ユキ達は早速手分けしてヨヨの畑での収穫を開始する事になった。まずは赤く熟したトマトである。ここにいるのはエルを抱えているソラとアサヒの二人であった。
「おお、しっかり赤く熟してる。中に栄養がたっぷり詰まってる証拠だな」
「そうなんですね。あ、でもどれを取れば良いとかの見分け方って……」
「うーん……取り敢えず全体が赤くなってるやつにすれば……」
「その選び方よりももっと良い方法があるわ」
するとそこにヨヨがトマトを収穫するための鋏を持ってやってくると実としてなっていたトマトを幾つか調べ出す。そして、その中の一つを見て一度頷くとそれを鋏で切断する。
「とぁと!」
「ヨヨさん、さっきから何を確認してたんですか?」
「トマトが収穫しても大丈夫か調べたのよ。アサヒさんが赤い熟したトマトと言っていたけど、それだけじゃちょっと不十分だわ。わかりやすい見分け方は、実の上にあるヘタが反っていること。あとは触った時に弾力が程良くある事ね」
「なるほど。えっと、って事はこれみたいにヘタが上に反っていて……あれ?実が熟してるのにちょっと柔らかめだな」
アサヒが近くにあった同じく熟したような赤くてヘタが反っているトマトに触れると何故か実に弾力が少なく、若干ぶよぶよした柔らかそうな感触が返ってきた。
「それは完熟したトマトね。中の栄養がより一層豊富になってるの。ただ、実から異臭がしたりカビが生えてたら腐食が進んでる証拠だから食べない事。ちなみに、お尻に星のような白い線があるトマトは甘くて美味しいと言われてるわ」
ヨヨがそう言って先程収穫したトマトを見せるとお尻の部分にしっかりと白い線で星のような模様が見えていた。
「これが美味しいトマトの証なんですね!」
ソラとアサヒはお手伝いのプニバードの人に大丈夫な物を見分けるのを助けてもらいながら手分けして収穫していく。
次はトウモロコシの方での事。そこで収穫しているのはヒョウとあげはである。
「トウモロコシも良い感じに育ってる!」
「それにしても、採れたてをこうして見ると凄いヒゲの数ね。スーパーとかで売られてるトウモロコシってヒゲが無いイメージだから新鮮だわ」
「そうね。収穫する所でないとここまで生えているのはなかなか見れないと思うわ」
二人が話をしているとヨヨがアサヒ、ソラの所から移動してきた。それからヒョウが質問する。
「そういえば……トウモロコシで数が沢山あるって言ったら中身の粒の数も該当するし、あれも数えきれないくらいありますよね。もしかしてトウモロコシから生えているヒゲと何か関係があったりします?」
「良い所に気がついたわね。トウモロコシから生えているヒゲは粒の一つ一つから生えてるの。だから、ヒゲの数を数えたら粒の数もわかるわけ」
「へぇ……そうなんですね!今度時間があったら数えてみるのも……」
あげはは普段食べているトウモロコシの粒の数がどれくらいあるのか気になったのか暇な時間でヒゲの本数を調べようと言う。
「……やめておいた方が良いんじゃないですか?こんなに数があったんじゃ時間が勿体無いですよ。私なら途中でギブしそうだし」
「あはは……それもそっか」
ヒョウはそんなあげはへと止めるように言ってからふとツバサの事を思う。正直、ツバサは自分よりもかなり物知りだと考えているヒョウ。
例えば半年程前に空を飛ぶためにツバサが学んでいる航空力学の本を一度自分で読んでみたヒョウ。しかし、中身が色々と難しすぎて自分の頭脳では全く理解することができなかった。
そんな中でツバサはスイスイと、しかも楽しそうに読み進める姿を見てきたためにヒョウはそんな彼に尊敬の目を向けている所がある。
「(ツバサ、私よりも頭が良くて何でも理解できる所あるし。私がお馬鹿ってわけじゃ無いけど……。凄い物知りなのよね」)」
ヒョウがそう考えながら更に思考を巡らせる。ちなみに、このタイミングで何故ヒョウがこのような事を考えたのかという話になってくるだろう。その答えが……。
「(もしかするとツバサもトウモロコシのヒゲの話も知ってるのかな?そうやって知識を沢山吸収して……将来ヨヨさんみたいに博学者になるって言うかも。そうしたら、ツバサも顎とかにヒゲを生やすのかな……)」
