が学校に通い出すようになった経緯からだな。……アンダーグ帝国に生まれた俺は幼い頃から戦いのトレーニングばかりしていた。そんなある日。俺は俺の上司からスカイランドの学校に潜入するように命令された」
「えっ……」
「最初は驚いたよ。何しろ、ここ数百年スパイなんて一人も送り込まなかったはずなのにいきなり言われたからよ。そんでもって上司が言うにはもうすぐアンダーグ帝国の目的を邪魔する者が現れるからそいつを潰すために差し向けるとか何とか」
その言葉にユキは目を見開く。ヒューストムは最初からアンダーグ帝国がスカイランドの助けとなる戦士を潰す目的で送られた事。加えて、ヒューストムはそもそもスカイランドの住人ですら無かった事に。
「ただ、俺の上司は誰がその対象かは教えてくれなかった。一言言われたのが、俺の力が及ばない女が二人いるとだけ聞いたな」
「それって私……と、ソラちゃんの事?」
「まぁ、今お前らがプリキュアになってる事からその問題の答えはそうだろうな。……で、実は俺には風を操る能力に加えてもう一つ能力がある。それが、周囲の人々の意識を操ってとある人物に対して敵対の気持ちを強くさせるってやつだ」
ユキはその能力を聞くと何となく自分が虐められた時のカラクリについてわかってしまった。そして、ヒューストムもユキがその事を理解したと感じ取ると笑みを浮かべる。
「嘘……そんな……」
「あはっ!流石に察しが良いな。……そ。キュアスカイの変身者であるソラ・ハレワタールを除くクラスメイト。挙げ句の果てに教師達までお前の事を助けなかったどころか虐める側に加わった理由。それは俺がそいつ等の意識をお前へと敵対するようにし向けたからだ」
ユキはその事実を突きつけられると呼吸が少しずつ乱れ始める。ただでさえ動揺していたのに更に強い衝撃を加えられて胸も痛み始めたのだ。ただ、口は動かせても体を動かせないから痛む胸を抑えられないのだ。
「はぁ……はぁ……嘘、嘘よ……。そんな、じゃあ……皆が私を助けてくれなかったのも……それどころか進んで虐めに加わったのも」
「そ。全部俺が仕組んであげた状況ってわけ。……っと、話が脱線したな。そんで話を戻すと、俺は名前を変えてレイン・サミダーレとしてスカイランドの学校に通った。そこで普通に学校生活を送ったわけだ」
ヒューストムはユキ相手に虐めを起こす前までは特に目立ったやらかしがあったわけじゃ無かった。むしろ冷たい面が目立ったものの、あくまで普通の生徒として振る舞ったのである。
「まぁ、学校生活っていうのも案外悪くは無かったな。力が全てだと思っていた俺の視野を広げる事に一役買ってくれたし、そのおかげで俺は力と知恵。強くなるにはその両方必要なのだと理解できた」
ヒューストムは学校生活を送る上でアンダーグ帝国の理念である力こそが全てが絶対では無いのだと幼いながらも何となく理解できた。いや、幼かったからこそまだ頭が柔らかく。のしあがるには知恵も必要であるという事実を知ったのである。
「で、その中でも俺はお前のその容姿に惚れた。幼い頃からお前は綺麗だったからな。アンダーグ帝国の者には無い美しさに俺は惹かれたんだよ。そして、俺はお前に友達になるように話しかけた。友情なんてくだらない物を信じるつもりは無かったが、それでもお前に近づくために仕方なくしてやったんだ」
だが、ヒューストムが歩み寄ったお陰かそれまで殆どソラとの二人きりだったユキにとって周りと話せる自信になった。そして、彼女は少しずつ友達を増やしていく。
「正直その後すぐにでもお前を手に入れるために告白したかったが、あまり急ぐと失敗する。だから少しだけ仲を深める時間を作ったのに……お前が告白を断ったせいで全部!全部台無しになったんだ!」
「ヒッ……」
ヒューストムの声は先程までの上機嫌から一転。怒りの込められた物になるとユキはその目線に睨まれてたじろいでしまう。