ヒョウはツバサが物知りな点から彼が博学者になった姿を想像。加えてトウモロコシのヒゲの話から連想して何故か博学者になったツバサが威厳を見せるために顎や口周りにヒゲを生やした姿を考える。
「……ダメダメダメッ!絶対違和感出ちゃう!!……はっ!?」
ヒョウはそこでツバサがヒゲを生やした姿を思い浮かべた途端、彼にはヒゲなんて似合わないと考えると思わずその気持ちを声に出してしまった。そのため、あげはから視線を向けられてヒョウは顔を真っ赤にしてしまう。
「ヒョウちゃん、何考えてたの?」
「い、いや、これはその……べ、べ、べ、別にツバサの事じゃなくて……」
「私、少年の事だなんて一言も言ってないよ?」
「……あっ」
やはりと言うか案の定と言うか。ヒョウはあげはからの指摘を受けて一発KOされると恥ずかしがってしまう。
「うぅ……何で私はいつもいつも……」
「あはは……。ヒョウちゃん、ツバサ君の事大好きだね」
「そうだけどそんなつもりじゃ無いんですよ……」
ヒョウはあげはに揶揄われたせいか思わず頭を抱えてうずくまってしまった。
「やっぱりヒョウちゃんのそういう所、女の子っぽくて可愛いよ」
「そんな事言われてもちっとも嬉しくないですって……」
ヒョウがそう細々と顔を赤くしたまま言う。それはさておき、また別の場所での事だ。
「これ……実が赤くなってる。って事は……パプリカかな?」
「ううん、それは違うよ」
「え?」
ユキが興味深そうな顔つきでパプリカと考えた実を見ているとそこにましろからの指摘が入った。
「それはピーマンが熟した色なんだよね」
「へぇ……。ピーマンも熟したら赤くなるんだね。あ、でもピーマンとパプリカって形も似てるし……この二つって同じ野菜じゃないの?ほら、前にツバサ君に教えてもらった枝豆と大豆みたいにさ」
一応野菜の中にはユキが言った通り、収穫するタイミングが違うだけで元を辿れば全く同じ品種の野菜もある。ただし、今回のピーマンとパプリカは似ているようで違う品種の野菜に分類されてしまう。
「ピーマンとパプリカの方はバラバラの品種だからね。分類で考えたら結構近いけど、違う野菜だよ」
「そうだったんだね。それにしても、緑色のピーマンも熟すると赤色になるって……やっぱりそこはパプリカとピーマンの分類が近い証拠なんだね」
「ふふっ、そうかもね!」
そんな風にやり取りを進めていく中、二人でピーマンの収穫を進める。ヨヨは今度は二人の元に行こうとするが、二人があまりにも熱中した様子だったので微笑ましい顔を向けると別の場所に行く事にした。
「えるぅ!」
「エルちゃん、どうぞ〜」
「あい!えんえりー、あいがと!」
「どういたしまして」
畑の外では先程までソラに抱えられていたエルが砂で遊びたいと言い出したのか、ソラの元から離れて畑の外で砂遊びをしていた。近くにはお手伝いをしていたエンジェリーが彼女の相手をしている。
「ふふっ、エルちゃん可愛い……っと、いけない。プリンセス・エル様、可愛いです!」
「える?」
意外にもエンジェリーは小さい子も好きらしい。オートマターとして接客していた頃から好きではあったのだが、私欲は抑えるように設定された上にオーナーとして真面目に接していたので前の時はわからなかったのだ。ただ、オートマターから人間になった事で感情が前よりも豊かになったためにこのような人間っぽい挙動を見せるようになった。
「エンジェリーさん、そんなに畏まらなくても……」
「もうホテルのオーナーさんじゃないんだから、エルちゃんって言ってあげてね」
「える!」
「良いんですか?ありがとうございます!」
あげはにそう言われてエンジェリーは嬉しそうにする。そんな彼女とエルの遊びの様子はさておき……ツバサとかけるの二人は他のメンバーのように畑の方に行く……のでは無く、車で運んできていた青い縦長の袋を下ろして持ってきていた。
「やっぱり重たいですねこれ」
「うん。確かヨヨさん曰く、ニンジンを新しく育てるために必要なんだって」
二人が袋を持って到着すると、そこにはまだ何も植えていない茶色の土が剥き出しとなった部分が広がっている。
「えっと、そういえばこの中身って何でしょうか?」