「そんなの……告白を全部受ける必要なんて……」
「そうだ。全ての告白を受ける必要なんざ無い。だから俺の告白だけ受けていれば良かったものを!そして俺は気がついた。俺の上司が言っていた奴はお前の事なんだと。だから俺はお前を虐めて徹底的に痛ぶった。それこそお前が再起不能になるぐらいにな!」
その言葉にユキは目を逸らしたくなった。それだけ彼女はヒューストムの影響で徹底的に痛ぶられてしまった。恐らく、アサヒ達がいなければトラウマがずっと消えない程に。
「そっか……。皆操られてたんだね……。私の事を痛めつけた不良達も、私の事を虐めてきた皆も……」
「気がつくのが遅すぎなんだよなぁ鈍感女。……それで、俺はお前の事を痛ぶる毎日に愉悦を抱いていた。何しろクラスメイト、教師。全員が俺の意のままに動くんだから。それに、お前ら。自分の親にも黙ってただろ?お陰で長期間この虐めがバレずに済んだ」
実はこの時、ユキは虐められている事をお世話になっているハレワタール家の面々には心配をかけたく無いという事で話さなかった。勿論ソラにも口止めさせて。
ただし、ユキは知らなかった事にはなるがソラは結局隠し切れず。ある日、自分の両親にこの事を話してしまう。ソラの母親はこれを聞いて当然学校側に対処するように直談判しようとする。
ただ、その際にソラの父親の方は今回の件はあくまでユキが自分で助けを求めない限りは自分達は勝手に動けないという事で彼女が自分から話すまで学校側に言うつもりは無かったらしく。その影響で結局事件の発覚は遅れてしまったのだ。
「そして、ある日。俺はアンダーグ帝国に呼び出されて学校に通う日々は唐突に終わりを告げた。俺の上司からこれ以上は必要無いと言われたからな。正直、お前らがプリキュアになった事を知った時点でこの時の命令を無視してもっと痛ぶれば良かったって後悔したけど」
そんなアンダーグ帝国側の事情もあってようやく虐めは止んだ。そして、同時に人々にされていたヒューストムによる洗脳は解除されると月日は流れていく。
「しかし、驚いたよなぁ。まさか完膚なきまでに叩き潰して心をへし折って粉々に砕いたはずのお前が……俺の一番嫌いな彼氏という存在を連れて姿を現した時にはよ」
その経過した時間はユキに色んな物をもたらした。新しい世界、新しい友達、そして自分の事を助けてくれた彼氏。ユキの心はその影響で徐々に回復。完全に元に戻った。
だが、戻ってしまったのならもう一度へし折るまでと言わんばかりにヒューストムは担当に任命されると行動を開始。そして、アサヒを闇に堕としてからユキの心の支えを少しずつ……ジワジワと奪っていった。
「ただ、スカイランドでお前の彼氏が闇堕ちした時は予定が狂ったけどな。本当ならお前をアンダーグエナジーで侵した上でお前が苦しみながら最愛の彼氏の手でトドメを刺される悲惨な結果にしようと思ってた」
「でも……それは結果的に」
「あははっ!その事についてはちゃーんと自覚があるみたいだな」
ヒューストムは本来、スカイランドでユキを殺すつもりだった。しかし、結果的にアサヒがその身代わりになる形で両方生き残ってしまう。ただ、ヒューストムにとってはこの結果は必ずしも悪い事ばかりでは無く。
むしろユキを痛ぶる時間と要素が増えて嬉しかった。そのため、今度は闇に染まる彼氏に長々と痛ぶられた上でその苦痛に歪んでいく姿を楽しみながら見る事に方針を転換。
「お前のせいでお前の彼氏はこんな事になったんだ。……風の噂によるとお前、その彼氏と喧嘩したんだってな?その時言ったんだって?彼氏の方が間違ってるって。……俺から言わせたら彼氏の思考をそっちに傾けさせたのはお前のくせに何様のつもりで上から説教してるんだってさ」
「ッ……違う……。違う!私は……そんな、説教のつもりで言ったんじゃ……」