「それは俺も気になるね。どうせ開けないといけないから先に見てみようか」
それから二人で袋を立てると中身を覗いてみた。そこにあったのはまさかの土のような何かである。
「あれ?これってただの新しい土?」
「土ならちゃんと畑にあるし、わざわざ家から改めて持ってくるという事は……肥料かな?」
「ふふっ、その通りよ」
「「ヨヨさん!」」
丁度タイミング良くヨヨがやってくる。それから彼女が話すには、この肥料も自作らしい。
「まさか肥料まで自分で作っておくなんて……」
「どうやって作ってるんですか?」
「それはね、生ゴミと土を混ぜて暫く置いておくの。それを繰り返すと自然の力で栄養満点の肥料になるのよ」
「生ゴミと土……って事はご飯を作る時にどうしても発生してしまうゴミを使っているんですね」
それと同時にかけるはヨヨの手腕に驚く。普通、生ゴミなんて肥料のために残すとかの発想自体が彼には無かった。普通肥料はホームセンター等に市販の物だって売っている。それを差し置いて自作の肥料を一から作るとは思わなかったのである。
「ヨヨさんって凄い……。どうしてそんなに物知りなんですか?」
ツバサがヨヨへと問いかけを投げると彼女は微笑みながら彼へと答えを返す。
「ふふっ。気になる事を調べ始めると、また新しく気になる物が見つかるの。例えば、ハーブについて調べているとハーブを使ったお料理の事が気になってレシピを調べたの。そうすると、実際に作りたくなるよね?」
ヨヨにとってのキッカケは肥料の事でも、畑のことでも無くヨヨが飲んでいるハーブティーに使われるハーブの事であった。
「それでお料理をすると生ゴミが出ちゃうでしょ?何かに使えないか調べてみたら……肥料を自分で作れるって事を知ったの。折角肥料もある事だし、そう思って畑を始めてみたら野菜について勉強するようになってね」
そして、そこから先は連想ゲームの如く気になる事が湧き出てくるような形で次々と出てくるとあっという間に畑や野菜の所にまで辿り着いたって所だ。
「……ハーブの事を調べてたらいつの間にか野菜の事にまで。こうやって見ると全部繋がってるんですね」
「ええ。……知りたいっていう気持ちは繋がって、広がって行く物だと私は思っているわ」
ヨヨがそうだったように一つの知りたいと思った事からどんどん伸びて、植物のように枝分かれするといつの間にか知識の輪は遠くにまで広がって行く。それこそが彼女の持っている並外れた知識量の源と言えるだろう。そんな事を話しているとどこからかお腹が空く音が聞こえてきた。
「すみません、お腹がペコペコになってしまいました」
「もう、ソラは人一倍動くから余計にお腹が空くまでが早いんだよな」
「でも、私達もそろそろお腹が空いてきたよ」
「そうだね!じゃあ、そろそろ作業の手を止めてご飯にしよっか」
ましろの提案にソラは嬉しそうに頷く。ただ、ましろが車の中で話をした通り、弁当完成までにあと少しだけかかる。
弁当の中にこっちの畑で採れた採れたて野菜を組み込むための一手間が残っているからだ。
「少しだけ待っててね」
「あ、私もお手伝いする!」
「ユキ姉がやるなら私も……」
お弁当製作の仕上げのために移動したましろの跡を追うようにしてユキやヒョウも動く。彼女達が三人で弁当の仕上げをする中、ヨヨが話しかけた。
「それじゃあ、ましろさん達が戻ってくるまでの間、私達の方もご飯を食べるための準備をしましょうか」
それからユキ達が採れたての野菜の調理をしに行く中、折角ここにいるということでエンジェリー達もご飯に誘う事になった。タイミング良くエンジェリー達も自分達のご飯を作っている所だったので今回の昼食はましろが持ってきた物とエンジェリー達が予め昼食用として持ってきていた物による合作みたいな豪華な品揃えになる。
「シートはこの辺に広げる感じかな」
「エンジェリーさん達の分もね」
そして、全員が座れるようにレジャーシートを広げると作業のキリがついた人からそこにやってくると場所の確保のための準備を手伝った。
「おーい、お待たせ〜」
「あ、ましろん達来た!」
「おぉ!待ってましたー!」
こうして、作業後のお楽しみことランチタイムへと一同は入る事になるのであった。
また次回もお楽しみに。