「彼氏さんも苦しんでたよ。……ユキに罵られて、自分の味方だと思ってたのに裏切られたって」
「う、嘘だよ!アサヒ君がそんな……」
「本当にそうか?俺から言わせたら、裏切ったのはお前の方だろ。だって……お前はこの前の畑の戦いの後。彼氏とちゃんと話ができなかったらしいじゃないか。ずっと警戒してて。彼氏はそのせいで謝れなかったって……アイツ、相当悲しんでたぞ」
「それは……それは……うっ!?」
ユキは先程からの胸の痛みが更に強くなるのを感じると顔を更に歪めてしまう。ヒューストムの話を聞くたびに体中に毒が回っていくかのように苦しさが全身に浸透していく。もう彼女の心はボロボロだった。
「そんな彼氏さんがユキに話したいことがあるってよ」
「え……」
ヒューストムが指を鳴らした直後、ヒューストムの影から出てくる形でアサヒが姿を現す。ただ、彼の瞳は黒に赤いハイライトが浮かぶ状態になっていた。つまり、明らかに邪悪な方向になってしまったのだ。
「よぉ、ユキ」
「アサヒ君……何でヒューストムと一緒に……」
「悪いな、もうお前とは付き合えないわ。俺の事を信じてくれない裏切り者が」
「なっ!?私はただ、アサヒ君が間違ってると思ったから……」
「ふーん?俺が間違ってる……ねぇ。それが俺に対する裏切りだとは思わなかったのかな?」
それを聞いてユキは顔を青ざめさせると絶句してしまう。そして、アサヒは笑みを浮かべるとユキへとある言葉を突きつけた。
「……まぁでもよくあるよな?間違ってる事を正しいって勘違いする事。だから今ここでひざまづいて詫びるなら許してやる」
そのタイミングで同時にヒューストムが指を鳴らすと空気圧による壁を解除。ユキはいきなり体が動くようになったのと絶望感で体に力が入らずに崩れ落ちてしまう。
「……そんな……そんな……」
ユキはもうアサヒ相手に謝るしか無い。悪いのは自分だと思い込んでしまうとアサヒへと謝ろうとする。
「アサヒ……君……ごめんな……」
『待ってください!このアサヒさんはアサヒさんじゃありません!謝ったらダメです!』
その時だった。突如としてアサヒの胸の中から声が響いてくる。それは、アサヒが持っているキュアムーンライズのスカイトーンからするキュアルーセントムーンの声だった。
「今の……ルーセントムーン……?」
『アサヒさんは……カゲロウさんに操られているだけなんです!お願いです、こんな人達に屈しないでください!』
ルーセントムーンからの言葉を聞いたユキは目を見開くとアサヒ……いや。彼の体も人格も全て乗っ取ったカゲロウが本性を現す。
「はぁ……。あと一歩だったっていうのに余計な真似しやがったな……。お前も後で人質にして脅すつもりだったが仕方ない。とっとと失せろ」
するとカゲロウが凄まじい力を発揮するとスカイトーンはひとたまりも無く吹き飛ばされてしまう。
『うっ……きゃあああっ!』
ルーセントムーンはスカイトーンごとアサヒから引き剥がされてしまうとユキの目の前に転がっていった。
「ルーセントムーン!?……アサヒ君……」
「来いよユキ。俺がお前の死ぬ程弱いメンタルを叩き直してやる」
「ッ……」
ユキはムーンライズのためのスカイトーンを拾うとギュッと握りしめる。そして、ライトピラーに呼びかけた。
「ルーセントムーン……ありがとう。あなたのお陰で……踏み留まれた。ライトピラー……」
『何かしら?』
「……力を貸して」
『……えぇ。言われなくても力を貸すつもりよ』
ユキはどうにか立ち上がるとミラージュペンを手にする。そして、その姿が光に包まれた。
「ひろがるチェンジ!オーロラ!」
そして、彼女の姿がオーロラのカーテンに包まれていくとプリキュアへと変化していく。
「夜空にひろがる煌めく幻想!キュアオーロラ!」
こうして、オーロラはヒューストムとカゲロウ相手に立ち向かう。囚われてしまったアサヒを救い出すために。
また次回もお楽しみに。